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2017年6月13日火曜日

パンダの日本人に対する感度には驚かされる

恩賜上野動物園の雌のパンダ・シンシンが昨日(2017年6月12日に)出産したことを受けて、大々的な宣伝がマスメディアで繰り広げられているが、現時点で267億円という経済効果の試算がマスコミを通じて公表されること[1]には、大変な違和感を覚える。この試算の公表は、株式証券市場の操作には当たらないのか。パンダの育成は、難事業であると聞く。これからが、267億円の経済効果が本当に表れる否かの正念場である。しかも、株式証券市場に生じたこの期待は、パンダの赤ちゃんの誕生という不可逆的なイベントに根拠を置いている。しかも、この期待を急落させるものは、パンダの赤ちゃんの死亡という不幸となる。動物園における動物の飼育は、経済活動の一環であるから、これが金融取引市場という一種のギャンブルの対象となること自体は、理解はできるが、本件は、与件となるパンダの赤ちゃんという存在の儚さを考えると、不健全さを覚えてしまう。上野動物園は、プレス・リリースを12日付で発出している[2]

言うまでもないことであろうが、本件は、ニュースの送り手に送る価値が認められているからこそ、報道されている。基本的には、おおよそすべてのニュースが、何らかの形で金融取引市場に影響を与える材料となる。通常、報道されるニュースは、金融取引市場の参加者にとって価値あることである。原則に対する例外として、価値を意図的に創出・減少させるという目的や、別のニュースを報道しないという消極的な目的を備えたニュースもあろう。わが国では、この例外がまったく例外的ではないことに問題があろう。ニュースの送り手から見て、本件は、本当に今の時点で価値あることだと断言できるものであったのか。

気概ある投資家から見れば、本件はリスクを取るに値する案件と見えようし、賭けとしては、まともな判断材料に恵まれたものであるのかも知れない。第一次世界大戦前、マックス・ヴェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』に刺激を受け、ヴェルナー・ゾンバルトは『ユダヤ人と経済生活』を著し、現代的な資本主義の根幹がカネを貸すという行為にあると論じた。1944年、金・ドルの交換比率を固定制とするブレトン・ウッズ体制が発足したが、50~60年代の経済活動により、その維持が困難となった。1971年、ニクソン米大統領がブレトン・ウッズ体制の維持には無理があると言明するや否や、早速、シカゴ証券取引所において、金融商品自体が賭けの対象となるという金融商品取引が開始された。今後のカネの動きにカネを賭けるというギャンブルを覚えて以来、人類の保有する富の量は、青天井となったと言えよう。佐伯啓思氏は、1993年にゾンバルトを引用し、欲望が資本主義を牽引すると論じたが、わが国においてFXが導入されるのは、1998年のことである。これに追随する形で超高速でテクニカルに取引するという、人間には太刀打ちできないほどの高速な自動取引も考案され、今では、取引を判定するルールさえもが機械的に作成されるようになり、プロのトレーダーすらクビという事態を迎えている。この非人間的な投機環境に比較すれば、パンダは、よほど人間的な判断材料ということなのであろう。

一体、どこで、現在までに至る熱狂が抑制されるべきであったのかと問われたとき、私から見れば、1971年は、一つの分水嶺である。(民間シンクタンクの)ローマ・クラブ[3]による『成長の限界』(1972)は、「両建て戦術」の一環と認めることも可能ではあるが、当面の間、人類が地球という閉鎖的環境に生存せざるを得ないことを指摘した報告(のはず)であった。絶滅危惧種のパンダをテコにして、投資家たちが東天紅の株価をストップ高まで押し上げたこと[4]に対しては、図らずも、日本人について、また、人類全体について、入れ子構造を見出してしまうのである。現物回帰の流れは、私には合理的であるものに見える。少なくとも、現物に紐付けられた経済は、地球環境が物質の重量で見た場合に閉鎖系とみなせるために、分かった気にさせられるのである。


[1] パンダ赤ちゃん、経済効果は年267億円の試算 : 経済 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)
(記名なし、2017年06月13日07時37分、本紙「「赤ちゃん効果」267億円」39面社会14版)
http://www.yomiuri.co.jp/economy/20170612-OYT1T50079.html

東京都内にもたらす経済効果について、関西大の宮本勝浩名誉教授(理論経済学)が、年間約267億4736万円に上るとの試算結果を公表した。〔...略...〕試算では、予想される入園者の伸び率には、同園でパンダが初めて公開された当時の伸び率47%を用い、日帰りや宿泊を伴う年間の入園者数を約181万人増の約566万人と想定。〔...略...〕波及効果も加えた。

[2] ジャイアントパンダ「シンシン」出産のお知らせ|東京都
(東京都建設局・(公財)東京動物園協会、2017年06月12日)
http://www.metro.tokyo.jp/tosei/hodohappyo/press/2017/06/12/15.html

[3] Reports • Club of Rome
(Club of Rome、2017年06月13日確認)
https://www.clubofrome.org/activities/reports/

[4] 上野のパンダ出産で東天紅がストップ高、約10年ぶり高値水準 | ロイター
(ロイター、2017年06月12日14:29JST)
http://jp.reuters.com/article/hotstock-panda-idJPKBN1930EX

2016年12月25日日曜日

ブラックジャーナリストは公職に相応しい存在か

わが国では、高度成長期以後、護送船団形式による表の企業経済が躍進する影で、国際的には競争力が劣位にある企業分野における経営者、これに圧力を加えて利益を得ようとする職業右翼活動家や暴力団などが離合集散しつつ、勢力の均衡が実現されるという、合法から非合法まで連続的な位相を見せる経済界が存在してきた。その膨大な経済活動には、グレーからブラックまでのジャーナリズムが寄生してきた。表向きはジャーナリスト、探偵業、出版業、金融業などからなる業態である。彼らは、正業者と濃厚に交流しつつも、明確な棲み分けを行い、ときに警察の情報源ともなり、ときに総会屋として活動することなどを通じて、ウラ情報の表社会への還流に一役買ってきた。他方、わが国の労働組合は、このような状態に対して、鵺的な存在として機能してきたとはいえ、企業単位という性格のために、結果として、他国に見られるような犯罪組織からの強い影響免れてきた。

