図書分類は、図書館によって小さな違いを含むが、TRCが今日までの間に確立した多数の図書館や出版社との関係を通じて、TRC独自の図書分類をデファクトスタンダードとして流通させているために、多くの図書館は、このTRC分類を基本としている。TRC分類の強みは、速報性である。つまり、出版社の図書刊行予定を受けて、タイムリーに整備されるために図書納入時には、新刊をすぐに本棚に並べることができるのである。網羅性や確実性という点では、国立国会図書館法(リンク)により国内発行図書には納本義務があるゆえに、NDL分類が分類基準としては優れるものと思われるが、発行までには
TRC分類についての知識が司書をはじめとする図書館関係者に馴染み深く、また共有されているという状態は、ユーザにも波及する。類似の分野の書籍は、類似のコーナーにあるという見当が付けられるために、ユーザは、どの図書館においても、それほど迷うことがない。ほかの人がどうだかは知らないが、私は、区立と都立の図書館を目的に応じて使い分けている※1。県央地域で図書館協定が締結されている以上は、CCC分類ではなく、TRC分類を尊重することが海老名市立中央図書館の運営に求められていたはずである。
先の記事(リンク)において、私は、大量の古書購入が市会議員に指摘されたことについても触れた。仮に、CCC分類が大量の古書購入を肯定するために分類基準を独自のものとしたのだとすれば、その行為は、犯罪を隠蔽するためだと疑われても、やむを得ないだろう。企業といえども、李下に冠を正さず、の故事は該当する。ここで詳細は述べないが、ツタヤ図書館については、前例である武雄市において、多くの疑惑が指摘されている。
図書館に係る制度は、蔵書の万引き(あるいは無断持ち出し)や検索システムの通信の安全性を除けば、悪用の余地が見逃されてきた。そのような見方は、図書館運営が性善説に立つ、公共性の高い事業だと見なされてきたことの裏返しである。その間隙を突く形で、紳士録ビジネス※2や本件のような形での、企業犯罪紛いの行為が生きながらえてきた。悪意の下に社会システムを眺めてみると、脆弱性は、至るところに見つかりうるものである。
実際に制度を悪用する者に対しては刑事司法関係者が適切に対応するという分業意識は、わが国ではごく当然のものとして受け止められている。他方で、ある分野において構造的な脆弱性を悪用した者が現れたとき、現在のわが国では、内部の関係者だけで逸脱者を統制するということは、なかなか難しくなりつつある。問題がマスコミ報道に嗅ぎ付けられて初めて、具体的な改善がなされる機会が生じるのであるが、その機会は、大抵の場合、生かされないままに終わる。刑事司法関係者が動き出したときには、問題の根本的な解決の機会は、逸脱者の逮捕という結果により失われることになる。
今回の提携解消を通じて、図書分類と雑誌の大量購入との怪しい関係という問題の所在が明るみに出されたことは、CCCにとって、正業に戻るための業務改善の機会となり得る。大量の雑誌購入が市立図書館に必要な業務であったのか、また必要であったとするなら、欠本が多いことにいかに対応していくのか。これらの疑問点をCCC自身が明確に整理した上で、今後の改善に係る工程表を関係者に示していけるのであれば、今回の疑惑は、CCCにとっても良い教訓となったということであろう。
※1 都立図書館にも収蔵されていない書籍は、国会図書館に頼ることが多い。国会図書館は、基本的に出納式なので、検索システムによることになる。国立国会図書館典拠データ検索・提供サービス(リンク)は、系統的にある分野の書籍を得たいときに重宝する。書籍の内容でタグ付けされているからである。利用したことのない学生は、ぜひとも試してみるべきである。
※2 これは、掲載される人物からも、また国会図書館などからも金銭を徴収でき、さらには振り込め詐欺にも転用可能であるというビジネスであった。最近のツイートライン(リンク)では、Amazonを悪用して、子供の落書きや外国語の羅列のような内容の薄い本を高価格で販売した外形を作り、国会図書館に納本し、補償を受けるという類似行為が明らかにされている。
平成27年10月30日21時20分追記
