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2017年4月15日土曜日

(メモ・感想)衆愚が貶めたエフセキュア製品の評判は、いつ回復されるのか

#本稿は、十分な資料の読込みなしに作成したものであるから、題名に示した以上の新規性も、研究としての正当性も持ち得ない。(類似の先行意見が存在した場合、偶然の一致であり、その論者の先取性が尊重されるべきである。車輪を二度発明する愚は、十分に承知している。)また、本稿は、本ブログのいくつかの記事のように、再帰的な内容となっている。読者のご賢察を請う次第である。英語でいう、reader discretion (is) advisedってやつである。

BBSに代表される、21世紀初頭型の日本語のインターネットコミュニティでは、「人の振り見てわが振り直せ」という諺と、その諺を裏打ちするはずの「恥の精神」がなりを潜めてから十年になろうかとしている。ただし、パソコン通信上で繰り広げられてきたコミュニケーションのあり方は、往時の『別冊宝島』などを参照する限りでは、スタイル・手口そのものについては、大きく変化していない。マネタイズの方法が変化したのである。悪名であろうと、人に知られることが、情報爆発下のビジネスにおいては決定的に重要となりつつあると言えよう。

「炎上商法」と呼ばれる新手法の定着は、子ブッシュ政権以降に顕著となった「やったもん勝ち」の新自由主義的・帝国主義的風潮を反映してもいる。炎上商法は、周囲や社会全体への影響よりも、ニッチな顧客に訴える機会を優先するものであり、ロングテールを意識した商売という点に着目すると、テロ要員の募集方法やカルト教団の信者獲得方法とスタイルを共有する。個人のSNSにおける過度の露出や、それに伴い生じる炎上が「カネ」よりも「自己実現・自己肯定感の獲得」を目的としがちであることを合わせみると、テロ要員・カルト信者の獲得という組織犯罪の性質は、両方とも、組織側には組織による炎上商法の目的であるカネを、引き寄せられる個人の側には個人による炎上商法の目的である自己実現を提供するものであり、炎上商法という経済的活動の特徴を包括するものといえる。良くも悪くも、子ブッシュ政権は、カルト集団のテッペンを取った存在であり、リアル社会における炎上商法の集大成であると評することができよう。

インターネット上の言論を監視し、検閲・操作を加える企業は、炎上という行為を取り巻く環境要因であるとみることも可能ではある。なぜなら、これらの企業は、炎上を沈静化させる際にも利用されるとはいえ、子ブッシュ政権のショック・ドクトリンと同様、マッチポンプの噂が常につきまとう存在ともなるからである。ただし、この手のビジネスは、たとえ法整備が進み、なりすましやビジネス目的の誹謗中傷行為が規制されたとしても、依然として実行される可能性が払拭されないものである。沈静化(「火消し」)ビジネスの将来動向は、従来の「紙の爆弾」(#二重カギ括弧でないところに注意)を利用した総会屋ビジネスが、銀行や証券会社のスキャンダル等を経て本格的に規制され、総会屋2.0へと変容した際の経緯を反復する様相を取るであろう。

炎上の沈静化というビジネスは、本来、弁護士や司法書士の利用が基本的な作法として定着している社会における、これら専門的職業家の(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントにいう)「金のなる木」となるべきであろう。これらの専門家には、あまりに阿漕であったり庶民意識から外れた行動を取れば、橋下徹氏がかつて扇動したように、同業者集団による制裁が待ち受けており、この歯止めに期待を寄せることができるからである。(ただし、犯罪組織に加担する法曹への制裁は、わが国ではそうもなっていないが、通常の組織構成員に比較して、一等重いものとされる必要があろう。また、マッチポンプを行うような企業にも、当然、顧問弁護士は存在していようが、その人数が大規模であったり全員が法曹であるという訳でもないであろう。そこが、わが国の「資格社会」の限界でもある。)マッチポンプに手を染める悪徳専門家の発生は、現状に比べれば、一定程度は抑止されることになろう。

なお、ここでは、「忘れられる権利」が意図的な炎上への誘因となり得ることについても、指摘しておくべきであろう。市民派と見做される法曹により、この権利が主張されることは、逆説的な事態である。この権利が公人や法人に対しても認められることになれば、これらの人格が行動するにあたり、評判という要素は、その人格の合理的な判断から抜け落ちることになる。この結果は、公人や法人が好き放題に振舞うというものとなる。歴史に断罪される虞は、安倍晋三氏が祖父について批判されるのと同様、子孫までが対象となるために、一定程度の抑止力を有するものとなりうる。戦争屋の走狗に、子どもを持たない人物が選定されがちであることは、偶然ではない。また、蛇足となるが、賢明な批判者ならば、本人の資質や行動に問題が存在しなければ、先祖についての批判を行うことが、個人主義になじまないことであり、批判者へのブーメランとなることは、理解できていよう。

「自由で単なる人格批判に陥らない、生産的で真実に基づいた言論活動」という、サイバー社会においてかつて語られた理想は、検閲・宣伝・工作を請負う「広告・マーケティング」企業により、匿名・顕名にかかわらず、インターネット上の公開の場においては、求めても得難いものと化した※1。他方で、SNSの普及は、現実社会の関係性に根差すものであるが、現実社会の権力関係をインターネット上にも持ち込むこととなった。この点、某大学の教員がフレンドリーな存在を装い、SNS上での関係を学生に広く求めるという態度は、権力という社会関係の実在に対して鈍感な表出の一例である。ホイチョイ・プロダクションズが広告代理店を舞台に皮肉る「いいね乞食」の、学術機関版である。ついでに、(某大学つながりで)指摘しておくと、かつてインターネットに係る理想を提示・議論した言論人たちも、インターネット上における言論(操作)ビジネスが軌道に乗るにつれ、これらの悪徳企業との相互関係から逃れることが難しくなりつつあるように見える。

荒れた言論状況の背景には、情報環境の最適化という業務におけるベイズ統計の活用という、なかなかの難問が存在する。規範的な観点から正しいと認められるはずの言論が、人気投票というベイズ統計の性格により、批評能力を備えた人間に読まれる機会が大きく減じられ、結果として力を失っているのである。規範的な観点からいえば、情報環境は、局所最適化された状態にあるのであって、決して全体最適化された状態にあるとは言えない。オープンで批判的な態度を有する(真っ当な)読者の目に触れる機会を奪う要因には、動物的に言語生産活動に勤しむ炎上加担者や、同種の表現を大量に複製し続けるボット、中途半端な知識で・あるいは金目で発言する学識経験者※2、などを挙げることができる。この状態を示す上で端的な事例は、後段で取り上げるエフセキュア製品に対するAmazonレビューの悪用であり、「オルタナティブ・メディア」を「偽ニュース(fake news)」と呼ぶCNN.comの公式ツイッターのフォロワーの半数がボットであったというオチ[1]であり、「メルトダウンではないだす」である。なお、CNNの事例であるが、ツイッターにブロックという機能が実装されている以上、今回は、CNN.comの手抜かりであると言えよう。

言論の正否そのものを判定できないという、ベイズ統計を準用した情報整理の欠点は、技術者側には十分に理解されており、その対策も取られてはいる。しかし、その対策は、今のところは、人間の高度な知性を要する、労働集約的な作業とならざるを得ない。にもかかわらず、微妙で困難な状態に置かれた人間の判断に対しては、(トランプ大統領によるシリアへのミサイル攻撃命令のように、)ほとんど常に、他者の批判の余地がある。ベイズ統計の限界を企業側が克服しようとするとき、今のところは、人間の判断を持ち出す必要がある。この結果、ルールは柔軟に運用せざるを得ず、その運用が判断がぶれているとの批判をも引き起こす。企業にとって、ベイズ統計を基本とするアルゴリズムに余分な判定を加えることは、労力、つまりはコストが高くつくにもかかわらず、却って批判を招来しうるという、報われない結果となり得るのである。利潤の追求は、企業に寄せられる社会的期待の中では、第一である。それゆえ、余分なコスト増を招きかねないアルゴリズムの改善は、基本的には見送られがちとなり、また、その改善結果の詳細は、ビジネス上の財産でもあるから、開示に不向きなものとならざるを得ない。

ようやく本題に入ることができる。

情報を判別する際の難しさは、エフセキュア社製品に対して一時期寄せられた悪評の削除に対しても、同様に該当する。Amazon.co.jp[2]は、現在でも、いわゆる「ぱよぱよち~ん事件」(以下、ぱよちん事件と表記)[3]の直後に、同社製品に対して書き込まれた否定的なレビューの一部を残し、製品としての評価を比較的悪い方に留置している。2017年4月14日時点で、7件の星1つの評価があるが、製品をAmazon.co.jpにて購入したアカウントは、2件のみである。残る5件のうち、使用感を具体的に述べたものは1件だけであり、残る4件は、単にぱよちん事件に悪乗りしたものであると認められる。星2つの評価は、1件であり、アンインストール時の不調法を指摘するものであり、ぱよちん事件には言及しない。星3つの評価はない。つまり、同製品に対する低評価レビューの半数は、偽計業務妨害にも相当する内容である※3。私からみれば、製品そのものの性能についての言及がないレビューは、評価の高低にかかわらず、すべて規約違反であるかのように読めるのであるが、これらレビューとしての要件を満たさない否定的レビューが製品の評価を決定付けているのである。

アマゾンジャパン社は、ぱよちん事件の直後、同事件を同社製品の信頼性の低さに理由に挙げた否定的レビューについて、処分し続ける措置を講じるべきであったが、同社は、ぱよちん事件に便乗して「殿堂入りユーザ」を獲得したユーザを放置し続けている形となっている。これらのユーザの中には、確かに、事件前からレビューを投稿している者もいる。しかし、事件以前のレビューの存在は、ぱよちん事件に便乗して行われた不正を肯定する理由にはならない。よって、私が以下のように考えるだけとはいえ、同事件に乗じたレビューの削除と、それに伴う「殿堂入り」などのタイトルの取消し判定こそ、アマゾンジャパン社に求められる作業であると批判することができるのである。この処分に反駁するアカウントユーザは、総会屋と同種であるものと断じられよう。


なお、先月、CIAの漏洩文書が『Wikileaks』において『Vault 7』として公開されたが、これらの文書に見られるエフセキュア社製品に対する評価は、同社がマルウェアに対してガチンコで対応しようとしていたことを(逆説的に)示すものとなっているという[4]。この経緯がレビュアーらの評価に反映されていないという事実(4月14日、目視で確認)は、ぱよちん事件の炎上に便乗したレビュアーらが製品の評価に不誠実であったことを示すものと言えよう。なぜなら、本当にエフセキュア社の製品を低く評価しようと思うのであれば、『Vault 7』の情報を利用しないという手はないからである。(そして、言うまでもないことではあるが、私は、本稿では、ここに記した以上に、セキュリティソフトの評価や『Vault 7』そのものの検討やその是非に立ち入るつもりはない。)世界有数の情報機関による侵入テスト(penetration test)の結果である。TPOや法律をわきまえずに悪乗りして、高評価のレビュアーという称号を狙うという人物が、自身の行動の帰結を予測できるとするならば、自説の正当化のために、この機会に飛びつかない訳がないのである。


※1 炎上商売を良しとする個人や、炎上に加担する個人、検閲・操作に従事する企業ならびに従業員らは、利己的な存在であるとみて間違いなかろう。私は、利己的であることを、RPGの老舗である『D&D』に倣い、邪悪(evil)であると理解している(2017年3月27日)が、この分類に基づけば、炎上の種類が合法性を楯に取るものであれば、その炎上の主はlawful-evilであり、非合法なものであれば、その主はchaotic-evilになろう。邪悪の種類を分類しやすいのである。念のため、現時点までの私には、本記事の指摘に係る利益相反関係は一切存在しない。

