2016年7月26日火曜日

相模原市緑区の障がい者入居施設の大量殺人事件について


 2016年7月26日のテレビ各局は、相模原市緑区千木良476の障がい者入居施設「津久井やまゆり園」の元職員(26)が今日未明に19名の入居者を殺害し、26名を負傷させた事件を大きく報道している。国内の事件としては、秋葉原連続殺傷事件以上の大量殺人事件であるので、テレビ朝日の『ワイドスクランブル』は、小川泰平氏や水谷修氏などの4名のコメンテーターを招待して事件を報道している。

 被害者、ご遺族、入居者の方々にお見舞い申し上げるとともに、亡くなられた方のご冥福をお祈り申し上げる。

 コメンテーターの元心理職の某氏がリスクとコストについて言及し、(窃盗犯や暴力犯罪、詐欺といった)犯罪の加害者と被害者の関係がともに弱者に偏りがちであることを指摘したことは、テレビというメディアにおいては、比較的目新しい印象を受けるものである。これらの指摘は、犯罪学では基本的なものではある。他方で、企業犯罪や社会的に高い地位にあると見なされる人物の犯罪は、法執行機関に認知されにくい。このような指摘が存在していることも、併せて記憶しておくべきであろう。

 罪種によって、被害者・加害者間の関係が異なりうること、面識の程度が異なると見られていることにも注意が必要である。本殺人傷害事件は、施設の元職員による犯行であることがほぼ確定的であり、かつ、一連の犯行が30分以内に行われたと見込まれること、職員が1名負傷したことが番組内で報道されていた。これらの報道を踏まえれば、本事件は、容疑者が被害者一人一人を選択したというよりも、施設入居者全体を狙った犯行であり、巡回中の職員に発見されるまで入居者を襲ったという解釈の方が適切であろう。入居者という属性が狙われたのである。元の勤務先を狙うことまでは容疑者の中で意識化されていたであろうが、具体的な人物を念頭に置いた訳ではないのかも知れない。

 今回の事件では、容疑者には計画性があることが認められる。容疑者は、事件直後に出頭している。本日深夜から未明にかけての相模原市緑区の三時間天気が降水量ゼロmmである一方で、コンビニの雨合羽を運転席に残している。旧津久井町の中心地には、何度か行ったことがあるが、基本的には、自動車がなければなんともならない場所である。よって、犯行時に雨合羽を着用したということも考えられる。おそらく、容疑者の責任能力の有無は争点とはならないであろう。

 現時点で動機に係るコメントとして、コメンテーターが4名いながら、疑問を呈されなかった点がある。それは、なぜ2月中に解雇されたのに、容疑者について適用されるであろう通常の給付期間である90日を大きく超えた後、7月末の犯行に至ったのかという点についての推理である。コメンテーターが弱者について指摘しながら、社会的弱者の一類型である無職について無知であるのは、皮肉の効いたことである。教員免許の一次試験の結果通知は、ひとつの契機になり得るのではないか、と予想することも可能ではある。

 容疑者の責任能力が問題にならないという雰囲気があり、報道材料が多く存在するという状況は、今後の報道を過熱させる原因となろう。本事件は、まず間違いなく、最近の政局と何ら関係なく起こされたものであろうが、他方で、報道機関は、本事件を利用するであろう。その結果、本事件は、まるで、東京都知事選挙の争点隠しに用いられたかのような印象を一部の有権者に与えるものになろう。その理由は、報道機関が今週の日曜から月曜にかけて公表した情勢調査に求めることができる。


平成28年7月27日追記

昨日夕刊の読売新聞1面では、今年2月に容疑者が衆院議長公邸を二度訪問し、手紙を警備の警察官に委託したこと、緊急措置入院となり、3月2日に退院したことを伝える記事※1があった。手紙の内容は、障がい者がいなくなればよいとするものであったという。緊急措置入院に係る経緯は、相模原市による執行であるようである※2が、具体的な内容は、それ以上明らかにはされていない。

 この報道(のみ)で、「なぜ今?」というタイムライン上の疑問が一部解決されるように思われる。容疑者が3年間にわたり勤務したことから、病欠や有給の消化などによって実際の退職時期を3月末とするなど、温情的な措置となったのかも知れない。ただし、本日中のテレビ番組(『Nスタ』)では、依然として2月に退職したことになっているようである。やはり、犯行が7月中にずれ込んだ背景には、容疑者個人に起因する何らかの理由があると考える余地がある。

