2016年12月25日日曜日

ブラックジャーナリストは公職に相応しい存在か

わが国では、高度成長期以後、護送船団形式による表の企業経済が躍進する影で、国際的には競争力が劣位にある企業分野における経営者、これに圧力を加えて利益を得ようとする職業右翼活動家や暴力団などが離合集散しつつ、勢力の均衡が実現されるという、合法から非合法まで連続的な位相を見せる経済界が存在してきた。その膨大な経済活動には、グレーからブラックまでのジャーナリズムが寄生してきた。表向きはジャーナリスト、探偵業、出版業、金融業などからなる業態である。彼らは、正業者と濃厚に交流しつつも、明確な棲み分けを行い、ときに警察の情報源ともなり、ときに総会屋として活動することなどを通じて、ウラ情報の表社会への還流に一役買ってきた。他方、わが国の労働組合は、このような状態に対して、鵺的な存在として機能してきたとはいえ、企業単位という性格のために、結果として、他国に見られるような犯罪組織からの強い影響免れてきた。

後世に生きる筆者の目には、当時の「黒幕」と呼ばれる大物たちは、自らの裏社会における地位を確固としたものにしていた一方で、「表社会」における公的な名誉までは求めなかった紳士に映る。あくまで黒幕と呼ばれるに相応しい節度を身に付けていたからこそ、大物と認められていたようにも見えるのである。昭和51(1976)年に明らかとなったロッキード事件によって全国区で有名となった二人の黒幕、児玉誉士夫氏と小佐野賢治氏は、この見方に該当するように見える。児玉誉士夫氏は、現時点から見れば、職業右翼と呼ばれうる存在であるし、小佐野賢治氏は、企業家でありかつフィクサーであったと言えよう。両名とも、毀誉褒貶の激しい世界に身を置いていたにもかかわらず、私には何らかの節度をわきまえていたようにも見える。当時の社会においてさえ、関係者のみならず、テレビやマスコミ報道に踊らされた無知な層を除けば、社会から憎からず思われていたと見て、間違いではないであろう。現在の視点からすれば、悪人を擁護することなどあり得ないと思われるかもしれないが、悪を自覚する者が棲み分けの重要性を自覚していたゆえにその地位に相応しい尊敬を獲得していたことを、私は指摘したいのである。おそらく、某ビジネス書が指摘するとおり、自らの影響力の範囲と実力とを一致させ、維持することは、ある人物が黒幕であろうと、後世に認められるための要件なのであろう。

ところが、両氏のような生き方を可能とした、鉄の四角形とも言うべき政官財暴の均衡は、平成3(1991)年の暴対法制定を嚆矢として、大きく変化することとなった。昭和63(1988)年のリクルート事件を始めとして、証券・金融分野を通じた「不祥事」が一部の週刊誌ジャーナリズムによって「スクープ」され、「黒幕」と呼ばれうる怪人物が活躍する余地が失われ、バブル崩壊直後に制定されたこの法律は、裏社会の空白を埋める形で官僚の統制を強化するという機能を果たした。この傾向は、平成7年のオウム真理教による(と裁判を通じて認定された)一連の事件後には、さらに強化された。バブル崩壊後の氷河期とも形容された不況を理由に、企業社会が裏社会との関係を断ち切るようになったのである。この背景には、暴対法の施行を確実なものとするために、体力のある大企業がベテラン警察官や警察官僚の天下りをより多く受け入れるようになったことが指摘できる。裏社会から官公庁へと権益が移行したのである。

その主張がいかなる動機に基づくものであるかは慎重な検証を必要とするが、この時期辺りまでのわが国裏社会の人物や組織は、法や分を弁えることを重視すると公言してきた。たとえば、「カタギには手を出さない」「違法薬物禁止」という種類の言明である。これらの言明は、縦割り主義的な結果を生じることとなり、わが国では、大学という組織は、一部の私学を除いては、これらの裏社会との接触が比較的小さなものに留まってきた。大学や学校法人は、一部を除き、左翼と見なされる組織により占拠される一方、大学に巣くう極左集団などは、一般的には、裏社会とは呼ばれなかった。もちろん、大学が純真無垢な組織であり続けてきたという訳ではない。たとえば原子力産業は、用地買収や左翼団体に利用される裏社会の強面たちと交際する必要があったし、大企業の総務部は、大企業社会において、その種の難しい業務を一手に引き受ける必要がある部門である。体育会は、このようなマッチョさを要求される分野の格好の人材供給源となったのである。このコネクションは、必要悪として、わが国社会の「大人」なら、当然視てきたものと言えよう。

1990年代におけるブラックジャーナリズムの変化を理解する上で大事なことは、顕名性がユーザに浸透していたダイヤルアップを通じたパソコン通信環境から、知識に乏しく匿名的であると誤解するユーザを多数含むインターネット掲示板へと、アングラ情報流通の舞台が変化したことである。この結果、ウラ情報は、世紀の変わり目頃には、『2ちゃんねる』に代表されるインターネット上の掲示板に書き込まれることが習いとなった。プロキシサーバを介することにより、書込主は、一定の匿名性を期待することもできたが、ときには、証券市場に重大な影響を与える情報さえ、インターネットの特徴を知らない初心者(に見える、あるいは初心者を装う)ユーザによって、(一見)不用意に書き込まれ、大々的に流通することになったのである。

わが国の「匿名掲示板」の巨人であった『2ちゃんねる』は、「匿名」との評判からか、今世紀初頭には、真偽不明の、株価に影響を与えうる内容も大量に書き込まれる掲示板となっていた。この動きには、多数の企業人までもが関与し、その関与自体が明らかになるにつれ、さらに読者を引きつけることとなった。考えの浅い投稿者がプロキシサーバを経ることなく、インサイダーや風説の流布に相当する危険のある内容を投稿するようになった。企業が自社のIPアドレスから直接その内容を把握しようとするという、現在からすればほほえましい動きも見られた。書込みや閲覧が、身元確認につながりやすい携帯電話から行われることもあった。これらの条件が組み合わさることにより、2ちゃんねるの運営者や、それに連なる人物たちは、真偽不明の内容に加えて、取得していないと主張していたログを利用して、ブラックジャーナリズムを本格展開する機会を手にしたのである。

犯罪予防の基本である、「犯罪者の認知する犯罪の機会は、ほとんど常に利用される」という教訓は、先述した環境によって、『2ちゃんねる』の展開するブラックジャーナリズムにも該当することとなった。『2ちゃんねる』は、最後にはサーバが「クラッキング」され、有料サービスの購入に利用されていたクレジットカード情報が匿名化ネットワーク上に流出したことにより、この巨大掲示板を舞台とした明らかな犯罪の痕跡が匿名化ネットワークの世界には残されることとなった。個人だけでなく、永田町に近い組織や、企業までもが情報を監視し、あるいは流通に荷担していたことが認められるようになったのである。

インターネット上の明らかな経済犯罪の痕跡を確認したとき、自ら動くことが可能な組織は、検察と証券取引委員会であるが、これらの組織は、今世紀型のブラックジャーナリズムに還流したはずの利益を十分には解明しなかった。株価操縦等が外形的に認められる痕跡から実際に立件に至った事件は、到底、『2ちゃんねる』の運営に連なる人脈の資金流通を止めるものとはならなかったのである。それどころか、この巨大掲示板を活用しつつ、巨万の富を築き上げたロスジェネ世代の怪人物たちの一部は、政界進出を目論むことさえした。この時点で、日本的サブカルチャーを装うアングラ業界の人物たちは、戦争屋に連なる政治人脈と交友関係を結ぶことにさえ成功していたのである。

政界進出及びマスコミ買収に伴う反動という形で、いわゆるライブドア事件が生じたことは、わが国において、一定の「抵抗勢力」が結果として国益を保全してきたことを逆説的に示す証拠であると言える。しかしながら、ライブドア事件を捜査した部署は、東京地検特捜部であ、同部による捜査は、とうてい不法行為の全容を解明するものとは言えないものであった。いくつかのエクストリーム自殺については、その解明がほかの凶悪事件をも解決に導きうるものであったにもかかわらず、解明が行われることなく、放置されたことを指摘できる。

検察までもが一大疑獄の可能性が強く疑われる凶悪事件を放置した結果、これらの活動に関与してきたことが十分に認められる人物たちは、多少の抵抗に遭うも、大きな発言権を日本語社会において確保することに成功し、現在に至っている。彼らが作り上げたオルタナティブな情報インフラは、現在、情報操作のためのツールとして、現政権に大いに活用されている。内閣機密費は、これらの情報操作に利用されていると指摘されている。もちろん、われわれ一般人には、その確実な証拠を掴むことは適わない。

わが国の勢力均衡状態と縦割り文化をふまえれば、「闇の紳士録」に掲載されるであろうほどに成長したこの分野の有名人たちは、現時点では、羽目を外し過ぎている。日本社会は、彼らが従来の役割、たとえば投資家として振舞う限りにおいて、従来の「ビジネス」に従事することを許容するであろう。固有の社会的役割に従事することの代償として、アングラ業界の人材は、それに見合う報酬を得てきたと言える。その地位を超える報酬(名誉や地位)を望むことは、社会によって許容されていないのである。

このような状況を鑑みるとき、この状況に責任の一端を担うはずの役職に、公職における資質を問われる人物が収まっていることは、大変興味深いことである。


参考

遠藤健太郎オフィシャルブログ » Blog Archive » ストロスカーンと中川昭一
http://endokentaro.shinhoshu.com/japan/post1952/

篠原尚之 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AF%A0%E5%8E%9F%E5%B0%9A%E4%B9%8B

メンバー 東京大学 政策ビジョン研究センター
http://pari.u-tokyo.ac.jp/info/member.html


#東京大学政策ビジョン研究センターは、東京大学基本組織規則第21条の規定(全学センター)に基づき設置される研究部門であり、公共政策学連携研究部・公共政策学教育部、法学政治学研究科、経済学研究科、工学系研究科、医学系研究科を出身母体とする研究者の、いわば寄り合い所帯である。相乗効果が見られれば、わが国の行く末を決定する上で良い政策を形成可能な組織であるとは思われる。

東京大学政策ビジョン研究センター運営委員会規則
http://www.u-tokyo.ac.jp/gen01/reiki_int/reiki_honbun/au07410191.html

附則
この規則は、平成25年4月1日から施行する。
(了解事項)
1 第3条第1項第3号「前2号以外の本学専任の教授のうちから若干名」とは、5~10名とする。なお、当分の間は、公共政策学連携研究部・公共政策学教育部、法学政治学研究科、経済学研究科、工学系研究科、医学系研究科からそれぞれ1名を含む若干名とする。
2 センター教員の選考にあたっては、センター規則第2条の趣旨にのっとり広く専門研究者の意見を徴するものとする。

東京大学受託研究員受入実施要項
http://www.u-tokyo.ac.jp/gen01/reiki_int/reiki_honbun/au07408461.html

東京大学教職員倫理規程(untitled - syuki17.pdf)
http://www.u-tokyo.ac.jp/gen01/reiki_int/reiki_syuki/syuki17.pdf
(平成16年4月1日東大規則第27号)
改正平成17年3月28日東大規則第360号
改正平成18年3月30日東大規則第120号

(倫理行動規準)
第3条教職員は、本学の教職員としての誇りを持ち、かつ、その使命を自覚し、次の各号に掲げる事項をその職務に係る倫理の保持を図るために遵守すべき規準として、行動しなければならない。
(1) 教職員は、職務上知り得た情報について一部の者に対してのみ有利な取扱いをする等不当な差別的取扱いをしてはならず、常に公正な職務の執行に当たらなければならないこと。
(2) 教職員は、常に公私の別を明らかにし、いやしくもその職務や地位を自らや自らの属する組織のための私的利益のために用いてはならないこと。
(3) 教職員は、法令及び本学の諸規則により与えられた権限の行使に当たっては、当該権限の行使の対象となる者からの贈与等を受けること等による疑惑や不信を招くような行為をしてはならないこと。
(4) 教職員は、職務の遂行に当たっては、公共の利益の増進を目指し、全力を挙げてこれに取り組まなければならないこと。
(5) 教職員は、勤務時間外においても、自らの行動が本学の信用に影響を与えることを常に認識して行動しなければならないこと。

小佐野賢治 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%8F%E4%BD%90%E9%87%8E%E8%B3%A2%E6%B2%BB

児玉誉士夫 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%90%E7%8E%89%E8%AA%89%E5%A3%AB%E5%A4%AB




平成29年3月1日修正・追記

文意を損なわない程度に、読みにくい部分を修正した。追記・修正部分は淡赤色で、削除部分はコメントタグにて残してある。

本稿の修正を行うきっかけに至ったのは、遅ればせながら、昨年暮れ(2016年12月15日)に川上量生氏?が山本一郎氏を指して陰で「総会屋2.0」と呼び習わしている旨をコメントして以来、この語がバズったことをようやく知ったためである。

なお、本稿の原本は、昨年9月14日あたりに準備を終えたものである。関係各位に対する辛辣なクリスマスプレゼントとして、用意してみたものであった。「タブー抜きで」私の中では確実に正しいと思われる情報を用意する、という本ブログの趣旨に照らせば、結果として、本稿は、えらく文脈依存的なものになってしまった。もちろん、この状態を知った現在も、この状態を継続しているということ自体、入れ子構造を狙ったものに他ならないことまで、賢明な読者にはお見通しのことであろう。

閑話休題。裏社会あるいは泥棒政権(クレプトクラシー; kleptocracy)にとって、市場規模5兆円とも見込まれるカジノ(IR)産業への食込みが邪魔されないことは、ソシャゲ業界における権益確保よりも、よほど大事なことである。表の経済規模にかかわらず、効果的なマネロン対策がカジノ運営に適用されるか否かは、国際社会で日本国が独立国として長期的に生き残るための要件である。これとは逆に、マネロン装置としてカジノを悪用可能なことは、裏社会にとっての権益を意味する。現在のIR論議の下では、カジノの脆弱性、すなわち勝ち金の大きさは、従来のギャンブルシステムを大きく上回るものになることが見込まれる。この議論に立ち入らせることなくカジノの話を終息させることは、裏社会にとっての権益確保につながる。マスメディアを通じて名前の売れている人物たちから山本氏に寄せられた批判の中に、山本氏の主張するカジノの話が一つも出てこないことは、私にとって、一つのサインである。

もっとも、マネロン装置として悪用しうる余地のあるカジノという存在は、道具でしかない。誰が・どのように・いつ・誰をもてなすために・どれだけ用いるのか、が分からない限り、政治過程におけるマネロン装置としてのカジノの善悪を最終的に判定することは適わない。他方で、これを犯罪予防システムの脆弱性として観る限り、これを放置することは、マネーロンダリングに対して厳しい視線の注がれる昨今、自称先進国の一員であるわが国としては、賢明なこととはいえない。社会システムの不具合を指摘することは、私の一応の仕事の範疇なので、ここに明記しておく次第である。

組織犯罪にとっての「利益」とは、通常の営利企業において所属者が職業人として必要とされる労力を抜きに、その労力に見合う以上の不正な対価を組織が入手できることであるから、この利益の生じる機会を取り除くことは、効果的な犯罪予防対策となる。その利益=旨味は、通常の経済活動と同様、経費を差し引いて得られるものである。言い換えると、カジノの生じさせうる脆弱性も、ごく素朴な形とは言え、経済的な観点から分析可能である。カジノにおけるマネーロンダリングで必要となる経費の中で、カジノ経営から完全に独立した要素として扱うことが可能なもの、つまり、切り分け可能な存在として、ジャンケット(への請負)を挙げることができよう。彼らは、麻雀等でいう代打ち、パチンコでいう打ち子にも相当する。この存在に着目すれば、以前に言及したように、勝金の上限額を、たとえば30万円程度の、一般人にとっては大勝ちしたと思える一方で、一回だけの接待を通じて高級官僚や政治家や職業的犯罪者への賄賂とするには割に合わない金額に設定することは、有用な犯罪予防対策となりうる。

蛇足。ギャンブル機関のマネロン装置としての性能は、トランザクション(勝ち負けに伴う金銭の授受一対)の回数と、そのトランザクションごとの勝金の金額に依存する。他のギャンブル運営に比べて、カジノがマネロン装置として優れている点は、勝金の多額さにある。この点、競馬の三連単が導入された経緯や、競艇の結果が荒れがちで勝金が高額化しがちであることは、示唆的である。従来のカジノでプレイされているゲームを含め、従来のギャンブル運営を通じたマネロンでは、胴元がマネロンを感知し得ないことはあり得ない。とすれば、勝金の高額化を是とする意見は、マネロン対策の厳格化と対になって語られなければ、邪な意図の下に発せられている可能性があると勘繰ることが可能である。李下に冠を正さず、である。

蛇足2。IRで認可されるゲームの種類が従来型のようにディーラーの関与の余地が高いものとならない場合、カジノ運営企業が何らマネロンに関与しなくとも、あるいはマネロンの排除に尽力しようとも、脆弱性が生じることになる。たとえば、同じ卓の中でゼロサムとなる種類のゲーム、たとえば麻雀が認可された場合を挙げることができる。金銭の授受を発生させたい二者が同じ卓を囲み、接待麻雀を行えば良いだけだからである。カジノ事業者は、このようなゲームを導入するのであれば、このような場を提供したと非難されないために、すべてのゲームの手番を記録する必要がある。贈賄側の「手抜きの悪手」を記録する必要が生じるためである。この全手番(一回のゲームにおける全トランザクション)の記録が、割に合わない手間のように見えてしまうのは、私だけであろうか。従来型の、ディーラーの関与が決定的なものであるゲームであっても、ディーラーの公正さを示すために、全手番を記録する価値はある。ここまでの対策を実行する企業が運営するのであれば、カジノ運営は、従来型のギャンブル経営に比較して、よほど健全であるということになろう。ただ、このような記録体制自体は、勝金の高額化を無制限に許容する材料とは見做されないであろう。あくまで、他のギャンブル形態との比較を通じて、公正であると見做される程度にまで、勝金の高額化を認めるという程度に留まろう。




2017年05月15日追記

「Ken Sugar」氏(@ken_sugar)の以下のツイートが大きく引用されていたので、この点を付記するとともに、brタグのレイアウトをpタグに変更した。「Ken Sugar」氏による山本一郎氏の肩書きに対する見立ては、通常人が正しいと信ずるに十分な材料である。ただ、「Ken Sugar」氏は、本記事の本文中に示唆した内容までは、視野に含めていないようである。山本一郎氏よりも批判されるべき人物が、ほかにいる。分かりにく過ぎたかも知れないので、明記しておこう。美人局なんて、ブラックジャーナリストの典型的手法ではないか。このように指摘することが、本記事のもう一つの意図であった。

Members | Complex Risk Governance Research Unit, UTokyo Policy Alternatives Research Institute
(2017年05月15日確認)
http://pari.u-tokyo.ac.jp/unit/crg/en/about/members/

