2016年7月25日月曜日

リチャード・アーミテージ氏の「トランプ氏への反対率6割」説は識者失格である

 本日(公開が翌25日になってしまったが)平成28(2016)年7月24日の読売新聞朝刊1面のコラム「地球を読む」の著者は、同紙読者にとっておなじみのリチャード・アーミテージ氏であるが、私にとって大変興味深く思われたのは、同氏の論考に、ドナルド・トランプ氏への言及がまったく見られなかったことである。掲載予定日やら和訳の時間やらを考慮しても、共和党大会について全スルーするという決定は、アーミテージ氏によるものであったと見るべきである。

 陰謀論に多少なりとも造詣のある者にとっては、アーミテージ氏が9.11当時のアメリカ合衆国国務副長官※1である上、プレイム事件※2において、「上司が率先して気に入らない部下の身分をバラした」というルール破りを指弾されていることは、もはや常識の部類である。後者に係る指摘は、Wikipediaの英語版にさえ明記されており、映画『フェア・ゲーム』の題材ともなったようである。同氏の事件への関与に係る記述は、百科事典的なものであるという衆目の評価をくぐり抜けているからこそ、「アーミテージ氏が最初の機密漏洩者であるか否か」という点に係る議論を含め※3、現時点でも、誰もが簡単に読むことができるように示されているのである。平たく言えば、さすがに誰も擁護できる不正ではない歴史的事実であるからこそ、「忘れられる」ことなく、後世に晒されることになったのである。

 ところで、アーミテージ氏が自身のコラムにおいて、共和党大会に言及しなかった理由は、彼の予想が大きく外れたことを自ら暴露する危険をこれ以上避けるためであったと推測できる。というのも、平成28年3月11日(!)の日本経済新聞(電子版)は、
 「トランプ氏が大統領になる可能性はあるが、明らかなのは共和党員の60%以上、今では3分の2がトランプ氏を支持することができない」と指摘した。そのうえで「多くの共和党員は少なくとも外交政策で、トランプ氏ではなく、クリントン氏に投票するだろう」と述べた。「もしトランプ氏が大統領になれば、危険な人物を政府の様々な地位につけるだろう」との懸念も指摘した。

 アーミテージ氏は「日米関係のためにも(トランプ氏よりも)クリントン氏だ」と力説した。「彼女は一生懸命働くし、仕事を知っている。多くの人は彼女に好感を持っていないかもしれないが、彼女が有能でないという人は誰もいない」と述べた。トランプ氏については「多くの人は好ましく思っていないし、どの程度の能力があるかも確かではない」と語った。(リンク

【以上、全5段落中、3及び4段落目を引用】
と報じている※4一方で、トランプ氏の指名獲得がほぼ確定的になったという状況下でアーミテージ氏の本日公開の原稿が執筆されたであろうことは、タイムライン上、不自然ではないためである。なお、トランプ氏が共和党の指名候補となった場合にクリントン氏に投票するというアーミテージ氏の意見は、本年3月だけでなく、政治ブログサイト『Politico』の本年6月の記事においても繰り返されている※5。同記事は※5、プレイム事件に係る疑惑を併記しており、朝日新聞の記事にも引用されている※6。結局、トランプ氏は、アーミテージ氏の予想を覆し、共和党員の代議票の70%近くを獲得しているのである※5

 アーミテージ氏の予想の外し具合は、アーミテージ氏が子ブッシュ政権時の重要閣僚であり、同政権が不正選挙によって成立したものであるという疑惑がかなりの確度を有する証拠とともに指摘されているだけに、重要な手がかりである。また、同氏は、いわゆるジャパン・ハンドラーズの一員であり、わが国の選挙管理に関与・影響した可能性もゼロではない。この「ゼロではない」という表現は、ゼロ超1以下を意味するが、私や一般の日本国民と比較すれば、選挙管理を補助する機器を製造・販売する企業に対してアーミテージ氏が面識を有する確率は、私よりもよほど高い数値を誇るものとなろう。あるいは、仮に同氏が直接の面識を有さなかったとしても、これら機器製造企業関係者へのネットワーク上の次数は、私よりも小さなものになるであろう。(コンタクトした時期を制限すれば、なおのこと、この予想は、確実なものとなるであろう。)