※2 御用学者が批判される原因は、社会的身分を有していることに求められる。わが国では、発言者に社会的身分があればこそ、その発言に影響力が生じるという側面があるし、その発言を封じようとする動きも慎重なものになる。逆に、社会的身分がなければ、これを封じようとする側の手段が何でもありになりがちである。広義の暴力を以て言論を封じるという動きが現実に存在する以上、この非対称性は、わが国でも、「有識者」にこそ気付かれるべき側面であろう。つまり、御用学者の力の源泉は、社会的身分である。この事実は、現在の日本語環境と共依存する関係にある。議論が噛み合い有益なものになるためには、論者の双方に、前提となる共通の知識があり、互いの論点を理解した上で、その長短を吟味する、という能力がなければならない。そのような状況は、適当な環境がなければ成立せず、その環境を整備・維持する組織の成員には、自ずから努力が求められる。しかし、本文中で触れたように、「いいね乞食」がアカデミアに跋扈するようでは、そのような環境が用意されるべき場所こそが蚕食されていることになる。なお、状況=環境+環境下の個人、と考えれば良い。このため、状況は環境に影響される。ここまでは間違いないが、環境が状況に影響されることになるのかは、環境犯罪学における残された課題であると私は考える。

※3 カネさえ払えば何をしても良いのかという批判も、成立の余地はある。が、違法性を論じるときには、購入履歴は、大変に重要な要素であると認められる。


[1] CNNのツイッター:フォロワーの半分は偽物|世界の裏側ニュース
(ココヘッド、2017年03月31日03時17分)
https://ameblo.jp/wake-up-japan/entry-12260759855.html

#なお、『弁財天』のMakoto Shibata氏(@bonaponta)は、この話題に先立ち、(当時の)オバマ大統領のフォロワーについて同様の作業を自前で実施しており、他サービスよりも多めの粉飾率を見積もっている。大事なのは、結論がボットの判別方法に依存することである。この事実は、私の公式ツイッターアカウント(@hiroshi_sugata)が現状のようである理由ともなっている。この検証作業の人柱として使えるのではないかと期待しているからでもある。つまり、私のアカウントは、ツイッターボットの判別テストにも利用可能である。

弁財天: ツイッターの巨大なフォロワー数の正体 update14
(Makoto Shibata、2015年04月03日?最終更新?)
http://bonaponta.noip.me/roller/ugya/entry/huge-number-of-followers

弁財天: リツイート数を粉飾して世論を捻じ曲げようとしてもTwitter社のAPIから本当のリツイートユーザのリストを取得されると粉飾がバレるw
(Makoto Shibata、2015年12月03日)
http://bonaponta.noip.me/roller/ugya/entry/twitter-api11-retweeters

[2] Amazon | F-Secure インターネット セキュリティ 2014 (新規用パッケージ/3PC1年版) | エフセキュア | ソフトウェア 通販
https://www.amazon.co.jp/gp/product/B00FXBLR76/
#参考まで、星1つのレビューは次の7アカウントによるもの。リンクは各レビューへのもの。

  • TMA, 2015年11月4日, Amazonで購入
  • ay, 2015年11月4日, Amazonで購入
  • edirol, 2016年1月6日, 購入マークはないが、使用履歴ありと自主申告。
  • ガラクタ, 2015年12月20日, 殿堂入り+ベスト50レビュアーだが購入マークなし
  • どんぐり定食, 2016年1月24日, ベスト500レビュアーだが購入マークなし
  • Customer, 2015年12月26日, 購入マークなし
  • Amazonカスタマー, 2015年12月13日, 購入マークなし

[3] ろくでなし子独占手記「ぱよぱよちーん」騒動の全真相
(ろくでなし子、2015年11月26日)
http://ironna.jp/article/2402
#話の広がりが大きいために、媒体がアレであるが、上記ろくでなし子氏による派生的な記事を挙げた。

[4] Antivirus Vendors React To The CIA 'Vault 7' Leaks
(Lucian Armasu、2017年03月15日05時00分)
http://www.tomshardware.com/news/antivirus-vendors-cia-vault-7-leaks,33893.html

From the unredacted documents that have been released so far, there doesn’t seem to be any evidence that the antivirus companies were working with intelligence agencies to undermine their customers’ security. That may be a sign (and a good one) that at least the antivirus vendors are working in their customers' interests, even if sometimes that's not enough to stop more sophisticated attackers such as the CIA.

2016年10月8日土曜日

日本語の大マスコミは、フィリピンの「麻薬戦争」関連のニュースを正しく伝えない

#段落読みもできないし、要点のまとまりも悪いが、時機を逸しそうなので、本日(2016年10月8日)アップすることにした。

 先週、フィリピンのドゥテルテ大統領は、ダヴァオ空港において、自身をヒトラーになぞらえた発言を行い、2日後、ユダヤ人社会に対して謝罪した。日本の大新聞は、必ずしもこの経緯を十分勝つ正確に伝えていない。他方で、ドゥテルテ氏の発言に対するフィリピン国内の受止め方にも誤解や曲解に基づく問題が見られる。本稿では、この経緯を確認し、この中で、中国がフィリピンの麻薬戦争に対して正しいアプローチを採用して接近していることを、他者に遅れるとはいえ、指摘しておきたい。

 日本の大マスコミのうち4社は、いずれも、ドゥテルテ氏が麻薬中毒者を殺してやりたいと発言したかのように報じている。朝日[1]が最初に報じ、産経[2]、読売[3]、毎日[4]の順で報じている。英語に訳し直すと「I want to ...」や「I would like to ...」である。後者のしゃべり方は、決してドゥテルテ氏に相応しいものではないであろうから、ほぼ「I want to ...」一択ということになろう。毎日だけは、「喜んで虐殺する」なので、毎日の記事を英訳すると、「I will slaughter them with pleasure.」とでもなろう。

 なお、日経は、ウェブサイトで確認しただけではあるが、今回の発言を報じていなかったようである。以前の「サノバ」発言に係る比較記事(リンク)において、私は、日本語大マスコミの中では、唯一、日経の2記事だけが間違いを報じている訳ではないことを示した。詳細を後ほど説明するが、今回も、日経は、正しい選択をした可能性が認められる。

 ロイターの2記者名による英語記事[5]を読んだり、大統領の会見をYouTubeで視聴[6]すると、ドゥテルテ氏の語法が仮定法であったことが分かり、この時点で、日本の4紙ともが明確に誤訳していることが分かる。訳すとすれば、「殺せるものならば、喜んでそうしたい。」という訳が適切である。ここで文法教室を開くつもりはないが、仮定法は、現実に反する状態を仮想しつつ「そうであったら良いのに」という願望を示すものである。くどいようであるが、ドゥテルテ氏は、「皆殺しにはできないが、できるのであれば、喜んでそうしたい」と述べているのである。仮定法は、中学生のうちに学習する。これらの記事に関与した記者やデスクたちは、全員、明確に誤りであることを知りながらこのように訳したか(、デスクがスルーしたか)、本当にこのことすら分からないほどに愚かであるか、のいずれかになる。いずれの場合であっても、日本国民の読者に対して正確に事実を伝えようとしないという点で、4紙の行為は問題がある。

 ロイターの記事に対して、1時間の後には、フィリピン人であると自称するbenign0と名乗るブロガーがロイターの2記者を名指しして「嘘を吐いた」と非難している[6]。無実のユダヤ人を虐殺したヒトラーと、フィリピン社会にとって危険な犯罪者を虐殺しようとする自身とを、大統領自身は対比しようとしている、とbenign0氏は理解している。最後に、この点を「ヒトラーになぞらえた」と海外に向けて報道することは、高い支持を得ているドゥテルテ氏を貶める悪意ある試みである、とbenign0氏は批判を締めくくる。ただし、ここでのbenign0氏には誤解がある。というのも、ヒトラーは、常習的犯罪者や薬物中毒者を強制収容所送りにしているからである。

 ドゥテルテ氏は、ナチスドイツによる常習的犯罪者や薬物中毒者の扱いを知らずに自身をヒトラーに喩えた訳ではないであろう。この推測を補強する弱い材料として、同氏がユダヤ人社会に対して(のみ)謝罪の意を10月2日に公式に発言したこと[7]を挙げられよう。ここでの推測が正しいとすれば、ドゥテルテ氏が自身とヒトラーとの違いをいかにとらえているのかは、慎重に検証されるべき作業である。外国人が安易にこの発言を評価することは、国際問題となりうる。タガログ語をろくに話すこともできない日本人は(、つまり私も)、この検証作業の適格要件を欠くこととなる。ちなみに、ドゥテルテ氏の「ホロコースト」発言に係る部分は、英語である。日経の記者なりデスクなりが、ドゥテルテ氏の内心の機微を推量する危険を理解して報道を見送ったとすれば、この事実は、日経のフィリピン担当チームの嗅覚の鋭さを示すものとなろう。FTとの提携は、日経にとって良い方向に機能したということであろうか、などと想像してみたりもする。

 フィリピンにおける言論は、先のbenign0氏[6]の記事が『フィリピンジャーナリスト国内連合』(NUJP)の議長声明[8] に取り上げられるに至り、さらに捻れた様相を見せることになっている。というのも、議長声明がbenign0氏の記事を恣意的に引用したためである。benign0氏の論旨は、大略、ドゥテルテ氏の発言を曲解して同氏への支持を転覆しようとするジャーナリストは民主主義の敵である、というものである。これに対して、議長声明は、「あたかもジャーナリズムが犯罪であるかのように、彼らのような"悪意があり無責任なジャーナリスト""は民主主義の真の敵"であり"法の全力を以て処罰されるべきである"〔...略...〕という記事」に見られるように、ジャーナリストへの脅迫が生じていると訴えるものである。この議長声明の表現は、benign0氏が常にジャーナリズムを犯罪的なものであると見なしているかのような印象を読者に与えるものである。大統領発言に対するbenign0氏の理解が正しいものとは言えないことは、先に見たとおりであるが、しかし同時に、benign0氏がジャーナリズム全体を否定している訳でないことも確かである。にもかかわらず、この議長声明は、benign0氏がジャーナリズムの全体を犯罪であるかのように理解している、と非難するものとなっている。このような中、ドゥテルテ大統領は、兵器を中露から購入することを示唆した[9]が、その一方で、フィリピンやインドネシアのソーシャル・ニュースサイトである『Rappler』は、benign0氏の記事を引用するも、適切にフレーズを選択している[10]。朝日新聞は、後日談としてNUJPの議長声明やドゥテルテ大統領のジャーナリストへの脅迫を中止する声明を取り上げている[11]ものの、本記事に示した機微には触れていない。

#10月6日、benign0氏は、「ジャーナリズムは犯罪ではないが、一部のジャーナリストは不正直である」という記事を公開している[15]

 以上の流れを概観すると、マスコミの中でも、エスタブリッシュメント側は、大統領の発言を大袈裟に取り上げた割に、フィリピン国民の大部分からの反発に対しては、それほど真摯に検討している訳ではないと見ることができよう。ジャーナリストの多くは、所属している組織の関係上、ドゥテルテ大統領支持派の批判の矛先が自分たちに向けられていると感じるであろうから、その批判を冷静に検証して論駁するということが心情的には困難であるかも知れない。しかし、わが国のマスコミで本件を報道した記者は、皆、フィリピン国外から発信したことになっている。皆、シャブでもやっているのか?と思う程に、現地から報道している訳ではない。疚しいことが何もなくとも、ドゥテルテ大統領を批判することに対して生命の危険を感じることは、大マスコミのジャーナリストならば、十分にあり得ることではあろう。しかし、身の危険を感じるのであれば、なおのこと、誤報とも言えるレベルの訳を世に問うことは避けるべきではないか、と世辞に疎い私は感じてしまうのである。

 大新聞は、フィリピンという難しい状況にある国の諸事についても、ファクトチェックの労を省略できる記事を提供するという「本道」に立ち戻り、諸国民にとってウィン・ウィンとなる見識を提示すべきである。中国の「海洋進出」※1を封じ込める輪の一つとして、フィリピンが機能することを「アメリカに期待されている」ことは、新聞記事の内容を鵜呑みにする日本人にも理解されていることであろう。このとき、「親米」の日本人読者が大マスコミに期待する内容は、ドゥテルテ大統領を「西側」社会につなぎ止める方策であり、そのヒントとなる事実の報道であろう。この潜在的な要求に対して、「西側」に連なる日本語の大マスコミは、ドゥテルテ大統領の人格攻撃を専ら優先させており、中国が麻薬中毒者のリハビリ施設建設を援助したこと[12]※2、1400人収容の施設が完成間近である[14]ことは、まったく報道していない。この状況は、日本語マスコミが「戦争屋のポチ」であると呼ばれても仕方のないものである。もっとも、陰謀論者の大勢は、ジャーナリズムなんて、端から宣伝工作のための装置でしかない、と言うかも知れない。