2016年11月18日金曜日

平成28年7月都知事選の市民出口調査とマスコミ出口調査の比較

本稿では、選択バイアスに着目することにより、今夏の都知事選におけるマスコミの出口調査と「市民調査」(以下、括弧を省略する)との間に明白な齟齬が存在していたことを示す。以前(2016年9月30日)、選挙における情勢調査・出口調査では、選択バイアスを考慮する必要がある旨を述べたが、本稿はその続報である。公表時期が遅いという声が聞こえてきそうであるが、わが国の大マスコミや米国の(選挙予想における)有名人がおしなべて米大統領選の予測を外した現時点であるからこそ、ここでの検討の価値が増すというものである。

なお、選択バイアスとは、理念上の「調査対象集団」と具体的な調査における「母集団」との差から生じる推定値のずれを指す(2016年10月14日2016年10月24日)。本事例では、調査対象集団は都知事選の全投票者であり、母集団は各出口調査の対象となる投票者集団である。母集団の設計によって選択バイアスが生じるという場合の一例を、私が指定されている投票所を例に説明する。その投票所では、マスコミの出口調査のほとんどは、朝一番の1時間のみ行われるようである。この結果、三世代ファミリー層も独身者も多く居住するこの地域において、高齢者の回答者が自然と多くなるという構図である。マスコミの手抜きの結果、年齢層や性別に偏りがないことは、この投票所から引き出される結論においては、保証されないのである。

以前(2016年9月30日)に紹介した「修(@osamu9912)」氏による市民調査(当該ツイート削除)の結果は、鳥越俊太郎氏の支持率が圧倒的であった。これに対しては、「市民団体」に対して(だけ)は嘘を吐く、マスコミの出口調査には過去の蓄積がある、調査の基本が分かっていないといった指摘が『2ちゃんねる』では相次いだ[1]。その大半は、表層的な勉強だけしていたら出てきそうな、数字に対するセンスのない答えである。手を動かすと、全く異なる様相が現れてくるからである。(私もセンスのない方ではあるが、本稿の作成を通じて手を動かしたから、自信を持って指摘できる。)

もっとも、「修」氏の調査に対して辛辣な2ちゃんねらーの意見[1]のうち、コメントの2・19・24などのように、回答者が嘘を吐くというものは、良い所を突いた批判であるかのように見える。リチャード・アーミテージ氏の米大統領選に対するインタビューについて、私は、辛辣な検討結果を提示しており(2016年7月25日)、2ちゃんねらーたちのように、ひねくれた物の見方を有しているといえよう。しかしながら、回答を拒否する代わりに小さな嘘を吐くことのできる人物が小池氏支持者に多く見られるという結論は、小池氏の支持者にとって、収まりの悪いものであるはずである。この結論の不具合に、意見を書き込んだ当の本人らが気付いているか否かは、私の知るところではない。ただ、嘘を吐く者がいるという指摘は、泥縄シミュレーション向きの指摘ではあることだけは、確かである。この点は、本稿では検討せず、次稿以降の課題としておく。本稿では「回答する」か「拒否する」かの二択で考える。

朝日・読売の両新聞の出口調査には、支持政党別(自民・民進・公明・共産)の投票先が示されているが、これらマスコミによる出口調査に示されていた共産党支持者の投票先は、シミュレーションに転用可能である。最も鳥越氏への支持率が高かった共産党支持者しか回答しないと仮定して、いったいどれほどの人たちが回答拒否したのかを推定するのである。この仮定は、野党支持者を揶揄した2ちゃんねらーたちによる複数の書込みを、そのまま利用したものである。コメント42の「アンケートに答えるのはお仲間臭がする人種だけだろうからな」[1]は、その一例である。

マスコミの共産党支持者に対する出口調査から、市民調査を再現できるか否かの検討にあたっては、三点の仮定が必要となった。一つ目は、マスコミの出口調査における共産党支持者の投票先の割合を点推定値で求めたことである。これは、あくまで仮定の置き方の一つであり、マスコミの出口調査の支持率を幅を持たせて求め直して、市民調査の再現に最も都合の良い値を採用するという方法も考えられる。二つ目は、鳥越氏への投票者が市民調査に回答拒否した真の確率を決定しておくことである。これは、分析者の自由裁量に係る部分であるため、50%から95%まで、1%刻みでスライドさせている。三つ目は、主要三候補とその他の候補の四種に投票先を再分類したことである。これは、マスコミの出口調査の枠組を準用したものである。

より具体的なシミュレーションの方法は、下記図1に示した。まず、マスコミの出口調査を利用して、回答者の並びを(データフレームとして)再現した。その並びに対して、市民調査が順番に声をかけ、個人に割り振られた回答率を満足する値を有する回答者だけが回答する、という流れを模してみた。鳥越氏を支持する市民調査への回答者が(市民調査に示された)196人に達したところで回答者の並びを(データフレームのサブセットとして)切り出した。このデータの中には、個人毎に、①誰に投票したか、②市民調査に回答したか、の別が保存されている。このデータを集計すると、各候補者別に、市民調査への回答率を計算することができる。より具体的な作業過程は、朝日新聞の記事を例に取ったものをRファイル(「w20160909_市民調査を再現_朝日_upload.R」)としてアップロードした。シミュレーション上の回答者は、100万人分を作成したので、回答率を求める作業の回数は、各回答率につき、1000回以上になる。本稿以上の作業の詳細は、前掲ファイルを参照されたい。なお、本作業過程のうち、ggplot2パッケージによる密度推定には、一部のデータが利用されていないが、グラフ描画上の大きな問題にはならないものと考え、作業を強行している。

結果は、アニメーションgifに直して、図2と図3に示した。この結果は、マスコミ出口調査における共産党支持者集団と市民調査への回答者集団とが明らかに異なるものであることを示すものである。市民調査に対する回答率は、どの候補についてであれ、鳥越氏の真値の周りにばらつくはずであるが、そうはなっていない。鳥越氏については、適切な形で再現されている。しかし、増田氏・その他の候補については、一貫して回答率が鳥越氏よりも高く出ており、しばしば、1を上回るものともなっている(ただし、シミュレーションの方法上、あり得ないことではない)。その一方で、小池氏支持者の回答率は、一貫して低く出ており、共産党支持者のデータを元にしているにもかかわらず、半分程度となっている。

図2・図3に示された結果は、「修」氏の提示した結果を信用したとき、小池氏支持者の回答拒否率だけが異様に高く、また、増田氏・その他の候補の支持者の回答率もおかしいという事実を突きつけるものである。この結果は、マスコミの出口調査に対する重大な疑義を突きつけるものになる。幸い、現在は、2016年米大統領選後である。マスコミの正しさに対する社会上の制約は存在しないから、自由な心証を元に、マスコミ報道の事実に関する正確性に対して、疑問を呈しても問題ないであろう。実のところ、マスコミの出口調査の正しさは、「修」氏の提示する結果と同程度にしか、追跡可能ではない。つまり、記事として書かれたことくらいしか、検討の材料がないのである。今時の政治学研究者の全員が社会調査の手続を熟知している訳でもないし、カネと名誉に転ばない訳でもないから、出口調査の過程と結果に対して誰もがアクセス可能ではない限り、マスコミの出口調査が捏造ではないと信じることは、およそナイーブに過ぎる。しかも、今夏の都知事選の結果は、事前の読売新聞による情勢調査を参照する限り、偶然、小池氏の勝利を確実なものとする上での最大見込み票数であった(2016年8月21日)。これに対して懐疑の目が向けられないとすれば、その社会はおよそ健全とは呼べないものであろう。

本稿のシミュレーションは、「修」氏が全く関知しない形で行われたものであるが、彼(女)の提示した市民調査が、マスコミの出口調査の怪しさを指摘する力を十分に有することを示すものである。「修」氏は、マスコミの出口調査の結果が揃わない時点で、市民調査の結果を提示している。このため、答えを調整している可能性がゼロではないが、100パーセントでもない。また、市民調査が支持政党を聞いている訳でもなさそうであるから、ここで示したようなヒネた検証方法を想定してもいないであろう。ただ、提示された情報には大きな力があっただけに、元のツイートが削除されていて、そのままであるという経緯の不明さは、懸念を抱かせるものとなっている。エスタブリッシュメントの外にいる存在が出口調査を行うことに対しては、権力側が色々な難癖を付けられる余地があるから、具体的な危険を感じて取り下げたということも考えられる。まとめサイト経由で個人攻撃が激しくなったという場合も考えられよう。


図1 シミュレーションの方法
図1 シミュレーションの方法

図2 朝日新聞出口調査に基づく「市民調査」への回答率の推定シミュレーション結果
図2 朝日新聞出口調査に基づく「市民調査」への回答率の推定シミュレーション結果
(説明は図1と本文を参照)

図3 読売新聞出口調査に基づく「市民調査」への回答率の推定シミュレーション結果
図3 読売新聞出口調査に基づく「市民調査」への回答率の推定シミュレーション結果
(説明は図1と本文を参照)

[1] 【不正選挙】鳥越俊太郎支持者「出口調査だと70%で圧勝だった 不正選挙ではないか?」 実は…… [無断転載禁止]©2ch.net
(2016年11月13日閲覧、2016年8月2日開始のスレッド)
http://hayabusa8.2ch.net/test/read.cgi/news/1470129099/




2021(令和3)年7月28日修正

グーグル・ドライブのファイルにセキュリティアップデートとやらが適用され、リンクにアクセス不能となる可能性があるとの通知を受け、当該リンクを修正した。内容は変更していない。

(感想文)TPPはトランプ・安倍会談でいかに話し合われているのであろうか

ドナルド・トランプ氏が米大統領選挙を制したという事実は、それ自体、世界が「ノーマライズ」する方向に大きく舵を切りつつある事実を示すものであるが、その流れをますます加速しそうである。バラク・オバマ氏の下での「チェンジ」は、シリアにおける消極策のように、分かりやすく提示される形の変革ではなかった。それに、ヒラリー・クリントン氏を始めとする、君側の奸と呼べる一派を重用せざるを得なかったために、低質なマスメディアに囲まれてきた※1日本人の大半には、随分と理解しにくいものであった。トランプ氏の下での変化は、随分と分かりやすくなってはいるが、そのルールの変化を、日本のマスコミは未だに正確に伝えようとはしない。悪事に荷担してきた当事者であるためである。なお、読売新聞がクリントン氏の当選を見込んでいたことは、『simatyan2のブログ』に紹介されている[1]

安倍晋三氏も、大メディアによれば、トランプ氏向けのシフトに急いで切り替えているとされる。日本時間7時現在、トランプ氏と会談を開始しているはずである[2]が、読売新聞によれば、TPPに言及しない方針で訪米したという。トランプ氏の面前で、TPPにいかに言及するかは、安倍氏の今後の立ち位置を宣言することになろう。安倍氏は、米大統領選挙戦中の9月20日にクリントン氏とだけ会談したが、この方面を推進してきた読売新聞にさえ、この事実は「異例」と評されていた[3]。日本国政府の代表は、同盟国であるとはいえ、不公平に処遇した相手に、今まさに、歓待を受けていることになる。日本の政策判断の基本が官僚集団に拠るものであることは、米国人には良く理解されている社会的事実であるから、トランプ氏は「米国第一(America First)」を前面に押し出して、日本国官僚の思惑を存分に否定しているであろう。クリントン氏とだけ安倍氏が会談していたという事実は、私自身が決して歓迎することではないが、安倍氏自身にも利用可能な事実である。日本国民の大多数にとって過剰に不公正なディールにより、権力の維持を安倍氏が願い出るというケースを、日本国民は覚悟しておかなくてはならない。

ところで、ニュージーランドもTPP法案を11月15日に採決したと報じられて[4]いるが、TPPを面と向かって米国に推進するということはしないであろう。同国は、条約の成立に尽力したという体裁を取っただけであろう。無論、採決自体に影響しないことをふまえての決断であろう。日本が採決した後の動きであり、日本の動きは、理由の一つとして挙げられる材料となっている。日本は、率先してTPP法案を採決したというだけでも、後世において関係国民から非難の的となろう。この点を理解していて、わが国の官僚や政治家たちは、率先してTPP法案を採決したのであろうか。

なお、陰謀論者としての蛇足をひとつ。カイコウラ(Kaikoura)で生じたM7.8の地震(2016年11月14日12:02:56(NZDT, UTC+13:00))[5]をTPPを推進してきた勢力によるものと疑う者もいるが、私は、その是非を判断する材料を有していない。ただ、この疑いを追求することは、戦争屋勢力の衰退具合を診断する上での良い材料となるものである。また、この追求作業は、わが国が戦争屋の軛を脱していないとはいえ、他国においては安全保障上の調査事項の優先順位のトップレベルのものであると予測される。近い将来、それらの真剣なインテリジェンス活動の成果に、われわれも触れることができるかもしれない。

※1 『ダイヤモンド・オンライン』に瀧口範子氏の「トランプを「ノーマライズ」してはならない」という記事[6]があるが、「政治的に正しい(politically correct)」言説を吐きながら自国民の若年層を戦地に送ることで利益を貪ってきた経済が正常であるとは、決して言えない。以前の状態をノーマルだと勘違いしてきた日本人が多くいるのは、マスコミ人の主流派が瀧口氏のような論調を容認してきたためである。

[1] 安倍晋三生みの親「読売グループ」の大誤算|simatyan2のブログ
(2016年11月11日10時04分)
http://ameblo.jp/usinawaretatoki/entry-12218371731.html

[2] 『読売新聞』2016年11月18日東京朝刊14版1面「日米同盟 重要性訴え/首相 トランプ氏と会談へ」(記名なし)

[3] 首相、国連総会でNYに…クリントン氏と会談へ : 北朝鮮 : 読売詳報_緊急特集グループ : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)
(ニューヨーク=今井隆、2016年09月19日)
http://www.yomiuri.co.jp/feature/TO000301/20160919-OYT1T50045.html

日本の首相が投開票日まで2か月を切った米大統領選の候補と面会するのは異例。クリントン氏が日米同盟を重視していることを踏まえた対応とみられる。

[4] TPP bill signed by Parliament as US signals its end | Radio New Zealand News
(Radio New Zealand、2016年11月15日20時19分)
http://www.radionz.co.nz/news/political/318141/tpp-bill-signed-by-parliament-as-us-signals-its-end

The government's Trans Pacific Partnership (TPP) legislation has passed its third reading at Parliament this afternoon, despite the likelihood the trade deal won't proceed.

[5] GeoNet - Quakes
(GeoNet - Quakes、2016年11月18日07時31分)
http://www.geonet.org.nz/quakes/2016p858000

[6] トランプを「ノーマライズ」してはならない (ダイヤモンド・オンライン) - Yahoo!ニュース
(2016年11月16日06時00分)
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20161116-00108207-diamond-int&p=2


2016(平成28)年11月18日18時追記

日経[7]・朝日[8]・読売[9]の三紙夕刊の論調についてメモする:日経と読売は、TPPを推進したいと安倍氏からトランプ氏に向けて話したと見られると報じているが、朝日はTPPに係る安倍首相の言動には立ち入って解説していない。この状況は、日本側の出席者が(守秘義務が当然に発生しているであろう)通訳を除けば、安倍首相だけであったという条件によって、制限された状態にある。安倍氏だけで話の内容を過不足なく受け止めることができたのであろうか、という一抹の不安がある。

本日の安倍氏とトランプ氏の会談の形式は、日本国の主権者である日本国民にとって、真相が「藪の中」になる方向性が決定されていたものと評することができよう。後世において、この会談に至る調整の過程は、大平洋戦争に至る上で外務省が果たした(あるいは果たし得なかった)役割に近い位置付けを与えられることになろう。通訳が外務官僚であったとすれば、要点に係る記録は取られているとはいえ、メモ扱いになろう。わが国政府の組織としての実力は、関与した成員個人の力量が他国のカウンターパートに見劣りするものではないにもかかわらず、期待される水準に到達しないことがしばしばある。内閣官房か外務事務次官か米国大使の責任と認められると評しておく。見届人が見届人の役割をしばしば逸脱しつつも歴史の転換点において責任を全うしないというオチは、日本の官僚機構の伝統芸であると結論付けられよう。

本ブログの隠れた目標のひとつに懸かるので、忘れないうちに脱線気味にメモしておくと、丸山眞男氏が評したドイツ人戦犯のニュルンベルグ裁判観は、ハンナ・アレント氏の見たアイヒマン氏のエルサレムにおける裁判とは、随分と印象が異なるようである。アレント氏のアイヒマン氏への評価は、丸山氏の東京裁判戦犯への評価と共通するものがあり、丸山氏のドイツ人戦犯への評価とは対立する関係にある。何か(勇気やプリンシプルや哲学や思考)の欠如こそが巨悪の原因と見做されうるという仮説は、本件会談を取り巻く日本側官僚制にも適用可能であるといえよう。

本件会談は、朝日新聞には「異例」[8]と評されたが、この記述は、瀧口範子氏の紹介する「ノーマライズ」という表現に同調的であると断定できる。つまり、『朝日新聞』は、TPPについてこそ日本的な動きに与していないものの、既存のマスメディアの路線を固守していると評することができる。トランプ氏の大統領就任に反対するデモには、ジョージ・ソロス氏に関連する組織が雇用するものが含まれるという[10]が、朝日新聞の本件記事は、この役回りを果たすものと言えよう。バスでデモ隊が到着したことなどを、まとめて報じるブロガーもいる[11]から、信憑性のあるものと考えて良かろう。なお、紹介したリンク先に設置された別サイトを参照するウィジェットには、不快な画像が含まれる可能性があるため、JavaScriptを無効にして閲覧することを強く推奨するが、この設定自体、記事を掲載したサイトに対する嫌がらせの一環である可能性も認められる。これらのデモは、通俗的にいえば、やらせであり、学術風には「人工芝運動(Astroturfing)」である。アメリカ国民は、各人が、ウクライナにおいて「正体不明」のスナイパーが警官にもデモ隊にも発砲していた事実を想起し、あくまで平和を志しつつも警戒する必要がある。

[7] 日本経済新聞2016年11月18日夕刊東京4版1面「首相「信頼築けると確信」/トランプ氏と初会談」
(記名なし)

 会談は〔...略...〕自宅部分で、通訳を交えて1時間半近くに及んだ。トランプ氏の長女のイバンカ〔Ivanka Trump〕さんと夫のジャレッド・クシュナー〔Jared Kushner〕氏に加え、大統領補佐官(国家安全保障担当)への起用が有力視されるマイケル・フリン〔Michael Flynn〕前国防情報局長が同席した。日本側は通訳を除いて首相のみだった。  〔...略...〕
 〔...略...〕トランプ氏が脱退を主張する環太平洋経済連携協定(TPP)を巡っては自由貿易を推進する観点から意義を説明した可能性がある。首相はTPPはアジア・太平洋地域の繁栄につながり米国の国益にかなうとみている。
 〔...略...〕