 施設の建物内部における職員や鍵の運用方法自体は、専門的な見地からは、必ずしも批難の対象にはならないであろう。犯行当日、容疑者は、1階の入居者の居室の窓ガラスを割って侵入し、ホーム出入口のオートロックを複数抜けて移動した※3。ホーム出入口のオートロックは、施設管理の簡便さから、1種類の鍵で開錠できるものであったという※3。本事件容疑者のような意志の固い攻撃者に対して、施設内の防御性能を被害ゼロとなるまで向上させることは、前兆行動が把握されていたとはいえ、半年間という期間内では無理であったろう。なぜなら、基本設計に係る哲学がこの種の攻撃とは相容れないものであるためである。その哲学とは、建前を重んじれば、「コミュニティ内外の交流を促進する」というものであり、あからさまに述べれば、「施設が刑務所や精神病院のように、内外のアクセスを制限する印象を与えない」というものである。

 この点、読売新聞の記事※3は、これらの運用方法自体を大々的に取上げ、詳しく説明し、容疑者の退職後も運用上のルーティンが変更されなかったことを記すことにより、暗に施設の運営に問題があったかのような表現を取るものである。この情報提供がどのように記事に至ったのかについては、後世の厳しい検討を受けて良いことである。本事件から関係機関が教訓とすべきことは、大変多い。しかし、読売新聞が施設単体に責任を求めるかのような記事を掲載し続けるならば、真に改善が必要な組織のルーティンが放置されることになりかねない。

 強いて指摘するならば、施設が旧津久井町の町外れにあり、自動車がなければアクセスしにくい場所に存在しているという事実は、施設の防御性能を向上させる材料として利用できたはずである。つまり、施設に乗り入れる自動車の監視を適切に実施していなかったという点は、後に批判的に検討されるべきであろう。さらに、容疑者の自動車運転免許の扱いは、国政の場で、批判的な検討を受けるべきである。認知症患者については、特定時期・内容の違反を根拠として、臨時適性検査を受診し、結果次第で免許停止または取消し処分を受けるという制度が用意されている。

 容疑者の退院が通知されていたとしても、その深刻さを施設関係者だけで評価することは、施設としての責務や能力を超えることである。その上、仮に、職員の一人一人が個人として容疑者を重大な脅威と捉えることができたとしても、それに対応可能な作業というものは、個人の職務上の責任を超えることでもある。

 私の推理を斜め上で行く前兆行動が示されていたことは、わが国の極右に対する監視と統制が不充分であることを示す強い(学術上の)証拠である。今回の容疑者は、障がい者について、ナチス・ドイツと同一の主張をなしていたという。とすれば、全世界の(わが国を除く)先進諸国においては、彼は、教員の息子であり、大麻を常用していたとしても、極左ではなく、極右として位置付けられる存在である。本事件の容疑者には、背後に組織の存在が認められたことを示す報道が存在しないことから、全世界の標準的な理解からは、「極右の一匹狼」となる。

 わが国の極左に対する捜査の熱心さをわが国の極右にも同様に向ければ、わが国の極右は、ネット右翼を含めて、遠からずゼロになるであろう。今後の社会不安を喚起する存在として、ネット右翼が問題になるという指摘は、すでに指摘済みである(リンク)。

※1 読売新聞2016年7月26日夕刊4版1面「衆院議長宛てに手紙/退職直前 大量殺害を示唆」
※2 読売新聞2016年7月27日夕刊4版13面「職員、近隣住民 動揺広がる」
※3 読売新聞2016年7月27日夕刊4版13面「施設熟知 犯行に悪用/相模原19人刺殺/鍵は8エリア共通/植松容疑者 侵入後に入手か」


平成28年7月28日13時追記

省庁連携が存在してこなかったことは、確かに反省材料ではあり、今後に役立てられるべき話である。であるならば、なぜ厚生労働省が委員会を立ち上げるのであろうか。従来の「病院の防犯」と同様、打ち上げ花火になるまいか。制度上、入居者と措置入院制度については、厚生労働省の所管ではあるが、本件は、もう少し枠を広げる必要がなかろうか。読売新聞は、社会面の小さな記事で、塩崎恭久厚生労働大臣が園を視察し、早急に対策を練ることに言及したことを述べている※4ほか、措置入院制度※5や園による防犯カメラ導入(後述)について言及する中で、省庁連携を示唆している。朝日新聞は、1面において、厚生労働省が有識者会議を設置して「警察との連携などの調査」を進めることに言及している※6。日本経済新聞は、社会面で神奈川県知事の黒岩祐治氏の「関係機関との情報共有に課題がある」という発言を引用する形で課題があることを指摘している※7。本件は、藤本哲也氏が読売新聞に述べたように※8、ヘイトクライムの一つとして捉えられる。ヘイトクライムであるならば、法務省マターであっても良いはずである。今回、最も被害を抑止し得た立場にある警察庁警備局において、検討がなされても良いはずである。

