2017年4月20日木曜日

TPP11による日本人受益者層は情報戦争を生き残ることができるか

前稿(2016年4月20日)の脱稿直後に、読売新聞でTPP11へと転換する政府方針が決定されたと報道された[1]が、閣議を経たものではないという。つまり、TPP11への転換方針は、内閣の意思表明の方法としては、一段、劣位のものになる。安倍晋三首相・麻生太郎副総理兼財務相・岸田文雄外相・石原伸晃経済再生相、世耕弘成経済産業相が13日の閣僚会議で確認したという。この決定に至る相互作用の検証は、私の現在のブログ執筆スタイルから外れる材料を要求するため、行わない。ただ、TPP11への固執は、大勢が決した後に逐次的にリソースを投入し続けるものである。喩えるならば、ガダルカナル島の戦闘以後の大本営である。

私は、TPP11を大穴(2016年1月9日の記事も参照)であると説明し、前稿でも「立ち上げようとした時期からしても、準備の拙劣さ・非公開性から見ても、また国際環境の複雑さを乗りこなせないという見込みからしても、一人の日本国民から見た場合には、失敗が待ち受けているものとしか思えない」と表現したが、政府方針が決定されたことを知ろうが、この結論を変えない。わが国の企業系列には、官僚に(は最早存在し)ない集合知が残存するとはいえ、現在の情報環境における主導権の所在は、わが国にはない。正確に表現すれば、米軍三沢基地のように、物理的には日本と見做せる地域に装置が所在するかもしれないが、その情報へのアクセス権がない、つまりファイブ・アイズの一員ではない。途中の因果関係を詳述することをあえて避けておくが、この結果は、日本を本拠とする国際的大企業がTPP11を新たな植民地主義のツールとして利用しようとしても、いずれは、東芝やシャープやソニーや旧長銀のような憂き目に遭うというものとなる。これらの日本発祥の国際的無国籍企業のうち、特に東芝のように政府に依存したビジネスを抱える企業は、日本国民を収奪の対象とするであろうが、日本国民に利益を還元しようにも果たせないであろう。このため、日本国の官僚集団が採用したTPP11という悪手は、内容の大変更がなければ、日本国民にとって、遺恨を残すものとなろう。


本稿の趣旨は、ここまでで十分に果たされたはずであるが、もう少しだけ考察を進めてみる。


日本国民にとって、TPP11も永久に先送りするのが最善な契約であるが、日本国の1%にのみ利益増が見込める方法は存在する。それには、TPP11の第一公用言語を日本語として、ISD条項(この表現は嫌味である。)に係る司法機能を、日本人による、日本式の司法制度・慣行に準じたものとすることである。経済規模が第一位なのであるから、この主張には根拠がある。人口についても、お得意の改竄により対応すれば良い。漢字圏人口なる概念を創出して持ち出しても良い。ここまでごり押しができるのであれば、日本国自体の利益は確保できよう。しかし、これでも、日本国民全体にとっての利益は減少することになる。たとえば、TPPに生物多様性を尊重する機能を埋込むことに失敗すれば、わが国の農林水産業は従来以上に決定的な打撃を受けることになろう。仮に、本段落に示した施策を日本国政府が実現できたとすれば、その事実は、福島第一原発事故により窮地に落とし込まれている「政体」の延命を意味することになるが、そうでなければ、わが国の官僚集団全体が戦争屋(に近しい勢力)に屈したという事実を示すことになる。ここで、私は、わが国のエリート層に悪知恵を授けている訳ではない。わが国のエリート層の実力から言って、日本語を第一とするような無茶を実現できる見込みは、限りなくゼロに近い。帝国主義と呼べる国際環境下において、省庁縦割りに固執し、在野の知恵を十全に活用していないことは、自ら分割統治を招いているようなものである(2017年4月18日)。日本語第一公用語化というハードルを明示して、現状、官僚集団が国民を裏切っていると指摘することは、国民益すなわち公益に適うことである。

TPP11における情報格差が厳然と存在するという事実は、カナダ・オーストラリア・ニュージーランドという英語圏の各国との関連情報の蓄積状態を対比することにより、逆説的に示すことができる。ニュージーランドがTPP反対の理論的根拠を提供してきたことは、過去の記事で非明示的にではあるが、「分かる人には分かる」ように触れた(2015年9月25日)。カナダは、『Centre for Research on Globalization』を通じて、TPPに係る情報を発信してきた。オーストラリアは、資源国ゆえにTPPに積極的な側面を有していたが、銃器については、シドニー大学が『GunPolicy.org』[1]を運営していたりと、無視できない蓄積を有しているものと認められる。反捕鯨国としても、彼我の力量を探る上で有用な存在である。わが国は、科学をベースにして国益を争う場面において、官僚集団の不勉強という主要因があり、日本人研究者集団という資源を十全に利用しないという派生的要因があり、結局敗北するという事例を多く有する。ここでいう不勉強とは、国家公務員試験合格を期に、各国のエリートに比較して相対的に学習が停滞するという状況を指す。海外留学した利己的な官僚が国家に利益を還元せずに退職し、相対的に国力が減じられているという側面もある。

最後に。トランプ氏の当確後にカナダへと多数の米国人が移住したことは、一部において有名であるが、それでも、戦争屋がカナダを席巻するという事態は、アジア系カナダ人の動向次第ではあるが、長期的には考えにくいことである。何より、国富が流出したと考えるアメリカ国民の良識派が黙って見逃すことはないであろうし、日本人の売国者層に係る私のシナリオ(2016年2月15日)は、現在でも有効であるが、米国籍の戦争屋にも等しく適用される。ここに挙げた英語圏のTPP11の三ヵ国には、多くの移民がいる。これらの移民は、中華系ならば、本国と異なる環境に一族を派遣してリスクヘッジするという伝統的な華僑の知恵に基づくという動機を有していよう。また、いざというときに、これらの渡航先において、本国とのウィン・ウィンの関係を推進するための先兵として定住するという動機もあろう。いずれの動機も、世代を超えた、国家百年の計と互恵的な関係にある。わが国は、あるいは日本国民は、果たして、それだけの先見の明を有するのであろうか。


[1] Compare Japan – Right to Possess Firearms
(2017年04月20日確認)
http://www.gunpolicy.org/firearms/compare/91/right_to_possess_firearms/10,27,31,39,110,113,128,145,162,200

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