2015年10月23日金曜日

振り込め詐欺が壮大な節税システムであるとする陰謀論は考え過ぎである

 陰謀論の世界には、ときに、自分の考えが遠く及ばないアイデアが転がっていたりする。もちろん、それらのアイデアをそのまま無断借用するなんてことは、自分の良心やプライドにかけてすることはないが※1、ともあれ、その想像力の豊かさに(色々な意味で)恐れ入ることがある。以下の考察は、その想像(妄想)力のたくましさに敬意を表するため、真面目に、その意見を否定するものである。本記事は、大多数の読者にとっては駄文であることを、あらかじめお断りしておく。

 以下のブログは、陰謀論(者)の世界(観)の奥深さを感じさせる一例である。FATF加盟に伴い、わが国でも、金融口座の開設や海外振込等が厳しく監視されるようになったが、それに伴う銀行の対応に憤るツイートを収集し、預金封鎖が始まっていると推測した上で、次のように考察を進めている。

預金封鎖、実はすでにゆっくり始まりつつある…? – すべては気づき
http://sekaitabi.com/furikome.html
 また、以下は100%推測の域を出ないあくまで想像の話ですが、振り込め詐欺自体が、預金移動防止のためにセットアップされた自作自演である疑いさえ持ってます。本当に詐欺行為自体はされてるとして、自演が含まれているのではという疑いが(実は裏社会を通して犯人役が配置されているのでは、という)。
 東芝の粉飾決算の金額の大きさ(1500億円超)や海外バラマキの額と比べると、振り込め詐欺の被害額(昨年で559億円)が小さいにもかかわらず、振り込め詐欺の方は膨大なコストをかけ、東芝の方は「不適切会計」などと言ってごまかし刑事罰も与えない甘い対応。
 振り込め詐欺の振込先の口座情報を銀行側が突き止められないはずがないことも、大きな預金を持っている人の情報をつかめていることも不審に思ってました。
 推測だけでまったく根拠はありません。しかし同じように勘ぐっている方々はいました。以下は元警官の方とのこと。(後略)
例示されていたツイートのみから預金封鎖の虞を読み取ることの是非は、個人の表現の自由の範囲内にあるように見える。ただし、現実に、昭和48年の豊川信用金庫の取り付け騒ぎをふまえれば※2、その種の再帰性、自己予言成就機能のようなものが、この種の発言について回ることには注意すべきである。この事例は、情報社会学などの分野では著名な事例である。付言するなら、おそらく、最近(平成27年9月ころ)のインターネット銀行における小口で取引事例が多い顧客の普通口座に対する銀行側の処置は、普通口座である以上、適切なものと思われるが、他方で、顧客一般の知識も試されていることであるようにも思われる。わが国における金融教育の必要性は、作家の横田濱夫氏がかねてから指摘してきたことであるように(うろ覚えで)記憶しているが、今回の逸話は、かなり基本的なところから教育が必要な人が多いことをうかがわせるものである。(私自身もその対象に含まれる。)

※2 豊川信用金庫事件 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B1%8A%E5%B7%9D%E4%BF%A1%E7%94%A8%E9%87%91%E5%BA%AB%E4%BA%8B%E4%BB%B6

