2015年10月10日土曜日

東大話法とその起源についてのまとめから生じた疑問(感想文)

東大話法の起源と「言霊」「言騙」の戦い - Togetterまとめ
http://togetter.com/li/884494

安冨歩氏が指摘した「東大話法」という詭弁術について、shinshinohara(@ShinShinohara)氏が連ツイしている。東大話法は、大本営発表が起源であり、「アメリカに支配される構造の中で、詭弁を弄するものが出世するという日本政治・官僚構造が、育むことになった」と考察している。東大話法の話者の言葉は、「言霊」ならぬ「言騙」であるとも批判する。

杉山真大(@mtcedar1972)氏は、コメント欄で、「言霊」と「言騙」の対概念が丸山眞男氏の日本政治の「密教」と「顕教」の焼き直しに過ぎないとしているが、津城寛文氏の著書に優れたレビューが収録されているので、それを参照した方が正確な理解を得ることができると思われる。パラグラフリーディングができる著作である。

日本の深層文化序説: 三つの深層と宗教 - 津城寬文 - Google ブックス
https://books.google.co.jp/books?id=BaNukSrCqcwC&pg=PA83

項目内容
ISBN4-472-10511-X
タイトル日本の深層文化序説
副書名三つの深層と宗教
著者津城 寛文
出版地町田
出版者玉川大学出版部
出版年1995.5
内容紹介歴史・民族学が扱う日本民族の起源や日本文化の系統、心理学や文化史・思想史が扱う日本的心性の深層、民俗学やある種の文学が扱う民衆の生活感情の三つの領域を「深層」というキーワードでバランスよい概観を試みた論考集。

そうしたなかにあって、近代天皇制をテーマとする研究はさまざまな視点や方法をふくみつつ、深層研究の観点からもひときわ目をひく一群をなしている。〔...略...〕真相=深層研究は、さらに二つのグループにわけられる。

まず一つは、天皇制のもつ政治的な二重構造を分析するグループであり、久野収による「顕教としての天皇制・密教としての天皇制」という有名な対語がその典型である。もう一つは、天皇制をささえるサイレント・マジョリティの「内なる天皇制」に注目してとらえる見かたや、新宗教の教祖や家元にいたるまでを「生き神信仰」「小天皇制」ととらえる見かたが、ゆるやかなグループをなしている。その場合の天皇制は、支配階級がつくりだした「芸術作品」のようなフィクションというよりは、むしろもともとわれわれ民衆一人一人のうちにある心性、われわれの集団心理あるいは民族心意がつくりだした、すくなくともつくられたものを受容した、自発的な社会制度になる。それはあばかれるべき他人の真相(=歴史主義的深層)ではなく、むしろ意識化されるべきみずからの歴史心理的深層なのである。〔以下略、p.83〕

大本営発表が近代官僚制(近代行政)におけるフィクションの嚆矢であったという意見は、傾聴に値する。しかし、私自身は、明治時代に用意された警察制度のアマルガム性あるいはいいとこ取りにも、官僚制における融通の利かせ方あるいは恣意性を見出してしまう。権力を保持するために権力者がいろいろ考えることは間違いないので、近代官僚制の創設そのときから、高級官僚が方便を使い分けてきたということはおよそ間違いないだろう。(井沢元彦氏の言霊論では、平安時代くらいに遡るはずであるし、日本の建国を示す日本書紀自体がフィクションだという説は、飯山一郎氏が最近とみに紹介しているものでもある。)

権力の二重性という概念が戦後の学術的な興味の対象であり、それが当代の碩学によって論じられなければならなかった背景は、(人の話をまとめるしか能のない)センスのない私にも想像が付く。誰の目にも見える形で国民に甚大な被害が生じ、その帰責が必要であったからである。しかしなぜ、「東大話法」という、単なる方便に近い概念、下手をすると「権力は嘘を吐くものである」という、ごく当然の命題を再確認することになりかねない概念が、今、学術的な興味を集めるのだろうか。この疑問は、私の(能力を含む)リソースでは論証できるものではない。しかし、「東大話法」という概念に興味が集まる理由は、安冨氏が原発事故に係る東大関係者の発言からこの概念を抽出したことに端的に示されるのだが、原発事故が国を滅ぼすという直感に裏打ちされているように思う。客観的な目で見れば、「東大話法」が世に問われたときは、戦後直後のような事態を阻止するには手遅れな時期ではあったのだが、にもかかわらず、今も「東大話法」に興味を持ち、この概念に私を含めて少なからぬ人々が心引かれるのはなぜなのだろう。感想文だからまとまりもないし、オチもないのだが、とりあえず、以上のように思ったのだった。




2017年10月28日修正

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