[8] 朝日新聞2016年11月18日夕刊東京4版1面「首相「信頼築けると確信」/トランプ氏と初会談/大統領就任前、異例」
(記名なし)

[9] 読売新聞2016年11月18日夕刊東京4版1面「首相「信頼築けると確信」/トランプ氏と初会談」
(記名なし)

〔...略...〕首相は日米同盟や環太平洋経済連携協定(TPP)をはじめとした自由貿易体制の重要性を訴えたとみられる。

[10]Soros-Funded Orgs Behind Violent Anti-Trump Protests Across America
(Helicondelta、2016年11月12日13時43分41秒)
http://www.freerepublic.com/focus/f-news/3493111/posts

[11]Billionaire Globalist Soros Exposed as Hidden Hand Behind Trump Protests -- Provoking US 'Color Revolution'
(Jay Syrmopoulos、2016年11月10日)
http://thefreethoughtproject.com/soros-trump-protests-revolution/
〔注:ウィジェットには不快な画像が含まれる可能性があるため、JavaScriptを無効にして閲覧することを強く推奨する。〕



2016年11月19日09時追記

トランプ氏と安倍氏との会談に同席し得た日本側の人物は、通訳と内閣広報室の写真撮影担当者の二名であることが、今朝の朝刊三紙の内容を統合する※2ことにより、確定できそうであるが、しかし、会談の内容について責任を持って言及できる日本側の人物が安倍氏を除けば存在しないことは、依然として変わらない。本件会談を日本人が理解する上で重要なことは、一国の宰相が後世の日本人に対して説明責任を果たす上で必要な措置を講じなかったことにある。忘れてはならないのは、トランプ氏の政権移行チームの位置付けは、日本側会談関係者の側が見做す内容(すなわち私人であるかのように広報する)とは異なる点である。いち日本人としては、日米会談と表現したいところであるが、米国側関係者は、国の制度に則り粛々と進めているところ、日本側関係者が一国の政府として十分に機能しているかを問うたとき、日本は、今回の会談が公務であるにもかかわらず、国としての体裁を成した形で作業を実施しておらず、否と答えざるを得ない。このように、形式(日:公務、米:公務だが日本側は私用であるかの扱い)と実質(日:私的、米:歓待の形式こそ「ホーム」であるが実質公的)における公私の逆転が生じているところは、何とも皮肉である。

本日も憶測に満ちた記事で新聞の1面が埋め尽くされているが、トランプ氏のチームの側は、能動的にメディア・コントロールしているであろうところ、安倍氏は、単にトランプ氏の側から口止めされているか、会談の内容を理解できていないだけであろう。もっとも、安倍氏のメディア・チームの力量は、日本人読者の大半を相手にする分には十分なものである。とはいえ、通常の批判的精神を有する視聴者を相手にするには、かなりの能力不足であるから、会談の内容を咀嚼して公表する上で、多くの時間を要しているとも見ることができる。この遅れが事実であるとすれば、状況に対する主導権は、安倍政権下における「インテリジェンス機能の拡充」云々の題目にもかかわらず、失われていると読むことができる。日本のマスメディアこそ、政体によってアンコン(under control)されているといえようが、米国支配者層の変化という状況そのものには、何ら対応できていない。

傍目から見れば破綻しているこの状態は、本件会談に係る日本側関係者の中では、R・ターガート・マーフィー氏も指摘する「二重思考(double-think)」によって、統合された状態にあると推認できる。マーフィー氏は『日本・呪縛の構図』(2015, 仲達志[訳], 早川書房)において、日本の支配階級層の目的が「誰もが安全で人並みの生活を送れるようにすること」から「国民を全面的に統制」することへと変容していること、国民の利益という建前と支配者の私益という本音との乖離状態が、支配者層の精神状態の中では、オーウェルの『1984年』にいう「二重思考(double-think)」によって統合されていると解説する〔第5章、初出はpp.31-34〕。マーフィー氏の分析は、近世以前の歴史解釈のいくつかには(教科書的な理解からすれば)違和感が残るものの、正統的な日本研究の延長にあると理解できるものである。

会談の内容が日本側から積極的に公表できるような内容であるはずがないことは、注意深い日本人の読者には、最初から了解されていることであろう。会談内容を公表するか否かに係る主導権は、トランプ氏の政権移行チームの側にある。加えて、日本側関係者にもっぱら係る要因として、米日両国の力関係に対する日本側関係者の能力と解釈、安倍氏の能力、外務省関係者のここ数ヶ月の業務に係る責任に対する肚の決め方、マスメディア自身の取材能力など、何重ものハードルがある。これらの要因がすべて情報を公開するという方向に作用しなければ、日本語話者から情報が日本語として提供されることは、あり得ない。

なお、佐藤優氏が、本件会談の答え合わせともいうべき解説を、TBSラジオ『くにまるジャパン』(2016年11月18日)で加えている。佐藤氏は、ペルーのリマでオバマ氏に会談した後、NYで会談すべきであった、と指摘する。また、国と国の関係を優先し、オバマ氏の8年の業績を賞賛した後に、次期に国を担うトランプ氏のチームを訪問すべきであった、と解説する。今回の安倍氏の訪米は、本末転倒であり、失敗であったが、失敗であるという事実を糊塗するために大本営発表を続けるであろうとも予測している。ロシア会談も控えているところ、オバマ氏の米国を軽んじることは得策ではない、今後の外交は混乱すると予測している。

※2 日経は、読売・朝日の二紙を差し置いて、参照するだけの材料に乏しい。朝日は、1面で下記引用のように伝える[12]。読売は、「外務省関係者」の弁として下記引用のように伝える[13]。解釈すれば、日本側関係者である「外務省幹部」たちの想定は、完全に機先を制されたことになる。蛇足であるが、トランプ氏の政権について、読売2面でリチャード・アーミテージ氏が解説している[14]が、自身がトランプ氏に反対し続けてきており、党内での反対が3分の2に上るなどと解説してきた(2016年7月25日)ことは、触れられていない。

[12] 
『朝日新聞』2016年11月19日東京朝刊14版1面「首相、トランプ氏と初会談/信頼協調 内容は非公表/異例の就任前 予定超す90分」(記名なし)

〔...略...〕
 会談には、日本側は安倍首相と通訳だけでメディアは入れず、撮影も内閣広報室の写真担当者だけに許された。〔...略...〕

[13] 『読売新聞』2016年11月19日東京朝刊13版6面国際「親族重用 会談に同席/長女の夫 政権入り憶測」(ワシントン=小川聡)

〔...略...〕自宅応接間は豪華絢爛だ。外務省幹部によると、日本側は首相とトランプ氏の1対1の会談のつもりだったが、首相がトランプ氏の自宅に到着したところ、応接間にはトランプ氏とともに、クシュナー夫妻、トランプ氏の外交・安全保障問題の側近マイケル・フリン氏がおり、自然な流れで同席したという。
〔...略...〕

[14] 『読売新聞』2016年11月19日東京朝刊14版2面総合「トランプUSA 識者に聞く/リチャード・アーミテージ 元米国務副長官/早期の安倍会談 大きな意味」(聞き手・ニューヨーク支局長 吉池亮)
#要旨は大略次のとおり。トランプ氏が当選したのは国内問題への公約が支持された、アジア・欧州・中東諸国との関係を「考え直す際には、これまでの歴史を十分に理解した上で慎重に判断すべきだ」。同盟国との関係が大きく変わることは考えにくい。米軍駐留費経費負担の問題を軽視している。トランプ氏は「直感」に頼りがちであるから早期会談の実現は意味があった。安倍氏が直接面会した初のリーダーであることは「私も誇らしく思っている」。

2016年11月13日日曜日

(感想文)ドワンゴが人工知能でゾンビ的な人体の動きを再現

本日(2016年11月13日)21:00~21:49の『NHKスペシャル』は「終わらない人 宮﨑駿」[1]であり、宮崎駿氏がCGを利用したアニメーションに初めて取り組む700日を密着取材していたが、そこで題名の件を知った次第である。再放送はNHK総合で11月16日(水)午前0:10。取材中(番組終盤)、株式会社ドワンゴ取締役会長の川上量生氏が、人工知能を利用したアニメーションについてプレゼンするために、開発チームとともに訪れる。そこで宮崎氏に提示されたのは、人体の重量・可動域と、おそらく筋肉量まで計算に含めて人工知能に計算させた、地面を這う人体の移動アニメーションだった。痛みを感じないために、(頭と胴体を尺取り虫のように利用して)這い回る格好になったのだと解説されていた。宮崎氏の反応は、次の@rienda0211氏のツイートに要約される通りであった。

人間が痛みを感じず、脳機能を最低限しか用いず、筋力をなるべく節約して移動するとすれば、確かに、ドワンゴのチームがプレゼンしたような形で、人間は移動するかもしれない。逆説的ではあるが、この動画から、人間や高度な動物の多くが痛みを感じることができることの不思議さと重要さを汲み取れよう。人間も、また動物の多くも、ほかの生物が少なくとも目の前で痛がられている場面に居合わせれば、(捕食であれ、保護であれ)その様子に反応できる存在である。以前、人工知能は良き教師あってこそと述べた(2016年1月7日)が、ここでも同じ提言を繰り返すと同時に、生物が同種に対して、ときには異種に対してさえ、痛みを感じることのできる存在であることを教える必要があると感じた次第である。

ヒトが何によってゾンビと分かたれる存在であるのかを探求する上では、ドワンゴのチームによるプレゼンは、何事かを提示したのではないかと評価できる。ただ、そのような学究的な興味は、人類の文化的活動の最高の成果を追求して止まない宮崎氏の方向性とは、明らかに別方向を向くものである。基礎研究に留まる内容を、いきなり実務の最前線の先頭を切って走り続けようとする人に投げ掛けても、戸惑われるだけであろう。不幸な巡り合わせではあったが、この会合がなぜ不幸なものとなったのかを問い続けることなしには、人工知能の現在の開発者は、後世に恨まれる仕打ちをしでかすことになろう。人工知能の進化の過程は、必ずしも、「超人工生命LIS」[2] のように、現在の地球における生態系の原理(=貪食しない)を後追いするものとはならないであろう。現在の生態系と明らかに違う原理で作動する人工知能が支配するとき、何が起こるのか。予想するほかないが、多くの場合において、人間は絶滅させられるか、完全に屈服させられることになろう。

[1] NHKスペシャル | 終わらない人 宮﨑駿
(2016年11月13日21:00~21:49)
http://www6.nhk.or.jp/special/detail/index.html?aid=20161113

[2] ドワンゴで産まれた超人工生命LIS、ハッカソンでカンブリア紀に突入! - WirelessWire News(ワイヤレスワイヤーニュース)
(Ryo Shimizu、2016年04月12日)
https://wirelesswire.jp/2016/04/52114/


2016(平成28)年11月18日08時追記

痛みに着目するというツイートは、「たられば(@tarareba722)」氏のものに、すでに見ることができる。今朝、『Togetter』経由で確認した。素直に痛みに着目するという点で、共通する感想が同時多発的に生まれていたとすれば、私の上記見解は、ヒトの直感として、ずれていなかったことになる。

【終わらない人 宮崎駿】痛みを知らない人工知能によるCGの動きを「生命への侮辱」と一喝 (2ページ目) - Togetterまとめ
(2016年11月18日08時11分)
http://togetter.com/li/1048151?page=2

2016年11月10日木曜日

(メモ・感想)米大統領選の結果を日本人は祝うべきである

昨夜(平成28年11月9日)のTBS『News 23』のインタビュイーは、デイブ・スペクター氏と笹川平和財団特任研究員の渡部恒雄氏であったが、両名の解説は、両氏がトランプ氏の当選を喜んでいないという印象を与えるものであった(23:10頃)。スペクター氏は、トランプ氏が在日米軍駐留費用を日本が十分に負担していないと批判したことについて、「三流の週刊誌程度のことをアメリカ国民に」語っているなど、不勉強であり続けてきたと批判し、今後は米軍関係者らによって、在日米軍の意義について、十分な説明がなされるであろう、トランプ氏は単独で何事かを成し遂げるだけの政策を持たない、と解説していた。渡部氏は、「安全保障こそ、大きな変化がないであろう」と予測していた。これらの両氏の説明は、トランプ氏を呼び捨てにしていることからもトランプ氏に対して反感を抱いた上でのものであることが分かるものであり、「ノーサイド」という雰囲気が感じられないものである。また、在日米軍についての説明は、嘘を伝えているとまでは言えないが、ヒラリー・クリントン大統領の下で懸念された大規模な海外派兵を説明しない分、ミスリーディングである。

日本は、戦争屋から海外派兵を強硬に求められるという事態を辛くも免れた。わが国の安全保障環境の悪化がなかったことこそを言祝ぎ、現状よりもより良い安全保障の状態を維持することに注力すべきである。この点、米大統領選は、より小さな悪を選択するという上で、米国民の良識が発揮されたものと思う。民主主義の模範国であり続ける上で、俵一枚残したと評価できよう。他方、日本国民は、世界の潮流がすでに大きく変化した中、孤立する選択肢を採ってしまっていたことに気付かなければならない。

『News 23』キャスターの星浩氏は、メキシコの壁、TPP反対、インフラ改善がトランプ氏の政策の3点として確定的であるとニューヨークから伝えていた(23:22頃)。メキシコの壁は、不法移民(正式ルートの移民は、別であることに注意せよ)を防ぎ、麻薬の密輸を抑止するための政策となり得る。ただし、麻薬密輸は司法組織の引締めが最重要の課題であろう。TPP反対は当然のことであろう。わが国は、TPP法案の成立を通じて、戦争屋のゴキブリホイホイであることを世界中に喧伝した格好となっている。インフラ改善を連邦政府として提唱したことは、ニューディール政策の再来であり、連邦政府による経済への介入であると見做すこともできよう。つまり、思想としてのネオコンにも一定の牽制を行うものとも理解できる。

今回の米大統領選を受けた結果、日本国民が今から望みうる最善の状態は、日本国民の大多数にとって、可能であり得た最善の状態とはならないが、それでも個人個人にとっての局所最適化が可能なだけの余地を残すものとなった。米大統領選の結果は、日本人にとって、より悪いものとなり得た。蛇足となるが、今後の日本社会の改善には、日本国民がすべての問題をゼロベースでとらえ直し、その過程で戦争屋の走狗となってきた人物を慎重かつ大胆に切り分け、かなり多数の「戦犯」を追及して一罰百戒に処すという作業が必要となる。第二次世界大戦後のように、「逆コース」が必要となることはない。わが国の伝統は兵隊が精強である一方で、将校が無能というものである。立場が人を造るため、私は、わが国の政体(鉄の五角形でも四角形でも、表現は何でも良いが)をごっそり入れ替えることについて、それほど悲観していない。政体の入れ替えを進める中で、自ずと頭角を現す人物も輩出されるものと考えられる。(それに、大抵の人物の健康状態は、権力に長く留まることを許すものとはならないであろう。)日本人がベストな(安逸な)生活を望み得ない状態は、外形的には、福島第一原発事故の混乱を通じて、日本国民が選択した結果であるから、やむを得ないであろう。社会の大勢が、2014年12月の衆議院選挙において、不正選挙の可能性を陰謀論として真摯に検討しなかったことも、原因の一つではあろう。複合的な原因が関与した結果、長期間にわたる大規模な国勢の低下は避けられない。ロシアは、チェルノブイリ原発事故を経て30年、ようやく現在の権勢を取り戻した。わが国は5年の無為があり、このために国民の大多数の健康状態は大きく悪化したと思われる※1ために、現時点から性根を入れ替え、かつて指摘したような(2016年1月16日)大胆な対策を実行したとしても、社会の回復には、半世紀以上を要するであろう。しかし、現今の状態にあるわが国であっても、将来に向けて個人の自己実現が可能な社会を将来に向けて再度作り上げていくことは、不可能ではない。

ともあれ、今回の米大統領選の結果は、日本人にとっても、良き生を全うするための基盤となる社会を再建するための前提条件として、必要なものであった。日本人にとって、これからが正念場である。

 

※1 大多数の関東以北の住民は、確実にQALYの低下を体験しつつある。原因が見えにくくされているだけであり、世界にほとんど類例のない虐殺と後世に評されうる程度の低下である。この状況が、どのように顕在化し、国際情勢に影響するのかについては、まだ予想が付かない。QALYは、Quality Adjusted Life Yearsの略で、質(的)調整生存年と訳される。既存の定義はあるが、自己流に解説すると「本人にとって満足できる健康状態で過ごせる寿命」。ただ、QALYについては、計測という行為に際して、個人の主観と他者からの客観的評価との比較可能性が解決されていないために、疑義も呈されている。この功利主義に係る話に立ち入ることは、本稿では行わない。

2016年11月9日水曜日

(メモ・感想)ドナルド・トランプ氏の勝利は日本人にとって歓迎できる

ドナルド・トランプ氏が、当選確実と言われる[1]。ABCテレビが報じたと、多くの日本の放送局が転送している。大方、スウィング・ステートと呼ばれる州において、軒並み、地滑り的勝利と呼べる内容となっているようである。東部標準時(EMT; -05:00:00)で、午前2時頃まで要したことになる。

トランプ氏が大統領就任することを受けて、日本にも色々と影響が生じるであろうことは、必定である。その変化を乗りこなすことができれば、わが国の生存に大きく役立つものとなることは、本ブログで何度か繰り返した。共和党政権ではあるが、戦争屋が排除されたために、より穏当な形での日米関係が再出発することになる。にもかかわらず、『Yahoo!ニュース』で跋扈してきた日本語話者たちは、大勢が悪化すると信じているようである[2]。この大半の日本人の「懸念」には、根拠がない。それだけでなく、責務に対して能力不足である指導者層がこの理解を共有しているとすれば、有害に機能しさえする。誰しも生きることにおいては平等であるが、適材適所という考え方が存在することも、世の道理である。わが国の指導者層には、より有能な人材が求められる。

表:Yahoo!ニュースによる意識調査の結果(2016年11月9日17:12閲覧)
選択肢割合票数
良くなる6.3%603
変わらない22.3%2126
悪くなる71.4%6818

『Yahoo!ニュース 意識調査』に見るような「日本人」の悲観論は、わが国の情勢を二点示しており、問題含みである。一点目は、ヒラリー・クリントン氏の飼い主であった「戦争屋」の手下たちが、まだわが国では大きな顔をしていられることを示す。二点目は、わが国が良い方向へと変化することを望み薄にする心性が日本人に骨がらみであることを示す。「第二の敗戦」の事実は、今夏の陛下のお言葉により、「日本人」の誰の耳にも聞こえてはいるのであるが、理解はされていないままである。一点目にある戦争屋の手下とは、言うまでもなく現政権であるので、この説明は省略しよう。二点目の説明には、マスコミの世論形成機能が深く関係している。