※4 読売新聞(署名なし)2016年7月28日朝刊14版39面「厚労相「早急に対策」」
※5 読売新聞(社会部 久保拓)2016年7月28日朝刊14版3面「措置入院 退院後 甘い日本/カナダ 地域で見守り/英 継続通院義務付け」
 【...略...】
 元慶応大教授の加藤久雄弁護士(医事刑法)は、措置入院が精神保健福祉法で定められた行政処分であるのに対し、ドイツでは同様の措置が刑法に基づく処分であることを指摘。「日本では患者の取り扱いが、行政と警察で縦割りになってしまう。日本でも、措置入院に関する仕組みは、刑法や別の法律で定めるべきだ」と話している。

※6 朝日新聞(久永隆一)2016年7月28日朝刊14版1面「措置入院 あり方検討 厚労省」
※7 日本経済新聞(署名なし)2016年7月28日朝刊14版39面「措置入院から退院 把握遅れ/警察と行政 対応検証へ」
※8 読売新聞(社会部 田中洋一郎)2016年7月28日朝刊13版11面「相模原視察 識者の見方 緊急論点スペシャル/司法と行政 連携強化を 中央大名誉教授 藤本哲也氏」

 衆議院議長名を間違いなく記述して、公邸に直接押しかけ、手紙を託すという目的を達成できた人物は、明らかに行動力があり、危険度が高い。当時のやり取りを知る由もないし、おそらく開示もされないであろうから、場合分けを通じて推測するほかないが、衆議院議長公邸に現れた容疑者にどのように対応したのか、容疑者がどのように反応したのかは、容疑者の犯行達成能力と責任能力を測る材料となろう。仮に、衆議院議長公邸の警備の場において、陳情や請願という方法があることを容疑者に指導できるだけの対応力のある警察官がおり、そのように指導したとしよう。この場合、容疑者が手紙を託すという目的を達成したことは、学習指導要領に示された内容を自らの血肉としている警察官の対応能力を超えて、目的を実施するだけのコミュニケーション能力と判断能力があったということになる。請願や陳情という手段によっては、自身の主張を伝達できないと容疑者が認識していた可能性が高くなるためである。このような精妙なやり取りがなく、単に警察官が根負けした場合であっても、(そして、私は、この場合が本命であるとは考えるが、)迅速に麹町署から津久井署に連絡があった(読売新聞※3)ことをふまえれば、麹町署としての責務は、果たされていたものと言えよう。ただし、その連絡業務において、容疑者の手紙がFAXやメールの添付ファイルなどで伝達されたか否かは、この前兆行動の重大さを伝達できたか否かの分岐点となっていたであろう。なお、警察庁への伝達があったか否か、リスク算定が迅速に行われた否かは、不明であるが、結果をふまえる限りは、容疑者個人の危険性についての判定に、結果として、警察は失敗したという結論を採用せざるを得ないであろう。

 容疑者が大麻や飲酒を嗜みながらも、車を運転でき、凶器を用意し、職員を5名拘束し、職員1名を避難させる※9も、これだけの被害を生じさせたという結果についての報道は、犯人の行動力と危険性が高いものであったという印象を読者に与えるものとなっている。避難したという1名の職員に係る情報は、読売新聞1面トップ記事のリード文にしか見られない情報であり※8、期せずして世に出てしまったことも考えられるが、この職員は、携帯電話もなく、また私がよくやるように、いざというときに電池切れであったかも知れないが、通報できないほど畏怖しているなどの状況に追い込まれていたのであろうと推測できる。突き放して検討すれば、職員の能力は不十分であったと言いうるが、元職員がこれだけの転身を果たして襲ってきたという事態は、十分にスプラッター映画の世界である。事前に適切な形で情報を与えられ、覚悟が据わっていればともかく、公式には何も知らされていなかったとすれば、園の職員にいざ冷静な対応を求めることは、かなりの無理がある。こうしたとき、たとえば、園の上層部が、夜間だけでも警備業者との契約を実施するという対応を実施していたとすれば、夜間勤務の職員も緊張感を新たにして、異なる結果を得た可能性もあり得たであろう。