【速報】ツタヤと図書館流通センター、関係解消から一転して継続へhttp://www.huffingtonpost.jp/2015/10/29/trc-ccc_n_8428546.html
Chika Igaya氏が上掲リンクで海老名市立図書館の業務について、TRCとCCCが提携を継続することを海老名市に連絡したと報道している。先行する記事による限りでは、私には、両者が海老名市立図書館に係る契約を継続し、本件限りで提携解消するというように読めた。おそらく、誤解を広めたということで、報道各社が海老名市から正確に説明するようにとの申入れを受けたということだろう。図書購入についても、海老名市議会議員の志野誠也氏が議員全員協議会(?)の場で説明を受けたことを報告しているが(リンク)、通常の選書手続ではなかったことだけは良く分かる。正確性を期すならば、後ほど系統的な調査を実施した方が良いかもしれない。
平成27年11月01日12時追記
1冊6万円謎の本、国会図書館に 「代償」136万円:朝日新聞デジタルhttp://digital.asahi.com/articles/ASHBY3VSMHBYUCVL008.html田村俊作・慶応大学名誉教授(図書館情報学)の話 「納本制度は文化や情報の自由に貢献しようという、発行者側と国会図書館との合意が前提だ。本の内容から納本の適否を判断することは、検閲につながるのでやってはならないが、米英などには代償金の仕組みはない。想定外のことだが、この仕組みを悪用しようとすれば、できてしまいそうなことが明らかになった」第25回納本制度審議会議事録|国立国会図書館―National Diet Library
http://ndl.go.jp/jp/aboutus/deposit/council/25noushin_gijiroku.html
先の注2について、朝日新聞が上掲の記事を掲載していた(本紙は、11月1日朝刊38頁社会面)。記事末尾から、田村氏の話を引用した。2ちゃんねるのある板(リンク)には、国会図書館に設置された納本制度審議会の議事録から、電子書籍を念頭に、国会図書館法が悪用されることを懸念する部分が引用されている。
上記引用部分の田村氏の話などからは、従来の紳士録商法を想起することはできない。ゆえに、悪意に対する系統的な脆弱性調査が必要であるとする私の意見は、多少世の中の役に立つことになるだろうか。私としては、もちろん、役に立つことを期待して、このような意見を(人に知られずとも)記すことにしている。
2015(平成27)年11月8日追記・修正
本文中のNDL分類についての記述を修正した。×半年程度→○1ヶ月程度のラグである。訂正して、お詫び申し上げます。ただし、新刊書の時点で選書・発注に利用できないため、デファクトでTRC分類が利用されているという点が大きいことには、変わりがない。同一書籍について、NDL分類と他の分類が統一されたIDを保持するようになれば、状況が変わるかもしれない。全国書誌データ提供|国立国会図書館―National Diet Libraryhttp://www.ndl.go.jp/jp/data/data_service/jnb/index.html
- 刊行された出版物が国立国会図書館に届いてから、おおむね4日後に新着書誌情報として提供し、1か月程度で完成した書誌情報を提供しています。
- 刊行前や刊行直後のタイミングでの新刊書の予約、選書・発注には使えません。民間MARCの利用などをご検討ください。
2016(平成28)年1月7日追記
図書分類については、次のサイトがコンパクトに情報をまとめている。http://www.asahi-net.or.jp/~ax2s-kmtn/ref/classification.html
日本十進分類法も国立国会図書館分類表※も、国際的な図書分類と一致しない。とはいえ、現時点において、何らかの規格を提唱するのであれば、たいていの場合には、既存の資産を活用できるように規格を設計するのが、設計者としての義務であり矜恃であろう。
※本文中では適当にNDL分類と表記したが、これが正式名称である。ただし、文意には全く影響ないだろうとは思う。