71年前の敗戦に至る過程における大本営発表ならびにマスコミの悪は自明であるが、この敗戦においてマスコミが果たした役割は、今回のアメリカ大統領選挙を受けて「日本人」視聴者が抱いた感想に対しても同様の責任を有する。第二次世界大戦当時のエスタブリッシュメントは、少なくともその多数は、絶対評価によれば、現在のエスタブリッシュメントよりもはるかに優秀であったが、いくつかの理由のため、課題の大きさ・重さに対しては、相対的に能力不足であった。彼ら支配層は、大本営発表が続き、大マスコミも追随するという条件下で、国民をいかに誘導して終戦にこぎ着けるのかという困難な課題を抱えることになった。1944年7月9日のアメリカ軍によるサイパン島占領宣言の時点で明確な潮流は見えていたはずであるが、終戦工作は、翌年までの間に非常に数多くの民間人の犠牲を生むに至った。物的な窮乏状態は、一部の強硬派を説得するには不足しており、犠牲の多さが明白な負けを悟らせるために必要とされた。原爆が必要であったとするトルーマン声明は、当時のわが国の指導者層の一部にのみ有効なロジックとして機能するものであるが、当時の指導者層の全員が原爆投下前に白旗を揚げることに同意できていなかった以上、政治的なレトリックとしては成立するものであったと言える。人道的に許容されるものではないことは、自明であるが、重ねて申し添えておかないと、誤解する向きもあろう。いずれにしても、1945年当時は、ペンの力は剣に相対したときに圧倒的に弱く、剣に脅されてこそペンの力が発揮されていた、と評価することができよう。

アジア・大平洋戦争においてポツダム宣言を受諾する過程に至る当時の指導者層を評価するためには、内部に強硬派、周囲に権力に従属的なマスコミという敵を抱える状態であったことを理解する必要がある。もちろん、この構図は、現今のわが国にも該当する。しかし、国民主権であるという建前が存在すること、マスコミの一方的な報道が多数の国民に効いていること、インターネットという個人的な知己を超えた情報取得のルートが一応は確立されるに至ったこと、の三点は、事態を複雑なものにしている。副次的には、人間が高齢化に伴い学習をサボりがちになること、マスコミ情報に接することを学習だと思い込んでいる高齢者が多く存在すること、の二点も影響していよう。

総じて、大マスコミに馴化された大半の日本人にとって、トランプ氏の当選確実は、予期されない出来事であったと言えよう。指導者層さえそうであろう。私が明確に当選を予想していたとは、外形的に判断できないかもしれないが、それでも、クリントン氏の当選よりも、トランプ氏の当選が99%の米国民の国益に適うことを充分に指摘してきたつもりである。99%の米国民の利益は、99%の日本国民の利益につながる。何となく共産主義の表現めいているが、これは事実であるから仕方ない。付け加えておくと、民草の利益は1%の利益でもある。『Yahoo!ニュース』は言論工作の対象となっているであろうから、この論理を理解できない「日本人」が一定数(粘着的なのは30000名程度か)いることまでは確定しているが、この言論工作の場に見られるような蒙昧から、日本国民は解放される必要がある。

 

[1] トランプ氏が当確 米大統領選 | 2016/11/9(水) 16:42 - Yahoo!ニュース
(毎日新聞、ワシントン=西田進一郎、2016年11月9日16:42)
http://news.yahoo.co.jp/pickup/6220351

AP通信はトランプ氏が当選したと速報。米CNNによると、クリントン氏はトランプ氏に電話し敗北を認めた。

[2] トランプ氏勝利 日米関係はどうなると思う? - Yahoo!ニュース 意識調査
(2016年11月9日17:12閲覧)
http://polls.dailynews.yahoo.co.jp/domestic/26442/result

2016年11月6日日曜日

(メモ・感想)ナショジオも白旗を掲げたのか

近日、『ナショナル ジオグラフィック チャンネル』で『ライバルが暴く 真実と秘密』(原題:The faces、2016/11/08 11:30、2016/11/09 20:00、2016/11/09 21:00、2016/11/13 15:00)が放送されるそうであるが、そのキャッチフレーズは、「世界を動かす人々の知られざる素顔に迫」る「ウラバナシ」である。CMが、番組内でヘビーローテーションに乗せられている。著作権の関係上、安全を期してスクショやクリップ録画ができないが、ドナルド・トランプ、ウラジーミル・プーチン、サッダーム・フセイン、アーノルド・シュワルツネッガーの四氏がまるで世界を牛耳ってきたかのように見える番宣である。ごくごく最近までの風潮であれば、明らかに、トランプ氏やプーチン氏をディスるために用意した番組としか思えないのであるが、宣伝自体は、「世界を動かす」人物としてトランプ氏を描くものである。

マスコミの一斉的で執拗なネガティブ・キャンペーンにもかかわらず、少なくとも社会防衛上の正義は、今夏の時点から、トランプ氏の側にあった。ポール・クレイグ・ロバーツ氏の表現を借りれば、「売女」マスコミは、散々ヒラリー・クリントン氏を推してきた以上、どこかで白旗を揚げなければならなかったものと考えられる。そうでなければ、今後、「教養」番組専門の放送局としては、見識を疑われかねないからである。それが今回のCMの作り方につながったのであろうか、と邪推する。日本国内であれば、プーチン氏やフセイン氏をディスるだけでなく、トランプ氏をディスっても構わなかったはずであるが、CMの作りはそうはなっていない。シュワルツネッガー氏は、CMには出てこずに、ウェブサイトでは紹介されている。

ライバルが暴く 真実と秘密|番組紹介|ナショナル ジオグラフィックチャンネル
http://www.ngcjapan.com/tv/lineup/prgmtop/index/prgm_cd/2076

2016年11月5日土曜日

(メモ)アジア通貨危機への評価に対するジョゼフ・スティグリッツ氏の弁明

アジア通貨危機に先立つIMFの政策が「東アジア地域の弱体化か、少なくともウォール街の金融の中心にいる人々の所得拡大を狙って進められた」という議論を、ジョゼフ・スティグリッツ氏は、「IMFは陰謀に荷担していないが、西洋金融界の利害とイデオロギーを反映している」と評したという。スティグリッツ氏は、後日、この見解の前段と後段とが互いに矛盾(訳語は「排除」)するかのようであるがと質問され、次のように補足している。

お互いを補強し合うこともありえます。イデオロギーと利害が、明白な陰謀を補強するために用いられることもありえます。わたしが陰謀論を疑わしく思うのは、米国のような多様な市場経済において、全員を陰謀に加担させることなどできないだろうと思うからです。米国金融市場には、東アジアが強くなったほうが、グローバル経済のためにも合衆国のためにもよいと思う人がたくさんいます。

ここに言う「陰謀」の語には、注意が必要である。市場参加者全員の明白な意見交換を伴う計画のみを陰謀と呼ぶのであれば、陰謀は存在していないであろう。しかし、きわめて多額の資金を擁する少数の人物たちが、入念に公的統計などから「儲けの種」を選び出し、いくつかの通貨や国債に仕込みを入れておき、タイミングを見て売りを仕掛けたということを陰謀と呼ばないのも、これまた語感に合わないことである。大多数のウォール街の住人が大きな値動きに追随したことは、陰謀とは呼ばないが、陰謀を企図して仕掛けた者たちの思惑通りの動きであろう。

陰謀の語には、非難の意が付随する。非難の意を表現したと誤解されることを避けるため、学者が陰謀の語の使用を避けることは、安全策として必要かも知れない。ただ、この誤解を避けるがあまり、アジア通貨危機におけるクァンタム・ファンドの一連の動きを「陰謀」と呼ぶことを否定するとすれば、一体、何を陰謀と呼べるであろうか。ジョージ・ソロス氏の他国への関与がより確実な形で明るみに出されている2016年時点においては、当時の共起関係に基づいて、アジア通貨危機を陰謀と呼ぶことには、それほどの問題性は見られない。(2007年までの間にも、アジア人の側では、十分に関係性が疑われていたことを申し添えておく。)

スティグリッツ氏の指摘通り、ウォール街の金儲けを第一とする論理を内面化した人物が同調的な行動を起こすというだけでは、陰謀とは呼べない。ここで、陰謀と呼べるだけの十分条件を考えてみる。クァンタム・ファンドに何らかの形で協力した人物が、その時点でIMFに在籍していたことや、ファンドにIMFの元インサイダーを招聘してその内部知識を利用することに対しては、陰謀を認めることができよう。もっとも、この条件は緩やかに過ぎると考える者がいるかも知れない。陰謀と呼ぶには、IMFの政策がクァンタム・ファンドを具体的に利さなければならない、と考える者もいよう。いずれにしても、この両者の間に、陰謀と呼ぶことのできる境界線が存在するであろう。この条件をどれほど緩めれば、アジア通貨危機の構図になるかと言えば、共謀と呼べる密な連絡を一般人が追跡不可能であるというだけの条件しか存在しないのである。(この点、「寿司友」は「寿司友」と呼べるだけの状態にあるだけでアウトである。)

スティグリッツ氏の指摘したアジア通貨危機の構図は、俗に言う「阿吽の呼吸」で動いたもの、というものと言える。関係者の「忖度」や「期待」と呼び変えても良い。これらの心性は、陰謀とまでは呼べないものの、公正さとは程遠いところにある行動を生み出すものである。単に、「共謀」の要件である「謀議」が存在しないだけである。各人が己の職分に基づいて行動した結果、同調的な役割分担が生じたということであろう。カレル・ヴァン=ウォルフレン氏は、日本の政財官報の成員からなる、利権を死守するムラの心性を「鉄の四角形」と呼んだが、この構造は、成員の各人に内面化された心性を必要とするという点で、先のスティグリッツ氏の表現とほぼ同一の内容を述べている。ミシェル・フーコー氏の指摘した、規律の内面化という概念は、あらゆる職業人に敷衍できる一般性を有するものである。

私からすれば、スティグリッツ氏が「陰謀」の語を避けるのも、また、これを面と向かって問われた場合に否定するのも、理解できなくもないことではあるが、アジア通貨危機の状態を「陰謀」と呼ぶ者がいたとして、これを批判することは、避けるべきではないかと考える。公正な経済行動をはるかに超える悪質な行動であって、陰謀未満であるためである。それに、このような行動を繰り返してきた人物を重用してきたからこそ、アメリカは、その精算に苦しむことになっている。人は記憶から成り立つ生物であるし、歴史はその記憶・記録から成立する人工物でもある。戦争屋であることが明白な人物が弱みを見せているとき、そこから正当な取り分を奪い返そうとする諸国民の動きが生じることは、世の習いである。経済学者たちは、容疑が明白な戦争屋たちの行為を擁護したと糾弾されないように、99%にとって「悪」に荷担するように聞こえかねない言動を控えるべきであろう。

ネルミーン・シャイク[著・聞き手], 篠儀直子[訳], (2007=2009). 『グローバル権力から世界をとりもどすための13人の提言』, 青土社.(リンクはNDL-OPAC)

2016年11月4日金曜日

(メモ)『新ベンチャー革命』9月12日記事の誤解

豊洲新市場建屋地下にコンクリート製箱舟構造があった?耐震設計上は、盛り土基礎ではもたない:責任者は国民に設計変更経緯をキッチリ説明すべき! ( 建設・不動産 ) - 新ベンチャー革命 - Yahoo!ブログ
(H. Y.、2016年9月12日 No.1483)
http://blogs.yahoo.co.jp/hisa_yamamot/36204210.html

『新ベンチャー革命』の記事は、たびたび参考にしているが、上掲記事については、現実に対する誤解が見られるため、その誤解を訂正してアップデートする必要が認められる。その誤解を指摘するにあたり、2016年10月25日に開催された、東京都の市場問題プロジェクトチームの第2回会議資料を参照した。

市場問題プロジェクトチーム | 東京都
(2016年11月4日閲覧)
http://www.toseikaikaku.metro.tokyo.jp/shijyoupt-index.html

#ここから「第2回 」の「配付資料」と「録画映像 テキスト」を参照されたい。

『新ベ』1483号は、3点に主張を整理しているので、その主張に沿って検討したい。レイアウトの都合上、準見出しに引用した。

「1.話が違った豊洲新市場の地下の汚染土壌からの隔離対策、聞いてないよ!」

 これは、ありそうな話ではあるが、第2回ビデオにおいては、明らかにされていない。

ただし、ビデオ中、後半45分ほど?の質疑応答において示されるが、日建設計は、東京都(中央卸売市場)を仲介役に、築地市場の利用者(卸売業者)の意見聴取を行ったと証言している。とすれば、東京都が汚染土壌に関する情報も集約し、日建設計に提示すべきであったことになる。多様な情報の窓口となるためには、これらの情報の取扱方法(誰に・いつまでに・何を伝達すべきか)を理解している必要がある。これは、ワンストップサービスの予想されなかった弊害である、とは言えよう。官で何でも抱え込もうとすることには、このような危険がある、ということか。

「2.豊洲新市場建屋の箱型コンクリート基礎構造は東京湾に多数建設されているLNG地下タンク構造に似ている」

 これは誤りである。箱型構造は、側面の土壌によって揺れを抑えるような構造を指して用いられている。が、現状、豊洲市場の基礎は、箱型と形容されるような建築構造になっていない。それに、豊洲市場の地下には、杭が十分に打ち込まれている(と日建設計は主張している)。

杭の話から確認しておくと、森高英夫委員は、鋼管杭が基礎ピット階(地下空間)の柱の下に埋め込まれていると説明している〔ビデオ0:11:45頃〕。日建設計の資料と説明によると、安定的な地層にまで到達するよう、フーチング(基礎部分の柱)につき1~3本、埋設されている〔資料4-1 p.34〕。その根拠となるモデルは、〔資料4-2 p.7〕に掲載されている。鉄筋コンクリート造の建物は、おおよそ東京都特別区の南部では、杭を安定した地盤まで打ち込み、その上に建設しておかないと、地震のときに(不等)沈下する。杭と基礎ピット階のフーチングが地震の揺れによりずれることはない、と日建設計がビデオ中で説明しているのは、この土台となる杭の上に建物が乗り続けている必要があることを示す証拠である。

豊洲市場の側面の土壌が建物の揺れを抑える形になっていないという指摘は、第2回の主要論点として、高野一樹氏※1が、模型を使用して問題提起している〔資料3-1 p.12、ビデオ0:33:10~0:37:30〕。このデモンストレーションに対しては、誤解を招くとの批判がビデオ中に見られるが、少なくとも、高野氏の指摘自体は、真っ当なものである。事実、日建設計側も、高野氏の事前の指摘を受け、第2回会合に向けて、わざわざモーダル・アナリシスを実施したことを説明している〔資料4-1 p.33〕。この建築構造のシミュレーションは、周りの土壌が建物の横揺れを抑えないという仮定を措いて行われている。もっとも、日建設計は、基礎ピットのモーダル・アナリシスを受けて、次のように要約・反論している〔資料4-1 p.35〕。

ウ:基礎ピット

基礎ピットの外周は大部分が土に接していますが、土の拘束効果を前提としていません。

拘束効果を考慮しなくても、基礎ピットは十分頑丈に設計しているため、5階建とみなす必要はありません。

「3.汚染土壌からの隔離構造は、耐震設計上も盛り土基礎より箱舟基礎の方がベター」

この言説自体の真偽は、何とも私には分かりかねるが、現状は、箱舟状の基礎になっていないし、盛り土構造にもなっていないから、論じること自体に意味がない。本来、盛り土基礎を想定していたところ、現実に地下ピットが存在していることは、環境安全上のみならず、構造計算にまでややこしい事態を生じさせている。地下ピットが必要であった理由を丹念に辿ることは、技術上の小手先の論議に陥らない、根本的な疑義を生じさせることであろう。

おまけ:市場問題プロジェクトチーム第2回会合の感想

以上で、『新ベ』1483号の話は終わりであるが、ここで、市場問題PTの第2回会合の問題点を感想として述べておきたい。第一に、再度、構造計算プログラムを最初から走らせることをしないのか、という点に疑問がある。設計書に転記ミスがあったということは、別のところにも転記ミスがあると考えて何ら不自然ではない。高野氏と彼のチームにすべての設計データを提供して、再計算してもらうことは、数千億円がすでに投じられたプロジェクトの正統性を保証することにつながるので、ぜひそうすべきである。出てきた結果は面白いことになる、と私は確信している。

会議は、日本的な会議であり、表現は悪いが、大変見応えのあるビデオであった。最初から構造計算をやり直すことに対しては、これを不要とする、委員による発言も見られた。ムラを媒介とする、利益相反関係の存在も認めることができた。ビデオを確認した上で、今後アップされるであろうテキストと比較することも有用となろう。

建築構造について知識のある人が資料だけを読み事情を把握しようとする場合、株式会社日建設計の示した資料4-1について、2点を留意する必要がある。一点目、押さえコンクリートの1cmという表記は、転記ミスであったこと。二点目、p.13(700kg/平米)は、あくまで参考資料であって、日建設計が独自に築地を調査して算定した値を採用していること。

※1 ツイッター上では、ペコちゃんdēmagōgos(@a_la_clef)氏。




2016年11月4日23時30分時追記

『新ベ』のH. Y.氏は、9月23日の論説で豊洲市場を譲渡してカジノ経営を認めさせれば、戦争屋たちによる東京湾直下型地震の虞がなくなると述べている。この見解は、豊洲市場の建物問題、海ほたるに埋設された地震起動装置、北朝鮮のミサイルの脅威、戦争屋の脅迫、という異なる命題の複合技によるものである。「陰謀論のメガ盛りミックス」と形容するに相応しい内容であるが、私自身も本稿でこれらの事象の間に認められる課題に取り組む以上、お互い様である。

この追記では、H. Y.氏が、日本国政府を「飴」ではなく「鞭」に屈したと解釈するところ、日本国政府が「飴」に屈したと見た方が良いという主張を提起する。H. Y.氏の結論で気になるところは、これらの材料から引き出される結論が、やむを得ないとするかのような、受忍的なものであって、日本人庶民としての狡知を何ら見出すことができないことである。シリアにおける戦争を認め、資金としてカジノの収益を献上することはやむを得ないという論法は、何とも人間性に違背する印象を与えるものである。H. Y.氏は、記事No.1493において、

  • カジノが継続的にマネーロンダリングに悪用されうる虞
  • 北朝鮮が戦争屋の傀儡である必然性
  • 北朝鮮のミサイルが原発を狙うことが豊洲市場の転用計画抜きに成立する可能性
の三点の説明を省略することにより、カジノ転用計画を通じた戦争屋の延命を認めざるを得ないかのように記す。

結論に近いところを記すと、ヒラリー・クリントン氏が戦争屋候補として脱落しつつある現在、安倍晋三政権は、世界中でほぼ唯一の戦争屋に追随する「先進国」の政権である。このように、私は推測している。「首都直下型地震」という脅迫ツールが真に戦争屋の手中にあるとすれば、われわれは、政府に対する俎上の鯉として振る舞い、カジノ転用を止められないにしても、そこに「毒素条項」となる「賭け金の上限枠」や「一晩の勝ち金の上限額(20~30万円)」を盛り込むほかない、と考える。今は、戦争屋を世界の檜舞台から引きずり下ろし、国際社会を正常化するための最大の好機である。この国際社会の正常化なくして、福島第一原発事故の終息・解決はなく、同事故の終息・解決なくして、日本国民の安全はないのである。