※9 読売新聞(社会部 田中洋一郎)2016年7月28日朝刊14版1面「相模原視察 容疑者言動 2月に急変/職員5人縛り犯行」

 評価の高低はともかくとして、本事件に係るやまゆり福祉会、神奈川県、麹町署、警察庁、津久井署、相模原市、措置入院先の病院、厚生労働省の対応は、いずれも典型的なものであったと見ることが可能ではある。しかし、本事件の結果と、手紙を渡すという行為までに把握された前兆行動との間には、飛躍があり、事件が防ぎ得るものではなかったと言えるのであろうか。

 本事件において、どの部署が本格的に対応すべきであったか、また、最も実現可能な対策から遠のいていたか、ということを鑑みると、津久井署の公安担当部署と神奈川県警察の警備部(公安担当)を指名せざるを得ないであろう。津久井は良い具合の田舎である。神奈川県の小学生の遠足の目的地として、まことに良い雰囲気のある山間部にある。県央部の水瓶である相模湖がある、心穏やかに暮らせる場所である。であるからこそ、園の立地場所ともなったと推測できる。このような田舎町において、極右の危険性を真に看取できる公安警察が存在したのではないかと期待することは、酷なのであろうか。諸沢英道氏は、容疑者の手紙について、以下のように解説している※10

 【...略...】今回の手紙には犯行動機や犯行予定などが具体的に記されており、警察や行政機関が適切に対応しなければならない内容だといえる。実在する施設名を標的にあげ、容疑者が自の実名や自宅住所なども記しており、単なるいたずらや嫌がらせではないのは明白だ。
 一方、【...略...】非現実的な記述も多い。このため、警察や行政機関は精神疾患者による手紙だとして軽んじた部分はなかったか。犯罪を想定して迅速に動いたかなどは今後、検証すべきだろう。
※10 読売新聞(署名なし)2016年7月28日朝刊12版10面「検証。相模原19人刺殺事件/不可解な手紙 どう読み解く/非常に極端で孤独 諸沢英道氏常盤大学元学長(犯罪学、被害者学)」


 ネットで流通している衆議院議長宛の手紙は、内容のアンバランスさをうかがわせるものであるが、なお、危険性の高い内容であることが理解できるものである。我々は、すでに、昨年来の複数の事件を通じて、極左的な政治的背景色の薄い公安事犯が存在することを、公知の事実として共有しているのではなかったか。これらの特徴的な公安事件の犯人は、いずれも、事件を完遂しうるだけの実行能力を有し、SNS等を通じて犯行を行う旨の宣言を外部に向けて発信しており、現に敢行した者たちである。彼らを十分に現実の脅威として認識することは、妥当である。

 なお、ネットで流通する容疑者の手紙の書き起こしは、テレビ番組の画面キャプチャを元にしており、読売新聞の抜粋※10よりも自主検閲の程度が低いようであるが、なお、重大なフレーズが白塗りとされているために、書き起こされた内容だけでは、容疑者がいわゆる陰謀論を本当に信じ切っていたのか、信じた内容とソースは何か、隠れた動機はないか、などの重要部分を理解する上では役に立たない。容疑者がある公益法人に言及したことがネットで騒がれているが、つまり、この部分は、読売新聞の記事が抜粋という名目で自主検閲した部分であるが、白塗り部分が明らかにされないことには理解が真逆となる虞もあるために、犯人がどのような理解を当該の法人に対して有していたのかについては、分からないものと考えるべきであろう。当該法人に対する記述があったとて、容疑者の考え方に言及するには、材料不足に過ぎるというべきである。また、当該法人の広報する思想が容疑者の犯行に直接の思想上の示唆を与えたのか、という点については、明らかに容疑者に事実誤認がある、と考えて良い。これらの事実誤認と見なしうる部分を除けば、手紙の内容は、十分に犯行宣言として認められ、かつ、元インサイダーであるだけに成功の可能性がきわめて高いと見なされるものである。


