2016年10月26日水曜日

ドゥテルテ大統領訪日報道と比国の麻薬対策への言及を「あらたにす」風で確認する(メモ)

 朝日新聞2016年10月26日朝刊4面14版「過激発言のドゥテルテ大統領来日/南シナ海・対米 真意は」(マニラ=鈴木暁子)は、ドゥテルテ比大統領の「売春婦の息子」発言をオバマ米大統領に向けたものとして確定した表現を取る。この表現が誤りである可能性がきわめて高いことは、フィリピン共和国を本拠とする英語報道等により検証済みである(2016年9月16日)。
9月には、この問題に批判的なオバマ米大統領のことを「売春婦の息子」などと呼んで、米国に首脳会談を延期されてしまった。
並びの記事「日米比協力の重要性 共有焦点」(武田肇)は、以下のように麻薬対策と人権問題との関係に対する申入方針を報じている。この記事に言及されていないこととして、中国政府もフィリピン・ミャンマー両国に重点的に経済支援を実施してきたことを挙げるべきであろう。ミャンマーは、中国にとって、陸路によるインド洋への出口となる。中国からの支援と日本からの支援は、フィリピンにおいても、天秤にかけられることになる。その結果は、ミャンマーを見れば良い、ということになろう。もちろん、支援のあり方は、超長期的なものもあり得るから、拙速に評価を下すことは、政治的な波紋を引き起こすことにはなる。同じ記事は、岸田文雄外相が25日夜、ドゥテルテ氏一行を銀座の高級料亭『吉兆』でもてなしたと報じている。
 〔...略...〕外務省幹部は「米国への依存を脱却し、外交の多角化を目指しているのは間違いない」と分析する。〔...略...〕会談では麻薬対策への協力を表明s筒、人権問題への直接的な言及は避ける構え。その代わり、薬物対策への協力の中で人権問題の改善を促す考えだ。
 日本側の念頭にあるのは、ミャンマーへの対応。〔...略...〕

 日本経済新聞1面コラム「春秋」(2016年10月26日朝刊14版)は、「オバマ米大統領をこき下ろし」と評している。大新聞のコラムニストは、いつもディテールを読み間違う幇間であるので、油断ならない。ただ、4日のドゥテルテ氏の発言がオバマ氏に向けられていたという解釈が正しければ、このように評価されてもやむを得ないのかもしれない。

 読売新聞(2016年10月26日朝刊14版国際面7面)「米比改善へ仲介探る/ドゥテルテ氏来日/首相、米軍の意義伝達へ」(マニラ 向井ゆう子、池田慶太)は、10月内の発言をまとめているが、9月中の発言には言及していない。一部を以下に引用するが、それぞれを正しく報じているかの検証は、省略したい。この記事の図中には、中国政府による「240億ドルの経済支援」とフィリピン産バナナの輸入制限撤廃が明記されている。蛇足になるが、1面は『吉兆』における会食開始前の様子がカラー写真で示されている。
  •  対米関係
    • (米軍が)我々のためにやってくれているのは知っているが、多くの問題も生んでいる(10月24日)
    • 米国からの決別を宣言する。米国は軍事面でも経済面でも(フィリピンとのつながりを)失った(20日)
    • →釈明 外交政策の「決別」だ。(米国との)関係維持が国民にとって最善の利益(21日)
    • (オバマ大統領は)地獄に落ちろ(4日)

論評

三紙とも、麻薬対策の論評を控え、経済支援を行い、米国政府との仲介を企図するという日本政府の方針を伝えてはいる。経済支援については、三紙とも、部分的には中国政府との「支援合戦」を伝えるものの、南シナ海におけるフィリピンと中国の対立を強調するように読める(論拠は省略)。経済支援するにせよ、その見込み額がいくらで、中国政府による支援額が240億ドルであるという話は、朝日・日経には示されていない。日本政府の方針を伝えるだけでは、国際記事は役に立たない。この点、意図が奈辺にあるにせよ、読売新聞は、中国との関係を前提に記事を構成していると判定できる。

 三紙とも、麻薬対策に限らず、両国関係にとってプラスになる具体的な提言が見られない。このような提言が社説やコラムの守備範囲であるにしても、朝日・日経の社説の海外ネタは、南スーダンPKOである。「春秋」は、ドゥテルテ大統領訪日を取り扱う唯一の論説記事であるが、雰囲気としてはダメダメである。今後の日比外交において麻薬対策へのわが国の貢献がいかなるものになり得るかをオシントにより考察することは、自らの力によるほかなかろう。


平成28年10月26日21時28分追記


 『NHKニュース9』は、少人数会合はマスコミ禁止であったために分かりかねるとしながらも、麻薬対策には言及しなかったことを伝えている。この事実だけを見れば、第三次安倍政権の風向きが変わったものと考えることもできるが、同政権が一手先までなら見通せる存在であると仮定すると、このNHKの報道は、依然としてわが国が開発独裁型であるという状態を示唆するものとなる。今回、フィリピン共和国の麻薬対策に言及しないことは、人権を掲げる米オバマ政権を苛立たせると同時に、人権を抑圧する日本の現状を比政府側から逆に指摘されることを防ぐことになる。この位の手管は、帝国主義的な現今、許容されようが、それは、国民の安全を第一に据えてこそである。


平成28年10月27日深夜追記


 読売新聞2016年10月26日夕刊4版1面「比の麻薬更正策 支援/首相、大統領に午後表明」は、中国側が20日に「リハビリ施設建設などに1500万ドル」の支援を提示したと報じている。ネット上で誰かが「半分中抜きする者たちがいるので、4倍プッシュしないと、日本はフィリピンから感謝されない」旨を述べていた記憶があるが、どうしても見つけられない。ただ、『スプートニク』は、共同通信の報道として「もし証拠があるならば、訴えを出しに行ってください。私は自国のために刑務所で朽ち果てることができる」とドゥテルテ氏が26日に述べたと伝えている。とすれば、ドゥテルテ氏がカウンターパートのトップにいる限り、同額以上を支援すれば、同等以上に感謝される見込みは十分にあろう。

 なお、私がここで無謀とも思える支援額に言及するのは、福島第一原発事故の影響後の日本の生き残り策の一環になり得ると見てのことである。無い袖は振れないとなる前に、借款という形ではなく近隣諸国に実質的な資産を移転することは、リスクヘッジになるからである。なお、インフラ整備をフィリピン国内で実施することは、技術移転にもなれば英語を話す土木系人材の即戦力養成にも繋がるであろう(が、この種の技術交流は、ODA等を通じて、かなりの程度進んでいるように仄聞する)。

フィリピン大統領、自国のために「刑務所で朽ち果てる」用意があるー共同通信
(記名なし、2016年10月26日08:09)
https://jp.sputniknews.com/politics/201610262943187/



平成28年10月27日23時追記

10月27日日本経済新聞朝刊1面14版「日・フィリピン首脳会談/南シナ海 平和解決で一致/ドゥテルテ氏「法の支配重要」」は、骨子として、「日本が大型巡視船2隻を供与し、海上自衛隊の練習機「TC90」を貸与すると確認」「農業支援への約50億円の円借款や首都圏や地方都市でのインフラ整備の支援を伝達」を挙げているが、どれだけケチなのか、というのが第一印象である。2兆5000億円対50億円である。しかも先に虞を示したように、円借款である。思い切ったことができないのが官僚の習性であるが、この習性を御し切れていないことが示されている点、わが国政府の風向きは変化していないと判断することもできよう。

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