ドナルド・トランプ氏が米大統領選挙を制したという事実は、それ自体、世界が「ノーマライズ」する方向に大きく舵を切りつつある事実を示すものであるが、その流れをますます加速しそうである。バラク・オバマ氏の下での「チェンジ」は、シリアにおける消極策のように、分かりやすく提示される形の変革ではなかった。それに、ヒラリー・クリントン氏を始めとする、君側の奸と呼べる一派を重用せざるを得なかったために、低質なマスメディアに囲まれてきた※1日本人の大半には、随分と理解しにくいものであった。トランプ氏の下での変化は、随分と分かりやすくなってはいるが、そのルールの変化を、日本のマスコミは未だに正確に伝えようとはしない。悪事に荷担してきた当事者であるためである。なお、読売新聞がクリントン氏の当選を見込んでいたことは、『simatyan2のブログ』に紹介されている[1]。
安倍晋三氏も、大メディアによれば、トランプ氏向けのシフトに急いで切り替えているとされる。日本時間7時現在、トランプ氏と会談を開始しているはずである[2]が、読売新聞によれば、TPPに言及しない方針で訪米したという。トランプ氏の面前で、TPPにいかに言及するかは、安倍氏の今後の立ち位置を宣言することになろう。安倍氏は、米大統領選挙戦中の9月20日にクリントン氏とだけ会談したが、この方面を推進してきた読売新聞にさえ、この事実は「異例」と評されていた[3]。日本国政府の代表は、同盟国であるとはいえ、不公平に処遇した相手に、今まさに、歓待を受けていることになる。日本の政策判断の基本が官僚集団に拠るものであることは、米国人には良く理解されている社会的事実であるから、トランプ氏は「米国第一(America First)」を前面に押し出して、日本国官僚の思惑を存分に否定しているであろう。クリントン氏とだけ安倍氏が会談していたという事実は、私自身が決して歓迎することではないが、安倍氏自身にも利用可能な事実である。日本国民の大多数にとって過剰に不公正なディールにより、権力の維持を安倍氏が願い出るというケースを、日本国民は覚悟しておかなくてはならない。
ところで、ニュージーランドもTPP法案を11月15日に採決したと報じられて[4]いるが、TPPを面と向かって米国に推進するということはしないであろう。同国は、条約の成立に尽力したという体裁を取っただけであろう。無論、採決自体に影響しないことをふまえての決断であろう。日本が採決した後の動きであり、日本の動きは、理由の一つとして挙げられる材料となっている。日本は、率先してTPP法案を採決したというだけでも、後世において関係国民から非難の的となろう。この点を理解していて、わが国の官僚や政治家たちは、率先してTPP法案を採決したのであろうか。
なお、陰謀論者としての蛇足をひとつ。カイコウラ(Kaikoura)で生じたM7.8の地震(2016年11月14日12:02:56(NZDT, UTC+13:00))[5]をTPPを推進してきた勢力によるものと疑う者もいるが、私は、その是非を判断する材料を有していない。ただ、この疑いを追求することは、戦争屋勢力の衰退具合を診断する上での良い材料となるものである。また、この追求作業は、わが国が戦争屋の軛を脱していないとはいえ、他国においては安全保障上の調査事項の優先順位のトップレベルのものであると予測される。近い将来、それらの真剣なインテリジェンス活動の成果に、われわれも触れることができるかもしれない。
※1 『ダイヤモンド・オンライン』に瀧口範子氏の「トランプを「ノーマライズ」してはならない」という記事[6]があるが、「政治的に正しい(politically correct)」言説を吐きながら自国民の若年層を戦地に送ることで利益を貪ってきた経済が正常であるとは、決して言えない。以前の状態をノーマルだと勘違いしてきた日本人が多くいるのは、マスコミ人の主流派が瀧口氏のような論調を容認してきたためである。
[1] 安倍晋三生みの親「読売グループ」の大誤算|simatyan2のブログ
(2016年11月11日10時04分)
http://ameblo.jp/usinawaretatoki/entry-12218371731.html
[2] 『読売新聞』2016年11月18日東京朝刊14版1面「日米同盟 重要性訴え/首相 トランプ氏と会談へ」(記名なし)
[3] 首相、国連総会でNYに…クリントン氏と会談へ : 北朝鮮 : 読売詳報_緊急特集グループ : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)
(ニューヨーク=今井隆、2016年09月19日)
http://www.yomiuri.co.jp/feature/TO000301/20160919-OYT1T50045.html
日本の首相が投開票日まで2か月を切った米大統領選の候補と面会するのは異例。クリントン氏が日米同盟を重視していることを踏まえた対応とみられる。
[4] TPP bill signed by Parliament as US signals its end | Radio New Zealand News
(Radio New Zealand、2016年11月15日20時19分)
http://www.radionz.co.nz/news/political/318141/tpp-bill-signed-by-parliament-as-us-signals-its-end
The government's Trans Pacific Partnership (TPP) legislation has passed its third reading at Parliament this afternoon, despite the likelihood the trade deal won't proceed.