 読売新聞、日本経済新聞、朝日新聞の各朝刊は、防犯カメラ16台を津久井署の助言を得て設置したことを報じている※11、※12、※13が、防犯カメラが直前の抑止に役立つのは、機会犯に対してのみである、ということは犯罪学の「常識」である。読売新聞だけは、園が代表電話番号を特定通報番号に登録したことを記している※11。この対応は、適切であるが、周知されていたのであろうか。また、代表電話番号は、詰所から発信できたのであろうか。私は、前日の追記において、防犯カメラ単体よりも、「ナンバープレート自動読取りシステム」が導入されるべきではなかったか、という指摘を念頭に置いて記述した。私のブログでは、私自身が後になって分かりにくいと思う文面を一部修正することがあるが、本点については、記述を修正していない。色々と慮り過ぎて、なかなか伝わらなかったことを反省している。ゆえに、本日の記述は、要らぬ注目を受ける程度に踏み込んだ記述となっている。防犯カメラ単独では、監視人員が充当されない限り、少なくとも予防・抑止効果はない。これは、諸方面に差し障りがあるので具体的な指摘は避けるが、警察官の中でも常識であろうし、誰もが容易に思い至ることのできる「常識」である。防犯カメラの導入が単独では抑止に役立たなかったという結論は、今回、採用せざるを得ないものである。ここでの失敗の敗因は、防犯カメラを推奨した側に、基本的な理解、つまり、防犯カメラは一次予防において役立ち、日和見的な犯罪、機会犯罪には役立つかもしれないが、二次予防、つまり直前の抑止には役立たず、決心の固い(determined)犯罪者には役立たないという、ごく当たり前の知識が存在しなかったことと、容疑者に対する軽侮の念が存在したことであろうことにある。


※11 読売新聞(社会部 田中洋一郎)2016年7月28日朝刊13版11面「相模原刺殺 識者の見方 緊急論点スペシャル/司法と行政 連携強化を 中央大名誉教授 藤本哲也氏」
※12 朝日新聞(久永隆一)2016年7月28日朝刊14版1面「措置入院 あり方検討 厚労省」
※13 日本経済新聞(署名なし)2016年7月28日朝刊14版39面「措置入院から退院 把握遅れ/警察と行政 対応検証へ」

 「常識」という用語を用いた理由は、「誰もが思いつけることは、誰かによって実行される可能性が常にある」という「消費者目線」、転じて「犯人としてありうる目線」の重要性を示すためでもある。衆議院議長公邸において、警備の警察官が手紙を受領し、その事実が津久井署にまで伝達され、緊急措置入院となったところまでは、適切な対応が進められたと言いうるかも知れない。しかし、その後の対応は、十分であっただろうか。容疑者の退院後、各組織の担当者は、今回の事件に悔いのないように、誠意を尽くして業務に従事していたと言えるのか。日本のあちこちで、組織のしがらみにとらわれることのない自由な心証に基づく指摘が必要とされている。改革は必要ないかも知れないが、改善を進めていくことは、必須であり、改善しようとする姿勢には、何らの疚しいことはないのである。


平成28年7月28日18時追記

朝日新聞夕刊は、1面において、容疑者が100mほど離れた民家の前に駐車していたことを報じている※14。この内容は、犯人が陰謀論に係る話題に言及した理由が自身の心神喪失状態を主張するためであるとみる材料となるとともに、ナンバープレート自動読取りシステムだけでは抑止が困難であったことを示すものとなる。防犯設備に係る私自身の主張の強さは、不充分であった。記して我が身の教訓とするとともに、関係者にも反省を求めることとしたい。

 防犯カメラシステムは、RBSS制度を離れて指摘すれば、基本、保護された有線を標準として、やむを得ない場合には指向性の無線を採用すべきである。しかし、有線は、設置箇所が広くなればなるほど、ケーブル敷設に係る工事費が高く付くために、設置面積の二乗根に比例したーブル敷設費用を要するという課題を有する。しかし、駐車場所にも注意を払うほどに容疑者が常習的犯罪者に近い合理性を有しているため、敷地境界を十分に監視可能で、かつ、動体検出が可能なように、それなりの密度をもって設置する必要があったと言えよう。

 朝日新聞は、結束された職員の一人から非番の同僚に向けて『LINE』のメッセージが発信され、これを受けた職員が午前2時38分に110番通報したことを伝えている。代表電話の特別通報登録は、結局、役立てられなかったと言える。この事実は、すべての対策がヒットするわけではなく、どのようなセキュリティ対策においても、多重防護が必要なことを示唆するものである。仮に、緊急通報アプリが存在し、ボタンを2度押すだけで動くものであったとすれば、被害の程度が抑えられた可能性も認められる。