後世に生きる筆者の目には、当時の「黒幕」と呼ばれる大物たちは、自らの裏社会における地位を確固としたものにしていた一方で、「表社会」における公的な名誉までは求めなかった紳士に映る。あくまで黒幕と呼ばれるに相応しい節度を身に付けていたからこそ、大物と認められていたようにも見えるのである。昭和51(1976)年に明らかとなったロッキード事件によって全国区で有名となった二人の黒幕、児玉誉士夫氏と小佐野賢治氏は、この見方に該当するように見える。児玉誉士夫氏は、現時点から見れば、職業右翼と呼ばれうる存在であるし、小佐野賢治氏は、企業家でありかつフィクサーであったと言えよう。両名とも、毀誉褒貶の激しい世界に身を置いていたにもかかわらず、私には何らかの節度をわきまえていたようにも見える。当時の社会においてさえ、関係者のみならず、テレビやマスコミ報道に踊らされた無知な層を除けば、社会から憎からず思われていたと見て、間違いではないであろう。現在の視点からすれば、悪人を擁護することなどあり得ないと思われるかもしれないが、悪を自覚する者が棲み分けの重要性を自覚していたゆえにその地位に相応しい尊敬を獲得していたことを、私は指摘したいのである。おそらく、某ビジネス書が指摘するとおり、自らの影響力の範囲と実力とを一致させ、維持することは、ある人物が黒幕であろうと、後世に認められるための要件なのであろう。

ところが、両氏のような生き方を可能とした、鉄の四角形とも言うべき政官財暴の均衡は、平成3(1991)年の暴対法制定を嚆矢として、大きく変化することとなった。昭和63(1988)年のリクルート事件を始めとして、証券・金融分野を通じた「不祥事」が一部の週刊誌ジャーナリズムによって「スクープ」され、「黒幕」と呼ばれうる怪人物が活躍する余地が失われ、バブル崩壊直後に制定されたこの法律は、裏社会の空白を埋める形で官僚の統制を強化するという機能を果たした。この傾向は、平成7年のオウム真理教による(と裁判を通じて認定された)一連の事件後には、さらに強化された。バブル崩壊後の氷河期とも形容された不況を理由に、企業社会が裏社会との関係を断ち切るようになったのである。この背景には、暴対法の施行を確実なものとするために、体力のある大企業がベテラン警察官や警察官僚の天下りをより多く受け入れるようになったことが指摘できる。裏社会から官公庁へと権益が移行したのである。

その主張がいかなる動機に基づくものであるかは慎重な検証を必要とするが、この時期辺りまでのわが国裏社会の人物や組織は、法や分を弁えることを重視すると公言してきた。たとえば、「カタギには手を出さない」「違法薬物禁止」という種類の言明である。これらの言明は、縦割り主義的な結果を生じることとなり、わが国では、大学という組織は、一部の私学を除いては、これらの裏社会との接触が比較的小さなものに留まってきた。大学や学校法人は、一部を除き、左翼と見なされる組織により占拠される一方、大学に巣くう極左集団などは、一般的には、裏社会とは呼ばれなかった。もちろん、大学が純真無垢な組織であり続けてきたという訳ではない。たとえば原子力産業は、用地買収や左翼団体に利用される裏社会の強面たちと交際する必要があったし、大企業の総務部は、大企業社会において、その種の難しい業務を一手に引き受ける必要がある部門である。体育会は、このようなマッチョさを要求される分野の格好の人材供給源となったのである。このコネクションは、必要悪として、わが国社会の「大人」なら、当然視てきたものと言えよう。

1990年代におけるブラックジャーナリズムの変化を理解する上で大事なことは、顕名性がユーザに浸透していたダイヤルアップを通じたパソコン通信環境から、知識に乏しく匿名的であると誤解するユーザを多数含むインターネット掲示板へと、アングラ情報流通の舞台が変化したことである。この結果、ウラ情報は、世紀の変わり目頃には、『2ちゃんねる』に代表されるインターネット上の掲示板に書き込まれることが習いとなった。プロキシサーバを介することにより、書込主は、一定の匿名性を期待することもできたが、ときには、証券市場に重大な影響を与える情報さえ、インターネットの特徴を知らない初心者(に見える、あるいは初心者を装う)ユーザによって、(一見)不用意に書き込まれ、大々的に流通することになったのである。

わが国の「匿名掲示板」の巨人であった『2ちゃんねる』は、「匿名」との評判からか、今世紀初頭には、真偽不明の、株価に影響を与えうる内容も大量に書き込まれる掲示板となっていた。この動きには、多数の企業人までもが関与し、その関与自体が明らかになるにつれ、さらに読者を引きつけることとなった。考えの浅い投稿者がプロキシサーバを経ることなく、インサイダーや風説の流布に相当する危険のある内容を投稿するようになった。企業が自社のIPアドレスから直接その内容を把握しようとするという、現在からすればほほえましい動きも見られた。書込みや閲覧が、身元確認につながりやすい携帯電話から行われることもあった。これらの条件が組み合わさることにより、2ちゃんねるの運営者や、それに連なる人物たちは、真偽不明の内容に加えて、取得していないと主張していたログを利用して、ブラックジャーナリズムを本格展開する機会を手にしたのである。