 閑話休題。

 振り込め詐欺の既遂を装い、資産家が節税しているという指摘であるが、これは、ごくごく一部の例外を除き、まったくの思い違いであると断定して良い。なぜなら、第一に、資産家が節税する場合、複数の企業を設立、投資し、トントンの経営状態にするという、合法、安全かつ鉄板の方法が存在するためである。というより、この方法は、ゴールデンスタンダードである。嘘だ!と思う方は、景気の良い中小企業経営者の邸宅周りに、いったい何の会社だろう?と思うような企業名の看板が複数出ていないかどうか、確認されると良い。ほぼ必ず、場合によっては資産家の邸宅の表札とともに、それらの企業名が掲げられているはずである。税理士との密な付き合いが必要なほどに儲かっている企業の経営者ならば、この方法の最大の障害である税理士とのコンタクトという点をクリアしているはずである。第二に、資産家だけでなく、グルになっているとされる犯罪集団も、振り込め詐欺を演出するなどという、危険な橋を渡ることをしない。資産家は、数百万円程度の資産の保全のために、わざわざ弱みを見せるような形で、犯罪集団に接触を図るなどということはしない。もちろん、例外は存在しており、その例外とは、当初から犯罪集団と関係している場合である。このような例外的な場合には、万が一にであるが、そのようなことが行われる、かも知れない。しかし、そのような仕事を持ちかけられた犯罪集団は、まっとうな判断を下せる状態であれば、わざわざ警察の捜査を余分に受けるようなことをすることはしない。グルになって何かするにしても、ほかの方法を採用するはずである。暴力団の資金が海外のプライベート・バンクで貯蓄・運用されていたり、外国人犯罪集団の資金が地下銀行を通じて海外の家族の元に届けられて安全に運用されていることは、相当に有名な事実である。犯罪者にしても、海外のタックス・ヘイブン等において、合法的に資産を運用できるのであれば、それらの安全・確実な方法を採用するのである。合理性という主要概念は、振り込め詐欺や組織犯罪についての研究にも通用する一般化可能なものなのである。

 警察までを巻き込んだ形で、振り込め詐欺において、壮大な自作自演が進められているという可能性も、限りなく無理筋である。お金は、まったくの無からは生じない。何かの裏付けなりが必要である。振り込め詐欺という財産犯の被害金(原資)は、個人の財産である。企業資産に比べて保護の手厚い個人資産を、節税のために「警察まで巻き込んだ巨大振り込め詐欺虚構システム」に投入して、安全に口座から引き出すという過程には、三つの点で問題が生じる。第一に、関係者が多すぎて、正義感に由来する内部告発の阻止が困難である。第二に、このシステムの作動は、銀行等の金融機関関係者の反発を食らう。金融機関は、振り込め詐欺を防げないと、運用資金と評判の双方に悪影響を被る上、振り込め詐欺被害の抑止(今まさに行われようとするときの防止)が唯一可能な状態にあるプレイヤーでもある。思う存分妄想の翼を広げれば、警察OBの銀行顧問などが圧力を掛けて内部告発や反発を封じるという構図も湧いてくるが、この構図は、明らかに社会正義に反する状態である上、(こちらが何より重要だが、)関係者の大部分にとって一文の得にもならないものである。それどころか、システムが明るみに出され、落とし前を付けなければならなくなったとき、関係者の大多数が連座することになり、即実刑を食らう可能性さえ認められるものである。このような状況下で、関係者の誰もが沈黙するということは考えにくい。わが国においては、明らかに悪と見える行為を積極的に行うことに対しては、抵抗が強い。半面、制度の欠陥を放置するという不作為に対しては、相当に抵抗が弱い。この特性をふまえたとき、積極的な悪のシステムを公然と構築するようなことになる、「振り込め詐欺虚構システム」説は、まず間違いなく、筋の通らない話である。

 なお、上記引用は、東芝の不正会計事件と振り込め詐欺の年間被害額を比較しているが、これは、明らかな誤りである。東芝の第三者委員会は、次の表1の金額を修正するよう求めている※2。まず、第一に、振り込め詐欺の被害額は、これらの金額と比較されるべきである。

表1 東芝第三者委員会の指摘による過年度決算の修正金額
2008年度▲282
2009年度▲400
2010年度+84
2011年度▲312
2012年度▲858
2013年度▲54
2014年度(1-3Q累計)+304


※1 なので、私は、アイデアを借用した場合には、私自身が彼岸に到達してしまった人と思われる虞を冒してでも、その旨を示している。

※2 第三者委員会調査報告書の受領及び判明した過年度決算の修正における今後の当社の対応についてのお知らせ(2015年7月20日)
https://www.toshiba.co.jp/about/ir/jp/news/20150720_1.pdf