現在のわが国に対し、北朝鮮の脅威は厳然と存在するが、同国の影響を、特に軍事的行動を、豊洲市場カジノ転用計画と短絡させることは、誤りである。わが国に対する北朝鮮の軍事的脅威と、豊洲市場カジノ転用計画が頓挫したときとの関係性は、次の説明により否定される。戦争屋と北朝鮮は、互恵的な関係にあるかも知れないが、ミサイルを日本の原発に向けて発射せよという戦争屋の命令は、北朝鮮にとって従う必然性のない自殺的なものである。その結果から生じる展開は、北朝鮮にコントロールしきれない複雑なものとなり得るし、展開次第では、北朝鮮の現体制の崩壊を招くものともなり得るからである。よって、戦争屋の命令があったとしても、北朝鮮は、ミサイル発射による原発攻撃という種類の軍事行動に限れば、周辺国が動かないという確約を得られない限り、戦争屋の命令に従い、わが国の領土に被害を与えるように攻撃を加えることはしないであろう。他方で、戦争屋が北朝鮮のふりをしてわが国に攻撃を加えることは、想定に含めなければならない。なお、注意すべきは、北朝鮮がわが国にとって脅威であるのは、北朝鮮にとってもわが国が脅威と見做されているからでもある、という相互依存的な事実である。戦争屋は、この緊張状態につけ込もうとしているが、わが国の側はともかく、北朝鮮の現体制は、この状態が戦争屋に利用されていることを、十分に承知しているであろう。

カジノ解禁は、パチンコにも影響しない訳がない。このため、カジノの実現という一点に限定すれば、戦争屋と北朝鮮は、わが国の法・社会環境に対して、共闘を仕掛けることが十分に考えられる。実際のところ、カジノとパチンコの客層(全国に満遍なく存在する多数の高齢客)は異なるものと考えられるし、カジノのマネーロンダリング機能は、パチンコの収益モデル(数万円ずつ、多数の勝ち負けを通じて集金する)とは無関係に機能する。一回のゲームにおいて大金が移動すること、ゲームが一晩のうちに非常に速いペースで繰り返されることが、カジノにおけるマネーロンダリング実現のための要諦である。株式市場等において、超・大金持ちが、多数の小金持ちから、市場の撹乱を通じてカネを抜くための仕組みと同じである。ボラティリティ(値動きの幅とでも理解すれば良い)が大きく、取引が非常に高スピードで行われることが、ビジネスの態様なのである。ここに言う超・大金持ちは、株式市場という賭場の、実質的な所有者にもなっている。戦争屋グループは、カジノの所有者でもあるが、利用者でもある。

日本の財界の主流派は、戦争屋たちに組み込まれて機能しているため、ここでの謀略に荷担することもあろう。ただ、カジノ転用計画は、仮に国際問題となる形で実現しようとすれば(、つまり、国際的なマネロンシステムの要として機能させようとすれば)、現在の世界情勢を見る限りでは、「海外の良心派」によって容易に暴露され、経営上の「旨味」が潰されることになろう。よって、TPP法案の採決がもっぱら国内においてのみ影響を与えるものと予測されるように、日本の財界主流派は、もっぱら国内の搾取のみを通じて、生き残りを図ろうとするであろう。また、この国内的な運動に対抗する動きが政治的勢力として台頭したとき、初めて、その動きに対して、直下型地震の恐怖が封込めの手段として用いられるかもしれない。ただ、ここでも、北朝鮮の了解なしに北朝鮮のミサイルを偽装することは、あり得ないことであろうし、現在の国際環境下において、北朝鮮に罪をなすりつけようとしたときには、北朝鮮は反発し、日本国内の戦争屋に対して何らかの報復措置を執るものと予想できる。

ところで、東京という経済的装置は、すでに住宅バブル崩壊の兆候が色濃く認められる[2]と同時に、高層マンションバブルへの課税強化が図られつつある[3]ように、制度疲労が頂点に達しつつある。仮に、直下型地震を自在に起こす装置を保有する勢力が、日本国内の財界の主流派と組んでいるとすれば、スクラップ&ビルドの最たる方法として、首都直下型地震を発生させるということはあり得る。このとき、カジノが経済復興の一手段として提唱されるという展開は、見込まれるものである。戦後復興において、各種の自治体ギャンブルが税収の増加を期待して導入された経緯と同価である。ただ、この因果の向きは、H. Y.氏の主張とは逆になる。

それに、カジノを認めなければ、直下型地震に訴えられてしまうというH. Y.氏の懸念には、根拠がない訳ではないとはいえ、このような脅しをかけてくる非国家集団の言いなりになる国家は、すでに国家と呼べるだけの能力を持たない存在である。国家としての機能は、落第も良いところである。他方、脅しをかけてくる側も、随分と駄々っ子極まりない状態である。「カジノを認めないなら、直下型地震だぞ~」というのは、ほとんど先週(=ハロウィーン)のノリである。

戦争屋が生存するために色々と仕掛けを繰り出すことは、理解できない訳ではないが、これは国家を預かる通常レベルの指導者とて、同様であろう。日本人は、(自然・人工の別を問わずに)直下型地震や、(カジノとは関係ない形で、具体的な危険の大きさはともあれ、)北朝鮮のミサイル等の脅威に晒されている。このように重大な脅威をちらつかされて要求される対価がカジノの運営とすれば、マネロンの装置がほかにもあり得る以上、この状態は、どうにも据わりの悪いものである。北朝鮮にミサイルを撃ち込ませてまで、カジノを要求するというのは、戦争屋が余程の窮地に陥っているという状態を示す兆候になりはしないか。ラスベガスは、厳格な監視の下にあり、マネロンの装置として機能していないのか。

以上の要素を総合すると、戦争屋に脅されているからというより(=鞭)、指導者層が積極的に戦争屋に迎合するがために(=飴)、カジノ転用計画が実現するというのが、考え方の本命として適当であると結論付けられる。H. Y.氏ほどの思索者が、そもそも、現政権が戦争屋の根幹を支える構成要素であるという点を看過するのは、不可解とも言える。それに、わが国の指導者層が庶民を顧みないことは、そもそも平常運転である。東京湾=首都直下地震を人工的に発生させることができ、その必要があれば、わが国の指導者層は、躊躇無く庶民を踏み台にするであろう。これなら納得がゆく説明である。

H. Y.氏に対して不当な圧力がかけられているというケースは、十分に想定することができる。これに対しては、一定の(奇妙な形の)論理力を備える人物であれば、カジノ転用計画を容易に見破ることができる、という事実を提示して、圧力をかけることがすでに無駄である、と指摘することができる。ネット社会は、インターネットが核戦争後の機能保持を目的として用意されたことからも理解できるが、一定以上のレベルの読者から、正当な言論を奪うことを非常に困難な状態に置くことができる。日本語社会は、ガラパゴス化しつつあるが、他言語環境下では、戦争屋はすでに敗北している。存在が暴露されてしまっているためである。

これに対して、私は、日本語環境下では、何とやらの遠吠えかも知れないが、カジノにおける勝ち金の上限を、一般庶民にとって満足できる程度に収めるという方法を早期に検討せよ、と提唱してきた(リンクは省略)。これに対して、ボートレースにおける1億円という勝ち金を可能とする賭け方が検討されていることや、TOTOや宝くじの当選金の高額化も、社会防衛という観点から言えば、同様の脆弱性を有することになる。これらの動きが同時多発的に生じているのは、あるギャンブルだけ抜け駆けは許さない、ということでもあるが、もう一つには、わが国しか戦争屋の収奪先がなくなっている、ということでもある。

[1] 豊洲新市場をラスベガス化すれば、東京が北朝鮮ミサイルのターゲットになることもなく、直下型地震が起こされる心配もなくなる ( その他ビジネス ) - 新ベンチャー革命 - Yahoo!ブログ
(2016年9月23日 No.1493)
http://blogs.yahoo.co.jp/hisa_yamamot/36230450.html

[2] 過去最悪! 首都圏賃貸アパート「空室率30%超」の衝撃 | 日刊ゲンダイDIGITAL
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/183277

#ただし、この記事などで引用されている株式会社タスによる空室率TVI(TAS Vacancy Index: タス空室インデックス、下記資料p.10)は、人気のない物件の登録が集中する、複数の登録が同一住戸について行われる可能性が認められるために、過大推計になっているかも知れない。このため、実際の空室率として扱うよりも、時系列上の推移を踏まえることが大事であろう。

Vol81_Vol53residential20160930.pdf
『TAS賃貸住宅市場レポート 首都圏版 関西圏・中京圏・福岡県版』(2016年9月)
http://www.tas-japan.com/pdf/news/residential/Vol81_Vol53residential20160930.pdf

[3] タワーマンションの課税強化、高層階の固定資産税を増税! | 相続税理士相談カフェ
(2016年10月25日)
http://www.happy-souzoku.jp/souzoku-13190.html


おまけ。11月2日時点でも、H. Y.氏は、豊洲市場の建築構造が箱船状であると述べているが、これは、本記事の前半部で論駁したとおりである。コストの増加を抑えるために、鋼板の基礎杭を埋め込んでいるようである。

[4] カジノホテル経営者・トランプが次期米大統領選に勝って、TPP第一弾として豊洲市場施設を米国外資のカジノに転用するよう要求されたら日本はもう拒否できない! ( その他政界と政治活動 ) - 新ベンチャー革命 - Yahoo!ブログ
(2016年11月2日 No.1524)
http://blogs.yahoo.co.jp/hisa_yamamot/36320770.html

もし、盛り土基礎で行くなら、30m以上もの長い杭を多数打つ必要が生じて、ベラボーなコストが発生するとすぐにわかったはずです、だから、耐震安全性と経済性の両面から、今のような箱舟基礎になるのは自然なのです。




2017年7月25日訂正・追記

本文中のbrタグをpタグに変更した。本文は、レイアウトのみを加工している。

東洋経済2017年7月21日の山田徹也氏の記事[5]は、本文記事中のTVI(タス空室インデックス)を掲載している。埼玉県の空室率の推移は、実に4軒に1軒という値となっている。ただ、本文中で指摘したように、この指標は、過大推計である可能性が残る。どのように1軒の物件に係る重複登録を集約しているのかは、この指標の利用者が確認しておくべきであろう。端的には、ごく一部の問題入居者が一棟の賃借人を丸ごと退避させる状態にまで一棟の物件を追い込んでおり、その数値が過大推計の源となっている、というケースが考えられる。

[5] 「賃貸住宅市場が危ない」、日銀が異例の警鐘 | 不動産 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準
(山田徹也、2017年07月21日)
http://toyokeizai.net/articles/-/180975

(感想)目の横のクマ


 福島第一原発事故の晩発性影響を心配する人たちは、目の隈(クマ)についても注意しているであろうし、事実、多くのツイートや書込みを見ることができる。一応ググってみたが、隈の出方について細かく説明する人も少ないので、眠いときに出る隈とそうでないときにも出ていそうな隈との違いがあることに、今更ではあるが、初めて気が付いたので、報告しておく。あくまで、東京都民の感想の一例ということであるが、人工知能による画像分析の際や、後世には役に立つかも知れない。

 眠いときに涙袋に隈ができるのは、誰しも経験することかもしれないが、目の横に隈ができるのは、3.11当時、東京以北・以東に住む日本人が現在抱える種類の問題であるかも知れない。以下のポンチ絵のような形である。私は眼鏡が手放せないオッサンであり、眼鏡の鼻当ても当たる場所もあるが、そこではなく、眼鏡のフレームにちょうど当たるところの下に出がちである。日焼けか?とも考えられるが、顔を正面から見たときの篩骨洞(ethmoid sinus)の前面に当たる部分だけに黒いすじが現れるのは、日焼けとも眠いときのクマとも言えないであろう。

眠いときのクマ〔左〕と正体不明(棒)の原因によるクマ〔右〕
図:眠いときのクマ〔左〕と正体不明(棒)の原因によるクマ〔右〕

2016年11月3日木曜日

(メモ)石原慎太郎氏の「記憶にない」発言は公文書の透明性を高めるか

 豊洲市場建設の経緯に係る小池百合子都知事名による質問書に対する、10月26日時点の石原慎太郎氏の回答は、要は、「都の内部文書に当たって欲しい」というものである。これらの質問は、そもそも、日記や個人的なメモを付けていなければ、覚えていられないレベルの話であるし、日記やメモを付けていても、都の内部における決裁の詳細を日記に付けて良いものか否か、ということになろう。ただ、当人のスケジュールと面会相手の情報だけからでも、大きな話であれば、多少は思い出せるものであろうとは思うのだが。

 仮に、カジノ転用計画に石原氏が「一枚噛んでいた」とすれば、覚えていても回答しないということは、十分にあり得る話である。都の内部文書によって後追いすることも困難かも知れない。石原氏が本件を日記に付けているとすれば、松本清張氏の『黒革の手帳』の世界の話である。日記に委細漏らさずカジノ転用計画を記すなんて、石原氏らしくないように思える。もちろん、本段落の話は、仮定の話であるから、それ以上でもそれ以下でもない。

 豊洲市場は、現時点で浮上している各種の材料から見れば、当時の担当の都職員から見ても、責任者が「生贄」にされかねない種類の危険な話であることが予想できていたであろう案件である。このため、当時の市場に関与した都職員は、各人が何らかの保険を掛けているはずである。それは、石原氏の言うように、「のり弁的」ではない決裁文書に逐一記されているかも知れないし、もう少しほかの手段であるかも知れないが、空手ということはないであろう。誰でも同じ判断に至ることができるような判断を組むことは、正しい公務員としての保身術であるから、当初の学識経験者の提言を無視するからには、相応のバックアップが存在していると考えるのが、外部から見た場合の本件の評価となろう。

#念のため、本記事は、基礎ピット(または地下ピット)を設けるか否かに係る都職員の処分ではなく、カジノ転用計画を知っていたか否かという部分を想定して記したものである。直感に過ぎないが、本件基礎ピットの話は、二段底になっているはずである。


Listening:<豊洲問題>小池知事の質問・全文 / 石原氏の回答・全文 - 毎日新聞
(記名なし、2016年10月26日)
http://mainichi.jp/articles/20161026/org/00m/040/005000c

2016年11月2日水曜日

TPP締結のため戦争屋は日本国政府の購入した米国債を利用するかもしれない

 米国大統領選におけるドナルド・トランプ氏の勝利後を予測すると、日本国の購入した米国債の扱いが焦点になることが、TPPとの絡みで浮かび上がる。現時点の日本における陰謀論者の知的リソースの何割かは、TPP自体に向けられている。大マスコミは4日成立の方向と報じているが、報じられないことがある。それは、TPP法案を他国に成立させることの難しさである。

 米大統領選こそは、世界大戦を通じた世界政府への道と、国民国家を基調とする多極的世界への道との分岐点である。ただ、現状を憂う日本人がルールを逸脱せずに実効的に99%側の米国人を支援できることは、多くないように思われる。わが国において、わが国に対するTPPの悪影響を暴き出すことは、数少ない貢献策のひとつではある。ただ、それだけでなく、日本側の切り札として、日本が購入した米国債が利用されるという危険性を指摘しておくことは、世界平和のために貢献している組織や個人等に対して、対策を立てる余地を与えるための警告になり得る。その支援は、巡り巡って日本の将来に役に立つと信じるからこそ、本記事では、この危険を指摘する。

 TPPは、相手国がなければ旨味の少ない、未成立の条約である。TPPを確実に成立させるための力がなければ、TPPにより利益を得るであろうわが国の1%は、急いでも仕方がないことになる。しかし、現在のわが国には、国内の実力に応じた外交力と呼べるものが存在しない。この矛盾する状況は、経済的ツールとしての米国債と、軍事的ツールとしての「核」爆弾(級の何か)の存在によって架橋されうる。後者の存在を追究する作業は、もう少しだけ後回しにしておきたいが、ネット上では、この可能性を指摘する声がいくつも見られる。

 恐慌等を生じさせるだけの経済力が、他国からの侵略に対する抑止力として機能するとすれば、この経済力は、TPP締結を他加盟国に強制するだけのツールとなり得る。この仮説は、TPPの成立を現政権が急ぐ理由を正確に説明するものとなる。以下の展開を見込むことができる。
  1. トランプ氏が勝利する=戦争屋が敗北する
  2. 戦争屋が日本に逃走する
  3. 受入先はミネルヴァのフクロウのあるところかな?
  4. 過去の戦争犯罪の追求を逃れるための取引材料として、フクロウ経由で米国債の売却を仄めかす(=脅す) 

 米国債の売却というキーワードを出した政権は、従来であれば、短命に終わるのが常であった。トランプ氏の勝利により、今度はいかなる展開を迎えるのか。わが国の陰謀論者は、TPPの危険性を訴えることのほかに、今後の道行きを考察するという作業も行う必要がある。

2016年11月3日18時30分修正

タイトルが許容できないくらいに意味不明であったために修正した。
  • 前:TPP締結のため戦争屋は日本国政府の米国債を利用するかもしれない
  • 後:TPP締結のため戦争屋は日本国政府の購入した米国債を利用するかもしれない


 TPPを米国抜きで日本国政府が主導するという事態は超大穴である、と以前に予想したが(2016年1月9日)、この嘘のような話が現実化する危険が認められる現在、生活安全警察行政の四大分野、銃器・風俗・薬物(特に大麻)・賭博に係る私の考察も、変更する必要があるかも知れない。これらの分野について、私は、TPPにより不可逆の影響を与えられる、つまり解禁されるものと指摘した(2015年9月25日)。しかし、日本国政府が米国抜きでTPPを主導する程の、何らかの実力の裏付けを有している場合には、条文を逐条的に掲載しておらずとも(2015年11月7日※1)、10章の附属書II分野11「法の執行及び矯正に係るサービス並びに社会事業サービス」に記載した文面により、自国の都合を押し通すことができると考えていたかも知れないのである。

 2012年3月のメルボルン・ラウンド後※2、生活安全行政に係る附属書II分野11の影響が、企業関係者らによって検討され、政府機関内においても決裁されていることまでは断定できようが、その経緯が開示されないという状態は、わが国の「第二の敗戦」時には、興味深い結果を引き起こすことになろう。というのも、これらの経緯は間違いなく秘密保護法の指定対象となっているであろうし、隠蔽の必要を感じ取るくらいの実力は、わが国のどの高級官僚にも備わっているであろうからである。しかし他方で、その結果が連帯責任になるということまで、個々人が理解した上で各自の「保険」をかけているのであろうか。2012年の時点で、TPPは、少なくとも一部の官僚には、「農林水産業以外についても、最小・最低の状態にまで、わが国を含めた各国政府の規制を撤廃する」という内容として、理解されていたことであろう※3から、TPPが国益を棄損することは、十分に理解されていたはずである。