[5] GeoNet - Quakes
(GeoNet - Quakes、2016年11月18日07時31分)
http://www.geonet.org.nz/quakes/2016p858000
[6] トランプを「ノーマライズ」してはならない (ダイヤモンド・オンライン) - Yahoo!ニュース
(2016年11月16日06時00分)
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20161116-00108207-diamond-int&p=2
2016(平成28)年11月18日18時追記
日経[7]・朝日[8]・読売[9]の三紙夕刊の論調についてメモする:日経と読売は、TPPを推進したいと安倍氏からトランプ氏に向けて話したと見られると報じているが、朝日はTPPに係る安倍首相の言動には立ち入って解説していない。この状況は、日本側の出席者が(守秘義務が当然に発生しているであろう)通訳を除けば、安倍首相だけであったという条件によって、制限された状態にある。安倍氏だけで話の内容を過不足なく受け止めることができたのであろうか、という一抹の不安がある。
本日の安倍氏とトランプ氏の会談の形式は、日本国の主権者である日本国民にとって、真相が「藪の中」になる方向性が決定されていたものと評することができよう。後世において、この会談に至る調整の過程は、大平洋戦争に至る上で外務省が果たした(あるいは果たし得なかった)役割に近い位置付けを与えられることになろう。通訳が外務官僚であったとすれば、要点に係る記録は取られているとはいえ、メモ扱いになろう。わが国政府の組織としての実力は、関与した成員個人の力量が他国のカウンターパートに見劣りするものではないにもかかわらず、期待される水準に到達しないことがしばしばある。内閣官房か外務事務次官か米国大使の責任と認められると評しておく。見届人が見届人の役割をしばしば逸脱しつつも歴史の転換点において責任を全うしないというオチは、日本の官僚機構の伝統芸であると結論付けられよう。
本ブログの隠れた目標のひとつに懸かるので、忘れないうちに脱線気味にメモしておくと、丸山眞男氏が評したドイツ人戦犯のニュルンベルグ裁判観は、ハンナ・アレント氏の見たアイヒマン氏のエルサレムにおける裁判とは、随分と印象が異なるようである。アレント氏のアイヒマン氏への評価は、丸山氏の東京裁判戦犯への評価と共通するものがあり、丸山氏のドイツ人戦犯への評価とは対立する関係にある。何か(勇気やプリンシプルや哲学や思考)の欠如こそが巨悪の原因と見做されうるという仮説は、本件会談を取り巻く日本側官僚制にも適用可能であるといえよう。
本件会談は、朝日新聞には「異例」[8]と評されたが、この記述は、瀧口範子氏の紹介する「ノーマライズ」という表現に同調的であると断定できる。つまり、『朝日新聞』は、TPPについてこそ日本的な動きに与していないものの、既存のマスメディアの路線を固守していると評することができる。トランプ氏の大統領就任に反対するデモには、ジョージ・ソロス氏に関連する組織が雇用するものが含まれるという[10]が、朝日新聞の本件記事は、この役回りを果たすものと言えよう。バスでデモ隊が到着したことなどを、まとめて報じるブロガーもいる[11]から、信憑性のあるものと考えて良かろう。なお、紹介したリンク先に設置された別サイトを参照するウィジェットには、不快な画像が含まれる可能性があるため、JavaScriptを無効にして閲覧することを強く推奨するが、この設定自体、記事を掲載したサイトに対する嫌がらせの一環である可能性も認められる。これらのデモは、通俗的にいえば、やらせであり、学術風には「人工芝運動(Astroturfing)」である。アメリカ国民は、各人が、ウクライナにおいて「正体不明」のスナイパーが警官にもデモ隊にも発砲していた事実を想起し、あくまで平和を志しつつも警戒する必要がある。
[7] 日本経済新聞2016年11月18日夕刊東京4版1面「首相「信頼築けると確信」/トランプ氏と初会談」
(記名なし)
会談は〔...略...〕自宅部分で、通訳を交えて1時間半近くに及んだ。トランプ氏の長女のイバンカ〔Ivanka Trump〕さんと夫のジャレッド・クシュナー〔Jared Kushner〕氏に加え、大統領補佐官(国家安全保障担当)への起用が有力視されるマイケル・フリン〔Michael Flynn〕前国防情報局長が同席した。日本側は通訳を除いて首相のみだった。 〔...略...〕
