要旨(必読)
『二階堂ドットコム』は、いわゆる愛国ネットジャーナリズムの老舗と呼べるサイトであるが、2016年10月24日付「投稿メモ」は、ガセであると判定できる。本論の内容は、ほぼこの点に集約されるが、本稿では、これを長々と検討する。本文(任意)
『二階堂ドットコム』の主張を覆すために確認すべき事項は、大別して4点となる。これらの全てに間違いと呼べる内容が含まれる。まずは主張を引用しよう。亀甲括弧〔〕は論点整理のために私が付記したものである。〔1〕ナポリターノ判事によれば、〔2〕ウイキリークスは解散され、〔3〕アサンジは殺害されている。
〔4〕情報のリークは、現在、NSAが行っているとのこと。[1]
この文は、次の4点の確認事項を含むものと整理できる。1点目は最後に検討する。
- アンドリュー・ピーター・ナポリターノ判事は〔2〕から〔4〕を報じたのか
- ウィキリークスは解散されたのか
- ジュリアン・アサンジ氏は殺害されたのか
- 米民主党メール流出に係る情報は〔4〕の文面通りに解釈できるか
2点目、つまり〔2〕そのものであるが、WikiLeaksが解散させられたという事実は、2点の傍証によって、認めることができない。最初に、公式ツイッターは平常に機能しているようである。17日に、ある国の政府によりジュリアン・アサンジ氏のネット接続が厳しく制限されていること[2]、18日にアサンジ氏をロンドン大使館で匿っているエクアドルが米国の選挙に係るアサンジ氏の活動を「制限」していることを認めたこと[3]をツイートしている。次に、ヒラリー・クリントン氏の選挙対策キャンペーンの長であるジョン・ポデスタ氏(John Podesta)の電子メールは、24日から26日の間も暴露され続けている[4]。(タイムスタンプがアメリカ国内のものであろうことに注意。)仮に参加者が「解散」させられた後であるにしても、サーバの運営企業が機能し続けている限り、契約期間が終了するまでサーバ自体は運営されるであろうから、サーバが閲覧可能であるというだけでは、WikiLeaksが解散させられたという主張を覆すことはできない。しかし、ポデスタ氏の電子メールが流出し続けていることは、WikiLeaksのキュレーション機能[5]が存在し続けていることを示す。
仮に、『二階堂ドットコム』の主張〔2〕と〔4〕の双方を容れて、かつ、上掲の2点の傍証を認めるなら、NSAがすべてのキュレーション機能を代替わりし始めた、という事実を導くことができる。ところが、NSAは、機密性の高い外交公電の公開を中止していない。この事実は、『二階堂ドットコム』の主張とは非整合的な事実として提示できる。NSAは、WikiLeaksのサーバ管理権限と公式ツイッターアカウントの双方を同時に乗っ取る実力を備えているものと思われるし、外交公電の公開中止を入念に実施するであろうということは想像はできる。しかし、この想像を事実として指摘するのであれば、『二階堂ドットコム』は、NSAが世界中の観客に疑いを抱かせることなく、かつ、WikiLeaksのネットワーク参加者の全員に気付かれないうちに全権限を奪取したことを、具体的な事実を挙げて論証する必要がある。インターネット後の世界において、WikiLeaksに類する手段によって権力を相手にする覚悟を固めた者が何の予備的手法・内容も用意していないと考えることには、かなりの無理がある。
以上の議論によって、『二階堂ドットコム』が十分な根拠なしにWikiLeaksの解散を報じたものと判定することは、どの証拠も等価な価値を持つと見做せば、十分に許容されることである。論破したというには及ばないが、『二階堂ドットコム』を信じるよりは、WikiLeaks公式ツイッターの内容に怪しげなところが見受けられない分、公式ツイッターを信じる方がマシであろう。今回は、まるで、私の方が「平均人」であるかのような思考を持つことになるが、事実はそうではない。単に、ネット上の複数の動きを検討することにより、『二階堂ドットコム』の筆が滑ったことを説明できるだけである。
3点目、〔3〕についてであるが、WikiLeaks公式ツイッターやYouTubeにアップされた国際会議の映像を見る限りでは、誤りである。公式ツイッターは、日本時間の21日[6]にはアサンジ氏が生きていると公言し、各所へのサイバー攻撃を中止するよう呼びかけている。23日には、関係者が3名死亡していること[7]、亡くなったのがガーヴィン・マクファデン氏(Gavin Macfadyen)であること[8]を主張している。この報道は、わが国では陰謀論と見做されうる内容をも取り扱う『Veterans Today』にも言及されている[9]。
本ブログでは、何度か(佐藤優氏式の)諜報のルールとされるものに言及しているが、WikiLeaks公式ツイッターによるアサンジ氏生存の言明が仮に誤りであるならば、WikiLeaksは「嘘は吐いてはいけない」という諜報のルールに明確に違反したことになる。WikiLeaksに対して生存の証拠が要求されるのは当然の成り行きであるが、WikiLeaks公式ツイッター自身、アサンジ氏の生存を示す証拠として何を要求するかをリサーチしている[10]。『Heavy.com』は、アサンジ氏の生存に疑問を呈する記事の続報として、ソフトウェアの自由に関する国際会議『UMET 2016』の席上でアサンジ氏の音声が公開されたことを前日付(26日)で報じている[11]。アサンジ氏の音声[12]は、当日までに生存しているという証拠を分かりやすく示すものではないが(たとえば、テレビ番組や新聞の1面記事のタイトルに言及する)、少なくとも、『UMET 2016』の席上の人々と電話で話をしているように聞こえる。『UMET 2016』のクリップ[12]のYouTubeユーザのmisssammy8氏のコメントにあるとおり、およそ3:15:00頃から会話が始まる。この映像は、他のユーザのPCでも確認できている[13]。以上の材料は、『二階堂ドットコム』の証拠のない記事よりも情報源に近く、信用しても良いと言えよう。