 ところが、2012年3月の時点で、何らかの実力公使の含みを日本国政府がTPP加盟国に対して臭わせることを知っていた人物が、TPP第10章の附属書II分野11を検討していた場合、見えていた景色は随分と異なるものになっていた可能性が認められる。あからさまに危険が予想される内容に対して、包括的な法執行云々の留保という、およそ稚拙な条文が用意された形になっていた訳であるが、この条文は、日本が相手国に対して強く出られる場合に限れば、規制の強化までを含めて、強気に出る上での根拠に利用できるものとなる。強気に出ることができるという見通しがあればこそ、包括的な文面でOKという形になっていたとも読める訳である。この解釈が成り立つという事実は、2012年の時点で、福島第一原発事故の四号機にまつわる色々な話が、この附属書の案文を決裁した関係者に共有されていたという解釈をも牽連して成立させるものとなる。

 しかしながら、各国の外交・防衛関係者を出し抜いて、わが国がふたたび大日本帝国を超えるような伸張振りを経済的外交において達成し得るかと問われると、私の答えは断じて否である。米国の主導した形でのTPPが米国民の意思により否定されようとしているのであるから(←これには感謝)、各国の外交関係者は、今こそTPPから足抜けするための方策を探っているであろう。ブルネイ・シンガポールの両国は、あまりに領土が狭小であるため、単独では、わが国の新規の軍事的影響力を無視して足抜けすることが難しいかも知れない。しかし、オーストラリアが抜け、カナダが抜け、チリ・マレーシア・ペルー・ニュージーランドと(面積順かどうかは怪しいが、)抜けていったとすれば、結局TPPは成立せず、各国の司法の安定性は、確保されるということになろう。


※1 2016年10月追記分を参照

※2 インターネット・アーカイブス収録のファイルの題名を参照。

Microsoft Word - TPP NCMs - Consolidated formatting note - Annex II - Post Melbourne Round (clean).docx - Annex II. Japan.pdf
https://web.archive.org/web/20151117165019/http://www.mfat.govt.nz/downloads/trade-agreement/transpacific/TPP-text/Annex%20II.%20Japan.pdf

※3 これは、一種の後出しジャンケンにもなりかねないが、私の2012年当時の予想を敷衍したものでもある。

2016年11月1日火曜日

「2016米大統領選における男女の分断」という分析はクリントン氏有利に働き得る

#少し鮮度の落ちた話になるが、米大統領選挙前であるので、時機を逸したことにはならないであろうから、公開することにした。わが国に思考の本拠を置く陰謀論者にとって、本年10月は混迷の極みにあった。昨日のFBIによるクリントン氏への捜査は、アメリカに良心ある組織人がいることの証拠ということであろうか。


候補者の資質は性別によるものではないが、性別は土俵の設定に悪用され得る

日経は、男性票だけではトランプ氏有利であるが、女性票を加えるとクリントン氏有利という、ネイト・シルバー氏の予測を掲載している[1, 2]。自社グループから出版した『シグナル&ノイズ』のつながりによるものと思われる。この分析は、十分に後追い可能なデータが(日経の紙面上で)提示されないから、何ら面白みのないものである。しかし、この分析の怪しさを定性的に指摘することは可能であるし、その過程で、本件分析がクリントン氏への鞍替えを促すことを狙ったものであることを示せるので、今回、この点を考察しておきたい。今後、集団的自衛権等に基づき海外派兵するという展開をわが国が迎えた場合、現時点の米国大統領選挙と同様の構図が生じないとも限らないためである。

シルバー氏の指摘には、性別上の対立を煽るという一次的な効果があるが、この一次的効果は、[(投票者に影響を与える)周囲の人物(の性別)]と[投票者自身の性別]という二種類の属性の組合せから、投票行動を変更させる効果がある。[周囲の人物]は、友人でも家族でも良い。態度を決めかねている独身者で、同性とつるむことの多い人物は、自身の性別と共通の候補に投票するかも知れない。他方で、妻を持つ男性の場合、妻を慮り、トランプ氏への投票意向を翻意することもあろう。逆に、夫がトランプ氏支持であるかを問わず、この記事に接するだけで、女性がトランプ氏に鞍替えするという効果は考えにくい。この分析だけを提示された場合、トランプ氏からクリントン氏へ乗り換えようとする投票者が出てきても不思議ではないが、逆に、クリントン氏からトランプ氏へ乗り換える投票者は、相対的に少数となろう。

女性がトランプ氏に鞍替えする可能性が高くなるのは、青年期の息子と母親という組合せのように、男性が兵役に就く可能性の高い家庭であり、かつ、女性がクリントン氏の好戦性に気が付いている場合である。ヒラリー・クリントン政権は、必ずや米国を海外派兵に導くであろう。この点を知る女性投票者は、よりマシな人物を選択することを迫られることになる。結局、候補者の政策こそが重要である。にもかかわらず、シルバー氏は、この点をすっ飛ばして、候補者の下半身に話を収斂させるかのように、候補者の性別のみを問題とするのである。

女性という生物学的性のみを強調するという方針は、大メディアによる作為であると認められる。『報道ステーション』10月21日に登場したオーストラリア人女性のマルチタレントにしても、現都知事の「活躍」にしても、わが国の女性閣僚3名にしても、ヒラリー・クリントン氏を女性として持ち上げる効果を有する。もっとも、最後の点については、むしろ個人の資質を問う声を報じる報道もあり、政治分野における野心的な女性一般の資質に対して疑問符を抱かせるものにもなり得る。ここでも、政治家としての適性は生物学的な性別やジェンダーにもよらず、個人に帰属することを繰り返して指摘する必要がある。

このシルバー氏の分析は、選挙に影響を与えうるという意味で問題を含むものである。


単回帰直線を2名の候補の得票数に当てはめるという「土俵」に乗る必要はなかった

シルバー氏のブログには、2009年イラン大統領選挙についても、専門家にふさわしくない検討を行う記事が見られる。以下では、シルバー氏の記事がなぜ専門家としてふさわしくない内容であるのかを検討する。その際、同氏の記事で用いられている回帰分析とはいかなる分析方法であるのかを、改めて確認しておく必要がある。回帰分析の意味が理解されずに、Excelに実装された機能が誤用されている節が認められるためである。

回帰分析(regression analysis)は、変数XとYからなるデータがあるとき、Xによって、Yを定量的に説明するための、回帰方程式と呼ばれる式を求める方法である。Xを独立変数(independent variables)や説明変数(explanatory variables)、Yを従属変数(dependent variables)や被説明変数という※1。回帰分析は、XとYとの間に関係があるか否かを分析の目的とする相関分析とは異なる。また、分析者は、XによってYを説明するという因果関係を暗黙裏に設定していることになる。なお、回帰分析で求められた回帰方程式は、将来の類似したデータに対する予測にも用いることができる。

シルバー氏[3]は、ムハンマド・サヒミ氏(Muhammad Sahimi)による2009年6月のイラン大統領選挙の回帰分析[4]を取り上げ、不正の証拠であるとするサヒミ氏の見方を否定している。サヒミ氏は、説明変数をアフマディネジャド氏の得票数、被説明変数を対立候補のムサビ氏の得票数とする単回帰直線※2を作成し、決定係数(R-Squred)※3が0.998という高い数値となったことを挙げる。これに対して、シルバー氏は、2008年のオバマ氏対マケイン氏の2008年米大統領選挙の得票経過を同様の方法で分析してみせて、決定係数が0.9959となったが、米大統領選挙に不正があったとは言わないであろう、と指摘した。私から見れば、不正選挙の虞は得票数の並び方と必ずしも関係しないし、サヒミ氏の方法は回帰分析の誤用である。このため、専門家であるシルバー氏が同じ土俵に乗ったこと自体に違和感を覚える。

サヒミ氏と同様の方法は、「不正があるから、斉一的な得票数の伸びとなった」というサヒミ氏の命題を否定する論拠とはならない。シルバー氏の指摘は、せいぜい、「斉一的な得票数の伸びを見せる正当な選挙結果もある」という命題が並立するという根拠を示すものに過ぎないからである。両氏の論証の形式は、ともにアブダクション[5]であり、一つの結果(斉一的)に対して複数の原因(不正がある・ないの両方)を許すものである※4。事の真偽を確認するためには、われわれは、シルバー氏の意見の当否についてはともかく、サヒミ氏の意見の当否そのものを検討しなければならない。

つまり、シルバー氏は「不正な選挙なら、得票数の伸びが斉一的になる」という命題に対して、「公正な選挙でも、開票以外のプロセスに不正があったとしても、理想的な開票作業においては、得票数の伸びが斉一的な方向に向かう」ことを反論し、方法の不適切さを真正面から否定すべきであった。シルバー氏の論理は、2009年イラン大統領選挙の真偽こそ断定しないものの、2008年米大統領選挙が不正なものであるという可能性を認めるものにもなりかねない。「2008年米大統領選挙について、不正が行われなかった証拠を挙げよ」という反論に対して、シルバー氏の論法は、有効な防御の難しいものである。


理想的な開票作業の下では、得票数の伸びは二項分布に従う

理想的な開票作業が行われている限り※5選挙の開票が進むにつれ、各候補の得票数は、斉一的な伸びを見せる他方で、開票の途中から、主要候補の得票数の伸びが大きく変化する候補については、選挙管理委員会による何らかの作業が影響していることが考えられる。それは、単にその候補者に対する検票作業が入念に行われているだけかも知れない※6。全国選挙である場合には、都市部の有権者数の人数が多数であるため開票作業に遅れが生じ、都市部住民の意向が相対的に遅れて反映されているのかも知れない。もちろん、途中から、実際に不正な票の水増しや廃棄が行われているかも知れない※7

得票数の伸びの斉一性を説明するモデルとして最も基礎的なものは、二項分布をそのまま用いたモデルである※8。このモデルの下では、$n$名の候補者がいる選挙において、時刻$t (0 \leq t \leq s)$における特定候補$i$の開票済み票数$x_{it}$は、その候補者の得票率$p_{is}$と開票済み票の総数$x_t = \sum_{i = 0}^{n} x_{it}$を母数とする二項分布に従う。$i = 0$は、無効票・白票などとしておこう。このモデルを措定したとき、任意の候補者の予想得票数$x_{it}$を実現値$X_{it}$と組にして散布図を作成すると、何も不正がなければ、両者の形状はおおよそ1:1で推移するはずである。他方で、実際の得票数(実現値である$X_{it}$同士を比較することには、それほど意味がない。意味があるのは、予測値との関係を考慮するときだけであろう。つまり、予測値の組が散らばるであろう範囲の内部に、実現値の組も常に収まるという傾向を確認するときである。多数の候補者が一つのポストを争う場合、ある候補者についてだけ、実際の得票数が予測値から外れる傾向が見られる場合、その候補者について、何らかの作為が進められたものと考えることは、無理筋ではない。もっとも、候補者が二名だけの場合や、候補者間で票の移し替えが行われた場合などは、それに応じたモデルを立てるのが筋である。

時刻$t$の時点では、候補$i$の最終得票率$p_{is}$と、その時点の全投票数$\sum_{i = 0}^{n} X_{it}$から、候補$i$の得票数$\hat{x_{it}}$を予測できる。この予測得票数$\hat{x_{it}}$を、候補$i$の実際の得票数$X_{it}$と比較して初めて、モデル化の威力が発揮される。国政選挙では、各候補が数十万人単位の票を獲得することが大半であろうから、二項分布を仮定したモデルは、条件が厳格過ぎて、実測値が予測ベースに乗らないことも多いかもしれない。それでもなお、この理想的なモデルに対して実現値が乖離しているとき、この理想からの乖離の程度、ならびにその変化を検討することは、現実の開票作業の適切さを検討する上で、意味のある分析となりうる※9

2009年イラン大統領選挙の開票経過は二項分布に乗らない

モデルから現実を説明しようと考えてみると、「当選候補の得票数$X_{1t}$によって、対立候補の得票数$X_{2t}$を説明する」という説明が不適切であると分かる。$X_{1t}$と$X_{2t}$という実現値は、因果関係の上では、両方とも結果の側に属する数値である。$X_{1t}$と$X_{2t}$は、両方とも、共通の原因である[開票済みの票]から生じた「子」である。二項分布を仮定したモデルを原因、実現値を結果と仮定して分析することは、後の検証が必要とはいえ、論理上はおかしいものではない。

そこで、サヒミ氏により提示された2009年イラン大統領選挙の開票経過を、Wikipedia英語版に掲載されていた最終得票数[6]から求められた二項分布※10により説明するというモデルを用意した。このモデルに開票経過が乗るようであれば、サヒミ氏の指摘するような不正は認めがたいことになる。計算の過程は、.Rファイルに示した(Googleドライブ、「w20161101_IranianElection2009.R」)。ただし、このRファイルの説明は未整備であり、表も整備していない。

表1の右から2・3列目は、各開票経過時点において、アフマディネジャド氏の得票数がこの中に収まると期待される範囲を示す。アフマディネジャド氏の得票数の伸びは、予期される範囲内に一度も収まっていない。つまり、何らかの理由で、最大得票者であるアフマディネジャド氏の得票数は、最終的な得票数を前提にすれば、優先的に開票されていたという結論を得ることができる。この理由の探求は、シルバー氏の指摘するとおり、現地の選挙制度に詳しい(少なくとも現地事情を知る)人物が行うべきであろう。


表1:2009年イラン総選挙におけるアフマディネジャド氏の得票数の伸びと信頼区間

tAhmadinejad
($X_{1t}$)
Moussavi
($X_{2t}$)
$Bi_{\alpha=0.025/6} (X_{1t}+X_{2t}, p_1)$ $Bi_{\alpha=1-(0.025/6)} (X_{1t}+X_{2t}, p_1)$ $\hat{X_{1t}}$
170279192955131648340964913626487386
2102304784628912965137596610789656227
3140116646575844133728771338429813378588
4159132567526117152257501523793615231844
5169743828124690163040771631668716310383
6183029248929232176899781770311317696546

どの程度の乖離があるかは、表1の列2(アフマディネジャド氏の得票数)と列6(二項分布の期待値)の比によって説明することができる。表2は、その比を計算したものである。徐々に比が小さくなっていることが分かり、最初の開票経過発表時点よりも前の時点において、開票が多くなされていたものと推測することができる。逆に、ムサビ氏の開票は、表3に示すように、総じて遅れており、アフマディネジャド氏の得票比と対照的な関係にある。


表2:アフマディネジャド氏の開票経過とモデルによる開票予測との比

tratio(c2 / c6)
11.083
21.059
31.047
41.045
51.041
61.034

表3:ムサビ氏の開票経過とモデルによる開票予測との比

tratio (Moussavi)
10.845
20.890
30.912
40.917
50.924
60.936

※1 『統計学入門』(東京大学教養学部統計学教室編, 東京大学出版会, 1991年)では、Xを内生変数、Yを外生変数とも表現しているが、構造方程式モデリングの花盛りである現在では、これらの語を単なる回帰分析に対して利用しない方が無難であろう。

※2 単回帰分析とは、説明変数Xと被説明変数Yがともに1種類ずつの回帰分析をいう。単回帰直線は、単回帰分析により得られる、誤差を伴う一次関数(直線)である。直線には、傾きと切片の2種類のパラメータがあるが、単回帰直線には、これに誤差項が付く。単回帰分析は、XとYを1組の属性として持つ、複数のサンプルからなるデータから求められる。たとえば、日本人成人男子の身長から体重を説明・予測するという場合が考えられる。

※3 決定係数$\eta^2$とは、回帰分析で設定したモデルの当てはまりの良さを示す指標であり、次式で求められる。$Y_i$は$i$番目のデータの被説明変数の値、$\bar{Y}$は被説明変数の(標本)平均値、$\hat{Y}$は回帰直線から求められた被説明変数の推定値(回帰値)である。

\begin{equation*}\eta^2 \equiv 1-\dfrac{\sum {\hat{e}_i}^2}{\sum(Y_i - \bar{Y})^2}=\dfrac{\sum(\hat{Y}_i - \bar{Y})^2}{\sum(Y_i - \bar{Y})^2}\end{equation*}

なお、最後の等号は、次の関係に基づく。

\begin{equation*}\sum(Y_i-\bar{Y})^2=\sum(\hat{Y}-\bar{Y})^2+\sum{e_i}^2\end{equation*}

$\eta^2$は、0から1までの間を取り、$X_i$が$Y_i$を完全に説明しているとき、1となり、完全に無関係である場合には、0となる。

※4 アブダクションは、「後件肯定の演繹法と呼ばれる非妥当な推論形式 」[5]である。本件について、サヒミ氏とシルバー氏の推論を定式化すると、次のとおりとなる。
$A$: 斉一的な得票数の伸びを得た
$P \leftarrow A$: 不正があると、斉一的な得票数の伸びを得る
$P$: 不正がある
$A$: 斉一的な得票数の伸びを得た
$\lnot P \leftarrow A$: 不正がないと、斉一的な得票数の伸びを得る
$\lnot P$: 不正がない

※5 理想的な条件とは、①地域ごとの候補者の得票率が一定で、かつ、投票箱の中身が良くかき混ぜられている場合、または、②わが国におけるように、集計作業に従事する人物が(たとえば500票ずつに)集計された票の束をランダムに受け取り全選挙区にわたる集計システムに登録している場合である。

※6 今年7月の三宅洋平氏の得票の伸びについては、この可能性が認められた。もちろん、ほかの可能性は、この原因と並存しうる。

※7 犯罪企図者になったつもりで選挙を検討すれば、不正が敢行されようとすることがないという意見が誤りであることは、自明である。不正を予防する手続きが執られていれば、犯罪企図者が犯行を諦めるという構図はあろう。

※8 もっぱら二項分布に頼るのは、オッカムの剃刀(モデルは、できるだけ単純な方が良い)を考慮している。ただ、注意すべきことは、ここで示した二項分布というモデルを仮設することが適切か否かは、適正な反論によってのみ検証され得ることである。なお、私がこれしか使えないのでは?という疑いは、公然の秘密かもしれない。

※9 その例は、今年の宜野湾市長の得票数の伸びに示されるとおりである(2016年1月28日)。真に理想的な開票が行われているとすれば、現実の得票数の伸びは、モデルから予測される信頼区間の範囲内に収まり続けることとなる。

※10 なお、得票経過は、二名の候補についてのみ記されていることから、二名の最終得票数だけから元に得票率を求めている。このため、表1および表2の上側・下側$0.025/6$パーセント点は、本来よりも幅が小さなものとなる。

[1] トランプ氏、男性から根強い支持  :日本経済新聞
(ワシントン=川合智之、2016年10月25日朝刊東京14版7面国際)
http://www.nikkei.com/article/DGXKZO08748740V21C16A0FF8000/

米大統領選は〔...略...、男性票に〕女性票を加えれば〔トランプ氏が〕劣勢になり、ここにも米国社会の分断が表れている。

予測をまとめたのは選挙予想の的中率の高さで有名なネイト・シルバー氏。〔...略..〕

[2] ワシントン=吉野直也, 「2016米大統領選/投票まで2週間/クリントン氏 リード拡大/一部世論調査で12ポイント差/討論会「3連勝」/女性蔑視」, 『日本経済新聞』, 2016年10月25日朝刊東京14版7面国際.