※1 ここでも、ほかのところでも取り扱う余裕はないが、中国の「海洋進出」は、第二次世界大戦以後のわが国の行動にも拠るところがある。このため、南シナ海「問題」は、日本人が現時点で言及すべきではない話題である。
※2 竹田いさみ氏は、新潮社の『Foresight』掲載の記事[13]でこの件に触れている。

 私が中国との対立を願う者ではないことをあらかじめ断っておくが、仮に、中国に先んじて、巡視船ではなくリハビリ施設と専門家の派遣をわが国がフィリピンに提供していたならば、援助の申出をするにあたり、中国は、従来よりも相当に気前の良い条件をフィリピンに提示する必要があったであろう。インパクトに欠けることになってしまうためである。このように、良い意味での競合をもたらす援助をわが国が事前に表明していれば、フィリピンの麻薬対策は、より大きく前進したに違いない。もっとも、島嶼国家であるフィリピンにおいて、巡視船は、麻薬対策にも転用可能である。わが国が巡視船の用途を限定して提供するのではないとすれば、なかなか考え抜かれた援助であると言いうるべきかも知れない。

 第二次世界大戦以後の歴史に対する理解は、独立したアジア諸国の指導者層の間では、かなりの程度、共通のものとなっていることであろう。つまり、敗戦までの間、わが国が中国大陸において阿片の流通販売による利益を秘密資金として利用してきたことや、戦後のフィリピンにおけるわが国に対する国民感情が悪いものであったことは、彼らの個人的な受け止め方がいかなるものであるかはさておき、アジア諸国のエリート層の基本的な理解の範囲内にあるものと見ておいた方が良い。これらの事実は、一時期までの間は、わが国の指導者層にも理解されていたことである。

 ここまで説明すれば、南シナ海「問題」に係る援助において、中国の後塵を拝する選択をわが国が採用したことは、見た目としては明らかであろう。わが国のジャーナリズムとインテリジェンスの高度化は、望むべくもないこととはいえ、国家の生き残りには、必要であり続ける条件である。なお、最後になるが、本稿における中国とアメリカに対する私の言及には、事前に説明なく概念を導入しているという手抜きが認められる。とはいえ、過去の記事を注意深く参照してもらえれば、親米の意味も、中国に対する私の見方が個人的な経験と現実の中国に対する無知とに由来して錯綜したものとなっていることも、ご理解いただけるであろう。


[1] 「麻薬中毒三百万人殺したい」比大統領、ヒトラーに言及:朝日新聞デジタル
(ハノイ=鈴木暁子、2016年9月30日18時10分)
http://www.asahi.com/articles/ASJ9Z5640J9ZUHBI01P.html
フィリピンのドゥテルテ大統領は30日、ナチス・ドイツを率いた独裁者ヒトラーに自らをなぞらえ、「ヒトラーは300万人のユダヤ人を虐殺した。(フィリピンに)麻薬中毒者は300万人いる。私も喜んで殺したい」と発言した。実際は約600万人が犠牲になったとされる大量虐殺(ホロコースト)を引き合いにした発言は国際的に波紋を呼びそうだ。
 ドゥテルテ氏は演説で、自分が「ヒトラーの親類みたいに思われている」と述べ、「ドイツにはヒトラーがいた。フィリピンには……」と自身を指さし、「この国の問題を一掃し、次世代が地獄に落ちないようにしたい」と続けた。

[2] ドゥテルテ比大統領が仰天発言 「おれもヒトラーのように虐殺したい」 薬物中毒者を念頭に - 産経ニュース
(シンガポール=吉村英輝、2016年09月30日18:45)
http://www.sankei.com/world/news/160930/wor1609300041-n1.html
薬物中毒者が300万人いるが、私も虐殺してやりたい

[3] 比大統領「麻薬中毒者虐殺」自身ヒトラーに例え : 国際 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)
(台北=向井ゆう子、2016年09月30日19時02分)
http://www.yomiuri.co.jp/world/20160930-OYT1T50120.html
300万人の麻薬中毒者がおり、私は喜んで彼らを虐殺しよう」と述べ、
[4] ドゥテルテ比大統領:「喜んで虐殺」 麻薬撲滅をホロコーストと比較 - 毎日新聞
(バンコク=西脇真一、2016年10月01日)
http://mainichi.jp/articles/20161001/ddm/007/030/150000c
「喜んで虐殺する」と述べた。
[5] Philippines' Duterte likens himself to Hitler, wants to kill millions of drug users | Reuters
(Karen Lema and Manuel Mogato, MANILA, 2016年10月1日08:24 EDT)
http://www.reuters.com/article/us-philippines-duterte-hitler-idUSKCN1200B9
Philippines President Rodrigo Duterte appeared to liken himself to Nazi leader Adolf Hitler on Friday and said he would "be happy" to exterminate 3 million drug users and peddlers in the country.

〔...略...〕

Duterte told reporters that he had been "portrayed to be a cousin of Hitler" by critics.

Noting that Hitler had murdered millions of Jews, Duterte said, "There are 3 million drug addicts (in the Philippines). I'd be happy to slaughter them.

"If Germany had Hitler, the Philippines would have ...," he said, pausing and pointing to himself.

"You know my victims. I would like (them) to be all criminals to finish the problem of my country and save the next generation from perdition."
#10月4日中に取得しているため、後段の引用部分がすべて10月1日のアップ時点のものであるか否かは、私には判別が付かない。

[6] GRPundit: Reporters Karen Lema and Manuel Mogato of @Reuters LIED about the Duterte "Hitler" quote
(benign0、2016年10月1日12:36+10:00)
http://grpshorts.blogspot.com/2016/10/reporters-karen-lema-and-manuel-mogato.html
Lema and Mogato are Filipinos. There’s no way they could have misunderstood what Duterte really meant in his speech. I watched the video and this is what the President said:

“Hitler massacred 3 million Jews. There are 3 million drug addicts. I’d be happy to slaughter them. At least, if Germany had Hitler, the Philippines would have ….. my victims, all criminals, to finish a problem of my country, and save the next generation.”

https://youtu.be/kKpaHBG6d3M

Duterte was CONTRASTING himself from Hitler, not likening himself to Hitler.

〔...略...〕

Over 90% of Filipinos support President Duterte and his program of government. Are we going to let a handful of disgruntled brats who call themselves journalists subvert the will of the Filipino people?

NO. These malicious and irresponsible journalists are the true enemies of democracy, and they should be punished with the full force of the law.

[7] ヒトラー発言の比大統領「ユダヤ人社会に心から謝罪」:朝日新聞デジタル
(マニラ=鈴木暁子、2016年10月2日23時50分)
http://www.asahi.com/articles/ASJB27FVQJB2UHBI01L.html

[8] [Statement] Journalism is no crime
(Ryan D. Rosauro(Chairman)、2016年10月03日08時12分 UTC)
http://www.nujp.org/2016/10/statement-journalism-is-no-crime/
It began as an anonymous post on the GRPundit section of the GetRealPhilippines site, accusing veteran Reuters reporters Manny Mogato and Karen Lema of deliberately misreporting Duterte’s controversial “Hitler” comments and saying that “malicious and irresponsible journalists” like them "are the true enemies of democracy" and "should be punished with the full force of the law" as if journalism is a crime.
[9] Philippine leader tells Obama 'go to hell', says can buy arms from Russia, China | Reuters
(記名なし、2016年10月4日08:00 EDT)
http://www.reuters.com/article/us-philippines-duterte-arms-idUSKCN12414A

[10] NUJP condemns threats against Reuters reporters
(2016年10月03日21時15分〔UTC+0800か〕)
http://www.rappler.com/nation/148098-nujp-condemns-threats-against-reuters-reporters
The post from GRPundit said "malicious and irresponsible journalists" like Lema and Mogato "are the true enemies of democracy," and they "should be punished with the full force of the law."
[11] 比大統領のヒトラー発言、報じた記者への中傷相次ぐ:朝日新聞デジタル
(マニラ=鈴木暁子、2016年10月4日20時38分)
http://www.asahi.com/articles/ASJB44GVKJB4UHBI01X.html
 朝日新聞の取材に応じた記者によると、顔写真も公開され、「薬物使用者だ」といったデマも流れた。フィリピンは記者の殺害事件が多く、ドゥテルテ政権下では「麻薬犯罪者は殺害してもよい」という風潮も広がっている。このため2人は自宅を離れ、1人はフェイスブックのページを閉鎖したという。

[12] Duterte thanks China for aid, says US can do better | ABS-CBN News
(記名なし、2016年09月09日19:14、更新2016年09月10日12:27)
http://news.abs-cbn.com/news/09/09/16/duterte-thanks-china-for-aid-says-us-can-do-better

[13] 中国に接近する「ドゥテルテ比大統領」外交感覚の背景 (新潮社 フォーサイト) - Yahoo!ニュース
(竹田いさみ、2016年9月29日15時45分)
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160929-00010000-fsight-int

[14] Duterte: China-funded rehab facility almost complete
(Pia Ranada@piaranada、2016年10月07日19:50)
THANKS CHINA. President Duterte speaks at the Banana Congress in SMX Center in Davao City. Photo by Manman Dejeto/Rappler
http://www.rappler.com/nation/148537-duterte-china-funded-rehab-center-almost-complete

[15]Journalism is not a crime but some 'journalists' are downright crooked - Get Real PostGet Real Post
(benign0、2016年10月6日)
http://www.getrealphilippines.com/blog/2016/10/journalism-not-crime-journalists-downright-crooked/

2016年8月21日日曜日

Yomiuri-Shimbun 24th July 2016 can be used to estimate maximum numbers for two defeated candidates

  Yomiuri Shimbun published an article on 24th July 2016 about a pre-election poll survey for the Tokyo Metropolitan Governor in 31th July 2016.  The article did not present exact values for supports for three major candidates. However, using the graph on supports stratified by LDP supporters, DP supporters, and others in the newspaper, it was still possible to estimate maximum numbers of votes for two defeated candidates, Mr. Hiroya MASUDA and Mr. Shuntaro TORIGOE.  The analyst also could use actual total number of voters, and votes for LDP, DP, and others in the election for Sangiin (proportional representation) of the National Diet in 10th July 2016.  Maximum votes for Mr. MASUDA and Mr. TORIGOE was estimated to be 2894879 and 2899155, by applying the actual data in Sangiin to the Yomiuri survey.  The coincidence in those numbers and to the actual votes to the winner, Ms. Yuriko KOIKE, which reached to 2912628 votes, can be meaningful for the coming elections in all countries in the world.

Here is the link to the xls file estimated by local municipalities.