 朝日新聞は、同じ夕刊の別記事において、大麻に係る陽性反応についての情報が共有されていなかったことについて、報じている※15。ここで重要な情報は、むしろ、情報の共有がなされなかったということよりも、容疑者が覚醒剤及び麻薬の任意検査については同意しており、大麻については拒否したという経緯である。この判別能力こそは、情報共有されるべき内容ではなかったか。この情報が提供されていれば、少なくとも、精神科医は、コイツは嘘吐きだな、という先入観を以て容疑者を観察できたはずである。この経緯を記事からうかがい知ることは難しいが、記者本人も本点を意識的に示した可能性が残る表現ではある。それに、容疑者の手紙の中には、大麻礼賛とも取れる表現が見られる。相模原市への当てこすりは、警察内部における情報の非共有を明らかとしてしまう危険性がある。

 最後になるが、本記事は、以前に記したトランプ氏に係る記事以降の記事すべてを含め、3日間、キャッシュへの登録すら保留されている状態にある。密かに変更しても、本記事を密かに覗く者以外には、何ら影響を与えないものであるが、そうすると、私自身がブログを開設し、本年度に至るまでに設定している自分ルールに悖るために、恥を忍んで明記しておくことにする。この機微は、世の中にはプリンシプルが必要である、という信念から生じたものである。私には(、robots.txtがデフォルトである場合には)、キャッシュに乗せるところまでは、プリンシプルの範疇ではないの?という疑問があるのである。


※14 朝日新聞(署名なし)2016年7月28日朝刊4版1面「施設侵入「裏口から」/相模原殺傷容疑者 防犯体制熟知か」
※15 朝日新聞(署名なし)2016年7月28日朝刊4版11面「大麻陽性 県警に伝えず/措置入院時 相模原市「義務ない」」



平成28年7月29日00時追記

デジタルの仕組みについては、私よりも詳しいであろうブログ『弁財天』の運営者氏は、果たして、1分余りで被害者1名となるスピードランが可能であったのかと、サンディ・フックに係る陰謀論にも準じた疑問を呈している(リンク)。容疑者や施設運営上層部以外に係る実名報道がないことは、その可能性を残すものではある。しかし、『弁財天』氏は、一点の可能性を見逃している。この可能性自体、わが国では責任を問う声が上がる可能性があるために、私が真に自身の将来のみを懸念するのであれば、沈黙することが望ましい可能性である。しかし、もうすでに、私は、ある方面から見れば、ルビコンを渡河中であろう。よって、可能性を明示して、今後の教訓として考えられる可能性を述べておこう。

 これだけの凶行が、殺人初心者の個人に可能となった背景として、施設が重度障がい者向けのものであるために、夕食に対して「夜ぐっすり寝られる成分」が混入されていたというものが考えられる。「無理矢理大人しくさせる」種類の薬であれば、関係者でも躊躇したかもしれないが、また、わざと商品をディスるわけではないのであるが、「夜ぐっすり寝られる五大栄養素」的な物質が多く発見されて製品化されている事実は、われわれもマスメディアに囲まれて体感しているところであるから、この考えに職員が至ることは、さほど無理筋ではないし、背徳感のある話でもない。何と言っても、栄養補助食品等は、薬物ではなく、食品に過ぎないのであるから。夜間に問題を起こす入居者がいるという虞がないからこそ、職員らは、仮眠を十分に取れていた、という事情も考えられる。この(薬効)成分の無自覚的な摂取は、被害の低減を考察する上では、避けて通れない内容である。何なら、職員も同じ食事を取ることにより、入居者から信頼を得ていた事情すら認められる。仮眠を十分に取ることによって、職員は、食品の影響を低減できていたであろう。本点可能性に当たっては、事故調査委員会のような仕組みが必要であろう。厚生労働省の委員会の委員が、この可能性に気付くことがあろうか。結構見物である。

 おそらく、前段落の指摘によって、私が御用学者として厚生労働省に呼ばれる余地は、ゼロになったであろう。しかしながら、格好良いことを深夜にほざくのは、人の習性である。朝になったらブログを読み返し、その後に公開するように、という助言を行う記事がウェブ上にあったように記憶する。同感である。黒歴史感を覚えないうちに、とりあえず本追記部分を終えて自分に知らんぷりをすることにしよう。