〔...略...〕トランプ氏が脱退を主張する環太平洋経済連携協定(TPP)を巡っては自由貿易を推進する観点から意義を説明した可能性がある。首相はTPPはアジア・太平洋地域の繁栄につながり米国の国益にかなうとみている。
〔...略...〕
[8] 朝日新聞2016年11月18日夕刊東京4版1面「首相「信頼築けると確信」/トランプ氏と初会談/大統領就任前、異例」
(記名なし)
[9] 読売新聞2016年11月18日夕刊東京4版1面「首相「信頼築けると確信」/トランプ氏と初会談」
(記名なし)
〔...略...〕首相は日米同盟や環太平洋経済連携協定(TPP)をはじめとした自由貿易体制の重要性を訴えたとみられる。
[10]Soros-Funded Orgs Behind Violent Anti-Trump Protests Across America
(Helicondelta、2016年11月12日13時43分41秒)
http://www.freerepublic.com/focus/f-news/3493111/posts
[11]Billionaire Globalist Soros Exposed as Hidden Hand Behind Trump Protests -- Provoking US 'Color Revolution'
(Jay Syrmopoulos、2016年11月10日)
http://thefreethoughtproject.com/soros-trump-protests-revolution/
〔注:ウィジェットには不快な画像が含まれる可能性があるため、JavaScriptを無効にして閲覧することを強く推奨する。〕
2016年11月19日09時追記
トランプ氏と安倍氏との会談に同席し得た日本側の人物は、通訳と内閣広報室の写真撮影担当者の二名であることが、今朝の朝刊三紙の内容を統合する※2ことにより、確定できそうであるが、しかし、会談の内容について責任を持って言及できる日本側の人物が安倍氏を除けば存在しないことは、依然として変わらない。本件会談を日本人が理解する上で重要なことは、一国の宰相が後世の日本人に対して説明責任を果たす上で必要な措置を講じなかったことにある。忘れてはならないのは、トランプ氏の政権移行チームの位置付けは、日本側会談関係者の側が見做す内容(すなわち私人であるかのように広報する)とは異なる点である。いち日本人としては、日米会談と表現したいところであるが、米国側関係者は、国の制度に則り粛々と進めているところ、日本側関係者が一国の政府として十分に機能しているかを問うたとき、日本は、今回の会談が公務であるにもかかわらず、国としての体裁を成した形で作業を実施しておらず、否と答えざるを得ない。このように、形式(日:公務、米:公務だが日本側は私用であるかの扱い)と実質(日:私的、米:歓待の形式こそ「ホーム」であるが実質公的)における公私の逆転が生じているところは、何とも皮肉である。
本日も憶測に満ちた記事で新聞の1面が埋め尽くされているが、トランプ氏のチームの側は、能動的にメディア・コントロールしているであろうところ、安倍氏は、単にトランプ氏の側から口止めされているか、会談の内容を理解できていないだけであろう。もっとも、安倍氏のメディア・チームの力量は、日本人読者の大半を相手にする分には十分なものである。とはいえ、通常の批判的精神を有する視聴者を相手にするには、かなりの能力不足であるから、会談の内容を咀嚼して公表する上で、多くの時間を要しているとも見ることができる。この遅れが事実であるとすれば、状況に対する主導権は、安倍政権下における「インテリジェンス機能の拡充」云々の題目にもかかわらず、失われていると読むことができる。日本のマスメディアこそ、政体によってアンコン(under control)されているといえようが、米国支配者層の変化という状況そのものには、何ら対応できていない。