Japanese translation by the author below:
著者による日本語訳は以下のとおり。

読売新聞2016年7月24日の情勢調査は、敗北した2候補の最大得票見込み数を推定するのに利用可能であった

読売新聞は、先月24日に都知事選の事前情勢調査に係る記事を公表した。主要三候補に係る正確な値は公表されなかった。しかし、新聞に掲載された自民党・民進党・その他の支持についての層別グラフを用いると、落選した増田寛也議員と鳥越俊太郎議員について、最大に見込まれる得票数を推定することが可能であった。分析者は、また、2016年7月10日の国会の参議院選挙の投票者数、自民党・民進党・その他への投票数の実値を利用できた。参議院(比例代表)の実値を読売新聞の調査に適用すると、増田氏と鳥越氏の最大得票数は、2894879、2899155と推定された。これらの数値の一致、また勝者である小池百合子氏の実際の得票数、2912628票への一致は、世界中の万国の来るべき選挙に対して何らかの意味を有するものであるかも知れない。

2016年3月24日木曜日

「ラーメンで鼻血」の可能性を探究する(その1)

 本稿は、「どの社会的地位にも犯罪に手を染める人は存在する」という前提を置いている。この仮定だけでも不愉快になる読者がいることは承知している。読者によっては不快感を覚えることを、あらかじめ警告しておく。本記事は、可能性の有無を取り扱うものであり、現実の事件を取り扱うものではない。藤岡真氏によるTOKIOの番組へのコメント(リンク)を意識したものではあるが、ただ、本件は、別のソースを参照して記されたものであることをお断りしておく。


まとめ

本メモは、3.11の5周年に係る報道を踏まえ、ラーメンにより鼻血が出たという近年までの報告の信憑性を検証するためのものである。このような微妙な案件について、公開情報(オシント)のみから結論を確定するのは手抜きかも知れないが、これが私の作業スタイルである。手を付けられるところから始めてみるしかない。

 当座の結論は、ここで検討した内容だけで「ラーメン中の放射性物質→鼻血」という因果関係を見出すことは、偶然に偶然を重ねなければできない、というものになる。ただし、有力な異説である「ペトカウ効果」は未検討であるし、現実に流通する食品の放射性物質の含有量を検討してもいない。また、スープの作成方法についても、十分な検討を加えてはいない。「偶然に偶然を重ねる」パターンとしては、横流しされた食材を恒常的に利用している一部の飲食店を、被曝量が年間100ミリシーベルトを超えた客が利用する、というものが挙げられる。このケースであれば、食べた途端に鼻血というパターンは、あり得なくもない。しかし、一発で非確率的影響を受けるまでに高濃度に凝縮されたスープという存在は、ヤミで入手した浜通り産の猪肉を煮詰めるなどしなければ、出来上がることがない。


被曝と鼻血との因果関係(メカニズム)についての既存の考察

放射性物質と鼻血自体のメカニズムについては、すでに、study2007氏による考察に対して、豊島耕一氏が検討を加えている。豊島氏は、1000[Bq/m^3]の大気の呼吸が10日間続くと鼻粘膜への(局所的な)ダメージが非確率的影響を生じる水準に達するというstudy2007氏の試算を、おおむね是認している。非確率的影響は、(一人について)年間100mSv以上の被曝により生じるものと見なされている。

福島第一原発事故 大気中の放射性ダストと鼻血(ノドの痛み)の関係について|転移性肺癌の1寛解例に関する研究、のブログ
http://ameblo.jp/study2007/entry-10925145430.html

「美味しんぼ」で描かれた鼻血の半定量的根拠 豊島耕一(元佐賀大学教授)
http://ad9.org/pdfs/publish/nosebleed.pdf

 なお、非確率的影響のみをもって放射性物質の健康影響とみなすことは、特定の政治的目的を有する一部集団の主張に過ぎず、近年の大規模な比較対照群を設けた研究によって、否定されつつある。従来においても、LNT仮説(線形しきい値なし仮説)、年間100ミリシーベルト以下であっても被曝量に比例してリスクがあると考える仮説が主流であったが、少なくともこの仮説以上には、放射能は健康に悪そうであるという材料が調いつつあるのである。


高線量の牛骨がラーメンのスープの材料として利用される経路についての定性的考察

今回、「ラーメンで鼻血」問題を生じさせることになるであろうと見込まれる食材のひとつは、浜通りで生産され、殺処分・廃棄されたはずの家畜(廃棄食品)の骨部位である。殺処分・廃棄が進められたこと自体は、マスメディア等により事実として報道されている。しかし、その作業が完全であったとすることは、農水省の担当者にさえ、保証できないことである。これは一種の悪魔の証明であるため、殺処分・廃棄の完全性を否定することは不可能である。問題は、この種の不正がどのような構造で成立するのか、その際の利得がいかなるものであるのか、のあらましを把握することにある。

 廃棄食品に係る不正を考えるとき、参照すべきは、「ハンナン事件」であり、その類例としての「ダイコー・みのりフーズ事件」である。いずれの事件も、廃棄処分されるはずの食品が横流しされたという構図で共通する。ハンナン事件は、BSE問題の影響を受けた同社が焼却証明書を不正に入手し、また海外からの輸入証明書を偽造して、廃棄されるはずの牛肉を再度流通させたというものであった。BSE問題とハンナン事件の後に、RFIDタグによる肉牛の管理が進んだ。現在、この流通経路の途中に、殺処分・廃棄されたはずの牛肉を紛れ込ませるという不正を行うことは、なかなか困難なことである。ただし、本記事では、最も上流の過程で不正が存在したとすれば、この不正行為に荷担する人々がいてもおかしくないだけの利潤が生じることを後述する。また、そもそもこのルートに乗らない形の食肉流通は、ルートに乗らない時点で違法行為を犯しかねないものになるが、このルートの存在を否定しきることも、難しいことである。

 本件考察では、違法行為に及ぶ者がどの社会的地位にも存在するという仮定を置く。これは、犯罪社会学の知見として有名で、複数の研究により確認されているので、疑問を差し挟む必要はない。なお、北関東・福島・宮城において生産された、低度に汚染された食材による内部被曝のリスクを信じない者でも、より汚染された地域において生産された食肉が人体に影響を与えるだけの危険性を有するという命題と、それらの食肉を持ち出す不心得者がいるという命題は、個別に検討が可能なはずである。

 問題は、生産者・流通業者・飲食業者のいずれかまたは複数が不正行為に及ぶ確率の大小である。ここでは、その推計は行わず、いずれかが不正行為に及べば、川下まで商品が容易く流通しうることだけを確認しておこう。「ダイコー・みのりフーズ事件」は、その事実の十分な例証になる。その端緒は、福島県沖のジャコが売れ残ったことに由来するとされている。「ダイコー・みのりフーズ事件」における違法行為は、ダイコーが主導し、みのりフーズが下請けとして追従したものであった。同事件について、関係者がいかなる形で関与したかの検討を行うことはしないが、両企業の従業員数は、合計で50名に達する。本事件は、ダイコーに業務委託した企業の従業員により、違法行為が発見されて公知のものとなった。ダイコー・みのりフーズの従業員50名は、違法行為に薄々気付きながらも、何らかの行動を起こせば、身バレするか否かを問わず、職を失うことになるために、黙認せざるを得なかったのであろう。

 本記事の対象となる食肉という食品は、海産物や農産物に比べて、屠畜場の関係者を巻き込む作業となり、ハードルは格段に高い。しかしながら、屠畜作業を自前で行えるという条件があれば、(このこと自体、各種の法律に違反する状態であるが、)ここでのハードルは、むしろ不正行為に手を染める誘因として作用しうる。とはいえ、食肉生産における屠畜という段階は、なぜ、果物泥棒がいても肉牛泥棒がニュースにならないのか、という説明に利用可能であるほど、継続的に実行するには障害の多い作業である。屠畜は、内臓を傷付けずに処理する技術や、処理済みの内臓等の食品加工もしくは廃棄、冷凍室(冷凍庫)等の大型設備への投資、悪臭対策等を必要とする過程であり、DIYで行うには、あまりにも高度化した作業であると考えられる。

 しかしなお、生産者・流通業者・飲食店のそれぞれで、法的制裁・社会的制裁のリスクを上回る利潤が見込める限り、三者の一名以上が生産地を偽ったり、廃棄すべき食品を横流しすることは、可能性としては避けられないことである。流通業者や飲食店が食品による内部被曝のリスクを信じなければ、風評被害により苦しむ生産者を助けることになると信じて、食材を仕入れることもあろう。リスクに対する指摘を知りつつも、以前の価格よりも安値で、しかし現在の市場価格よりも高値で買い入れることができるのであれば、現実を前提としたwin-win関係が買い手と売り手の間に形成されることになる。このとき、食材の有するリスクを認識しつつも、消費者にリスクを押しつけることが可能であると考える者が三者の中にいたとすれば、あえて「風評被害の払拭」を建前に掲げることは、ある種の必然ともなる。

 事故以前よりも安値で、かつ現在の値段よりも大幅に価格を上乗せして食材を買い取り、流通業者と飲食店のそれぞれが「風評被害」により生じた価格差から現行の市場では望むべくもない利潤を得るというビジネスモデルは、十分に成立する。なお、飲食店の利潤は、上質な食材を比較的安値で入手できるために、他店に比べて優位に立つことができる(競争力を付ける)という形で得られることになる。

 産直は、通常時には食の安全を担保する仕組みであるが、ここでは、かえって違法な食品を横流しを助長する可能性もある。顔が見えることは、とりもなおさず、関係を強固にすることになる。飲食業者は、取引を解消してトラブルを生じさせるよりも、顧客に対して口をつぐむ方を取るであろう。買い入れる側の担当者が食品を味見する必要がなければ、なおのこと、取引先を優先させることにもなろう。

 ここで、無理筋と承知しつつ、私が思いつく中で、最も条件を整えやすい不正の形態を示そう。その手口とは、出荷可能な別の地域の牧場の関係者を抱き込み、輸送手段を確保するというものである。管理タグの非整合性は、原理的には、どうにでもなる話である。移動の届出が遅れていたことにしても良いし、あるいは、育成された牧場と登録された牧場が現実には異なるという状態でも良い。放射性物質の検査を行わない限り、肉牛は、見た目で品質が判定される。このため、育成された牧場と登録された牧場が異なるという方法は、牛の健康状態に影響が生じないという条件が成立するならば、もっとも良い偽装の方法となる。現実には、(父)牛の血統が偽装の大きな妨げとなるであろう。この難しさを割り引きつつ屠殺を恒常的に行う方法は、ハリウッド映画にあるような、屠殺職人に時間外労働をお願いするという方法くらいしか、私には思いつかない。

 この不正による利益を推計してみると、最もリスクの高い作業である、出荷停止区域内から区域外への移送という作業を1回として捉えると、1回あたり2400万円というところである。福島県産牛肉は、福島第一原発事故前、高級ブランドとしての地位を確立していた。ここでは、(少なくとも、これ以上の利益があり得ることを示すため、あえて)8掛けして、価格は、一頭あたり80[万円]としておこう。平成23年7月以降、出荷停止指示のため、値が付かなかったものと考えれば、差額は80[万円/頭]である。トラック1台30頭まで輸送できるとすると、2400万円である。事故前から別の牧場に移送して養育していたことを偽装できさえすれば、関係者の間で2400万円の粗利を得ることになる。ただし、これは、殺処分が決定された直後の利益である。継続的に不正を行う場合には、通常の経費を差し引くことになるため、不正による利益に対して、あまりにもリスクが大きな作業となる。なお、平成23年11月の全日本畜産経営者協会の東電原発損害賠償手続き商系情報交換会において、全農・福島県本部は、県内の畜産農家等が統一された基準で東京電力に対する損害賠償請求を実施したことを報告しており、その資料による限り、不正を行う余地がないわけではないが、不正を行うには、ハードルの高いものとなっているように思われる。

北海道における生体牛輸送の実態調査業務(07.pdf)http://www.hkd.mlit.go.jp/topics/toukei/chousa/h21keikaku/07.pdf

東電原発損害賠償手続き商系情報交換会の概要について|一般社団法人 全日本畜産経営者協会
http://www.alpa.or.jp/topics/20111118.html

 先の段落に示した不正のあり方は、あくまでシステムとしての不備で想定されるものを挙げるに留まるものである。実例を挙げることもできなければ、これが常態化していると言うつもりもない。むしろ、ここに挙げたよりも、7月の出荷停止以前に出荷された家畜の放射性物質の蓄積状況について、検討を加えた方が良さそうである。いずれにしても、本件の追究は、これ以上の材料に不足している。ただ、一つだけ言えることは、不正の確率は、決してゼロでもないし、1でもないのである。ゼロに近い方であるとは思いたいが、賠償の遅れが不正を生んだ可能性は否定できないであろう。

 どの分野の職業であれ、大多数の職業人は、外部の者を満足させる水準で、業務を遂行していることと思う。ただ、震災直後に津波被災地域に入り込み、金庫やATMを回収した窃盗犯や、立入禁止区域において侵入盗犯が(従前の)世帯あたり件数で見てもきわめて高い被害を及ぼした事実をふまえれば、不正に及ぶ人数の確率はともかく、震災という人の不幸につけ込む人物は、それなりの人数が存在すると考えて良い。なお、このように、人の不幸につけ込む悪意を指摘することは、私自身の「外部の者を満足させる水準で、業務を遂行」することになるし、また、決してその存在を肯定するわけではないが、人の不幸につけ込む窃盗犯たちも、機を逃さないという意味では、自身の業務に忠実であるということになるのであろう。

