2016年1月9日土曜日

中川淳一郎氏のベッキー・川谷不倫騒動解説は失敗とみなされるだろう

要約

私は、ベッキー氏や「ゲスさん」の川谷氏に格別の好悪の感情を抱いているわけでなく、CM打切りを検討中の企業については大変だなあと思うところだが、中川淳一郎氏の「解説」に対しては、失敗だったと思う。



本文


不倫疑惑のベッキー CM契約打ち切りに関し広告業界の「鉄の掟」 (NEWS ポストセブン) - Yahoo!ニュース(2016年1月8日(金)16時0分配信)
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160108-00000017-pseven-ent&p=1

 博報堂出身のネットニュース編集者・中川淳一郎氏は、ベッキー氏と音楽グループ「ゲスの極み乙女。」ボーカルの川谷絵音氏との不倫がベッキー氏のCM出演契約打切りの原因となると指摘し、次のように解説している。引用部分の番号は私が付した。「氏」を必ず付すことを、ブログ執筆のルールとしているので、「ベッキーさん」とかの表記にしろよ、というツッコミを自分で覚えているが、ルールに従うこととした。なお、私は、ベッキー氏や「ゲスさん」に好悪の感情を抱いているわけではない。この点は、誤解のないようにお願いしたい。

(1)好感度の高い彼女との契約を切ると自社のイメージがむしろ悪くなる、といった判断もできるでしょう。今は各社、世間の空気を読みながら契約をどうするか、というチキンレースの状況にあると思います。

(2)私が言いたいのは、これからベッキーとの契約を切る企業が出たとしても決して叩かないで欲しい、ということです。真剣な商売を彼らもしているのです。ビジネス上の判断として契約を切ることまで批判するのはお門違いです。
記事は、(2)の段落で終わっている。ベッキー氏の不倫により、CM企業の担当者は、余分な仕事が増えたことであろうし、大変なことであると思う。

 私が分からないと思ったことは、(1)からどうして(2)の結論が出るのだろう、ということである。中川氏は、(1)において、ベッキー氏との契約を打ち切ることをリスクであると述べておきながら、(2)において、そのリスクを取った企業を批判するなと読者を諭している。私は、企業がCM契約を打切る決定を下すことを当然の権利だと考えるが、しかし、打ち切るという決定は、ファンから批判されるリスクを必然的に伴うものであるとも考える。CMにタレントを起用するということは、ファン層を必然的に巻き込む商売だからである。

 ベッキー氏のファンがCM契約を打ち切った企業を批判することも、企業がCM契約を打ち切ることと同様に、自由であるので、ファンにだけ自制を求めるような、広告業界人である中川氏の発言は、むしろ、企業側に対する批判を呼び起こす危険性を増すものである。企業に対する炎上だけを食い止めようとする中川氏の言説の理由は、かつての広告企業の同僚を庇うなどの善意から出ているのか、あるいはCM契約中の当の企業から露払いとしての発言を依頼されたのか、私には知る由もないが、むしろ、ベッキー氏の幸せだけを願う熱烈なファンならば、先に挙げた理由のいずれかのうちでは、後者を理由として選択する可能性一択だろう。

 今回の中川氏の解説は、時期尚早であり、同時に、誤解を招く表現を含む。物事には順序があるため、炎上した後に、CM企業とは利益関係のない立場から、CM企業に同情を示すと言う方法もあったはずである。批判の殺到した企業が家庭用品の製造企業であるならば、川谷氏の行いが糟糠の妻を足蹴にするものであるから主婦の購買層に対する深刻なダメージがある、と述べれば良かったのである。そのような事態に至る前に、「真剣な商売を彼らもして」おり批判は「お門違い」であるという表現は、あらかじめ批判を封じ込めようとした当初の意図とは異なり、かえって火を点けることになるだろう。前年の東京オリンピックのロゴ問題も、併せて再燃することになるだろう。この点、本記事を掲載した女性セブンまで影響を受ける可能性もある。

 どうすれば良かったのかを、演習のつもりで私なりに考えると、上掲の(2)を削除すれば良かったのだろうと考える。CM契約の打切りがチキンレースの状況にあることは、中川氏の指摘のとおりであり、間違いないことだろう。ここまでであれば、中川氏は、中立性を保てた(あるいは装えた)かもしれない。しかし今回、最後の段落は、どう見ても余計であった。真剣にベッキー氏のファンを続けてきた人もきっといたであろうが、そういう人には、今回の騒動は、経緯を知れば、なかなか本人を批判しにくいところが残る。最初に既婚であることを偽っていた川谷氏と抜き差しならない関係に陥った後、ベッキー氏が別れるという選択肢を取りにくく、むしろ奥さんと別れてくれと言う側に回ることは、熱烈なファンにも理解できる(、あるいはファンならば、ファンであるがゆえにそのように解することもあろうという)ことである。とすれば、溜められたベッキーファン諸氏の怒りは、ベッキー氏を裏切ったと見えるCM企業なり、その決定を擁護する中川氏なりに向けられるであろう。

 今回、CM企業を擁護する姿勢を炎上に先立ち見せたことにより、中川氏がCM企業の側に立つ人物だとみなされることは、解決の難しい一番の問題である。中川氏だけが矢面に立つのであれば、中川氏がどうなろうと、中川氏は役目を果たせたということになるのかもしれない。しかし、今回の場合、中川氏とCM企業は、一蓮托生となったと見なす方が良いだろう。エア御用として位置付けられるに至った中川氏をどのように位置付け直せば余計な批判を浴びないかというアイデアは、私にもない。

 踏み込んだ表現となるが、CM企業にとっては、ベッキー氏の行動を継続的なものとしてとらえ、川谷氏が既婚であることを知った後も関係解消しなかったことを、契約解消の理由として、ほのめかすことが一番無難な説明であるように、私には思われる。もちろん、このようなニュアンスを公衆に伝えることに対しても、一定のリスクが伴うのは確かなことである。どの方法を取るか、という制限された選択肢の下での話であることに留意されたい。沈黙を保つことも一種の方策ではある。

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