平成28年7月29日12時追記

前追記部分は、やはり黒歴史感を拭えないが、読みやすさと正確さのために、ある程度の内容を追記して、残すことにする。食品等を工夫して夜間の入居者を沈静化させていたという可能性は、通常であれば、人が考えていないものであるように見えるためである。障がい者施設の実際については、私も門外漢である。しかし、一般人であるブロガーの多くが気付いていないのであれば、また、職員が現場で外部の人物に見せられないことをしているという自覚があるのであれば、実務経験等を通じて現場を具体的に知る御用学者でもなければ、この可能性に気付くことはないであろう。よって、この可能性は、文章として残しておく価値があるというわけである。

 しかしそれよりも、容疑者が知的にだけではなく身体能力にも障がいのある人たちを優先して狙ったという可能性も高いであろう。ただし、この可能性は、先に示した職員側のルーティンと並立しうる内容である。どちらかが成立すると、片方が否定されるという内容ではない。むしろ、両方の条件が揃ったからこそ、被害が大きくなったという可能性が認められる。

 なお、近隣住民により撮影・提供された防犯カメラ映像※16によれば、大量殺人のわりに返り血が少ない、という指摘がネット上に見られるものの、犯人は雨合羽を用意しているし、おそらく、事件現場において、シーツや(この時期であるから)タオルケットなどの寝具をカバーとして利用したのであろう。犯行における容疑者の合理性は極めて高い。行為無価値説からも今回の事件は否定される内容であろうが、この事件で犯人が心神喪失や耗弱ということは、あり得ないであろう。近隣住民が深夜まで起床していたことにも驚かされるが、防犯カメラを設置していた経緯も気になるところではある。

※16 “戦後最悪”19人刺殺、防犯カメラが捉えた容疑者の姿 News i - TBSの動画ニュースサイト
http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye2830126.htm



平成28年8月6日01時追記

相模原障害者殺傷事件、犯行直前の「貧」と「困」|生活保護のリアル~私たちの明日は? みわよしこ|ダイヤモンド・オンライン
http://diamond.jp/articles/-/97962

 上掲リンクで、みわよしこ氏は、容疑者が生活保護を短期間受給していたが、7月には食事にも困る貧困状態ではなかったかと推測している。7月まで事件がずれこんだ理由の候補として、私にも納得できるものである。みわ氏は、同時に、本事件がヘイトクライムである旨を強調しており、沖縄タイムスの指摘を賞賛している。本事件がヘイトクライムの一種であると見ることも可能ではある。しかし、本事件に対しては、「容疑者の主張が手紙等を通じて広く流布され、障がい者のコミュニティが恐怖を覚え、これに社会が上手に対応できていない」という状況を鑑みるに、私は、あえて、本事件をテロ事件として理解し、対策を実施すべきであると主張したい。

 私が本事件をテロ事件であると主張する理由は、犯罪予防研究という観点から本事件の再発防止を図る場合(私にとって、都合が良いように、「犯罪学」と述べていないことに注意)、本事件をテロ事件と見た方が色々と捗るからである。ヘイトクライム対策に比して、現状、テロ対策のリソースは、大変に豊富である。わが国の縦割りの現状に対して注意深くある人物ならば、本事件は、断然、テロ事件と言うべきである。ヘイトクライム対策に問題を押し込める形になると、実質的に、国民の生命、健康及び財産が保護されなくなってしまうであろう。

 なお、本事件をテロ事件と見て、本事件に類似する事件を抑止し続けられるだけの構想を実現するとなると、別記事(リンク)でも述べたが、エース級の若手警察官が一県(都道府県)で1ダース以上は必要となり、それにつれ、相当のバックアップ態勢が必要となろう。この態勢を維持するためには、追加の手当や制度も必要となろう。他方で、その手当が真に必要であるか否かを検討するためには、裁判におけるインカメラ審理のような方法論が必要となる。このバランスをいかに取るべきかについては、私には構想がない。また、この態勢は、国内の犯罪を防ぐ上で有効になるであろうが、わが国の情報環境を考えると、国際関係の事案にも転用可能であるとは言い難い。この点、融通が利かないと考える向きもいるかも知れない。本点は、問題の所在を述べるだけで、筆を置くことにしたい。


平成28(2016)年9月21日修正

誤記を訂正し、リンクの張り忘れを訂正し、段落に入っている余分な改行記号の<br />タグを削除した。

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