2015年11月16日月曜日

今さら日本のTPP参加についての米国議会図書館議会調査局文書を読む

William H. Cooper & Mark E. Manyin, (13 Aug. 2013). Japan Joins the Trans-Pacific Partnership: What Are the Implications?, (CRS Report for Congress)
http://www.fas.org/sgp/crs/row/R42676.pdf

 今さら、あるいは改めて、日本のTPP参加による影響を解説したクーパー=マニーン報告(2013)を読んでみると、米国で対日政策を策定することは、専門家冥利に尽きることなのだなあと思わされることしきりである。全19ページの報告書であるが、過不足なく大事なことが整頓されきっている観がある。「大筋合意」に至るまでの経緯をふまえて、日本における主要なプレイヤーが論壇から脱落させられていく経緯を見ると、同報告書の分析が活用されていることがよく分かる。

 いくつかの日本語サイトでは、(その時々の世相の興味に応じた)重要な解説が見つかるし、以下に紹介する「あまのじゅく」ウェブサイトには、和訳もある※1。今さらながら勧めるのは、自身の不勉強を告白することにもなり恥ずかしいことであるが、「(日本側の)失敗(について)の研究(、つまり、米国による対日外交の成功についての研究)」の一環として、原文あるいは訳文に目を通すことをお勧めしたい。

 同報告書には、TPPに日本を巻き込むことにより得られる米国側の利益として、市場の開放※2、ルール重視の枠組と公正な紛争解決による非関税障壁の解決※3、TPPのシェア拡大※4が挙げられている。また、2012年の初期から自動車関連分野や保険分野やそのほかの非関税障壁について、そしてTPPをより高い基準で達成するため、米国が日本と一対一の懇談会を開催してきた、とのマランティス米国通商代表の発言が引用されている※5

 個人的には、15ページ以降の「Japanese Politics and the TPP」という項目が気になった。JAがここ40~50年間の対日通商交渉における主要な論敵となってきたこと、多様な利益団体と連携する中核的存在となってきたこと、主要な提携者として日本医師会があること、などが的確に記されている。この分析が世に問われた後、奇しくも、2013年の秋、2011年の日本医師連盟の収支報告書の不透明さについて、複数のジャーナリストやブロガーらが追及を始めている。この動きは、民主主義社会である以上、基本的に止めることができないものであり、この点、実に良くできている。こうして主要な連携先を失ったJAは、根拠法をも改定され、求心力を失うことになった。

 JAを分断統治するという戦術は、民主主義社会における喧嘩の作法というものを知り尽くした動きである。手先となって働いた日本人に対しては、軽蔑の念しか湧かないのだが、本件に従事した米国人に対しては、それと同じだけの尊敬の念を覚える。また、そのような才能を適切に使いこなすことができる社会に対しても、感心することしきりである。ところで、わが国の研究者・専門家は、そのキャリア形成において、英語圏の存在を無視することができない。わが国は、かつてのインドのように、マハトマ・ガンジー級の偉人を待つほかないのだろうか。



※1 私は共著者のマニーン氏の読み(和文表記)が知りたくて、Google検索したところ、和訳があることを知っただけで、一応、英語で読んだ。(ので誤解があるかも知れない!爆)

2013年5月1日付-米議会調査局レポート-和訳-20130601.pdf(あまのじゅく)
http://amanojuku.com/wp-content/uploads/2013/06/2013%E5%B9%B45%E6%9C%881%E6%97%A5%E4%BB%98-%E7%B1%B3%E8%AD%B0%E4%BC%9A%E8%AA%BF%E6%9F%BB%E5%B1%80%E3%83%AC%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%83%88-%E5%92%8C%E8%A8%B3-20130601.pdf

※2 Overall U.S. Objectives > Market Access (p.11)

※3 Overall U.S. Objectives > Rules-based Trade Framework and Impartial Dispute Settlement (p.11)

※4 Overall U.S. Objectives > Enhanced TPP (p.11)

※5 Overall U.S. Objectives (p.10)



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