「ふぐり玉蔵」氏のサイトに引用されているツイートには、画像が添付されており、その画像は、書き起こすと、次のような文章である。
Earthquake and upcoming tsunami in Japan, 18k people dead/missing. ISIS attack in Lebanon. Bombings killing 40 in Baghdad. Hurricane in Mexico. Terrorist attacks undergoing in Paris. Friday 13th November 2015 remeber that day.この文章をわざわざ画像にしたのは何故なのか、誰かのリツイートではないのか、などという疑問が次々に湧くのだが、随分と物騒な内容が列記されている。私でも後から確認できることとして、簡単なものは、レバノンにおける事件であり、およその発生時刻は、12日の現地時間18時頃(BBC)のようである。現時点で、パリ以外については、13日当日に生じたものではないことが分かっている※3。
一人の日本人研究者としては、1万8千人の被害と聞いて、穏やかではいられない。一体、何がどのようにして、このような、もっともらしい数値が出てくるのだろうか。私の見立てでは、このデマの背景には、近年の地震防災行政を解読することの難しさが隠れているように思える。以下、私の推理を、マメ知識とともに記すことにしよう。
東日本大震災という従来の地震予測を超える被害を受け、わが国における被害予測手法は、大きく転換された。たとえば、鹿児島県は、2014(平成26)年2月、県の近傍を震源とする地震を想定し、その被害を予測した結果を公表している。鹿児島県は、『鹿児島県地域防災計画』※4を改訂するために『地震等災害被害予測調査』※5を実施しており、その作業の一環である。従来の被害想定においても、震源や地震の規模、被災の季節等は、幾通りか用意されていたが、東日本大震災後、それらの組合せ数は従来よりも格段に多くなり、複数の予測値が提示されるようになった。
鹿児島県の被害想定(リンク)のうち、「表 4.2-1 鹿児島県における被災ケースごとの死者数【最大風速、早期避難率低】」は、17通りの地震、3通りの時間帯、計51通りの組合せを想定した上で、ほかの条件を最悪のケース※6に設定した場合の死者数を想定したものである。日本時間11月14日05時51分の地震の震源は、薩摩半島西方沖(枕崎の西南西160km付近)であり、被害想定における17通りの震源には、類似の地点が含まれない。あえて、私の独断に基づき、最も被害の性質が近くなると思われる「③甑島列島東方沖」を取り上げると、冬深夜440人、夏12時490人、冬18時410人という規模であり、いずれも津波被害によるものと予測されている。
パリ現地時間13日に生じた鹿児島県西方沖の地震は、以上の被害想定をふまえても、1万8千人の被害には及ばない程度の規模の地震であった。M7.0※7は、エネルギーとしては、M9.0の1000分の1である※8ことに注意が必要である。すると、デマの元となった地震の1万8千人という数値は、どのようにして得られたのだろうか。こういうときには、Google様頼み一択が私のデフォルトではあるが、今回の場合、私には多少の前知識がある。
デマの元となった数値は、平成15年度の「中央防災会議 東南海、南海地震等に関する専門調査会」による、東南海・南海地震の被害想定に基づく、17800人※9であると考えられる。この数値を広めた人物は、何らかの理由により、この数値を知ってはいたものの、東日本大震災後の被害想定の組合せのはっちゃけぶり※10に、ついていけなかったのであろう。こういう報告書を読んで、死者数を数値として表現するには、被害想定の「相場観」を習得する必要がある。しかし、このような学習は、高校生や文系の大学では得られない。この相場観をいかに伝えるかの難しさは、私の御用学者ピラミッド生活の経験において、痛感してきたことであった。しかしながら、2ちゃんねるに慣れた読者の皆様なら、「細けえことはいいんだよ!」という一言で、十分にお伝えできると思う。
東日本大震災による直接の死者や、行方不明者(の届出数)の合計と見ることも可能ではあるが、そうだとすると、いくつかの疑問がかえって生じることになる。東日本大震災の被害者については、警察庁警備局の資料の値が広く流通しているようなので、これに従う場合、実数は18465名となる。事実、この見方が圧倒的に主流である。しかしながら、この数値は、わざわざ、計算したものであり、震災関連死も含まない。しかも、もちろん、災害が進行しつつあるときに、これだけ多くの被害者数が計上されるということもあり得ない。さらに、なぜ画像にしたのか、文字数に問題がなければ、over 18kと表現しなかったのは何故か、などという派生的な疑問も生まれてしまう値である。さらに、ツイッターで引用された画像だけでなく、Travis Barkerというミュージシャンのインスタグラムのサイト※11にも、流通している画像と類似した画像が掲載されている。これらの画像の原本がいずれであるのかの検討は省略するが、いずれの画像も、縦横比がほかの画像と微妙に異なっていたりする。画像の端の異なる部分にデータを埋め込むことは、基本的に可能ではある。
http://all.instagrammernews.com/detail/1117736546728239562
https://twitter.com/WORLDSTAR/status/665324515455463424