犯罪予防の基本である、「犯罪者の認知する犯罪の機会は、ほとんど常に利用される」という教訓は、先述した環境によって、『2ちゃんねる』の展開するブラックジャーナリズムにも該当することとなった。『2ちゃんねる』は、最後にはサーバが「クラッキング」され、有料サービスの購入に利用されていたクレジットカード情報が匿名化ネットワーク上に流出したことにより、この巨大掲示板を舞台とした明らかな犯罪の痕跡が匿名化ネットワークの世界には残されることとなった。個人だけでなく、永田町に近い組織や、企業までもが情報を監視し、あるいは流通に荷担していたことが認められるようになったのである。

インターネット上の明らかな経済犯罪の痕跡を確認したとき、自ら動くことが可能な組織は、検察と証券取引委員会であるが、これらの組織は、今世紀型のブラックジャーナリズムに還流したはずの利益を十分には解明しなかった。株価操縦等が外形的に認められる痕跡から実際に立件に至った事件は、到底、『2ちゃんねる』の運営に連なる人脈の資金流通を止めるものとはならなかったのである。それどころか、この巨大掲示板を活用しつつ、巨万の富を築き上げたロスジェネ世代の怪人物たちの一部は、政界進出を目論むことさえした。この時点で、日本的サブカルチャーを装うアングラ業界の人物たちは、戦争屋に連なる政治人脈と交友関係を結ぶことにさえ成功していたのである。

政界進出及びマスコミ買収に伴う反動という形で、いわゆるライブドア事件が生じたことは、わが国において、一定の「抵抗勢力」が結果として国益を保全してきたことを逆説的に示す証拠であると言える。しかしながら、ライブドア事件を捜査した部署は、東京地検特捜部であ、同部による捜査は、とうてい不法行為の全容を解明するものとは言えないものであった。いくつかのエクストリーム自殺については、その解明がほかの凶悪事件をも解決に導きうるものであったにもかかわらず、解明が行われることなく、放置されたことを指摘できる。

検察までもが一大疑獄の可能性が強く疑われる凶悪事件を放置した結果、これらの活動に関与してきたことが十分に認められる人物たちは、多少の抵抗に遭うも、大きな発言権を日本語社会において確保することに成功し、現在に至っている。彼らが作り上げたオルタナティブな情報インフラは、現在、情報操作のためのツールとして、現政権に大いに活用されている。内閣機密費は、これらの情報操作に利用されていると指摘されている。もちろん、われわれ一般人には、その確実な証拠を掴むことは適わない。

わが国の勢力均衡状態と縦割り文化をふまえれば、「闇の紳士録」に掲載されるであろうほどに成長したこの分野の有名人たちは、現時点では、羽目を外し過ぎている。日本社会は、彼らが従来の役割、たとえば投資家として振舞う限りにおいて、従来の「ビジネス」に従事することを許容するであろう。固有の社会的役割に従事することの代償として、アングラ業界の人材は、それに見合う報酬を得てきたと言える。その地位を超える報酬(名誉や地位)を望むことは、社会によって許容されていないのである。

このような状況を鑑みるとき、この状況に責任の一端を担うはずの役職に、公職における資質を問われる人物が収まっていることは、大変興味深いことである。


参考

遠藤健太郎オフィシャルブログ » Blog Archive » ストロスカーンと中川昭一
http://endokentaro.shinhoshu.com/japan/post1952/

篠原尚之 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AF%A0%E5%8E%9F%E5%B0%9A%E4%B9%8B

メンバー 東京大学 政策ビジョン研究センター
http://pari.u-tokyo.ac.jp/info/member.html


#東京大学政策ビジョン研究センターは、東京大学基本組織規則第21条の規定(全学センター)に基づき設置される研究部門であり、公共政策学連携研究部・公共政策学教育部、法学政治学研究科、経済学研究科、工学系研究科、医学系研究科を出身母体とする研究者の、いわば寄り合い所帯である。相乗効果が見られれば、わが国の行く末を決定する上で良い政策を形成可能な組織であるとは思われる。

東京大学政策ビジョン研究センター運営委員会規則
http://www.u-tokyo.ac.jp/gen01/reiki_int/reiki_honbun/au07410191.html

附則
この規則は、平成25年4月1日から施行する。
(了解事項)
1 第3条第1項第3号「前2号以外の本学専任の教授のうちから若干名」とは、5~10名とする。なお、当分の間は、公共政策学連携研究部・公共政策学教育部、法学政治学研究科、経済学研究科、工学系研究科、医学系研究科からそれぞれ1名を含む若干名とする。
2 センター教員の選考にあたっては、センター規則第2条の趣旨にのっとり広く専門研究者の意見を徴するものとする。

東京大学受託研究員受入実施要項
http://www.u-tokyo.ac.jp/gen01/reiki_int/reiki_honbun/au07408461.html

東京大学教職員倫理規程(untitled - syuki17.pdf)
http://www.u-tokyo.ac.jp/gen01/reiki_int/reiki_syuki/syuki17.pdf
(平成16年4月1日東大規則第27号)
改正平成17年3月28日東大規則第360号
改正平成18年3月30日東大規則第120号

(倫理行動規準)
第3条教職員は、本学の教職員としての誇りを持ち、かつ、その使命を自覚し、次の各号に掲げる事項をその職務に係る倫理の保持を図るために遵守すべき規準として、行動しなければならない。
(1) 教職員は、職務上知り得た情報について一部の者に対してのみ有利な取扱いをする等不当な差別的取扱いをしてはならず、常に公正な職務の執行に当たらなければならないこと。
(2) 教職員は、常に公私の別を明らかにし、いやしくもその職務や地位を自らや自らの属する組織のための私的利益のために用いてはならないこと。
(3) 教職員は、法令及び本学の諸規則により与えられた権限の行使に当たっては、当該権限の行使の対象となる者からの贈与等を受けること等による疑惑や不信を招くような行為をしてはならないこと。
(4) 教職員は、職務の遂行に当たっては、公共の利益の増進を目指し、全力を挙げてこれに取り組まなければならないこと。
(5) 教職員は、勤務時間外においても、自らの行動が本学の信用に影響を与えることを常に認識して行動しなければならないこと。