 なお、ここで、最も罪が重く、かつ制裁から逃れがちな者を指摘しておくと、それは、実際に不正な流通に手を染めている者たちではなく、食品の安全性について安請負いした一部の学者である。彼らが汚染地の食材は安全であると明言してきたのであるから、生産者や流通業者は、社会における分業という仕組みからいえば、「これらの御用学者を信用した」と言い抜ければ良いことになる。実際、「薄めれば大丈夫」とも一部の御用学者は明言し、牛乳は混ぜ合わせる措置が執られているのであるから、ほかの食材と混ぜて販売することに大義が与えられたものと解釈することも可能ではある。ここから、使用自体が禁止されている食材をほかの食材と混ぜることまでは、指呼の間であり、食用が禁止された食材を流通させることも、大した違いはないものとなる。原子力業界の(エア)御用学者の発言は、犯罪行為への耐性の低い者たちに、都合の良い言い訳を与えたことになるのである。

 世界の複数の国は、現在も、原産地証明書の添付をわが国からの輸出食品に求めると同時に、複数の都県の産品を輸入制限している。アメリカ合衆国は、岩手・宮城・福島・栃木の各県からの牛肉の輸入を制限している。この範囲の広げ方は、牛肉という生産物に係る政治的背景もあるものと考えた方が良いが、「後々、健康被害が生じたら困るから」という、予防措置原則に基づくものでもある。本来、予防措置原則という理屈は、わが国の食品行政にも当てはめることができる。ただ、北関東や宮城・岩手の一部にまで同様の措置を適用すると、影響を受ける農業関係者の人数が大多数になる。ここまでの理解は、マスメディアの報道にこそ上らないものの、分別のある者には共有されたものである。しかし、影響の大きさを見たときに、人によっては、問題自体から目を背けるという選択肢を選ぶことになる。私個人は、影響の大きさを、汚染地において生産された食品の流通を野放しにしたり、産地偽装を見逃すような緩い行政を放置する理由にはならないと考える。ましてや、事故を矮小化することは、主客転倒であるとも考える。なお、アメリカFDAの指示は、ほかに、鹿肉・熊肉・猪肉等についての言及が見られるものの、豚肉・鶏肉については見られない。この理由は、輸入量がほとんどないことにあると推測されるが、後の確認が必要である。

Import Alert 99-33 (uptdate: 03/21/2016)
http://www.accessdata.fda.gov/cms_ia/importalert_621.html

 わが国の社会システムは、全般的に、不正行為や犯罪に手を染める者がいるという前提を置いて構想・設計が行われることが少ない上、何より、実装後、悪意を持った人物による攻撃を想定した点検・改善のプロセスを実行するということがない。このこと自体は、人を疑わない美徳として捉えられることさえあるが、単に、システムを用意することに対して責任を有する人物たちの無知・無為・怠慢に由来するものと捉えた方が理解しやすいことも多い。

 なお、廃棄すべき食材の横流しという問題を予防することは、大変に難しい。食肉については、横流しの主犯が「殺処分して埋設するのではなく、食肉処理して食べることが供養の一つである」というアニミズム的な信念の下に敢行しているという可能性も認められる。「饗応された食事を残さず頂く」という考え方は、日本人の礼儀作法の基本であり、「饗応された食事を食べ残さないことは、主人がケチだということになる」という他国の礼儀作法とは対照的なものである。「食べて応援」への同調圧力に抗することは、(普段であれば賞賛されるべき)日本的な精神風土にも原因の一端を求めることができる。動機自体が「もったいない精神」という、一般に善とみなされる内容から出発するものであるために、解決が容易なものではないのである。



 魚介類については、本記事が長くなりつつあるので、別途、日を改めて検討したい。


牛骨や牛スネ肉におけるCs-137の蓄積量

3・11大震災シリーズ(71)THE 放射能 人間vs.放射線 科学はどこまで迫れるか?|NNNドキュメント|日本テレビ
http://www.ntv.co.jp/document/backnumber/archive/31171the-vs.html

【NNNドキュメント’16】THE放射能 人間vs放射線 科学はどこまで迫れるか?|じゅにあのTV視聴録
http://ameblo.jp/skyblue-junior/entry-12139795005.html

 ここでは、岩手大学農学部准教授の岡田啓司氏の解説に注目する。岡田氏によれば、殺処分して埋設された牛については、血中セシ ウム10000[Bq/kg]の牛がゴロゴロしていた、チェルノブイリでツバメの白斑が見られたために福島県の牛の白斑についても広く報道された、 3~4[μSv/h]のところでも白斑の牛が見られたという。同番組の内容の書き起こしは、上記ブログを参照されたい。

 血中濃度は高いが、骨組織そのものの濃度自体は、さほど高くない。Cs-137のスープ中の濃度が高くなるには、出汁にスネ肉を用いるなど、ほかの理由が必要である。なお、猪の肉・骨を豚骨と見なして利用しているところがあるのであれば、これは十分な被曝を起こす可能性が認められるが、猪が利用されるという事実については、事実そのようなことがあるのかという検討から始める必要がある。


ラーメンのスープ生成時の濃縮モデルならびにその摂取による鼻腔への蓄積

本節は、まだまだ検討を加える必要があるので、後日修正が入る予定である。

 残る要点は、煮込まれる食材における残存率、煮込むという作業における大気中への放出率、摂取時の鼻腔への到達率のそれぞれであるが、これらの段階を通じて90%以上が減じられなければ、横流しされた食材を利用したラーメンによって被曝したという主張は、成立の余地があることになる。ただし、鼻血という非確率的影響が生じたというまでに高濃度に濃縮されたスープという存在を考えることは、無理筋である。スープの材料費が高くなり過ぎる上、生成の過程で大気中に放出されるという経路などを通じて、濃縮の程度は、一定程度に抑えられるからである。なお、客自身の累積被曝量が大いに影響すると考えることもできるが、それは別建てで検討すべき話である。

 煮込めば、食材の9割のCs-137は、煮汁に出る。骨髄は漉して混ぜると考えれば、とりあえず、スープ中にすべての骨髄中(およそ血中濃度と見るべきか)のCs-137が移行する。煮込むときに大気中に放出される割合は、水蒸気と同程度だと仮定して、差し湯を考慮すれば、数割程度に低下すると考えることができる。空気中への放出率が90%以上に達さなければ、10000[Bq/kg]の材料から得られたスープのCs-137濃度は、1000[Bq/l]以上は堅いことになる。

 鼻腔への到達率は、何とも評価しにくいが、一口分でも鼻腔に入ったとすれば、鼻血が出る確率は、ゼロに近いかもしれないが、ゼロではなくなる。大抵、食事中には、鼻腔にもスープが入るし、セシウムはカリウムと同様の挙動をここでも行うと仮定すれば、湯気に含まれて接触することにはなる。煮込まれて摂食されるまでの間に、湯気と一緒にどの程度のCs-137が放出されるのか、胃の中に直接収まるCs-137がどれほどあるかが問題である。後は、客ごとに何口で食べたのかをモデル化するという運びにもなりそうであるし、その飲食店の客数と、それらの客の累積被曝線量にも大きく左右されることになる。


再度のまとめ

ラーメンで鼻血が出たという事実の原因を放射性物質に求める議論に対しては、今までの議論を参考にしつつ、表現を変えると、次のようになる。不法に取得した汚染食材を横流しし続けた業者が存在したのでなければ、また、飲食店がそのような食材を利用するだけの経済原理が機能しなければ、一発で非確率的影響を受けるだけのスープが作られることはない。

2015年10月27日火曜日

施工不良問題と「逸脱の常態化」

 ダイアン・ボーンは、NASAチャレンジャー事故の調査を通じて、Oリングの工業基準違反状態が9年間継続したという状況を発見し、この状態を「逸脱の常態化(normalization of deviance)」と呼んだ(Vaughan, 1996; 松本三和夫, 2012)。あるべき状態から違反した状態にあることが専門的小集団の全員に共有されつつも、全員がその状態を黙認する状態である。規範の逸脱状態が相互作用の中で学習、共有されていく過程は、犯罪社会学の興味のど真ん中でもあり、エドウィン・サザーランドの分化的接触理論(Sutherland, 1974※2を初期の金字塔として挙げることができる。瀬川晃によると、分化的接触理論の基本コンセプトは、松本良夫※1の言を借りると「朱に交われば赤くなる」である(瀬川, 1998, p.93)という。

※1 松本良夫, (1971). 「犯罪の習慣とは」, 『更生保護』, 26号外1号, pp.115-.
※2 瀬川晃, (1998). 『犯罪学』, 成文堂.

 今朝(平成27年10月27日)の『めざましテレビ』(7時ころ)のインタビューは、施工不良問題の背景に「逸脱の常態化」が存在していることを窺わせるものであった。横浜市の大型マンションでの施工不良問題に関連して、旭化成建材のくい打ち施工業務に長く関与した男性がインタビューに応じている。男性は、元請けも下請けも、くい打ちが少々失敗したとしても、その状態を黙認していたと話した。下請けとしては、工期が余分にかかろうと、元請けが補填しない以上は、工費を圧迫するような再調査や再施工などしない、というのである。

2015年10月27日10時追記

「「旭化成建材」発注の元現場責任者「設計段階で問題あった」10/26 11:59
http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00306663.html

「旭化成建材のもとで、くい打ちに携わったことのある元現場責任者」 がインタビュイー(インタビューを受けた者)で、「(不正は)わたし自身もやっておりますし、何十人も同じことをやるのは当たり前ですね」と言う。

2015年10月23日金曜日

振り込め詐欺が壮大な節税システムであるとする陰謀論は考え過ぎである

 陰謀論の世界には、ときに、自分の考えが遠く及ばないアイデアが転がっていたりする。もちろん、それらのアイデアをそのまま無断借用するなんてことは、自分の良心やプライドにかけてすることはないが※1、ともあれ、その想像力の豊かさに(色々な意味で)恐れ入ることがある。以下の考察は、その想像(妄想)力のたくましさに敬意を表するため、真面目に、その意見を否定するものである。本記事は、大多数の読者にとっては駄文であることを、あらかじめお断りしておく。

 以下のブログは、陰謀論(者)の世界(観)の奥深さを感じさせる一例である。FATF加盟に伴い、わが国でも、金融口座の開設や海外振込等が厳しく監視されるようになったが、それに伴う銀行の対応に憤るツイートを収集し、預金封鎖が始まっていると推測した上で、次のように考察を進めている。

預金封鎖、実はすでにゆっくり始まりつつある…? – すべては気づき
http://sekaitabi.com/furikome.html
 また、以下は100%推測の域を出ないあくまで想像の話ですが、振り込め詐欺自体が、預金移動防止のためにセットアップされた自作自演である疑いさえ持ってます。本当に詐欺行為自体はされてるとして、自演が含まれているのではという疑いが(実は裏社会を通して犯人役が配置されているのでは、という)。
 東芝の粉飾決算の金額の大きさ(1500億円超)や海外バラマキの額と比べると、振り込め詐欺の被害額(昨年で559億円)が小さいにもかかわらず、振り込め詐欺の方は膨大なコストをかけ、東芝の方は「不適切会計」などと言ってごまかし刑事罰も与えない甘い対応。
 振り込め詐欺の振込先の口座情報を銀行側が突き止められないはずがないことも、大きな預金を持っている人の情報をつかめていることも不審に思ってました。
 推測だけでまったく根拠はありません。しかし同じように勘ぐっている方々はいました。以下は元警官の方とのこと。(後略)
例示されていたツイートのみから預金封鎖の虞を読み取ることの是非は、個人の表現の自由の範囲内にあるように見える。ただし、現実に、昭和48年の豊川信用金庫の取り付け騒ぎをふまえれば※2、その種の再帰性、自己予言成就機能のようなものが、この種の発言について回ることには注意すべきである。この事例は、情報社会学などの分野では著名な事例である。付言するなら、おそらく、最近(平成27年9月ころ)のインターネット銀行における小口で取引事例が多い顧客の普通口座に対する銀行側の処置は、普通口座である以上、適切なものと思われるが、他方で、顧客一般の知識も試されていることであるようにも思われる。わが国における金融教育の必要性は、作家の横田濱夫氏がかねてから指摘してきたことであるように(うろ覚えで)記憶しているが、今回の逸話は、かなり基本的なところから教育が必要な人が多いことをうかがわせるものである。(私自身もその対象に含まれる。)