埒が明かないので、以下、妄想をたくましくして1万8千人が東日本大震災でなかった場合を考察し、平成15年度被害想定における南海・東南海地震の被害者数であるという、自説の確かさの材料として提示してみよう。今回のデマに関与した日本側の人物は、現在の被害想定のような「幅を持った予測」を学ぶ課程に在籍せず、社会人になった後も勉強しなかった「日本の文系」ではないか。私は、仮に、自分がご注進する役であったとしたら、「悪の黒幕」であろう雇い主に対して、1万8千人なんて、報告者のお里が割れるような報告はしない。その代わり、雇い主が必ずや納得できる回答を用意する。もちろん、現実には、そのような事実も見込みもないからこそ、ここで、通りの良い説明を探索しているのである。こうしたとき、最新の被害想定では、複数の値が幅をもって示される。これらは、震源域と地震の規模を措定した上でなければ、どれを選択して良いのか、素人なら途方に暮れるに違いない数値である。それに対して、直前の被害想定では、一つだけの被害者数が分かりやすく示されている。前例踏襲を習い性とする者なら、どうするであろうか。
仮に、今回のデマが単なるデマではなく、大がかりな暗闘の中、何らかの意図をもって発信されたものであったとするならば、このようなデマを流布した勢力は、負けが込んできており、手下の能力も、大きく低下しているのではないかと推測される。3.11の実数にせよ、平成15年12月の被害想定にせよ、ここまで頭の固い答えを結果として返しているからである。なお、直前の段落及び本段落は、あくまで思考実験の一つであり、実在の人物や組織等とは関係がありません(棒)。ただし、このような数値に係るコミュニケーションの断絶は、私の研究テーマに深く関与する話題であるので、その点についてだけは、幾分かの本気が混じっている。
※1 黄金の金玉を知らないか? パリテロと兵器産業の株価一覧について
http://golden-tamatama.com/blog-entry-2145.html
※2 WORLDSTARHIPHOPさんはTwitterを使っています: "Friday the 13th hasn't been easy on the world 🙏 #PrayForParis #PrayForJapan #PrayForMexico #PrayForLebanon https://t.co/zD4X4kkCMm"
https://twitter.com/WORLDSTAR/status/665324515455463424
※3 Justin BieberさんはTwitterを使っています: "#PrayForParis #PrayForJapan"
https://twitter.com/justinbieber/status/665343111053230080
※4 鹿児島県地震等災害被害予測調査(報告書概要版)
https://www.pref.kagoshima.jp/aj01/bosai/sonae/yosokutyousa/tyuukanhoukoku20130325.html
わが国の防災行政は、国の中央防災会議、都道府県の地域(都道府県)防災会議、 市町村の地域防災会議、というように、三段のピラミッド状になっている。
※5 第3編 被害想定及び被害軽減効果の評価 1概要 2建物被害 3屋外転倒,落下物の発生 4人的被害想定(31180_20141030105132-1.pdf)
https://www.pref.kagoshima.jp/aj01/bosai/sonae/yosokutyousa/documents/31180_20141030105132-1.pdf
※6 もっとも、ここでいう「最悪のケース」よりも悪いケースは、自然界に存在するかも知れない。「より悪いケース」の例としては、地球が壊滅するほどの隕石等の衝突による地震・津波もあり得るわけだが、このような場合を想定しても、対策を講じる側には得るところがない。現実的にあり得る数値を設定することが科学に基づきつつも、一種の職人芸(#トランス・サイエンス問題の一種)になるのは、仕方がないことである。まとめると、ここでいう「最悪のケース」とは、対策を冷静に検討できる限りでの「最悪のケース」である、という程度に限界をふまえておくことが必要である。
※7 地震情報 2015年11月14日 5時51分頃発生 最大震度:4 震源地:薩摩半島西方沖(枕崎の西南西160km付近) - 日本気象協会 tenki.jp
http://www.tenki.jp/bousai/earthquake/detail-20151114055157.html
※8 気象庁 | 地震について
http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/faq/faq27.html#24
※9 中央防災会議議事次第
http://www.bousai.go.jp/kaigirep/chuobou/9/index.html
東南海、南海地震等に関する専門調査会(2003.12)東南海、南海地震に関する報告
http://www.bousai.go.jp/kaigirep/chuobou/9/pdf/haifu_2-2.pdf
※10 南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ - 内閣府
http://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/taisaku_wg/
【別添資料2】 南海トラフ巨大地震で想定される被害
http://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/taisaku_wg/pdf/20130528_houkoku_s2.pdf
※11 トラヴィス・バーカーのインスタグラム - 芸能人のInstagram 11月14日10時
http://all.instagrammernews.com/detail/1117736546728239562
0 件のコメント:
コメントを投稿
コメントありがとうございます。お返事にはお時間いただくかもしれません。気長にお待ちいただけると幸いです。