は、私に言わせれば、わが国の「政体」のロビー能力が関係国に比較して相対的に弱小であることを示す。それだけでなく、わが国の情報発信制度が、系統的・網羅的なものではなく、オシントを十全に乗りこなしているものとは言い難いことを示す証拠でもある。言い換えると、本件から、情報機関の実力が国民の期待に見合うものではないことが分かる。好意的に解釈すれば、わが国の情報機関の現状は、大半が北朝鮮を巡る緊張関係を分析するために振り向けられているのかも知れない。しかし、短期的な危機だけでなく、長期的な危機にも十分に手当を施しておくことは、大事である。一体、『Time』によるジャパン・ディスカウント行動への対策は、わが国によって講じられているのであろうか。そもそも気が付いていないのではないか。
本件『Time』の誤報を訂正させるという業務は、本来、ネット情報を常時監視・検閲・操作するという任を与えられた組織にとって、契約の範囲内のはずである。それとも、従業員が英語情報を訂正しかねる程度のものなのであろうか。そうであることは周知の事実であるが、随分とお粗末なことである。いずれにしても、人様に堂々と言えない種類の業務を現政権と契約している広告宣伝企業にとって、海外のデマに対する申入れ(の支援)は、一種のビジネスチャンスである。「煉瓦」のもう一つや二つでも求めてでも、率先して業務拡張すべき対象である。その状態に至っていないということは、世論のコントロールという大目的に照らして、検閲装置に、何らかの不具合が生じていることになる。
ただ、『Time』の側にも、何らかの深い意図がある可能性も見て取れる。Asian dressとでも表現すれば、何も問題が生じなかったところ、わざとKimonoと表記して、訂正もしないのであるから、(トランプ政権と仲の良い)日本政府を引っ掛けようと、何らかの落度を誘っているものとも解釈できる。(3月27日は、橋下徹氏が戦争屋の牙城ともいうべきCSISで講演した日でもある。)実際のところ、英語情報を探るとき、ネトウヨならずとも、日本に対する誤解を誘うような宣伝工作の形跡に驚く機会は多く存在するから、この可能性は、追求しておいても損はない。
仮に、日本が情報大国であったとするならば、日本の社会は、『Time』に対して、複数の手段を執り得た。最も善良で、かつ、有無を言わせぬ方法は、日米両国において文化面から尊敬されている人物で、かつ、和装にも詳しいと聞き手が納得できる人物の口を借りる、というものであった。あれは着物ではありませんよ、という形で、やんわりと注意を入れてもらえば良かったのである。しかし、わが国は、そのような人物を注意深く育成したり、選定するという行為を怠ってきた。その結果が、ディヴィッド・アトキンソン氏の提言を曲解した山本幸三氏の「学芸員はガン」発言[2]である。
興味深いことは、本件への批判が、米国メディアに対する「偽ニュース」批判の形式を取らないことである。書き込まれた批判には、多少のバリエーションが見られるものの、米国に本拠を置かないユーザの批判は、「It is not Kimono.」というような、語彙力・思考力が不足したものである。批判したこと自体は褒められるべきことであろうが、なぜ、相手が嫌がり、米国内に連帯を広げる(<ここは皮肉のつもりである)文言を利用しないのか。マスコミに連なる業界に宣伝工作を請負わせることには、自ずから限界があるということである。
オチ。『Civilization V』の勝利条件の中では、文化的勝利(か、文化的優勢に基づく外交的勝利)が簡単だし、楽である。自分たちが良い仕事をしていれば、勝手に相手が惚れ込んでくれるのだから、こんな楽なことはない。
[1] TIME on Instagram: “Women in kimonos take photos under the cherry blossoms along the Tidal Basin on a misty morning in Washington on March 27…”
(Photograph by Kevin Lamarque、2017年03月27日)
https://www.instagram.com/p/BSYjQtiBn-2/
#2017年05月07日リンクを直リンクに修正
[2] 「学芸員はがん」発言に学芸員から批判の声相次ぐ | NHKニュース
(記名なし、2017年04月17日18時40分)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170417/k10010951591000.html
外国人旅行者に対する文化財の観光案内が不十分だという説明の中で、「いちばんのがんは学芸員という人たちだ。この連中を一掃しなければならない」などとした山本地方創生担当大臣の16日の発言。学芸員の間では批判や反発の声が上がっています。
全国およそ1200の博物館が加盟する日本博物館協会の専務理事で、みずからも学芸員の資格を持つ半田昌之さんは「学芸員をがんに例えた言葉の使い方を含めショッキングなコメントだった。〔...略...〕学芸員は繊細な文化財を保存して後世に伝えていくという責務を果たす一方で、一般社会にいかにわかりやすく伝えるかという重要な使命を担っている。学芸員も文化財の保存と活用というはざまのなかで日々、努力している」と反論しました。
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