小佐野賢治 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%8F%E4%BD%90%E9%87%8E%E8%B3%A2%E6%B2%BB

児玉誉士夫 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%90%E7%8E%89%E8%AA%89%E5%A3%AB%E5%A4%AB




平成29年3月1日修正・追記

文意を損なわない程度に、読みにくい部分を修正した。追記・修正部分は淡赤色で、削除部分はコメントタグにて残してある。

本稿の修正を行うきっかけに至ったのは、遅ればせながら、昨年暮れ(2016年12月15日)に川上量生氏?が山本一郎氏を指して陰で「総会屋2.0」と呼び習わしている旨をコメントして以来、この語がバズったことをようやく知ったためである。

なお、本稿の原本は、昨年9月14日あたりに準備を終えたものである。関係各位に対する辛辣なクリスマスプレゼントとして、用意してみたものであった。「タブー抜きで」私の中では確実に正しいと思われる情報を用意する、という本ブログの趣旨に照らせば、結果として、本稿は、えらく文脈依存的なものになってしまった。もちろん、この状態を知った現在も、この状態を継続しているということ自体、入れ子構造を狙ったものに他ならないことまで、賢明な読者にはお見通しのことであろう。

閑話休題。裏社会あるいは泥棒政権(クレプトクラシー; kleptocracy)にとって、市場規模5兆円とも見込まれるカジノ(IR)産業への食込みが邪魔されないことは、ソシャゲ業界における権益確保よりも、よほど大事なことである。表の経済規模にかかわらず、効果的なマネロン対策がカジノ運営に適用されるか否かは、国際社会で日本国が独立国として長期的に生き残るための要件である。これとは逆に、マネロン装置としてカジノを悪用可能なことは、裏社会にとっての権益を意味する。現在のIR論議の下では、カジノの脆弱性、すなわち勝ち金の大きさは、従来のギャンブルシステムを大きく上回るものになることが見込まれる。この議論に立ち入らせることなくカジノの話を終息させることは、裏社会にとっての権益確保につながる。マスメディアを通じて名前の売れている人物たちから山本氏に寄せられた批判の中に、山本氏の主張するカジノの話が一つも出てこないことは、私にとって、一つのサインである。

もっとも、マネロン装置として悪用しうる余地のあるカジノという存在は、道具でしかない。誰が・どのように・いつ・誰をもてなすために・どれだけ用いるのか、が分からない限り、政治過程におけるマネロン装置としてのカジノの善悪を最終的に判定することは適わない。他方で、これを犯罪予防システムの脆弱性として観る限り、これを放置することは、マネーロンダリングに対して厳しい視線の注がれる昨今、自称先進国の一員であるわが国としては、賢明なこととはいえない。社会システムの不具合を指摘することは、私の一応の仕事の範疇なので、ここに明記しておく次第である。

組織犯罪にとっての「利益」とは、通常の営利企業において所属者が職業人として必要とされる労力を抜きに、その労力に見合う以上の不正な対価を組織が入手できることであるから、この利益の生じる機会を取り除くことは、効果的な犯罪予防対策となる。その利益=旨味は、通常の経済活動と同様、経費を差し引いて得られるものである。言い換えると、カジノの生じさせうる脆弱性も、ごく素朴な形とは言え、経済的な観点から分析可能である。カジノにおけるマネーロンダリングで必要となる経費の中で、カジノ経営から完全に独立した要素として扱うことが可能なもの、つまり、切り分け可能な存在として、ジャンケット(への請負)を挙げることができよう。彼らは、麻雀等でいう代打ち、パチンコでいう打ち子にも相当する。この存在に着目すれば、以前に言及したように、勝金の上限額を、たとえば30万円程度の、一般人にとっては大勝ちしたと思える一方で、一回だけの接待を通じて高級官僚や政治家や職業的犯罪者への賄賂とするには割に合わない金額に設定することは、有用な犯罪予防対策となりうる。

蛇足。ギャンブル機関のマネロン装置としての性能は、トランザクション(勝ち負けに伴う金銭の授受一対)の回数と、そのトランザクションごとの勝金の金額に依存する。他のギャンブル運営に比べて、カジノがマネロン装置として優れている点は、勝金の多額さにある。この点、競馬の三連単が導入された経緯や、競艇の結果が荒れがちで勝金が高額化しがちであることは、示唆的である。従来のカジノでプレイされているゲームを含め、従来のギャンブル運営を通じたマネロンでは、胴元がマネロンを感知し得ないことはあり得ない。とすれば、勝金の高額化を是とする意見は、マネロン対策の厳格化と対になって語られなければ、邪な意図の下に発せられている可能性があると勘繰ることが可能である。李下に冠を正さず、である。