 アーミテージ氏がトランプ氏の支持者から信用されていないという前提に立ち、いくつかのパラメータを仮定すると、アーミテージ氏がどれくらいの割合で共和党関係者からも信用されていないのか、あるいは、同氏自身がどれだけ事実から乖離した嘘を吐く人物であるのか、を推定することが可能となる。これらを推定可能である理由は、インプットの実際こそ不明である※8ものの、3分の2が反トランプ氏であるという趣旨のアウトプットがアーミテージ氏自身から発せられており、かつ、代議員の70%がトランプ氏に投票したという事実と比較可能なためである。なお、アーミテージ氏のプレイム事件に係る疑惑は、共和党関係者には認知されていると考えて良いであろう。とすれば、共和党関係者といえども、核心的な利益を共有する人物でなければ、アーミテージ氏に対して心を開くことはないであろう。これが、アーミテージ氏が共和党関係者から信用されていないとする定性的な理由である。

 次表は、必要なパラメータをまとめたものである。

表1:リチャード・アーミテージ氏による
反トランプ氏率の当否の検討に係る枠組
アーミテージ氏への回答\トランプ氏への投票投票する
$p_1$
投票しない
$1 - p_1$
正直に回答する
$p_{2\cdot}$
$p_1 p_{21}$$(1 - p_1) p_{22}$
嘘を吐く
$1 - p_{2\cdot}$
$p_1 (1 - p_{21})$$(1 - p_1) (1 - p_{22})$

\[p_1 = \dfrac{1725}{2472} = 0.6978155\]であることが既知であるから、本件は、単に$p_{21}$と$p_{22}$の兼ね合いの話になる。これらの数値は、\[0 \leq (p_{21}, p_{22}) \leq 1\]の範囲を取るが、ここでは、5%刻みを取ることとしよう。

 本来ならば、代議員の属性は、アーミテージ氏との接触頻度に影響するであろうから、接触頻度に係るパラメータを導入する必要があるが、ここではあえて、同氏が代議員と接触したものと仮定する。全代議員の投票結果を母集団かつユニバースであるとみなし、アーミテージ氏の観測が無作為抽出によるものと仮定すると、$(p_{21}, p_{22})$のそれぞれの値について、アーミテージ氏の観測結果である三分の二という結果を得る確率を得ることができる。なお、本シミュレーションは、投票先によってグループを2種に区別し、それぞれで正規分布を仮定することにより、解析的に求めるという方法に代えることが可能である。そちらの方が統計的推定として伝統に忠実な手法であり、よほどスマートであるのではあるが、泥縄シミュレーションが私の趣味なので、今回は、泥縄シミュレーションに拘ることとする。

 次表は、アーミテージ氏と接触した代議員を300人と仮定し、その組を1000回生成し、表頭と表側のとおりに$(p_{21}, p_{22})$を設定した場合、6割以上の反トランプ支持率を得た試行回数を集計した結果である。各セルにつき、共通の1000回のシミュレーション結果から集計しているので、数値が丸まりがちではある。しかしながら、アーミテージ氏が分け隔てすることなく代議員にコンタクトしており、しかも、コンタクトした際の状況についてアーミテージ氏自身が正直であったとすると、トランプ氏への投票者のうち、少なくとも3割がアーミテージ氏に対して嘘を吐いていたということになる。つまりは、アーミテージ氏が自身で主張するような結果は、仮に彼自身が嘘を吐いていなかったとするならば、トランプ氏支持派の3割をディスることになるのである。この仮定は、あまりに無理過ぎるものである。素直に、アーミテージ氏が優秀な社会調査員とは程遠い存在であるか、または、嘘を吐くような存在である、と結論付けることが適当である、ということになるのである。