※2 豊川信用金庫事件 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B1%8A%E5%B7%9D%E4%BF%A1%E7%94%A8%E9%87%91%E5%BA%AB%E4%BA%8B%E4%BB%B6

 閑話休題。

 振り込め詐欺の既遂を装い、資産家が節税しているという指摘であるが、これは、ごくごく一部の例外を除き、まったくの思い違いであると断定して良い。なぜなら、第一に、資産家が節税する場合、複数の企業を設立、投資し、トントンの経営状態にするという、合法、安全かつ鉄板の方法が存在するためである。というより、この方法は、ゴールデンスタンダードである。嘘だ!と思う方は、景気の良い中小企業経営者の邸宅周りに、いったい何の会社だろう?と思うような企業名の看板が複数出ていないかどうか、確認されると良い。ほぼ必ず、場合によっては資産家の邸宅の表札とともに、それらの企業名が掲げられているはずである。税理士との密な付き合いが必要なほどに儲かっている企業の経営者ならば、この方法の最大の障害である税理士とのコンタクトという点をクリアしているはずである。第二に、資産家だけでなく、グルになっているとされる犯罪集団も、振り込め詐欺を演出するなどという、危険な橋を渡ることをしない。資産家は、数百万円程度の資産の保全のために、わざわざ弱みを見せるような形で、犯罪集団に接触を図るなどということはしない。もちろん、例外は存在しており、その例外とは、当初から犯罪集団と関係している場合である。このような例外的な場合には、万が一にであるが、そのようなことが行われる、かも知れない。しかし、そのような仕事を持ちかけられた犯罪集団は、まっとうな判断を下せる状態であれば、わざわざ警察の捜査を余分に受けるようなことをすることはしない。グルになって何かするにしても、ほかの方法を採用するはずである。暴力団の資金が海外のプライベート・バンクで貯蓄・運用されていたり、外国人犯罪集団の資金が地下銀行を通じて海外の家族の元に届けられて安全に運用されていることは、相当に有名な事実である。犯罪者にしても、海外のタックス・ヘイブン等において、合法的に資産を運用できるのであれば、それらの安全・確実な方法を採用するのである。合理性という主要概念は、振り込め詐欺や組織犯罪についての研究にも通用する一般化可能なものなのである。

 警察までを巻き込んだ形で、振り込め詐欺において、壮大な自作自演が進められているという可能性も、限りなく無理筋である。お金は、まったくの無からは生じない。何かの裏付けなりが必要である。振り込め詐欺という財産犯の被害金(原資)は、個人の財産である。企業資産に比べて保護の手厚い個人資産を、節税のために「警察まで巻き込んだ巨大振り込め詐欺虚構システム」に投入して、安全に口座から引き出すという過程には、三つの点で問題が生じる。第一に、関係者が多すぎて、正義感に由来する内部告発の阻止が困難である。第二に、このシステムの作動は、銀行等の金融機関関係者の反発を食らう。金融機関は、振り込め詐欺を防げないと、運用資金と評判の双方に悪影響を被る上、振り込め詐欺被害の抑止(今まさに行われようとするときの防止)が唯一可能な状態にあるプレイヤーでもある。思う存分妄想の翼を広げれば、警察OBの銀行顧問などが圧力を掛けて内部告発や反発を封じるという構図も湧いてくるが、この構図は、明らかに社会正義に反する状態である上、(こちらが何より重要だが、)関係者の大部分にとって一文の得にもならないものである。それどころか、システムが明るみに出され、落とし前を付けなければならなくなったとき、関係者の大多数が連座することになり、即実刑を食らう可能性さえ認められるものである。このような状況下で、関係者の誰もが沈黙するということは考えにくい。わが国においては、明らかに悪と見える行為を積極的に行うことに対しては、抵抗が強い。半面、制度の欠陥を放置するという不作為に対しては、相当に抵抗が弱い。この特性をふまえたとき、積極的な悪のシステムを公然と構築するようなことになる、「振り込め詐欺虚構システム」説は、まず間違いなく、筋の通らない話である。

 なお、上記引用は、東芝の不正会計事件と振り込め詐欺の年間被害額を比較しているが、これは、明らかな誤りである。東芝の第三者委員会は、次の表1の金額を修正するよう求めている※2。まず、第一に、振り込め詐欺の被害額は、これらの金額と比較されるべきである。

表1 東芝第三者委員会の指摘による過年度決算の修正金額
2008年度▲282
2009年度▲400
2010年度+84
2011年度▲312
2012年度▲858
2013年度▲54
2014年度(1-3Q累計)+304


※1 なので、私は、アイデアを借用した場合には、私自身が彼岸に到達してしまった人と思われる虞を冒してでも、その旨を示している。

※2 第三者委員会調査報告書の受領及び判明した過年度決算の修正における今後の当社の対応についてのお知らせ(2015年7月20日)
https://www.toshiba.co.jp/about/ir/jp/news/20150720_1.pdf



おまけ

 今現在の私個人には、東芝の不正会計事件(以下、本事件)を分析できるだけの知識や経験がないので、以下は、感想に過ぎない。

 本事件は、第三者委員会報告書にあるG案件のように、大型かつ長期の原子力発電関連プロジェクトが含まれており、福島第一原発事故と問題が一体化しているという構図がうかがえるものである。本事件は、その構図ゆえに、後世において、大きな批判を浴びるものとなるだろう。仮に、東芝が福島第一原発事故を機に脱原発産業へと歩を進めることができていれば、それが廃炉ビジネス分野であろうと、再生可能エネルギー分野であろうと、方針変更に伴う問題であったという点についてのみ、道義的責任を追求されることになったであろう。しかしながら、本事件は、原発推進を社是として突き進んだかのような図式を提示することになってしまっている。言い換えると、「原発推進を強行するあまりに行われた犯罪である」という非難が妥当するかのような外見となっているのである。(私も、ともすればそのようなステレオタイプで本事件をとらえてしまいそうになる。)探せば、このような形式での非難は、たちどころに見つけることができるであろう。この点で、東芝の経営陣は、二重に失策を犯したことになる。

 なお、私は、日本人が非競争的分野である原子力発電産業をなおも推進することに反対する。なぜなら、責任を取ることのできない経営者層に、国を傾かせるレベルの影響を生じさせる経営判断を強いることになるためである。無限責任を取ることのできる経営者が現在のわが国には絶無である、と私は思う。ポツダム宣言受諾に臨んでさえ、無限責任を有するはずの多数の人物のうち、その結果にふさわしい進退のあり方を見せた者は、きわめて少数派であった。一千万人単位の犠牲者を生じうる原子力事故の責任を取ることのできる人物を大企業の経営者という小集団から見出すことは、不可能である。東京電力の管理職の職にあり、その(結果)責任に対して、日本人がふさわしいと考える最期を(結果として)遂げた(果たしている)人物は、現時点では、元所長の吉田昌郎氏だけであろう。(辛辣な表現になるが、仮にいたとすれば、大々的なマスコミ報道のレールに乗せられないはずがなかろう。)

東芝「粉飾」決算問題が浮き彫りにした 大手マスコミの「粉飾」体質 『週刊現代』「官々愕々」より | 古賀茂明「日本再生に挑む」 | 現代ビジネス [講談社]
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/44421


 古賀茂明氏は、「歴代経営陣の刑事責任についても、元検察の弁護士のコメントなどを使って、今回の事件では「責任を追及するのは難しい」という相場観作りまでしている」とマスコミ報道を批判している。


山村尚志・小寺功朗「社会動向 先行する米国の状況と日本の動き」『東芝ソリューション テクニカルニュース』2006年夏季号
http://efm.toshiba.co.jp/tech/technews/vol6/pdf/tsoltn200607_trend01.pdf

 山村尚志氏と小寺功朗氏は、SOX法(上場企業会計改革および投資家保護法)についての米国の最新状況と、日本版SOX法の動向を紹介している。日本版SOX法(#金融商品取引法の規定ならびにその実施基準)では、内部統制が確保されやすいよう「トップダウン型リスクアプローチ」を採用していると説明している。


芳澤光政, (2009). 「巻頭言 企業の責任とコンプライアンス」, 『東芝ソリューション テクニカルニュース』, 2009年秋季号, p.1.
http://efm.toshiba.co.jp/tech/technews/vol19/pdf/tsoltn200910_top01.pdf

 東芝ソリューション株式会社金融ソリューション事業部長の芳澤光政氏は、福沢諭吉『学問のすすめ』を引用し「法の本質を軽視する事件が後を絶」たない中、同社では、コンプライアンスを満たすだけに留まらず、CSRまで射程に含めた独自のソリューションを用意してきたという。

2015年10月17日土曜日

海老名市立中央図書館について

日本人は本を読んで楽しむことに不寛容? - Togetterまとめ
http://togetter.com/li/886433

 ここに出てくる中村甄ノ丞あるある早くいいたい(@ms06r1a)氏の一連のツイートは、いわゆるTSUTAYA図書館を念頭に置いてのものだと思う。私は、かつて綾瀬市民だったが、神奈川県の県央地域で相互利用が可能だったので、最も徒歩での利便性の高い海老名市立中央図書館を利用していた。それが話題のTSUTAYA図書館になろうとしている。利用していた時期から十年一日の感があり、感慨深いことだ。
 海老名市立中央図書館を利用していたことのある個人としては、二点指摘しておきたいことがある。
 第一に、わが国では、明らかに都市計画が失敗しているので、最寄りの図書館よりも交通経路にほど近い図書館の方が利用しやすいということが往々にしてあるが、そうしたときに、スターバックスコーヒーで一息付けるのはありがたい、なんてことは、あるのである。何せ、小田急線の海老名駅の改札から500m歩く。過去のイメージが強すぎるので、私の中では、図書館の隣は田んぼと駐車場だ。小田急線の反対側には、随分と一棟建てのマンションが林立するようになったが、まあそういう場所だ。公園を抱え込むように建設された再開発複合施設のビナ・ウォークは、駅の正反対の方向だ。ちなみに、公園の中の塔は、国分寺である。私は、小学生のときに学校で教えてもらった。
 第二に、下記ナムラー氏のブログ(#政治的配慮から、あえてナムラー氏と呼ぶ。)にある、一万冊の新規購入書籍の大半が新古本、廃刊本であるという指摘が事実であれば、図書館経営とスタバ経営は、分離すべきである。スタバだけなら(ほかの商業建築からかなりの距離があるという前提があるので)歓迎である。しかし、本件が事実であれば、明らかに、関連企業からの書籍の恣意的な購入は企業犯罪であり、関与した企業や教育長の責任が問われる内容である。工業分野には、ほかに、購入すべき書籍や廃棄すべきでない書籍がある。中央図書館において工学・工業分野の書籍を多めに利用していたことのある個人として、そのように指摘しておく。(#まず、そのような人物はいないだろうが、どんな書籍?などと質問してこないように。藪をつついて何とやらである。)

海老名市立ツタヤ図書館、驚愕の実態 - ナムラーのブログ - Yahoo!ブログ
http://blogs.yahoo.co.jp/knamuro1941/14383517.html

平成27年10月30日追記

一部表現を追記した。別記事(リンク)に推移を記した。

2015年10月13日火曜日

厚生労働省職員のマイナンバー収賄容疑事件はわが国変革の足がかりとなるか

 本日(平成27年10月13日火曜日)の『朝日新聞』と『読売新聞』夕刊には、共通番号(マイナンバー)制度に係る認証システム関連の開発業務に関して、厚生労働省職員キャリアが随意契約落札企業に対して100万円を要求したという収賄容疑事件が1面で報道されています。日本経済新聞には、記事がありません。この点が面黒いです。大手町の一角では、誰かが、慌てて私用のスマホから売り注文を出していたりするのでしょうか。