蛇足2。IRで認可されるゲームの種類が従来型のようにディーラーの関与の余地が高いものとならない場合、カジノ運営企業が何らマネロンに関与しなくとも、あるいはマネロンの排除に尽力しようとも、脆弱性が生じることになる。たとえば、同じ卓の中でゼロサムとなる種類のゲーム、たとえば麻雀が認可された場合を挙げることができる。金銭の授受を発生させたい二者が同じ卓を囲み、接待麻雀を行えば良いだけだからである。カジノ事業者は、このようなゲームを導入するのであれば、このような場を提供したと非難されないために、すべてのゲームの手番を記録する必要がある。贈賄側の「手抜きの悪手」を記録する必要が生じるためである。この全手番(一回のゲームにおける全トランザクション)の記録が、割に合わない手間のように見えてしまうのは、私だけであろうか。従来型の、ディーラーの関与が決定的なものであるゲームであっても、ディーラーの公正さを示すために、全手番を記録する価値はある。ここまでの対策を実行する企業が運営するのであれば、カジノ運営は、従来型のギャンブル経営に比較して、よほど健全であるということになろう。ただ、このような記録体制自体は、勝金の高額化を無制限に許容する材料とは見做されないであろう。あくまで、他のギャンブル形態との比較を通じて、公正であると見做される程度にまで、勝金の高額化を認めるという程度に留まろう。




2017年05月15日追記

「Ken Sugar」氏(@ken_sugar)の以下のツイートが大きく引用されていたので、この点を付記するとともに、brタグのレイアウトをpタグに変更した。「Ken Sugar」氏による山本一郎氏の肩書きに対する見立ては、通常人が正しいと信ずるに十分な材料である。ただ、「Ken Sugar」氏は、本記事の本文中に示唆した内容までは、視野に含めていないようである。山本一郎氏よりも批判されるべき人物が、ほかにいる。分かりにく過ぎたかも知れないので、明記しておこう。美人局なんて、ブラックジャーナリストの典型的手法ではないか。このように指摘することが、本記事のもう一つの意図であった。

Members | Complex Risk Governance Research Unit, UTokyo Policy Alternatives Research Institute
(2017年05月15日確認)
http://pari.u-tokyo.ac.jp/unit/crg/en/about/members/

2016年11月5日土曜日

(メモ)アジア通貨危機への評価に対するジョゼフ・スティグリッツ氏の弁明

アジア通貨危機に先立つIMFの政策が「東アジア地域の弱体化か、少なくともウォール街の金融の中心にいる人々の所得拡大を狙って進められた」という議論を、ジョゼフ・スティグリッツ氏は、「IMFは陰謀に荷担していないが、西洋金融界の利害とイデオロギーを反映している」と評したという。スティグリッツ氏は、後日、この見解の前段と後段とが互いに矛盾(訳語は「排除」)するかのようであるがと質問され、次のように補足している。

お互いを補強し合うこともありえます。イデオロギーと利害が、明白な陰謀を補強するために用いられることもありえます。わたしが陰謀論を疑わしく思うのは、米国のような多様な市場経済において、全員を陰謀に加担させることなどできないだろうと思うからです。米国金融市場には、東アジアが強くなったほうが、グローバル経済のためにも合衆国のためにもよいと思う人がたくさんいます。

ここに言う「陰謀」の語には、注意が必要である。市場参加者全員の明白な意見交換を伴う計画のみを陰謀と呼ぶのであれば、陰謀は存在していないであろう。しかし、きわめて多額の資金を擁する少数の人物たちが、入念に公的統計などから「儲けの種」を選び出し、いくつかの通貨や国債に仕込みを入れておき、タイミングを見て売りを仕掛けたということを陰謀と呼ばないのも、これまた語感に合わないことである。大多数のウォール街の住人が大きな値動きに追随したことは、陰謀とは呼ばないが、陰謀を企図して仕掛けた者たちの思惑通りの動きであろう。

陰謀の語には、非難の意が付随する。非難の意を表現したと誤解されることを避けるため、学者が陰謀の語の使用を避けることは、安全策として必要かも知れない。ただ、この誤解を避けるがあまり、アジア通貨危機におけるクァンタム・ファンドの一連の動きを「陰謀」と呼ぶことを否定するとすれば、一体、何を陰謀と呼べるであろうか。ジョージ・ソロス氏の他国への関与がより確実な形で明るみに出されている2016年時点においては、当時の共起関係に基づいて、アジア通貨危機を陰謀と呼ぶことには、それほどの問題性は見られない。(2007年までの間にも、アジア人の側では、十分に関係性が疑われていたことを申し添えておく。)

スティグリッツ氏の指摘通り、ウォール街の金儲けを第一とする論理を内面化した人物が同調的な行動を起こすというだけでは、陰謀とは呼べない。ここで、陰謀と呼べるだけの十分条件を考えてみる。クァンタム・ファンドに何らかの形で協力した人物が、その時点でIMFに在籍していたことや、ファンドにIMFの元インサイダーを招聘してその内部知識を利用することに対しては、陰謀を認めることができよう。もっとも、この条件は緩やかに過ぎると考える者がいるかも知れない。陰謀と呼ぶには、IMFの政策がクァンタム・ファンドを具体的に利さなければならない、と考える者もいよう。いずれにしても、この両者の間に、陰謀と呼ぶことのできる境界線が存在するであろう。この条件をどれほど緩めれば、アジア通貨危機の構図になるかと言えば、共謀と呼べる密な連絡を一般人が追跡不可能であるというだけの条件しか存在しないのである。(この点、「寿司友」は「寿司友」と呼べるだけの状態にあるだけでアウトである。)

スティグリッツ氏の指摘したアジア通貨危機の構図は、俗に言う「阿吽の呼吸」で動いたもの、というものと言える。関係者の「忖度」や「期待」と呼び変えても良い。これらの心性は、陰謀とまでは呼べないものの、公正さとは程遠いところにある行動を生み出すものである。単に、「共謀」の要件である「謀議」が存在しないだけである。各人が己の職分に基づいて行動した結果、同調的な役割分担が生じたということであろう。カレル・ヴァン=ウォルフレン氏は、日本の政財官報の成員からなる、利権を死守するムラの心性を「鉄の四角形」と呼んだが、この構造は、成員の各人に内面化された心性を必要とするという点で、先のスティグリッツ氏の表現とほぼ同一の内容を述べている。ミシェル・フーコー氏の指摘した、規律の内面化という概念は、あらゆる職業人に敷衍できる一般性を有するものである。