おまけ

 今現在の私個人には、東芝の不正会計事件(以下、本事件)を分析できるだけの知識や経験がないので、以下は、感想に過ぎない。

 本事件は、第三者委員会報告書にあるG案件のように、大型かつ長期の原子力発電関連プロジェクトが含まれており、福島第一原発事故と問題が一体化しているという構図がうかがえるものである。本事件は、その構図ゆえに、後世において、大きな批判を浴びるものとなるだろう。仮に、東芝が福島第一原発事故を機に脱原発産業へと歩を進めることができていれば、それが廃炉ビジネス分野であろうと、再生可能エネルギー分野であろうと、方針変更に伴う問題であったという点についてのみ、道義的責任を追求されることになったであろう。しかしながら、本事件は、原発推進を社是として突き進んだかのような図式を提示することになってしまっている。言い換えると、「原発推進を強行するあまりに行われた犯罪である」という非難が妥当するかのような外見となっているのである。(私も、ともすればそのようなステレオタイプで本事件をとらえてしまいそうになる。)探せば、このような形式での非難は、たちどころに見つけることができるであろう。この点で、東芝の経営陣は、二重に失策を犯したことになる。

 なお、私は、日本人が非競争的分野である原子力発電産業をなおも推進することに反対する。なぜなら、責任を取ることのできない経営者層に、国を傾かせるレベルの影響を生じさせる経営判断を強いることになるためである。無限責任を取ることのできる経営者が現在のわが国には絶無である、と私は思う。ポツダム宣言受諾に臨んでさえ、無限責任を有するはずの多数の人物のうち、その結果にふさわしい進退のあり方を見せた者は、きわめて少数派であった。一千万人単位の犠牲者を生じうる原子力事故の責任を取ることのできる人物を大企業の経営者という小集団から見出すことは、不可能である。東京電力の管理職の職にあり、その(結果)責任に対して、日本人がふさわしいと考える最期を(結果として)遂げた(果たしている)人物は、現時点では、元所長の吉田昌郎氏だけであろう。(辛辣な表現になるが、仮にいたとすれば、大々的なマスコミ報道のレールに乗せられないはずがなかろう。)

東芝「粉飾」決算問題が浮き彫りにした 大手マスコミの「粉飾」体質 『週刊現代』「官々愕々」より | 古賀茂明「日本再生に挑む」 | 現代ビジネス [講談社]
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/44421


 古賀茂明氏は、「歴代経営陣の刑事責任についても、元検察の弁護士のコメントなどを使って、今回の事件では「責任を追及するのは難しい」という相場観作りまでしている」とマスコミ報道を批判している。


山村尚志・小寺功朗「社会動向 先行する米国の状況と日本の動き」『東芝ソリューション テクニカルニュース』2006年夏季号
http://efm.toshiba.co.jp/tech/technews/vol6/pdf/tsoltn200607_trend01.pdf

 山村尚志氏と小寺功朗氏は、SOX法(上場企業会計改革および投資家保護法)についての米国の最新状況と、日本版SOX法の動向を紹介している。日本版SOX法(#金融商品取引法の規定ならびにその実施基準)では、内部統制が確保されやすいよう「トップダウン型リスクアプローチ」を採用していると説明している。


芳澤光政, (2009). 「巻頭言 企業の責任とコンプライアンス」, 『東芝ソリューション テクニカルニュース』, 2009年秋季号, p.1.
http://efm.toshiba.co.jp/tech/technews/vol19/pdf/tsoltn200910_top01.pdf

 東芝ソリューション株式会社金融ソリューション事業部長の芳澤光政氏は、福沢諭吉『学問のすすめ』を引用し「法の本質を軽視する事件が後を絶」たない中、同社では、コンプライアンスを満たすだけに留まらず、CSRまで射程に含めた独自のソリューションを用意してきたという。

1 件のコメント:

  1.  CSRはユダヤが作ったダイヤモンド理論。メディアの多くはユダヤに支配され独自取材能力を失いかけている。web情報は、ユダヤ人たちが制御してきた人類構造知の仕組みに仕立て上げられ、日本の何処かの大学教授が機械の摩擦の本質理論をメディアも新聞も伝えないだろう?おれはたまたま知ったのに日本の科学技術力の低迷報道が束になってやってくる。何なんだ日本なにを伝えたいの新聞マスメディア。

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