表2:リチャード・アーミテージ氏による「反トランプ氏率が6割以上」との主張が
成立したシミュレーション回数(シミュレーション回数1000回)
col: $p_{22}$
row: $p_{21}$
00.10.20.30.40.50.60.70.80.91
010001000100010001000100010001000100010001000
0.184298299710001000100010001000100010001000
0.256314738950998100010001000100010001000
0.300272086129039941000100010001000
0.400001012046383098710001000
0.5000000469338757973
0.600000000140210
注1: 命題は、日本経済新聞2016年3月11日インタビュー記事による。
注2: $p_{21}$及び$p_{22}$は、表1の定義による。

 ポイントは、トランプ氏に投票すると決めていた代議員のうちにも、トランプ氏以外の議員に投票すると決めていた代議員のうちにも、アーミテージ氏に嘘を吐いた者がいるという状況であれば、本来、両者は上手い具合に相殺し、アーミテージ氏がこれほど外れた結論に至るということがなかったはずである、という点にある。事実、シミュレーション結果は、アーミテージ氏の主張が彼の体験に忠実に報告されたものであるとすれば、反トランプ氏の代議員がアーミテージ氏に対して正直であるほど、親トランプ氏の代議員の正直さも高まるという関係を示している。その反面、数字のマジックであるが、アーミテージ氏に対して誰もが嘘を吐いていた場合にも、アーミテージ氏が素直であった場合の「6割説」が実現する、という結果が得られている。いずれにしても、「トランプ氏に賛成する派閥の大半が、アーミテージ氏に対して嘘を吐いていた」という結論を採用するのも、今後のアーミテージ氏には困ったことになろう。

 以上の検討から、アーミテージ氏の今年3月11日の主張がなされた理由は、日経記者に対してわざと嘘を吐いていたか、または、コンタクトを取った共和党員が反トランプ氏派のみに集中し、その点を軽視していたか、という2種に限定されることになる。例外的なケースとして、3月の時点から大きく共和党員の態度が変化した、というものを仮想することはできる。しかし、トランプ氏への賛意が大勢であるという状況が見えた時点で、この点に言及してこなかったことは、知日派としてのアーミテージ氏に対する読者の期待を裏切るものである(棒)と同時に、2016年3月以降にトランプ氏への賛否の趨勢が大きく変化したという事実が存在しなかったという理解を補強する材料となっている。事実、「トランプ旋風」という用語は、2016年3月以前から用いられているようである。また、州における代議員への拘束は、一種の紳士協定であり、強制的なものではないようであるから、ユール・シンプソンのパラドクスに類する集合的な誤謬を挙げても、アーミテージ氏の失敗を説明する要因にならないものと考える。


 いずれにしても、アーミテージ氏の言説は、識者失格のレベルに到達したものとなっている。多少の見込み違いではなく、調査の勘所を大きく外しており、大誤報を修正もしていないからである。

 アーミテージ氏の予想が事実に大きく裏切られたという状況は、不正(選挙)が機能しない場合には、不正(選挙)を企むと見なされている側の予想であっても、不勉強か怠惰であるかのゆえに大きく外す可能性のあることを示唆している。アーミテージ氏の失敗は、新聞記者たちが最近の参院選に係る情勢調査・出口調査において、怪しげな結論を引き出したことと同形である(リンク)。これらの情報産出・流通に係る職業人たちは基礎的な概念については中学数学で理解可能な事実※7を無視したために、このような結果を晒している。この無学は、自然犯に係る職業犯罪者が必要十分と思われる分だけ学習することに酷似している。ここに見た事例は、企業犯罪・組織犯罪についても、職業的犯罪者が従来の手口に固執するという法則を拡張するものであるのかも知れない。