私からすれば、スティグリッツ氏が「陰謀」の語を避けるのも、また、これを面と向かって問われた場合に否定するのも、理解できなくもないことではあるが、アジア通貨危機の状態を「陰謀」と呼ぶ者がいたとして、これを批判することは、避けるべきではないかと考える。公正な経済行動をはるかに超える悪質な行動であって、陰謀未満であるためである。それに、このような行動を繰り返してきた人物を重用してきたからこそ、アメリカは、その精算に苦しむことになっている。人は記憶から成り立つ生物であるし、歴史はその記憶・記録から成立する人工物でもある。戦争屋であることが明白な人物が弱みを見せているとき、そこから正当な取り分を奪い返そうとする諸国民の動きが生じることは、世の習いである。経済学者たちは、容疑が明白な戦争屋たちの行為を擁護したと糾弾されないように、99%にとって「悪」に荷担するように聞こえかねない言動を控えるべきであろう。

ネルミーン・シャイク[著・聞き手], 篠儀直子[訳], (2007=2009). 『グローバル権力から世界をとりもどすための13人の提言』, 青土社.(リンクはNDL-OPAC)

2016年10月6日木曜日

(メモ)PanasonicとIBMのスマートハウス機能に係る提携を報じる日経記事には違和感がある

 日本経済新聞は、パナソニックがIBMと提携し、人工知能を利用して、住宅に設置された防犯カメラに映り込む人物の分別作業をはじめとする住宅サービス事業に取り組む方向であることを、2016年10月6日の朝刊1面で報じている。
 両社は共同で新サービスの開発に取り組む。まずドイツのベルリン南東部で2017年に着工、18年末に完成する「スマートタウン」にAIの導入を目指す。
 〔...略...〕
 まず防犯カメラの性能を引き上げる。撮影した映像をIBMのコンピューターにクラウド 経由で送信し、同社のAIシステム「ワトソン」が処理。住民や知人の顔を「学習」し、それ以外に近寄る者を不審者と認識する。敷地に近づくと警察に通報したり、近隣住民に知らせたりする。
「 「AI住宅」世界展開/パナソニック 家電制御 自ら学習/米IBMと」『日本経済新聞』2016年10月6日朝刊1面14版.

 この報道に対しては、「ドイツでOKなら世界でOKということになるから、ドイツで始めようという方向は分からなくもないが、現行法体系の下では、データ保護及び情報の自由コミッショナーによってサービスの開始が認められないのでは?」という疑問が湧く。これだけ短い記事であるにも関わらず、記事には、複数のツッコミ所が見受けられる。

 データ保護という観点からツッコむと、どのように被写体の同意を取るのか、という点が挙げられる。この記事における「敷地外」が公道である場合には、連邦データ保護法の6b条(公衆の立入りが可能な空間における光学・電気的なモニタリング)の三要件を満たす必要がある。この要件を満たしていても、同法は、個人に係るデータを収集される客体に対して、データ収集に対する明示的な同意(オプト・イン、4a条)を求めている。このとき、被写体は、データの収集に明示的に同意するには、何をすべきなのであろうかと想像してみると、少し面白い。両手を挙げて二回以上回るとか、公道で行うにはかなり恥ずかしい感じの行動を必要とするのであろうか。たとえば、ドイツポスト(郵便配達)の職員は分かりやすい制服を着ているが、彼らのうちの何人かが容貌の撮影を拒否したいとき、いかに拒否することができるのであろうか。そもそも、このような行動を取ることのできない人たちや、拒否するためのポーズを拒否する人たちには、いかなる代替策が許されているのであろうか。声も個人情報である。人工知能による監視は、私有地ならそれなりに実現できそうであるが、公共とのすり合わせは、なかなかできそうにはないのかも知れない。

(参考)Federal Data Protection Act
http://www.gesetze-im-internet.de/englisch_bdsg/


 データ保護が実現されてから後の段階の話についても、一点、ツッコんでおくと、「敷地に近づくと警察に通報」するという記述は極端である。日本国内においても、少々、行き過ぎの表現である。わが国における家庭向けの警備サービスの現状を考えてみれば、この指摘の正しさは、十分に理解されよう。敷地に近付くだけで警察に通報するのは、わが国では、公務執行妨害になるとも考えられる。それとも、敷地に近付く歩き方をすると、『ワトソン』が事前に警告を発するのであろうか。道路交通法に違反しない限り、歩き方を指南されるのも、「オイ、コラ」と言われている感がある。

 以上の二例に見たように、日経には、業界の内情を知る者から見れば、かなりの違和感を持つような記事が掲載され、不当な表現がごく自然であるかのように使用されることがある。同意の取得と通報機能について揶揄したのは、日経の記事の表現が不当であることを示すためである。データ保護法制がわが国よりも十分に厳格なドイツにおいて、このようなサービスを実施するとして、常識に違背する表現が多用されている。この整合性のない状態は、日経の記者とデスクが何らかの意図の下に本記事を世に問うたという気配を感じさせるものである。

2015年6月3日水曜日

日本年金機構の会見に至るまでの空白期間は、詳しく捜査されるべきである

【要約】日本年金機構の情報流出事件の公表は、平成27年6月1日の午後になったが、日本年金機構は、本件について、司法当局への遺漏なき説明が必要である。警視庁公安部をはじめとする司法当局には、タブーを設けず捜査をお願いしたい。年金機構の職員と思しき人物による『2ちゃんねる』への書込みは、ある種のインサイダー取引を覆い隠す煙幕の役割を果たした可能性さえ認められる。