4点目、〔4〕については、ナポリターノ氏の冠コーナーの一部[14]がネットにアップされているため、より正確なニュアンスを確認できる。ナポリターノ判事(Judge Andrew Peter Napolitano)は、FOXテレビに冠コーナーを持つ司法解説者である。テレビ番組全体は、後追いできないようであるが、ナポリターノ氏が〔4〕に言及する部分は、複数の映像ファイルから確認できる。ナポリターノ氏は、米民主党のメール流出がロシアのサイバー攻撃ではなくNSAによるものであること、ヒラリー・クリントン氏の大統領就任を妨げるためにハッキングが実行されたことを、元NSAの高官の推測として伝えている。その理由は、高官によれば、クリントン氏が国家機密を口にして関係者の海外活動を危険にさらしたことであるという。ナポリターノ氏の口ぶりでは、WikiLeaksにNSAがデータを提供したことは否定されていないが、WikiLeaksをNSAが主導して米民主党のメールをリークさせているというニュアンスは含まれない。あくまで、従来のWikiLeaksのスタンスに介入しない形で、リークが行われていると理解できる。以上によって、『二階堂ドットコム』の〔4〕に係る主張は、誤りとまでは言えないものの、正確とも言えないことが分かる。『Before Its News』の投稿[15]のタイトルにあるように、「NSAがWikiLeaksにリーク材料を与えている」と見る方が正確である。
最後に1点目を確認しよう。〔2〕ウイキリークスは解散され、〔3〕アサンジは殺害されているというナポリターノ氏の言葉は、先の番組には見られないが、これは番組の一部に過ぎないであろうから、否定しきることはできない。ただし、これら2点が正確ではないことは、すでに述べたとおりである。それに、ナポリターノ氏がFOXテレビにコーナーを持つといえども、公式ツイッターが否定していることを覆す材料がないのに、その主張を真っ向から否定することもなかろう。わざわざバレる嘘を吐く理由がない。もっとも、この「嘘を吐く理由がない」という消極的な理由は、『二階堂ドットコム』にも該当する。しかし、ナポリターノ氏の公式ツイッター(@Judgenap)にも、公式ブログ[16]にも、〔2〕や〔3〕に係るフレーズは見当たらない。続報も訂正もされていないという意味では、〔2〕〔3〕をナポリターノ氏が明言したとすることは、根拠が薄弱である。それに、ナポリターノ氏は、FOXという共和党側のテレビ局の有名人でもある。WikiLeaksが題材であっても、仮に同氏が嘘を吐いたということになれば、攻撃の材料に利用されない訳がない。
以上の材料から、上掲1.~4.の言明は、いずれもナポリターノ氏の発言を『二階堂ドットコム』が聞き間違えた結果、提示されたものではないかと推測することができる。『二階堂ドットコム』は、WikiLeaksの公式ツイッターも確認しておらず、故意ではないにせよ、重過失を犯していると言えよう。これを覆す材料は、実際のクリップくらいしかない。これが提示されれば、もちろん、私が間違っていたことになるが、おそらく、今後も訂正されることもないであろう。
おまけ。リチャード・コシミズ氏も「WikiLeaksの創設者が死亡」[17]と述べている。引用元がスクリーンショットとして提示されるようになっただけ、新ブログのクオリティは、進歩したとは言えよう。通説は、WikiLeaksの創設者をアサンジ氏であると見做している。ここに事実誤認があるかも知れないが、『Before Its News』の検証記事[15]にもあるように、元々事実誤認が広まっていたために、『二階堂ドットコム』にせよコシミズ氏にせよ、容易に間違えたということであろう。
[1] 【投稿メモ】 - 二階堂ドットコム
(2016年10月24日12時04分)
http://www.nikaidou.com/archives/86629
[2] WikiLeaks(@wikileaks)
https://twitter.com/wikileaks/status/787889195507417088
Julian Assange's internet link has been intentionally severed by a state party. We have activated the appropriate contingency plans.— WikiLeaks (@wikileaks) 2016年10月17日
[3] WikiLeaks(@wikileaks)
https://twitter.com/wikileaks/status/788514288315068417
BREAKING: Ecuador admits to 'restricting' Assange communications over US election.— WikiLeaks (@wikileaks) 2016年10月18日
Fund his defense costs here:https://t.co/Mb6gXlz7QS
[4] WikiLeaks - The Podesta Emails
https://wikileaks.org/podesta-emails/
[5] WikiLeaks:About - WikiLeaks
https://www.wikileaks.org/wiki/Wikileaks:About#How_does_WikiLeaks_test_document_authenticity.3F
[6] WikiLeaks(@wikileaks)
https://twitter.com/wikileaks/status/789574436219449345/photo/1