 以上、某掲示板の某先生ならば「ハンドラーの実力がIT時代にバレバレとなっただけ」ということを面白おかしく表現してくれるに違いないところ、長々と、内実を詰めてみた。人間の直感というものは素晴らしく出来ており、以上に検討したような論理を飛び越えて、アメリカ国内におけるアーミテージ氏の総合的な実力が低下したことを、瞬時に嗅ぎ分けることができるようである。この点、私は、ネットに散在する、見立ての優れた人を尊敬するが、同時に、ときには、きっちりと論理で囲い込むことも必要ではないかとも考えている。そこにこそ、私の出番があるようではある。

 今回、確認した事実は、「当代のジャパン・ハンドラーズの一人が、故意に嘘を吐いたか、または、専門家らしからぬ安易さで状況を解釈して、わが国の行く末を左右する米国の動向についての、日本語話者の理解を大きく妨げた」という構図である。「7割の賛成」を「6割の反対」と誤報した要因は、およそのところ、無作為抽出の重要性を無視したことによるものと推測されるが、この要因を認めない限りは、怪しさ満点の仮定を盛ったとしても、この程度に酷い誤解には到達しないということも確認した。基本から逸脱する限り、いかなジャパン・ハンドラーズといえども、正しい理解にたどり着くことがなかなか困難である、という訳である。



 最後に不正選挙という語に絡んで脱線しておく※9が、そもそも論でいえば、投票計数機器については、ソースコードを随時開示できないというだけで、疑惑は必要十分である。不正が事実であった場合には、複合的な材料によって、内乱罪を構成する可能性すら存在する。不正に伴うリスクは、日本国民の側にとって、限りなく大きなものである。他方、ソースコードが随時開示されることに対する企業側のコストは、不正が事実であった場合のリスクに比べれば、限りなく小さなものである。孫崎享氏が、わが国にも国際的な選挙監視団が必要である旨をツイートしていたような覚えがあるが、現在の投票用紙仕分け機のプロプライエタリな状況が放置され続けるとすれば、至言である。



 もう一つ、完全に脱線して本記事を締めくくることとしたい。「三分の二という分数は、小数に直すと、6がずっと続くから、この数字に言及したいがために嘘を吐いたのかな?」とまで考えてみたのは、私としては、ご愛敬である。しかし万が一、この考え方がいいとこ突いていたとするならば、本記事は、近代以降の数学によって、迷信をデバンクしたものである、ということにもなる。逆・逆・ドッキリみたいなものである。



#以下、2016年7月24日閲覧・確認。
※1 United States Deputy Secretary of State
※2 日本語英語のWikipediaの記述には、大きな差が見られる状態であって、本記事では英語を参照した。
※3 Talkの項を参照。
※4 アーミテージ氏、トランプ氏指名なら「クリントン氏に投票」:日本経済新聞(平成28年3月11日 1:30)
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM10H5E_Q6A310C1FF2000/
※5 Donald Trump was just nominated with the eighth-lowest delegate percentage in Republican history - The Washington Post
https://www.washingtonpost.com/news/the-fix/wp/2016/07/19/donald-trump-was-just-nominated-with-the-eighth-lowest-delegate-percentage-in-republican-history/
※6 アーミテージ氏「トランプ氏なら、クリントン氏に投票」:朝日新聞デジタル(2016年6月17日20時55分)
http://www.asahi.com/articles/ASJ6K54B5J6KUHBI01X.html
※7 実装は、高校程度のプログラムの授業によることになり、全体の仕組みそのものは、大学の教養課程以上の知識が必要になるが、結果を読み取ること自体は、中学数学で十分である。
※8 インプットの内実を規定する要素としては、意見を聴取した人数、聴取した人物の立ち位置、そもそも聴取などしていないという場合などが考えられる。
※9 本点については、いつか書こうと思いつつ、そのタイミングがなかったので、見切り発車でここに記した。おいおい検討するかも知れないし、そうでないかも知れない。

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