日本年金機構の情報流出事件は、先の記事で述べたように、警視庁公安部が捜査していると報道しているが、この事実は、公安部が対処すべきほど、本流出事件が国際・経済・政治の各方面に直結する事件であることを示す傍証でもある。ウイルス付きメールを送信した犯人は、シマンテックが公式ブログで「CloudyOmega(クラウディオメガ)」と命名した※1者(たち)であると読売新聞が報道している。この犯人が多用する方法は、書類ファイルに見せかけた不正なプログラムを実行させる※2という手口である。

[2015年6月3日9時追記]今回は、経済方面への定性的な影響に限定して考察を行う。ただし、下記のタイムラインなどから明らかであるように、NISC、厚生労働省などをはじめとして、多くの行政関係者も今回の情報流出を公表以前から知る立場にある。本事件を徹底的に捜査すれば、行政関係者のインサイダー取引が明るみに出される可能性も認められる。これが、先に、経済・政治に直結する事件であると述べた理由のひとつである。理由のもう一つは、以下に述べるように、日本年金機構の対応が、経済的に不正な利得を得る猶予を与えかねないものであったことにある。

基本的なタイムラインは、「日本年金機構の情報漏えいについてまとめてみた - piyolog」から確認できる※3。タイムラインとして把握すべき情報は、このまとめから十分に得られる。以後、ここで示した意見の論拠は、おおむね、このまとめブログから得ることができる。

平成27年6月1日の証券取引市場の大引け後に、報道がウェブにアップされたことは、確実だと考えて良いであろう。時事通信の記事は、16時53分配信であり※4、産経新聞の記事は、16時55分配信である※5。『Yahoo!ニュース』のタイムスタンプの正確性は、サイト運営企業であるヤフー株式会社の信用にも、通信社・新聞社の信用にも関わることである。Yahoo!ニュースに対しては、相当数のアクセスが定常的に見られるという条件があるため、タイムスタンプをわざと前後させる理由も考えにくい。いずれにしても、この記事が1日の大引け後に報道されたものと考えることには、差し支えがないであろう。

企業犯罪を防ぐという観点から見れば、日本年金機構による会見の開始時刻が15時前でなかったかという点を確認しておくべきである。ただし、われわれは、この点には留意せずとも良いだろう。FNNがYouTubeにアップした会見の模様※6では、冒頭から125万件の情報流出があったと述べられている。仮に、会見が証券取引市場の後場の最中に開始されたとするならば、日本年金機構は、この会見そのもので、報道各社の関係者にいち早くインサイダー情報となる情報を提供したことになる。ゆえに、司法当局は、この記者会見が、いつ・誰に・どのように、通知されたのかを確認する必要がある。しかし、これほど分かりやすい手抜かりが記者会見で生じるという事態は、さすがに考えにくい。その上、司法当局においては、この点は、基本的な確認事項であろうから、本件についての考察は、本稿では行わない。

大引け後に記者会見が開始されたという前提で話を進めると、一番の問題は、日本年金機構による会見が週末に行われず、月曜日の証券取引所の月曜日の午後まで遅れた点である。対応の迅速さは、経済犯罪(企業犯罪・金融犯罪)の予防を図る上で、また同機構の関係者が無用な疑いを持たれないために、きわめて重要である。タイムライン上では、5月30日に流出の停止が確認されている。30日のいつであるかという問題は、それほど重要ではない。31日のうちに記者クラブに通告して記者会見を開催すること自体は、報道機関も大企業であるから、さほど困難なことではない。しかし、記者会見が遅れたという事実は、本件の担当者らだけに、状況が沈静化してから1営業日の間、何かを売り抜けたり買い込んだりする猶予が与えられたということにほかならないのである。

第二の問題は、28日木曜日の夕方以降、複数の年金機構の職員により、システム障害を匂わせる書込みが『2ちゃんねる』に複数投稿されたことである。これらの書込みがいち早くネット住民に注目された形跡は、広く認められる。28日以前にも、機構内のみならず政府関係者には、情報流出の可能性が認識されていたはずであるが、『2ちゃんねる』への複数の職員の書込みがなされるまでは、それほど大きく問題は認識されていなかったものと認められる。もっとも、問題が生じていることを示す、ほかの書込みが後から発見される可能性も絶無ではない。

本件で多くの情報が流出したという事実は、平成27年6月1日に初めて確認されたものではない。まず、8日の時点で不正アクセスがNISCにより確認され、厚生労働省へ連絡がなされたという。次に、19日の時点で警視庁への相談があったという。28日に流出が認められたと警視庁より連絡があったという。その当日、28日の20時台、『2ちゃんねる』の「日本年金機構【年金機構】」というスレッドに「ウィルス」という名前の主が「感染しました。」と書込みを行ったようである。

日本年金機構の対応の遅さは、同機構のトップクラスの職員を含めた広範な範囲の関係者にインサイダー取引が横行している可能性があるとの疑念に正当性を与えるほどのものである。28日の書込みは、証券取引の不自然な変動につながりうる。『2ちゃんねる』に代表される自称「匿名」サイトでは、このような書込みを監視して、書込主のIPアドレス・日時と合わせて活用することにより、経済上の利益を狙うということが行われる余地がある。以上の経緯をふまえると、論理的には、書込みした人物はもちろん、サイト運営者ら、年金機構関係者のうち28日の内部通達を決裁した者、1日の時点で公表することを決定した者までもが、インサイダー疑惑の容疑者となりうる。