 警視庁が逮捕したとのことで、先頃のビジネスジェットに係る国交省職員キャリアの収賄事件といい、グッドジョブだと思います。いずれの事件も、新聞報道による限りでは、逮捕された収賄側(の公務員)が役職に当然要求されるべき倫理を備えていなかったものであるように思われます。国家公務員職員キャリアが私益を追求する事例は、半ば公的なシステムと化している天下りを置いておくとしても、まだまだ水面下に存在することが示唆されます。有名どころでは、元キャリア・元首長による事後収賄行為も警視庁の管轄下で進みつつあるようですから、ぜひ、果敢に切り込んでほしいものと思います。
 ただ、どの企業のどの入札案件についてなのかを私自身が調べ切れていないので、事件全体の構図には、理解しがたい部分が残ります。贈賄側の企業は、時効により逮捕を免れたとされます。その企業の果たした役割が分からなければ、本事件の構図は、場合によっては転倒したものとなるかもしれません。報道にある以上の情報がなければ、企業が「はした金で邪魔者を排除した」というケースを除外できないからです。
 本事件については、分からないことが多いながらも、今回の逮捕を賞賛したいと思います。贈賄側企業が何かの陰謀を巡らせたかどうかに関係なく、国家公務員I種採用者たちがなすべき仕事をせず、守るべきを守らなければ、結局のところ、わが国の行く末は、誤ったものとなるからです。なお、本当にスマートな人ならば、本事件については、事件のおおよその輪郭がつかめるまでは、沈黙を守るのが賢い態度であるかと思います。わが国の制度の大半は、誰もがダーティにならざるを得ない硬直的なものです。こうした状況下では、オマエも同類だという批判を受けないよう、目立たないようにふるまうことが大人の処世術だということになります。「雉も鳴かずば打たれまい」という諺のとおりの世の中となってしまっているのです。(軽犯罪法を含めれば、過去数年間のうちに、一度も犯罪とされる行為に手を染めなかった人は、おそらくいないでしょう。)しかし、この国の行く末をハードランディングから救いたいという気概を持つ人には、もうそろそろ、自身のプリンシプルに基づいて、適切なアクションを起こすことが求められています。私の役目は、物事を正確に表現することに努めるというものですが、私の専門分野の対象となる社会は、発言により観察対象が変わるという特徴を有しています。再帰性を有しているのです。司法警察活動は、硬直的な刑法典と社会制度の下では、必然的に選択的な活動とならざるを得ません。一罰百戒で小物の微罪を狙うのも、巨悪を的にかけるのも、その選択結果までもが問われることになります。二件の現役行政職員キャリア組の収賄事件には、小物の微罪感が漂いますが、これが契機となって、企業犯罪を慎もうとする意識がエリート層に浸透するのであれば結果良し、ということだと思うのです。

平成27年10月14日21時10分修正 夜9時のNHK『ニュースウォッチ9』によると、どうやらII種らしいとのこと、ネットの一部に「異能のノンキャリ」という表現も。修正しました。正確な表現に努めるべきところ、官報等を確認するのを怠りました。
平成27年10月15日18時45分修正 また訂正です。上述の国交省職員の採用職種も分からないながら、おそらく旧II種であろうことから、訂正しました。官報等を確認するのを怠ったままです。以上、訂正してお詫びします。

2015年10月6日火曜日

TPPについての今後のリークはわが国における「恐怖の時代」の要因となる(感想文)

#先の記事(リンク)は、専門家としての知識に拠り記したものですが、本記事は、多くの推測が入るため、将来の実現性は下がります。しかしながら、今後の先行きが懸念されるため、あらかじめ悪い想定を公開しておき、このような悪い想定を防ぐべき立場の者に届くことを念じる次第です。

 TPPについては、一定の時期まで、リークによるほか、情報を入手する手立てはなかった。TPPの秘密性は、追試可能な論理性を追究するという学者の本分とは、真っ向から対立する特徴である。この点、私を含め、TPPにより影響を受けると目される分野の研究者の大半は、沈黙を守ったが、沈黙によって黙認したことになる。その沈黙がどのような理由(無知、怯懦、利権、あるいは学者としての本分を守ること)であれ、日本国民の利益に反し、日本国民としての本分に適わない態度であったということはできるだろう。

 ところで、TPPの秘密性は、陰謀論的な見方からすれば、将来の日本人社会における混乱に向けての布石と見ることもできる。TPPは、いわゆる1%のための条約であると表現されてきたが、むしろ、わが国の1%のうちの1%により構成される、真の意味でのグローバル産業の発展を主目的とすると理解した方が良いかも知れない 。1%による統治は、ごく最近の事例で言うとBlendyミルクコーヒー(下記)のCMにあるようなディストピアを現出させないとも限らない。しかし、99%にとってのディストピアは、1%の大半にとってもディストピアともなり得る可能性を失念してはいけない。下には下があり、それは、わが国の歴史を見れば、容易に想像の付くことでもある。

※1 Blendy Milk Coffee 2015 Ad - YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=rUWutkifbI0

 わが国の安全保障環境を担保するソフトパワー(端的には、社会の各人が各人の地位にふさわしいプリンシプルを保つという一所懸命の思想。)が脆弱であるという状態は、将来におけるTPPを原因とする混乱の大前提となる。その上で、「下には下がある」状態として「アラブの春」を想起すると、TPPにより引き起こされうる混乱の状況を想像することができるようになるかも知れない。今夏、SEALDsの安保法制に対するデモ活動は、広く報道されたが、学生の組織的なルーツや資金繰りについての疑念が代表する※2ように、その背景には不明な点が多く残るのも事実である。他方、「アラブの春」は、今では、指導者層の不正に対するリークが活動の烽火となったこと、西欧から、相当な技術的・人的・資金的援助がなされたことが(その筋では)広く知られている。

※2 SEALDs運動とは何だったのか - 社会は動かしたが政治は動かせなかった : 世に倦む日日
http://critic20.exblog.jp/24745155/

 「アラブの春」から、わが国は、次の二点を教訓として引き出すことができる。一点目は、将来展望のない暴力は、無政府状態を引き起こすということである。二点目は、権力者の不正をリークする行為は、結果として暴力に至る連鎖を喚起しがちであるということである。一点目については、少なくともリビアにおける顛末を見る限り、穏健な抗議が暴力に終わるというコースがあることは否定できない※3。また、以前のイラクが抑圧的な国であったとことは確かであろうが、現時点のイラクは、100%のイラク国民にとって、状況が明らかに悪化している。それは、米国の前政権がフセイン政権打倒後の構想に乏しいまま、攻撃を開始したためである。二点目についてであるが、現在のイラクの惨状は、もたらされた偽情報に踊らされたゆえに始まったものであり、真偽のほどに疑問符のつけられた事態は、シリアの化学兵器の事件の一部についても指摘されてはいる。

※3 端から混乱を狙ったという説もある。

 現在の時点では、国家のみが最低限の安全を国民に保障できるのであり、グローバル企業が1%の安全を完全に担うことは、まだ困難である。民間軍事企業が現在よりも充実したサービスを提供できるようになれば、相当程度まで1%の安全を確保することは可能であろうが、いったんそうなれば、ローマ帝国の衰退期における近衛隊のように、民間軍事企業たちが自分たちの都合に応じて皇帝の首をすげ替えるということになり、弱肉強食の世界が現出するであろうから、1%の安全が保たれ続けることは、やはり奇跡のようなものである。先月末の第70回国連総会において、オバマ大統領演説に真っ向から反論する形で※4、プーチン大統領は、まず、イラク・リビア・シリアの三か国における主権を確立・回復させる必要があると主張し、後にシリアに介入した。この介入に対する追加制裁の声は、アメリカをベースとするマスメディアから聞こえてくる程度であり、全世界的な流れになっていないようにも見える。また、前後して、イスラム国が資金難のために兵士の給与を切り下げ、その結果、士気の下がった兵士が離脱するという循環が生じているという報道が出ている。これらの報道は、全体として見れば、世界の共通認識がプーチン大統領に近いものであることを示唆するものに見えてしまう。シリア難民の処遇にEU諸国が非常に難儀しているところもこの見方を補強する材料である。

※4 オバマ大統領の演説直後に原稿を調整したものと予想される。現在の世の中は、この程度に展開が早いものだという感を強くする一幕である。

 現在の世界における1%の安全は、従来からそうであったように、利益の相当部分を1%と同じくする国家が、その国民に対して生命という無限責任を課すことにより保たれている、と考えるべきである。現在の米国における富裕層は、米国の軍事力つまりハードパワーにより、他国に属する脅威から庇護されている一方で、資金(寄付)や発言力等に代表されるソフトパワーを米国のために一定程度支出しているのである。現代社会において、傭兵だけに安全保障を依存する富裕層を仮想してみても、彼または彼女が有り金をすべてむしり取られずに充実した人生を全うできるとは考えにくい。

 この富裕層と国家との共生関係が過度に進み、99%がその分け前に対して不満を蓄積させたとき、周到に用意されたリーク情報は、革命へのきっかけとなる。99%の不満が富裕層と結託した政府に向かうときの構図は、共産主義の階級闘争理論に他ならない。日本語のマスメディアでは報道されていないようだが、「アラブの春」は、このように見ると、階級闘争理論に乗る古典的な話である。しかし、1%が庇護されているはずの国家から富を収奪し移転させているという情報と併せてリークが行われる場合、99%の怒りの矛先は、国家にではなく、1%に対して向けられうる。少なくとも、わが国では、このような形で怒りが1%に向かった事例は、時代を超えて、いくつも見出すことができる。ゆえに、後者のケースも古典的ではある。

 今回、TPPは、農林水産業などに代表されるように、明らかにわが国の国益を毀損する方向で締結を宣言されたわけであるが、今後、詳細な経緯とともに担当者の氏名が明らかにされたとき、わが国では、それらの担当者の無能振りに対して、大きな怒りが呼び起こされる可能性が高い。他国の要請に対して、聖域のない形で決着を見た(と宣言された)からである。将来、大多数が納得できる形で担当者の行為が咎められない限り、わが国においても、第二のアラブの春が生じることを否定することはできない。その結末として、他国の利益になる国内の無秩序というケースもあり得る。

 このような拙速な締結を急いだ担当者の中には、おそらく、大企業に勤務してきた者が含まれる。企業に明らかな利益をもたらす条約締結を急いだわけであるから、その担当者の行為は、明らかに、企業犯罪の一種である。どのような態様であるのか、検討しようがないので詳細な検討は別の機会に改めたいが、いずれにしても、犯罪の一種であることには、間違いないであろう。ただ、政府の意向に沿って進めたという主張は、秘密交渉である以上、どのように証明できるのであろうか。結果が結果であるだけに、人民裁判という経路も否定できない。いずれにしても、TPPは、わが国が法治国家であり、民主主義国家であるという原則から外れる経緯の元に締結されたと結論できるであろう。

 最後に、本記事をパラフレーズする形で警告をまとめておきたい。
 今後にリークされるTPP関連の情報は、わが国社会の混乱を増幅させる目的で発出されるものである可能性が認められる。これに対応する方策には二種類あり、国内の不満が抑制される程度の富の再分配か、または、国益を無為に毀損した関係者の適正な処罰である。いずれもがない場合、わが国では、歴史に鑑みて、流血の事態に至る可能性が高い。このような事態に至った場合、政府機能のさらなる脆弱化が進み、最終的には、1%が他国に移転・寄生するという形で政府機能が失われる、という経路で、無政府状態が生じる危険性が懸念される。このような事態を避けるために、治安担当者は、今後の社会の動向を注意深く、かつ、主権者たる国民に対して誠実であるように、1%と99%の動向をともに把握しなければならない。

#誤解してほしくないのだが、私は、TPP締結が米国民の大多数の利益にもならないと考えている。特に、今回のように、フロマン代表のみが笑顔であり、他の締結国の代表が一様にこわばった表情であるという記者会見は、TPP締結において、米国自身が米国のソフトパワーを信じていないことを図らずも露呈したものとなったのではないかと、相手のことながら、心配する。私がペットボトル飲料を購入するときは、5割が米国を本籍とする企業の子会社のものであるし、結果的に見れば、映画やゲームなども米国企業のものをメインで選択している。(Fallout 4のプレミアム版を追加販売してくれるのであれば、何なればPipboyだけでも買う。)iPhoneは持っていないが、iPod shuffleとiPad miniは所持している。PCについても大部分が米国に関連するものである。(PCという製品自体がそうであるが。)私生活において、私が従来以上に米国産の製品を購入する余地はないわけではないし、自身の研究業務に関連して言えば、米国企業が日本国内のビジネスチャンスに開かれていないという指摘を否定することはできない。しかしながら、米国が日本の統治に成功してイラクの統治に失敗した理由は、まさに理不尽な力を利用したかどうかという点で大きく分かれているのであり、TPP締結には、やはり何らかの理不尽な圧力があったのではと疑わざるを得ない経緯が多く報道されている。このことは、米国だけに該当するわけではないのであろうが、公明正大さが大国のソフトパワーの源泉であると、私は思う。