傍目から見れば破綻しているこの状態は、本件会談に係る日本側関係者の中では、R・ターガート・マーフィー氏も指摘する「二重思考(double-think)」によって、統合された状態にあると推認できる。マーフィー氏は『日本・呪縛の構図』(2015, 仲達志[訳], 早川書房)において、日本の支配階級層の目的が「誰もが安全で人並みの生活を送れるようにすること」から「国民を全面的に統制」することへと変容していること、国民の利益という建前と支配者の私益という本音との乖離状態が、支配者層の精神状態の中では、オーウェルの『1984年』にいう「二重思考(double-think)」によって統合されていると解説する〔第5章、初出はpp.31-34〕。マーフィー氏の分析は、近世以前の歴史解釈のいくつかには(教科書的な理解からすれば)違和感が残るものの、正統的な日本研究の延長にあると理解できるものである。
会談の内容が日本側から積極的に公表できるような内容であるはずがないことは、注意深い日本人の読者には、最初から了解されていることであろう。会談内容を公表するか否かに係る主導権は、トランプ氏の政権移行チームの側にある。加えて、日本側関係者にもっぱら係る要因として、米日両国の力関係に対する日本側関係者の能力と解釈、安倍氏の能力、外務省関係者のここ数ヶ月の業務に係る責任に対する肚の決め方、マスメディア自身の取材能力など、何重ものハードルがある。これらの要因がすべて情報を公開するという方向に作用しなければ、日本語話者から情報が日本語として提供されることは、あり得ない。
なお、佐藤優氏が、本件会談の答え合わせともいうべき解説を、TBSラジオ『くにまるジャパン』(2016年11月18日)で加えている。佐藤氏は、ペルーのリマでオバマ氏に会談した後、NYで会談すべきであった、と指摘する。また、国と国の関係を優先し、オバマ氏の8年の業績を賞賛した後に、次期に国を担うトランプ氏のチームを訪問すべきであった、と解説する。今回の安倍氏の訪米は、本末転倒であり、失敗であったが、失敗であるという事実を糊塗するために大本営発表を続けるであろうとも予測している。ロシア会談も控えているところ、オバマ氏の米国を軽んじることは得策ではない、今後の外交は混乱すると予測している。
※2 日経は、読売・朝日の二紙を差し置いて、参照するだけの材料に乏しい。朝日は、1面で下記引用のように伝える[12]。読売は、「外務省関係者」の弁として下記引用のように伝える[13]。解釈すれば、日本側関係者である「外務省幹部」たちの想定は、完全に機先を制されたことになる。蛇足であるが、トランプ氏の政権について、読売2面でリチャード・アーミテージ氏が解説している[14]が、自身がトランプ氏に反対し続けてきており、党内での反対が3分の2に上るなどと解説してきた(2016年7月25日)ことは、触れられていない。
[12]
『朝日新聞』2016年11月19日東京朝刊14版1面「首相、トランプ氏と初会談/信頼協調 内容は非公表/異例の就任前 予定超す90分」(記名なし)
〔...略...〕
会談には、日本側は安倍首相と通訳だけでメディアは入れず、撮影も内閣広報室の写真担当者だけに許された。〔...略...〕
[13] 『読売新聞』2016年11月19日東京朝刊13版6面国際「親族重用 会談に同席/長女の夫 政権入り憶測」(ワシントン=小川聡)
〔...略...〕自宅応接間は豪華絢爛だ。外務省幹部によると、日本側は首相とトランプ氏の1対1の会談のつもりだったが、首相がトランプ氏の自宅に到着したところ、応接間にはトランプ氏とともに、クシュナー夫妻、トランプ氏の外交・安全保障問題の側近マイケル・フリン氏がおり、自然な流れで同席したという。
〔...略...〕
[14] 『読売新聞』2016年11月19日東京朝刊14版2面総合「トランプUSA 識者に聞く/リチャード・アーミテージ 元米国務副長官/早期の安倍会談 大きな意味」(聞き手・ニューヨーク支局長 吉池亮)
#要旨は大略次のとおり。トランプ氏が当選したのは国内問題への公約が支持された、アジア・欧州・中東諸国との関係を「考え直す際には、これまでの歴史を十分に理解した上で慎重に判断すべきだ」。同盟国との関係が大きく変わることは考えにくい。米軍駐留費経費負担の問題を軽視している。トランプ氏は「直感」に頼りがちであるから早期会談の実現は意味があった。安倍氏が直接面会した初のリーダーであることは「私も誇らしく思っている」。
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