ややこしいことは、28日に書込みを行った者・サイト運営者らが、インサイダー取引を実行しようとした本命の人物または集団によって、煙幕を張る役割を担わされた可能性が認められることである。19日の時点で明らかな被害が認められている一方、28日に内部通達を実施した部署が、28日まで実質的または段階的な対策を施したようには見えない点も、このような疑いを増す要因となっている。ダチョウ倶楽部の上島竜兵氏のように、「押すなよ、押すなよ」という印象を与えるような形の統制を突然強いておきながら、十分な説明を与えず、箝口令も出さなかったとすれば、この統制の不思議さにまんまと引っかかった機構の職員が、案の定『2ちゃんねる』に本件を匂わせる書込みを行うという結果に至ったとしても、何ら不思議はないのである。

怪しい書込みは、28日木曜日18時43分以後に散見されることから、『2ちゃんねる』の読者に丸二日間の取引のチャンスを与える形となっている。『2ちゃんねる』の28日の書込みに敏感に反応してコンピュータセキュリティ関連株に買い注文を入れたり、あるいは年金機構のシステム構築に関連した企業の株に売り注文を入れたりしたような、年金機構とは無縁の賢明な市場利用者は、この期間を利用して(下手をすると18日以前から)仕込みを入れていた真犯人を覆い隠す煙幕の役割を果たしてしまうことになりかねないのである。このような事態が生じているとすれば、また実際生じていてもおかしくはないが、インサイダー取引の犯人の方が、19日以前から28日までの開設日を上手に利用できる分、28日に書き込まれた情報を利用した善意のトレーダーよりも犯人らしく見えなくなるのである。

IT企業界隈では、インターネットに接続する機器とデータベースを扱う機器を物理的に常時接続したことは、初歩的な誤りも良いところであるという声が上がっている。流出情報に係る業務は、一見すると、インターネットに常時接続してまで情報等をアップデートする必要があるとも思えないものなので、これらの批判には説得力がある。この点についても、別途検証が必要とはなろう。ただし、この問題は、本稿で扱う問題と切り離して考えることができる技術的な問題であり、もちろん改修すべきであるが、年金制度を担保する組織の存立そのものに致命傷を与えるものではない。

繰り返しになるが、今回の情報流出事件に係る日本年金機構の対応で責められるべき点は、報道で指摘されるようなシステムの不具合ではなく、証券市場を通じて年金を運用する主体としての適格性を疑わせるような遅い対応を取ったことである。上記で指摘した年金機構の動きは、総体として、証券取引市場で何かあくどいことをしでかしたのではないかと第三者に疑わせるに十分な材料である。28日の書込みは問題であるが、たとえ、この書込みがないとしても、対応が月曜日の午後にずれ込んだこと自体、責任を免れない結果である。ましてや、28日の書込みを放置する形になった点は、記者会見のセッティングに単に時間を要しただけであったとしても、丸二日の取引時間中に何かの不正を行うための煙幕ではないかという疑念を抱かせる結果となっているのである。記憶だけで記すと、年金の実際の運用はプロに任せるということになっているようであるが、しかしながら、委託先を選定する作業にも影響が出ないとは言い切れないであろう。

日本年金機構は、以上のような懸念を払拭するためにも、今回の記者会見に至る経緯について、司法当局へ遺漏なきよう、また、積極的に説明すべきである。警視庁公安部をはじめとする司法当局には、タブーを設けない捜査をお願いしたい。何度も繰り返すが、年金機構の職員と思しき人物による『2ちゃんねる』への書込みは、ある種のインサイダー取引を覆い隠す煙幕の役割を果たした可能性さえ認められ、その煙幕に隠れようとした犯人の候補は、論理上、広範な組織にわたることになってしまうのである。データを流出させたという事実が致命傷になるのではなく、危機管理上の不満足な対応こそが、日本年金機構にとって、真の致命傷になりかねないのである。それゆえ、以上の説明に立ってみると、本事件が公安部の担当になることは、それほど不思議なことでもないのである。私は、一般人以上のことを何も知らないが、おそらく、ここで指摘したような可能性までを含めて、19日以降、捜査が進められていることであろうと推測する。

現代の企業活動や公益活動は、証券市場と分かちがたい関係にあり、証券市場への影響を常に視野に含める必要がある。危機管理の場においてさえ、株式市場への影響は、念頭に置く必要があるだろう。証券市場への影響をふまえるなら、危機管理の担当者も、証券市場のスピード感をふまえて動く必要がある。このスピードを乗りこなすためには、素直な対応しか取り得る方法がないようにも思われる。



※1 CloudyOmega 攻撃: 一太郎のゼロデイ脆弱性を悪用して日本を継続的に狙うサイバースパイ攻撃 | Symantec Connect コミュニティ
http://www.symantec.com/connect/ja/blogs/cloudyomega

※2 セキュリティ研究センターブログ: 医療費通知に偽装した攻撃(Backdoor.Emdivi) その後
http://blog.macnica.net/blog/2015/01/post-39d4.html

※3 日本年金機構の情報漏えいについてまとめてみた - piyolog
http://d.hatena.ne.jp/Kango/20150601/1433166675
注: 「タイムライン」2015年5月28日(上段)の「警視庁が日本年金機構へ当該事案に関する連絡が行われる。」は、本日の日経朝刊1面と突き合わせると「同月28日、同庁からの連絡で情報流出が判明した。」ということですから、「警視庁が」→「警視庁から」でしょう。連絡先がないので、念のため。

※4 125万件の個人情報流出=職員端末にサイバー攻撃―年金機構
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150601-00000070-jij-soci
時事通信 6月1日(月)16時53分配信

※5 日本年金機構にサイバー攻撃 年金情報、最大125万人流出
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150601-00000543-san-soci
産経新聞 6月1日(月)16時55分配信

※6 (全録)日本年金機構が会見 約125万件分の個人情報流出と発表 - YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=zr0R76kln1c