2016(平成28) 年10月24日修正

文意の通りにくい箇所を修正し、淡赤色で示した。上掲の私の見方や意見には、現時点であれば、より明瞭な記述を追加して構わないと思われたが、あえてそのままにしておいた。いくつか日和見的な表現が見受けられるが、今更修正すると、当時の表出の具合を確認できなくなるであろうからである。

2015年6月3日水曜日

日本年金機構の会見に至るまでの空白期間は、詳しく捜査されるべきである

【要約】日本年金機構の情報流出事件の公表は、平成27年6月1日の午後になったが、日本年金機構は、本件について、司法当局への遺漏なき説明が必要である。警視庁公安部をはじめとする司法当局には、タブーを設けず捜査をお願いしたい。年金機構の職員と思しき人物による『2ちゃんねる』への書込みは、ある種のインサイダー取引を覆い隠す煙幕の役割を果たした可能性さえ認められる。

日本年金機構の情報流出事件は、先の記事で述べたように、警視庁公安部が捜査していると報道しているが、この事実は、公安部が対処すべきほど、本流出事件が国際・経済・政治の各方面に直結する事件であることを示す傍証でもある。ウイルス付きメールを送信した犯人は、シマンテックが公式ブログで「CloudyOmega(クラウディオメガ)」と命名した※1者(たち)であると読売新聞が報道している。この犯人が多用する方法は、書類ファイルに見せかけた不正なプログラムを実行させる※2という手口である。

[2015年6月3日9時追記]今回は、経済方面への定性的な影響に限定して考察を行う。ただし、下記のタイムラインなどから明らかであるように、NISC、厚生労働省などをはじめとして、多くの行政関係者も今回の情報流出を公表以前から知る立場にある。本事件を徹底的に捜査すれば、行政関係者のインサイダー取引が明るみに出される可能性も認められる。これが、先に、経済・政治に直結する事件であると述べた理由のひとつである。理由のもう一つは、以下に述べるように、日本年金機構の対応が、経済的に不正な利得を得る猶予を与えかねないものであったことにある。

基本的なタイムラインは、「日本年金機構の情報漏えいについてまとめてみた - piyolog」から確認できる※3。タイムラインとして把握すべき情報は、このまとめから十分に得られる。以後、ここで示した意見の論拠は、おおむね、このまとめブログから得ることができる。

平成27年6月1日の証券取引市場の大引け後に、報道がウェブにアップされたことは、確実だと考えて良いであろう。時事通信の記事は、16時53分配信であり※4、産経新聞の記事は、16時55分配信である※5。『Yahoo!ニュース』のタイムスタンプの正確性は、サイト運営企業であるヤフー株式会社の信用にも、通信社・新聞社の信用にも関わることである。Yahoo!ニュースに対しては、相当数のアクセスが定常的に見られるという条件があるため、タイムスタンプをわざと前後させる理由も考えにくい。いずれにしても、この記事が1日の大引け後に報道されたものと考えることには、差し支えがないであろう。

企業犯罪を防ぐという観点から見れば、日本年金機構による会見の開始時刻が15時前でなかったかという点を確認しておくべきである。ただし、われわれは、この点には留意せずとも良いだろう。FNNがYouTubeにアップした会見の模様※6では、冒頭から125万件の情報流出があったと述べられている。仮に、会見が証券取引市場の後場の最中に開始されたとするならば、日本年金機構は、この会見そのもので、報道各社の関係者にいち早くインサイダー情報となる情報を提供したことになる。ゆえに、司法当局は、この記者会見が、いつ・誰に・どのように、通知されたのかを確認する必要がある。しかし、これほど分かりやすい手抜かりが記者会見で生じるという事態は、さすがに考えにくい。その上、司法当局においては、この点は、基本的な確認事項であろうから、本件についての考察は、本稿では行わない。

大引け後に記者会見が開始されたという前提で話を進めると、一番の問題は、日本年金機構による会見が週末に行われず、月曜日の証券取引所の月曜日の午後まで遅れた点である。対応の迅速さは、経済犯罪(企業犯罪・金融犯罪)の予防を図る上で、また同機構の関係者が無用な疑いを持たれないために、きわめて重要である。タイムライン上では、5月30日に流出の停止が確認されている。30日のいつであるかという問題は、それほど重要ではない。31日のうちに記者クラブに通告して記者会見を開催すること自体は、報道機関も大企業であるから、さほど困難なことではない。しかし、記者会見が遅れたという事実は、本件の担当者らだけに、状況が沈静化してから1営業日の間、何かを売り抜けたり買い込んだりする猶予が与えられたということにほかならないのである。

第二の問題は、28日木曜日の夕方以降、複数の年金機構の職員により、システム障害を匂わせる書込みが『2ちゃんねる』に複数投稿されたことである。これらの書込みがいち早くネット住民に注目された形跡は、広く認められる。28日以前にも、機構内のみならず政府関係者には、情報流出の可能性が認識されていたはずであるが、『2ちゃんねる』への複数の職員の書込みがなされるまでは、それほど大きく問題は認識されていなかったものと認められる。もっとも、問題が生じていることを示す、ほかの書込みが後から発見される可能性も絶無ではない。

本件で多くの情報が流出したという事実は、平成27年6月1日に初めて確認されたものではない。まず、8日の時点で不正アクセスがNISCにより確認され、厚生労働省へ連絡がなされたという。次に、19日の時点で警視庁への相談があったという。28日に流出が認められたと警視庁より連絡があったという。その当日、28日の20時台、『2ちゃんねる』の「日本年金機構【年金機構】」というスレッドに「ウィルス」という名前の主が「感染しました。」と書込みを行ったようである。

日本年金機構の対応の遅さは、同機構のトップクラスの職員を含めた広範な範囲の関係者にインサイダー取引が横行している可能性があるとの疑念に正当性を与えるほどのものである。28日の書込みは、証券取引の不自然な変動につながりうる。『2ちゃんねる』に代表される自称「匿名」サイトでは、このような書込みを監視して、書込主のIPアドレス・日時と合わせて活用することにより、経済上の利益を狙うということが行われる余地がある。以上の経緯をふまえると、論理的には、書込みした人物はもちろん、サイト運営者ら、年金機構関係者のうち28日の内部通達を決裁した者、1日の時点で公表することを決定した者までもが、インサイダー疑惑の容疑者となりうる。

ややこしいことは、28日に書込みを行った者・サイト運営者らが、インサイダー取引を実行しようとした本命の人物または集団によって、煙幕を張る役割を担わされた可能性が認められることである。19日の時点で明らかな被害が認められている一方、28日に内部通達を実施した部署が、28日まで実質的または段階的な対策を施したようには見えない点も、このような疑いを増す要因となっている。ダチョウ倶楽部の上島竜兵氏のように、「押すなよ、押すなよ」という印象を与えるような形の統制を突然強いておきながら、十分な説明を与えず、箝口令も出さなかったとすれば、この統制の不思議さにまんまと引っかかった機構の職員が、案の定『2ちゃんねる』に本件を匂わせる書込みを行うという結果に至ったとしても、何ら不思議はないのである。

怪しい書込みは、28日木曜日18時43分以後に散見されることから、『2ちゃんねる』の読者に丸二日間の取引のチャンスを与える形となっている。『2ちゃんねる』の28日の書込みに敏感に反応してコンピュータセキュリティ関連株に買い注文を入れたり、あるいは年金機構のシステム構築に関連した企業の株に売り注文を入れたりしたような、年金機構とは無縁の賢明な市場利用者は、この期間を利用して(下手をすると18日以前から)仕込みを入れていた真犯人を覆い隠す煙幕の役割を果たしてしまうことになりかねないのである。このような事態が生じているとすれば、また実際生じていてもおかしくはないが、インサイダー取引の犯人の方が、19日以前から28日までの開設日を上手に利用できる分、28日に書き込まれた情報を利用した善意のトレーダーよりも犯人らしく見えなくなるのである。

IT企業界隈では、インターネットに接続する機器とデータベースを扱う機器を物理的に常時接続したことは、初歩的な誤りも良いところであるという声が上がっている。流出情報に係る業務は、一見すると、インターネットに常時接続してまで情報等をアップデートする必要があるとも思えないものなので、これらの批判には説得力がある。この点についても、別途検証が必要とはなろう。ただし、この問題は、本稿で扱う問題と切り離して考えることができる技術的な問題であり、もちろん改修すべきであるが、年金制度を担保する組織の存立そのものに致命傷を与えるものではない。

繰り返しになるが、今回の情報流出事件に係る日本年金機構の対応で責められるべき点は、報道で指摘されるようなシステムの不具合ではなく、証券市場を通じて年金を運用する主体としての適格性を疑わせるような遅い対応を取ったことである。上記で指摘した年金機構の動きは、総体として、証券取引市場で何かあくどいことをしでかしたのではないかと第三者に疑わせるに十分な材料である。28日の書込みは問題であるが、たとえ、この書込みがないとしても、対応が月曜日の午後にずれ込んだこと自体、責任を免れない結果である。ましてや、28日の書込みを放置する形になった点は、記者会見のセッティングに単に時間を要しただけであったとしても、丸二日の取引時間中に何かの不正を行うための煙幕ではないかという疑念を抱かせる結果となっているのである。記憶だけで記すと、年金の実際の運用はプロに任せるということになっているようであるが、しかしながら、委託先を選定する作業にも影響が出ないとは言い切れないであろう。

日本年金機構は、以上のような懸念を払拭するためにも、今回の記者会見に至る経緯について、司法当局へ遺漏なきよう、また、積極的に説明すべきである。警視庁公安部をはじめとする司法当局には、タブーを設けない捜査をお願いしたい。何度も繰り返すが、年金機構の職員と思しき人物による『2ちゃんねる』への書込みは、ある種のインサイダー取引を覆い隠す煙幕の役割を果たした可能性さえ認められ、その煙幕に隠れようとした犯人の候補は、論理上、広範な組織にわたることになってしまうのである。データを流出させたという事実が致命傷になるのではなく、危機管理上の不満足な対応こそが、日本年金機構にとって、真の致命傷になりかねないのである。それゆえ、以上の説明に立ってみると、本事件が公安部の担当になることは、それほど不思議なことでもないのである。私は、一般人以上のことを何も知らないが、おそらく、ここで指摘したような可能性までを含めて、19日以降、捜査が進められていることであろうと推測する。

現代の企業活動や公益活動は、証券市場と分かちがたい関係にあり、証券市場への影響を常に視野に含める必要がある。危機管理の場においてさえ、株式市場への影響は、念頭に置く必要があるだろう。証券市場への影響をふまえるなら、危機管理の担当者も、証券市場のスピード感をふまえて動く必要がある。このスピードを乗りこなすためには、素直な対応しか取り得る方法がないようにも思われる。



※1 CloudyOmega 攻撃: 一太郎のゼロデイ脆弱性を悪用して日本を継続的に狙うサイバースパイ攻撃 | Symantec Connect コミュニティ
http://www.symantec.com/connect/ja/blogs/cloudyomega

※2 セキュリティ研究センターブログ: 医療費通知に偽装した攻撃(Backdoor.Emdivi) その後
http://blog.macnica.net/blog/2015/01/post-39d4.html

※3 日本年金機構の情報漏えいについてまとめてみた - piyolog
http://d.hatena.ne.jp/Kango/20150601/1433166675
注: 「タイムライン」2015年5月28日(上段)の「警視庁が日本年金機構へ当該事案に関する連絡が行われる。」は、本日の日経朝刊1面と突き合わせると「同月28日、同庁からの連絡で情報流出が判明した。」ということですから、「警視庁が」→「警視庁から」でしょう。連絡先がないので、念のため。

※4 125万件の個人情報流出=職員端末にサイバー攻撃―年金機構
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150601-00000070-jij-soci
時事通信 6月1日(月)16時53分配信

※5 日本年金機構にサイバー攻撃 年金情報、最大125万人流出
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150601-00000543-san-soci
産経新聞 6月1日(月)16時55分配信

※6 (全録)日本年金機構が会見 約125万件分の個人情報流出と発表 - YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=zr0R76kln1c