[3] Statistical Report Purporting to Show Rigged Iranian Election Is Flawed | FiveThirtyEight
(Nate Silver、2009年06月13日20:13)
http://53eig.ht/1peMpEp

[4] Faulty Election Data – tehranbureau
(MUHAMMAD SAHIMI、2009年06月13日)
https://web.archive.org/web/20090615154847/http://tehranbureau.com/2009/06/13/faulty-election-data/

説明変数従属変数
figuresexplanatory variablesdependent variables
Sahimi M., 2009 Jun 13AhmadinejadMoussavi
Silver N., 2009 Jun 13ObamaMcCain

[5] untitled - 115-130.pdf
赤川元昭, (2011). 「アブダクションの論理」『流通科学大学論集―流通・経営編―』24(1),115-130.
http://www.umds.ac.jp/kiyou/r/R24-1/115-130.pdf

[6] Iranian presidential election, 2009 - Wikipedia
https://en.wikipedia.org/wiki/Iranian_presidential_election,_2009




おまけ:共和党有力者の賛否

下記の調査報道で、デイヴィッド・A・グラハム氏は、共和党の有力者158名に対する調査を行い、下記のような意向を得ている[7](2016年10月20日閲覧)。「反対」と「やや反対」を合計した値を調査対象者数で割った値をトランプ氏への反対率とみなすと、約43%となる。そこで、この値を用いて、158名のうちの50名に聞いてみましたという形で、10万回のシミュレーションを『R』によって実施した。作業の結果、次の図を得た。どう足掻いても、反対率6割はごく少数の場合にしか表れないところがポイントである(2016年7月25日)。

A Simulation on Proportions against  Mr. Donald Trump among 50 Famous Republicans (n = 100000)
A Simulation on Proportions against  Mr. Donald Trump among 50 Famous Republicans (n = 100000)

作業は、.Rファイルにまとめた(Googleドライブ、「w20161101_GrahamDA_20161027_RepublicansAgainstTrump_TheAtlantic.R」)。


[7] Which Republicans Are Against Donald Trump? A Cheat Sheet - The Atlantic
(David A. Graham、2016年10月27日、閲覧20日)
http://www.theatlantic.com/politics/archive/2016/10/where-republicans-stand-on-donald-trump-a-cheat-sheet/481449/

YeaSoft YeaSoft NayNayAbstainUndecided
賛成やや賛成やや反対反対棄権する未定
713563511



2017年10月27日訂正

pタグにより文章のレイアウトを変更し、表現を改めた。表現の変更箇所は、淡赤色で示した。




2021(令和3)年7月28日修正

グーグル・ドライブのファイルにセキュリティアップデートとやらが適用され、リンクにアクセス不能となる可能性があるとの通知を受け、当該リンクを修正した。内容は変更していない。

2016年10月31日月曜日

(書評)鬼塚英昭, (200708). 『日本のいちばん醜い日 8・15宮城事件は偽装クーデターだった』, 成甲書房.

 せっかく論文調に仕上げたので、この種の表現は避けたいところであるが、読者のために、私の感想を冒頭に述べておこう:私の中では、鬼塚の以下の主張のうち、3と4はガセである。他方、主張1と2は、落合莞爾の『明治維新の極秘計画』(2012年、成甲書房)と同様の高度な政略を見立てれば、それなりの蓋然性を認めることが可能である。本書は、「セット思考」(2016年7月26日)の怖さを認めることができるという事例として有用であり、「ノンフィクションなら、嘘を書くにも作法がある」ということを知る上での練習帳にはなる。この点と主張1と2の蓋然性の高さを買って、評価は★★☆☆☆、星2つとしたい。
 以下、本書の評価に併せて材料を提示していこう。

 本書は、終戦間際、14~15日の陸軍クーデター未遂事件が三笠宮崇仁親王の主導された「偽装クーデター」であり〔主張1〕、昭和天皇の御裁可により遂行され〔主張2〕、三笠宮が流血に直接関与し〔主張3〕、昭和天皇の身の安全を専らの目的としたもの〔主張4〕である、という非難を提起するものである。この見解は、クーデターが戦争継続派によるものという一般の解釈とは、まるで異なるものである。この非難は、半藤一利の『昭和のいちばん長い日(改訂版)』における「某中佐」の記述から説き起こされ、デイヴィッド・バーガミニの『天皇の陰謀』を導き手として追求される。「某中佐」が三笠宮であるという根拠は、もっぱらバーガミニの推測に乗るものである。

〔以下は、バーガミニの又引きとなる〕
 ゴシップの多い日本では、天皇の血族の成員の私的な行為に無名性を与える天皇タブーだけが、日本歴史上のかかる危機的瞬間にかかる氏名の不詳の人物が内宮の構内にいたことを、説明しうる。推測では、某中佐とは天皇の末弟である三笠宮中佐であったというのが強い。三笠宮は、その夜クーデターに参加した若手将校たちの級友であった〔p.157〕。


 しかし、クーデター未遂に伴う流血劇の犯人とされる人物たちの行為が、もっぱら鬼塚の推測のみに依拠して説明されることは、注意深い読み手には直ちに了解できることである。「殺害」の現場に居合わせた人々の名前から、「某中佐」の存在を認めるところまでは、推理として許容されよう。しかし、複数の資料を対置してみせた後、鬼塚は、「某中佐」が現場を主導したに違いないと断定する。登場人物の心中は、鬼塚の「暗殺史観」(後述)により、無前提に確定されてしまうのである。この作法は、同書に繰り返し用いられており、上に又引きしたように、鬼塚が道標とするバーガミニの著書にも共通するものである。共通の話題を扱う複数の資料を並置するところまでは、通常の論証の形式であると言える。しかし、本書の問題点は、その後の考察の過程にある。提示された資料から構成できるはずの別の見解を対置することなく、鬼塚は、自身に都合の良い見解を採用するという飛躍を度々行うのである。

 鬼塚の論理の飛躍は、第三章において、「殺人」の「被害者」である森赳近衛師団長の14日朝の行動を説明するとき、端的に表れる。鬼塚は、クーデター未遂における森の死が自殺であるという可能性をあっさり捨象し、また、森が同意殺人の犠牲者である可能性に迫りながらも、その可能性をほとんど無視する。鬼塚は、有末誠三の『終戦秘史 有末機関長の手記』を引用〔pp.233-235〕し、14日の朝に、森が同期である有末と宮崎周一作戦部長を訪ねて「死ね」と言い帰ったことを記す。鬼塚は、有末の記述に基づき、次のように自らの見解をまとめる。
 十四日の朝までは確かに森赳は生きていた。そして監禁もされていない。しかし、それから十五日午前二時に殺害されるまでの森の姿は、近衛兵が疑問に思うほどにはっきりしない。
 十四日の朝、森は阿南〔惟幾・陸軍大臣〕と大城戸〔三治・憲兵司令官〕に会う。ここで、大城戸はあることを伝える。それは、彼の上司である内大臣もしくは某中佐経由のものであろう。その前日の十三日の午後、三笠宮は有末に「実は今朝、陛下から直々に『おたのみ』のお言葉があった」と語っている。
 森の反対にかかわらず、近衛兵は、古賀〔秀正・近衛師団〕参謀(中佐)の指揮のもと続々と皇居内に入っている。森は大城戸にこの中止を申し入れたにちがいない。そして逆に大城戸を介して、上位のある者からの通告を受けた。大城戸は内大臣または某中佐に報告するために宮中に消えた。森は自分の運命を即座に知ったにちがいない。それで最後の別れの言葉を言おうと、参謀本部に行き、有末中将と宮崎中将に会いに行く。彼ら三人は同期の桜だ。そして、二人に、「貴様は死〔以上、p.235〕ね」と言う。この森の最後の言葉は激しい。しかし、深い愛情にあふれる言葉ではないのか。有末も宮崎も口には出さないが森の立場を理解している。二人は三笠宮の下で終戦工作をする立場にある。
 「憚りながら禁闕守衛については指一本指させぬから、その点は心配するな」
 この捨てセリフほど悲しいものはない。もう禁闕守衛の命令一本、森は出せない立場にいたのである〔以上、p.236〕。

 鬼塚は無視しているが、この記述からは、クーデターを防ぎ得ずに惨殺されるという無能者の汚名を、森が自ら進んで引き受けたという可能性を認めることができる。自らの死によって、陸軍関係者の意思を昭和天皇の御心に沿うように変革・統一しようとした、という可能性は、モーリス・パンゲによる『自死の日本史』(1986年, 和書2011年, 講談社学術文庫)を参照し、わが国の伝統である現世主義を認めれば、「自死」を決意表明の機会とするわが国の伝統にも沿うものとなる。現世を重視するがために、現世利益の最大の要件である生命を捨てるという転倒は、日常生活においては恐ろしいものととらえられるが、戦争犯罪者として近未来に断罪され処刑されるという展開を予見できたはずの人物が、仮に、祖国に殉ずる機会を与えられたとすれば、この機会を活用することが救いに至る道であると考えたとしても、不思議ではない。鬼塚の著書では、「偽装クーデター」の可能性は論じられたが、「偽装クーデター」のために必要とされた「殺人偽装」の可能性は、登場人物全員の心中を推量する作業を省略することにより、完全に無視されるのである。

 鬼塚が森の心中を軽視した結果は、第二章の記述との非整合性という形で表れる。まずは引用しよう。
 では、森はどうして畑中からピストルで撃たれたのか。某中佐が偽装クーデターにリアリティを求めたからである、と私〔鬼塚〕は思っている。森の義弟の白石通教中佐(第二総軍参謀)は偶然にそこにいたのではない、と思うのである。確証はない。しかし、偶然はおかしい。彼は森の切腹を助ける介添人として登場した人物と思う。しかし、リアリティの前に、彼も惨殺されたのである。私は五・一五事件と二・二六事件の延長線上にこの第三次が起きたことのみ記しておく。〔p.196〕

 鬼塚は、いったんは森の義弟である白石の登場を、介錯人として想定する。しかし、もっぱら二次資料(文学作品等)に依拠して、これをすべて流血の惨事として描くことに同意してしまうのである。

 ここでの鬼塚の安易な解釈に対しては、ほかの読みを並存させることが可能である。私が小説家なら、森が「私の首を手土産にしないとクーデターの体裁が付かないであろう?」と諭し、若手将校の前で自決して果てたという場面を描くこともできる。想像を逞しくすると、この森と白石の自決は、若手将校には当初に想定されなかったものである。想像を続けよう;二人の遺体を目の前に、何らかの協議が行われ、若手将校たちは「われわれが殺害したことにする」という森と白石の「遺言」を受け入れる。このように、鬼塚の著書に挙げられた材料を元に、異なる想像力を働かせるだけで、クーデター未遂における森と白石の死亡に係る異説を提示することは、十分に可能なのであるが、この想像(妄想かもしれないが)は、鬼塚には最後まで検討されないままに終わるのである。

 異なる見方が成立するにもかかわらず、現場に居合わせた者の証言すら十分に一致しない状態で、犯人を特定し名指しすることは、各証言を等価とする限り、無理がある。推定無罪の原則が周知されている現代において、鬼塚の記述は、「故意に、いかがわしい視点に立って歴史の真実を曲解する〔p.165〕」ものであると、読者に誤解されることにもなろう。もっとも、クーデター中に森の「殺人」が行われたとする理解は、繰り返しになるが、半藤の『日本のいちばん長い日』など、ほぼすべての著書に共通する記述である。その上で、もっぱら、犯人が単独であるか複数であるかが争われている。

 同書では、事実と判定できる出来事と著者の意見とは、一応のところ、分別されている。このため、著者があらかじめ皇室を貶める目的で本書を作出した意図を疑いながら読めば、同書は、嘘が嘘であると見分けられるように記されているとは認めることができる。鬼塚は、このノンフィクション作品を、事実の摘示までは注意して事実に即するように記述しながら、本事件に係る意見と推測を、全て皇室の仕組んだ『真夏の夜の悪夢』〔p.66〕として振り向けることに全力投球している。この芸風は、著者に骨がらみのものであり、却って彼の背景が何であるのかへの目を向けさせるものであるが、出版物としての最低限のルールには依拠するものとも評価することができる。

 本記事の冒頭に示した鬼塚の主張のうち、〔主張1〕と〔主張2〕は正しいように思われるが、〔主張3〕と〔主張4〕は、彼の先入観によるものか、故意によるものであろう。つまり、同書は、3と4への誤誘導を図るべく、1と2について記述した可能性も認められるのである。本日のところ、これら4点の主張を、以下の段落より詳しく論証することはしないが、今後、追記・改稿する予定はある(期日未定)。

 私がなぜ、鬼塚の主張の1・2と3・4とを切り分け、後者を嘘と考えるのかという理由は、このように切り分けることが、鬼塚自身を含めた、それぞれの人物の生き方に最も整合するからである。鬼塚の著書の徹底した特徴は、(その評価は措くとして、)反皇室である。鬼塚はすでに故人であり、応答する声は期待できないから、私の一存と責任において、このように評価を確定しても良いであろう。他方、三笠宮の戦後は、徹底して平和志向であられた。クーデターにおける流血を率先することは、その意思の強さこそ共通するが、方向が真逆である。また、戦後の人生に汚名を被ることを潔しとした軍人たちが、敬慕すべき対象でもある友人が殺人犯となろうとする瞬間を、拱手して見逃すことがあろうか。さらには、殺害されたとされる高官たちは、自分たちの近未来を十分に理解していたであろうし、数ヶ月先の自らの死を今捧げることにより、お国のためとなることが容易に確信できるとき、同意殺人に進んで身を投じた可能性すら考えられるのである。(この考え方が、現代に通用するものであるか、倫理的に見ていかがか、などという考察は控えることとしたい。あくまで、私が彼らの心中を想像してみたところを述べたまでである。)

 クーデターの成り行きが当初の予定とは異なるものになった可能性は、先に触れた森と白石の「殺害」のように、十分に認められる。しかしなお、クーデター未遂は、皇室が能動的に個人の身の安全を企図したのではなく、各個人の「立場主義」が貫徹された事例の一つであると解釈した方が、合理的に説明できるように思うのである。遅きに失したことは疑いようもないが、また、そもそも満州事変を始めるべきではなかったが、それでも、『日本のいちばん長い日』にかかるクーデター未遂劇は、登場人物の個人の「忖度」が歯車として噛み合ったレアケースではなかったか、と読むことも可能なのである。

 鬼塚は、森の遺体の所在が不問に付されてきたことにも言及する〔p.3など〕。#後日、追記予定。

 最後に、物覚えの良い本ブログの読者に向けて、田中光顕についての鬼塚の著作 『日本の本当の黒幕(上・下)』(2013年、成甲書房)に係る私の書評が、なぜ四つ星であったのかを説明しておこう(2015年10月25日)。それは、田中が暗殺者としては稀代の成功者であることを論証するところまでは、十分に成功しているように考えたためである。『…黒幕』の皇室批判は、比較的後景に退いているが、それでも牽強付会である点が否めないものである。ただし、本点は、同書の本筋に懸かるものではない。このため、過度の皇室批判を理由に星を減じることも、また主観的な判定となるものと思われたのである。

 ところが本作『…醜い日』は、皇室批判を主目的としており、鬼塚独特の「暗殺史観」は『日本の本当の黒幕』のように暗殺者の論理を明快に説明するものとして機能しない。彼の「暗殺史観」(前稿では「鬼塚史観」)とは、大要、わが国における近現代史において、暗殺が重要な転機をなしてきた、というものである。鬼塚の「暗殺史観」は、近現代における「黒幕」を皇室とその周辺に見出すものである。この徹底ぶりは、陰謀論者としての一つの芸風と言い切れば、それまでである。しかし、本作『…醜い日』に限れば、彼固有の動機付けは、この大目的の客観的な論証を妨げるものとなっている。本書に見られるすべてのアブダクションには、「皇室は徹底してマキャベリスティックであり、アジア・太平洋戦争の流血の責任はすべて皇室にある」という前件(前提)が潜む。この命題を何としても論証しようという鬼塚の姿勢は、バーガミニおよびレスター・ブルークスの著書に対する、批判的検証の矛先を鈍らせるものと認められる。バーガミニとブルークスの間に見られる齟齬は、鬼塚によって詳しく検討されない。その理由は、鬼塚の目的がバーガミニの目的と同一のものであったためではないか、と予想できるのである。鬼塚は、バーガミニの少年期の強制収容所体験を、森山尚美とピーター・ウエッツラーの『ゆがめられた昭和天皇像』(2006、原書房)から引用する〔pp.160-161〕。鬼塚自身の体験がいかなるものであったのかは、ルポタージュ的な調査が必要となるであろうから、これ以上は追究しない。


 いろいろと補足すべきこと・追加で調査すべきことはあるが、本書に係る批評の根拠は、以上で十分であろう。本稿における私の意見は、基本的に推測に基づくものであるが、それでも推測の整合性に自信を有している。ただ、今後、勉強を進めて、周辺事項を埋めていく予定であることも確かである。敬称等を省略したのは、表現の分裂を避けるためであり、一時的な措置である。

2016年10月27日木曜日

『二階堂ドットコム』によるWikiLeaks設立者死亡の噂を検証する

要旨(必読)

『二階堂ドットコム』は、いわゆる愛国ネットジャーナリズムの老舗と呼べるサイトであるが、2016年10月24日付「投稿メモ」は、ガセであると判定できる。本論の内容は、ほぼこの点に集約されるが、本稿では、これを長々と検討する。

本文(任意)

『二階堂ドットコム』の主張を覆すために確認すべき事項は、大別して4点となる。これらの全てに間違いと呼べる内容が含まれる。まずは主張を引用しよう。亀甲括弧〔〕は論点整理のために私が付記したものである。
〔1〕ナポリターノ判事によれば、〔2〕ウイキリークスは解散され、〔3〕アサンジは殺害されている。
〔4〕情報のリークは、現在、NSAが行っているとのこと。[1]

 この文は、次の4点の確認事項を含むものと整理できる。1点目は最後に検討する。
  1. アンドリュー・ピーター・ナポリターノ判事は〔2〕から〔4〕を報じたのか
  2. ウィキリークスは解散されたのか
  3. ジュリアン・アサンジ氏は殺害されたのか
  4. 米民主党メール流出に係る情報は〔4〕の文面通りに解釈できるか