Mr. Assange is still alive and WikiLeaks is still publishing. We ask supporters to stop taking down the US internet. You proved your point. pic.twitter.com/XVch196xyL— WikiLeaks (@wikileaks) 2016年10月21日
[7] WikiLeaks(@wikileaks)
https://twitter.com/wikileaks/status/790004642038050816
[8]WikiLeaks(@wikileaks)A bloody year for WikiLeaks pic.twitter.com/7Dy6RgJlhv— WikiLeaks (@wikileaks) 2016年10月23日
https://twitter.com/wikileaks/status/790278989596295170
#日付・時刻は、2016年10月24日04時49分JST(1477252168)。PHOTO: Gavin Macfadyen, beloved WikiLeaks director and mentor to many investigative journalists, who died yesterday. pic.twitter.com/BW3Z2qMtd9— WikiLeaks (@wikileaks) 2016年10月23日
[9] Updated: Who Killed Gavin MacFadyen? | Veterans Today
(Katherine Frisk、2016年10月24日)
http://www.veteranstoday.com/2016/10/24/updated-who-killed-gavin-macfayden/
[10] WikiLeaks(@wikileaks)
https://twitter.com/wikileaks/status/790406530738913285
[11] Is Julian Assange Missing? Supporters Want Proof of Life | Heavy.comThousands keep demanding Assange proof of life. Not unreasonable. He's in a tough spot and is WikiLeaks best known validator. Preference?— WikiLeaks (@wikileaks) 2016年10月24日
(Stephanie Dube Dwilson、2016年10月26日15:56 EDT、更新2016年10月26日17:22 EDT)
http://heavy.com/news/2016/10/where-is-julian-assange-missing-wikileaks-proof-of-life-escaped-kidnapped-extradited-alive-dead-what-happened/
[12] CISL2016: UMET 26-10-2016 | Teleconferencia con Julian Assange - YouTube
(CISL 2016、2016年10月26日)
https://www.youtube.com/watch?v=ndUYXZMNlBU
[13] Julian Assange Alive? Teleconference, 26 Oct 2016, Part 1 - YouTube
(Caity Johnstone、2016年10月26日)
https://www.youtube.com/watch?v=0RRYw0uheeY
[14] Judge Napolitano Exposes Hillary Debate Lies! NSA Hacked DNC Not Russia! Trump Knows Truth! - YouTube
(アップロード:ProjectClarity、2016年10月11日)
https://youtu.be/tTWOu_UX7R0?t=112
[15] Confirmed: The NSA Was Feeding Wikileaks | Alternative(By NESARA、2016年10月27日11時18分)
http://beforeitsnews.com/alternative/2016/10/confirmed-the-nsa-was-feeding-wikileaks-3428886.html
[16] www.judgenap.com
http://www.judgenap.com/
[17] Wikileaks創設者、死体で見つかる。死因、不明。 – richardkoshimizu official website
(リチャード・コシミズ、2016年10月24日13時05分)
https://richardkoshimizu.wordpress.com/2016/10/24/wikileaks%e5%89%b5%e8%a8%ad%e8%80%85%e3%80%81%e6%ad%bb%e4%bd%93%e3%81%a7%e8%a6%8b%e3%81%a4%e3%81%8b%e3%82%8b%e3%80%82%e6%ad%bb%e5%9b%a0%e3%80%81%e4%b8%8d%e6%98%8e%e3%80%82/
2016年11月3日訂正
題名を訂正した。また、段落読みを正確に行えるよう言葉を追加した。
- 新:『二階堂ドットコム』のWikiLeaks設立者死亡の噂を検証する
- 旧:『二階堂ドットコム』によるWikiLeaks設立者死亡の噂を検証する
0 件のコメント:
コメントを投稿
コメントありがとうございます。お返事にはお時間いただくかもしれません。気長にお待ちいただけると幸いです。