 2点目、つまり〔2〕そのものであるが、WikiLeaksが解散させられたという事実は、2点の傍証によって、認めることができない。最初に、公式ツイッターは平常に機能しているようである。17日に、ある国の政府によりジュリアン・アサンジ氏のネット接続が厳しく制限されていること[2]、18日にアサンジ氏をロンドン大使館で匿っているエクアドルが米国の選挙に係るアサンジ氏の活動を「制限」していることを認めたこと[3]をツイートしている。次に、ヒラリー・クリントン氏の選挙対策キャンペーンの長であるジョン・ポデスタ氏(John Podesta)の電子メールは、24日から26日の間も暴露され続けている[4]。(タイムスタンプがアメリカ国内のものであろうことに注意。)仮に参加者が「解散」させられた後であるにしても、サーバの運営企業が機能し続けている限り、契約期間が終了するまでサーバ自体は運営されるであろうから、サーバが閲覧可能であるというだけでは、WikiLeaksが解散させられたという主張を覆すことはできない。しかし、ポデスタ氏の電子メールが流出し続けていることは、WikiLeaksのキュレーション機能[5]が存在し続けていることを示す。

 仮に、『二階堂ドットコム』の主張〔2〕と〔4〕の双方を容れて、かつ、上掲の2点の傍証を認めるなら、NSAがすべてのキュレーション機能を代替わりし始めた、という事実を導くことができる。ところが、NSAは、機密性の高い外交公電の公開を中止していない。この事実は、『二階堂ドットコム』の主張とは非整合的な事実として提示できる。NSAは、WikiLeaksのサーバ管理権限と公式ツイッターアカウントの双方を同時に乗っ取る実力を備えているものと思われるし、外交公電の公開中止を入念に実施するであろうということは想像はできる。しかし、この想像を事実として指摘するのであれば、『二階堂ドットコム』は、NSAが世界中の観客に疑いを抱かせることなく、かつ、WikiLeaksのネットワーク参加者の全員に気付かれないうちに全権限を奪取したことを、具体的な事実を挙げて論証する必要がある。インターネット後の世界において、WikiLeaksに類する手段によって権力を相手にする覚悟を固めた者が何の予備的手法・内容も用意していないと考えることには、かなりの無理がある。

 以上の議論によって、『二階堂ドットコム』が十分な根拠なしにWikiLeaksの解散を報じたものと判定することは、どの証拠も等価な価値を持つと見做せば、十分に許容されることである。論破したというには及ばないが、『二階堂ドットコム』を信じるよりは、WikiLeaks公式ツイッターの内容に怪しげなところが見受けられない分、公式ツイッターを信じる方がマシであろう。今回は、まるで、私の方が「平均人」であるかのような思考を持つことになるが、事実はそうではない。単に、ネット上の複数の動きを検討することにより、『二階堂ドットコム』の筆が滑ったことを説明できるだけである。

 3点目、〔3〕についてであるが、WikiLeaks公式ツイッターやYouTubeにアップされた国際会議の映像を見る限りでは、誤りである。公式ツイッターは、日本時間の21日[6]にはアサンジ氏が生きていると公言し、各所へのサイバー攻撃を中止するよう呼びかけている。23日には、関係者が3名死亡していること[7]、亡くなったのがガーヴィン・マクファデン氏(Gavin Macfadyen)であること[8]を主張している。この報道は、わが国では陰謀論と見做されうる内容をも取り扱う『Veterans Today』にも言及されている[9]

 本ブログでは、何度か(佐藤優氏式の)諜報のルールとされるものに言及しているが、WikiLeaks公式ツイッターによるアサンジ氏生存の言明が仮に誤りであるならば、WikiLeaksは「嘘は吐いてはいけない」という諜報のルールに明確に違反したことになる。WikiLeaksに対して生存の証拠が要求されるのは当然の成り行きであるが、WikiLeaks公式ツイッター自身、アサンジ氏の生存を示す証拠として何を要求するかをリサーチしている[10]。『Heavy.com』は、アサンジ氏の生存に疑問を呈する記事の続報として、ソフトウェアの自由に関する国際会議『UMET 2016』の席上でアサンジ氏の音声が公開されたことを前日付(26日)で報じている[11]。アサンジ氏の音声[12]は、当日までに生存しているという証拠を分かりやすく示すものではないが(たとえば、テレビ番組や新聞の1面記事のタイトルに言及する)、少なくとも、『UMET 2016』の席上の人々と電話で話をしているように聞こえる。『UMET 2016』のクリップ[12]のYouTubeユーザのmisssammy8氏のコメントにあるとおり、およそ3:15:00頃から会話が始まる。この映像は、他のユーザのPCでも確認できている[13]。以上の材料は、『二階堂ドットコム』の証拠のない記事よりも情報源に近く、信用しても良いと言えよう。

 4点目、〔4〕については、ナポリターノ氏の冠コーナーの一部[14]がネットにアップされているため、より正確なニュアンスを確認できる。ナポリターノ判事(Judge Andrew Peter Napolitano)は、FOXテレビに冠コーナーを持つ司法解説者である。テレビ番組全体は、後追いできないようであるが、ナポリターノ氏が〔4〕に言及する部分は、複数の映像ファイルから確認できる。ナポリターノ氏は、米民主党のメール流出がロシアのサイバー攻撃ではなくNSAによるものであること、ヒラリー・クリントン氏の大統領就任を妨げるためにハッキングが実行されたことを、元NSAの高官の推測として伝えている。その理由は、高官によれば、クリントン氏が国家機密を口にして関係者の海外活動を危険にさらしたことであるという。ナポリターノ氏の口ぶりでは、WikiLeaksにNSAがデータを提供したことは否定されていないが、WikiLeaksをNSAが主導して米民主党のメールをリークさせているというニュアンスは含まれない。あくまで、従来のWikiLeaksのスタンスに介入しない形で、リークが行われていると理解できる。以上によって、『二階堂ドットコム』の〔4〕に係る主張は、誤りとまでは言えないものの、正確とも言えないことが分かる。『Before Its News』の投稿[15]のタイトルにあるように、「NSAがWikiLeaksにリーク材料を与えている」と見る方が正確である。

 最後に1点目を確認しよう。〔2〕ウイキリークスは解散され、〔3〕アサンジは殺害されているというナポリターノ氏の言葉は、先の番組には見られないが、これは番組の一部に過ぎないであろうから、否定しきることはできない。ただし、これら2点が正確ではないことは、すでに述べたとおりである。それに、ナポリターノ氏がFOXテレビにコーナーを持つといえども、公式ツイッターが否定していることを覆す材料がないのに、その主張を真っ向から否定することもなかろう。わざわざバレる嘘を吐く理由がない。もっとも、この「嘘を吐く理由がない」という消極的な理由は、『二階堂ドットコム』にも該当する。しかし、ナポリターノ氏の公式ツイッター(@Judgenap)にも、公式ブログ[16]にも、〔2〕や〔3〕に係るフレーズは見当たらない。続報も訂正もされていないという意味では、〔2〕〔3〕をナポリターノ氏が明言したとすることは、根拠が薄弱である。それに、ナポリターノ氏は、FOXという共和党側のテレビ局の有名人でもある。WikiLeaksが題材であっても、仮に同氏が嘘を吐いたということになれば、攻撃の材料に利用されない訳がない。


 以上の材料から、上掲1.~4.の言明は、いずれもナポリターノ氏の発言を『二階堂ドットコム』が聞き間違えた結果、提示されたものではないかと推測することができる。『二階堂ドットコム』は、WikiLeaksの公式ツイッターも確認しておらず、故意ではないにせよ、重過失を犯していると言えよう。これを覆す材料は、実際のクリップくらいしかない。これが提示されれば、もちろん、私が間違っていたことになるが、おそらく、今後も訂正されることもないであろう。

 おまけ。リチャード・コシミズ氏も「WikiLeaksの創設者が死亡」[17]と述べている。引用元がスクリーンショットとして提示されるようになっただけ、新ブログのクオリティは、進歩したとは言えよう。通説は、WikiLeaksの創設者をアサンジ氏であると見做している。ここに事実誤認があるかも知れないが、『Before Its News』の検証記事[15]にもあるように、元々事実誤認が広まっていたために、『二階堂ドットコム』にせよコシミズ氏にせよ、容易に間違えたということであろう。



[1] 【投稿メモ】 - 二階堂ドットコム
(2016年10月24日12時04分)
http://www.nikaidou.com/archives/86629

[2] WikiLeaks(@wikileaks)
https://twitter.com/wikileaks/status/787889195507417088


[3] WikiLeaks(@wikileaks)
https://twitter.com/wikileaks/status/788514288315068417


[4] WikiLeaks - The Podesta Emails
https://wikileaks.org/podesta-emails/

[5] WikiLeaks:About - WikiLeaks
https://www.wikileaks.org/wiki/Wikileaks:About#How_does_WikiLeaks_test_document_authenticity.3F


[6] WikiLeaks(@wikileaks)
https://twitter.com/wikileaks/status/789574436219449345/photo/1 

[7] WikiLeaks(@wikileaks)
https://twitter.com/wikileaks/status/790004642038050816
[8]WikiLeaks(@wikileaks)
 https://twitter.com/wikileaks/status/790278989596295170
#日付・時刻は、2016年10月24日04時49分JST(1477252168)。

[9] Updated: Who Killed Gavin MacFadyen? | Veterans Today
(Katherine Frisk、2016年10月24日)
http://www.veteranstoday.com/2016/10/24/updated-who-killed-gavin-macfayden/

[10] WikiLeaks(@wikileaks)
https://twitter.com/wikileaks/status/790406530738913285
[11] Is Julian Assange Missing? Supporters Want Proof of Life | Heavy.com
(Stephanie Dube Dwilson、2016年10月26日15:56 EDT、更新2016年10月26日17:22 EDT)
http://heavy.com/news/2016/10/where-is-julian-assange-missing-wikileaks-proof-of-life-escaped-kidnapped-extradited-alive-dead-what-happened/

[12] CISL2016: UMET 26-10-2016 | Teleconferencia con Julian Assange - YouTube
(CISL 2016、2016年10月26日)
https://www.youtube.com/watch?v=ndUYXZMNlBU

[13] Julian Assange Alive? Teleconference, 26 Oct 2016, Part 1 - YouTube
(Caity Johnstone、2016年10月26日)
https://www.youtube.com/watch?v=0RRYw0uheeY

[14] Judge Napolitano Exposes Hillary Debate Lies! NSA Hacked DNC Not Russia! Trump Knows Truth! - YouTube
(アップロード:ProjectClarity、2016年10月11日)
https://youtu.be/tTWOu_UX7R0?t=112


[15] Confirmed: The NSA Was Feeding Wikileaks | Alternative(By NESARA、2016年10月27日11時18分)
http://beforeitsnews.com/alternative/2016/10/confirmed-the-nsa-was-feeding-wikileaks-3428886.html

[16] www.judgenap.com
http://www.judgenap.com/

[17] Wikileaks創設者、死体で見つかる。死因、不明。 – richardkoshimizu official website
(リチャード・コシミズ、2016年10月24日13時05分)
https://richardkoshimizu.wordpress.com/2016/10/24/wikileaks%e5%89%b5%e8%a8%ad%e8%80%85%e3%80%81%e6%ad%bb%e4%bd%93%e3%81%a7%e8%a6%8b%e3%81%a4%e3%81%8b%e3%82%8b%e3%80%82%e6%ad%bb%e5%9b%a0%e3%80%81%e4%b8%8d%e6%98%8e%e3%80%82/


2016年11月3日訂正


題名を訂正した。また、段落読みを正確に行えるよう言葉を追加した。
  • 新:『二階堂ドットコム』のWikiLeaks設立者死亡の噂を検証する
  • 旧:『二階堂ドットコム』によるWikiLeaks設立者死亡の噂を検証する

2016年10月26日水曜日

ドゥテルテ大統領訪日報道と比国の麻薬対策への言及を「あらたにす」風で確認する(メモ)

 朝日新聞2016年10月26日朝刊4面14版「過激発言のドゥテルテ大統領来日/南シナ海・対米 真意は」(マニラ=鈴木暁子)は、ドゥテルテ比大統領の「売春婦の息子」発言をオバマ米大統領に向けたものとして確定した表現を取る。この表現が誤りである可能性がきわめて高いことは、フィリピン共和国を本拠とする英語報道等により検証済みである(2016年9月16日)。
9月には、この問題に批判的なオバマ米大統領のことを「売春婦の息子」などと呼んで、米国に首脳会談を延期されてしまった。
並びの記事「日米比協力の重要性 共有焦点」(武田肇)は、以下のように麻薬対策と人権問題との関係に対する申入方針を報じている。この記事に言及されていないこととして、中国政府もフィリピン・ミャンマー両国に重点的に経済支援を実施してきたことを挙げるべきであろう。ミャンマーは、中国にとって、陸路によるインド洋への出口となる。中国からの支援と日本からの支援は、フィリピンにおいても、天秤にかけられることになる。その結果は、ミャンマーを見れば良い、ということになろう。もちろん、支援のあり方は、超長期的なものもあり得るから、拙速に評価を下すことは、政治的な波紋を引き起こすことにはなる。同じ記事は、岸田文雄外相が25日夜、ドゥテルテ氏一行を銀座の高級料亭『吉兆』でもてなしたと報じている。
 〔...略...〕外務省幹部は「米国への依存を脱却し、外交の多角化を目指しているのは間違いない」と分析する。〔...略...〕会談では麻薬対策への協力を表明s筒、人権問題への直接的な言及は避ける構え。その代わり、薬物対策への協力の中で人権問題の改善を促す考えだ。
 日本側の念頭にあるのは、ミャンマーへの対応。〔...略...〕

 日本経済新聞1面コラム「春秋」(2016年10月26日朝刊14版)は、「オバマ米大統領をこき下ろし」と評している。大新聞のコラムニストは、いつもディテールを読み間違う幇間であるので、油断ならない。ただ、4日のドゥテルテ氏の発言がオバマ氏に向けられていたという解釈が正しければ、このように評価されてもやむを得ないのかもしれない。

 読売新聞(2016年10月26日朝刊14版国際面7面)「米比改善へ仲介探る/ドゥテルテ氏来日/首相、米軍の意義伝達へ」(マニラ 向井ゆう子、池田慶太)は、10月内の発言をまとめているが、9月中の発言には言及していない。一部を以下に引用するが、それぞれを正しく報じているかの検証は、省略したい。この記事の図中には、中国政府による「240億ドルの経済支援」とフィリピン産バナナの輸入制限撤廃が明記されている。蛇足になるが、1面は『吉兆』における会食開始前の様子がカラー写真で示されている。
  •  対米関係
    • (米軍が)我々のためにやってくれているのは知っているが、多くの問題も生んでいる(10月24日)
    • 米国からの決別を宣言する。米国は軍事面でも経済面でも(フィリピンとのつながりを)失った(20日)
    • →釈明 外交政策の「決別」だ。(米国との)関係維持が国民にとって最善の利益(21日)
    • (オバマ大統領は)地獄に落ちろ(4日)

論評

三紙とも、麻薬対策の論評を控え、経済支援を行い、米国政府との仲介を企図するという日本政府の方針を伝えてはいる。経済支援については、三紙とも、部分的には中国政府との「支援合戦」を伝えるものの、南シナ海におけるフィリピンと中国の対立を強調するように読める(論拠は省略)。経済支援するにせよ、その見込み額がいくらで、中国政府による支援額が240億ドルであるという話は、朝日・日経には示されていない。日本政府の方針を伝えるだけでは、国際記事は役に立たない。この点、意図が奈辺にあるにせよ、読売新聞は、中国との関係を前提に記事を構成していると判定できる。

 三紙とも、麻薬対策に限らず、両国関係にとってプラスになる具体的な提言が見られない。このような提言が社説やコラムの守備範囲であるにしても、朝日・日経の社説の海外ネタは、南スーダンPKOである。「春秋」は、ドゥテルテ大統領訪日を取り扱う唯一の論説記事であるが、雰囲気としてはダメダメである。今後の日比外交において麻薬対策へのわが国の貢献がいかなるものになり得るかをオシントにより考察することは、自らの力によるほかなかろう。


平成28年10月26日21時28分追記


 『NHKニュース9』は、少人数会合はマスコミ禁止であったために分かりかねるとしながらも、麻薬対策には言及しなかったことを伝えている。この事実だけを見れば、第三次安倍政権の風向きが変わったものと考えることもできるが、同政権が一手先までなら見通せる存在であると仮定すると、このNHKの報道は、依然としてわが国が開発独裁型であるという状態を示唆するものとなる。今回、フィリピン共和国の麻薬対策に言及しないことは、人権を掲げる米オバマ政権を苛立たせると同時に、人権を抑圧する日本の現状を比政府側から逆に指摘されることを防ぐことになる。この位の手管は、帝国主義的な現今、許容されようが、それは、国民の安全を第一に据えてこそである。


平成28年10月27日深夜追記


 読売新聞2016年10月26日夕刊4版1面「比の麻薬更正策 支援/首相、大統領に午後表明」は、中国側が20日に「リハビリ施設建設などに1500万ドル」の支援を提示したと報じている。ネット上で誰かが「半分中抜きする者たちがいるので、4倍プッシュしないと、日本はフィリピンから感謝されない」旨を述べていた記憶があるが、どうしても見つけられない。ただ、『スプートニク』は、共同通信の報道として「もし証拠があるならば、訴えを出しに行ってください。私は自国のために刑務所で朽ち果てることができる」とドゥテルテ氏が26日に述べたと伝えている。とすれば、ドゥテルテ氏がカウンターパートのトップにいる限り、同額以上を支援すれば、同等以上に感謝される見込みは十分にあろう。

 なお、私がここで無謀とも思える支援額に言及するのは、福島第一原発事故の影響後の日本の生き残り策の一環になり得ると見てのことである。無い袖は振れないとなる前に、借款という形ではなく近隣諸国に実質的な資産を移転することは、リスクヘッジになるからである。なお、インフラ整備をフィリピン国内で実施することは、技術移転にもなれば英語を話す土木系人材の即戦力養成にも繋がるであろう(が、この種の技術交流は、ODA等を通じて、かなりの程度進んでいるように仄聞する)。

フィリピン大統領、自国のために「刑務所で朽ち果てる」用意があるー共同通信
(記名なし、2016年10月26日08:09)
https://jp.sputniknews.com/politics/201610262943187/



平成28年10月27日23時追記

10月27日日本経済新聞朝刊1面14版「日・フィリピン首脳会談/南シナ海 平和解決で一致/ドゥテルテ氏「法の支配重要」」は、骨子として、「日本が大型巡視船2隻を供与し、海上自衛隊の練習機「TC90」を貸与すると確認」「農業支援への約50億円の円借款や首都圏や地方都市でのインフラ整備の支援を伝達」を挙げているが、どれだけケチなのか、というのが第一印象である。2兆5000億円対50億円である。しかも先に虞を示したように、円借款である。思い切ったことができないのが官僚の習性であるが、この習性を御し切れていないことが示されている点、わが国政府の風向きは変化していないと判断することもできよう。