平成28年7月25日の日本経済新聞東京13版34面は、「論点 争点 メディアと人権・法/令状なしGPS捜査「違法」/立法措置が検討課題に」という記事で、指宿信氏に取材している。
以下は、指宿氏の発言の一部であるが、違和感の残るものである。まず引用して、次段で違和感の正体に言及しよう。前記事(2015年5月15日)と同様、その適法性は、私の守備範囲ではない。前記事と同様、私の指摘は、物事に対する正確な理解の上に、適法性が争われるべきであるというものに留まる。
〔...前段落まで略...〕
指宿信・成城大教授は「公道上や店舗といった場所での警察の監視活動について、プライバシー侵害の程度が少なく適法とした過去の司法判断は、ビッグデータ時代に見直しを迫られている」と語る。その上でGPS捜査について①令状取得の義務付け②データの取り扱い規制③本人への事後通知制度――の導入を提案する。
【...最終段落を略...】
違和感の正体は、捜査対象が絞り込まれた後のGPS捜査の適法性という主題を扱うときに、「ビッグデータ時代」という用語が飛び出てくる点にある。GPS捜査において蓄積されるデータの量は、たとえば一台の車両という、絞り込まれた後の車両を追跡するということであれば、型落ちのノートパソコン一台で快適に分析可能である。ビッグデータという用語は、「クライアントの主記憶装置に格納することが適わないほど膨大なデータ」という意味を含む。(典拠は示さないし、記憶だけで記すが、その正確性については、自信を有している。)指宿氏の発言が引用の通りであれば、ここでの批判の対象は、GPS捜査ではなくなってしまう。
現時点では、ある捜査対象者の移動履歴の固有性を、ほかの人物の移動履歴とネットワーク科学の観点から比較しようとする場合であっても、ビッグデータにアクセスする必要があるのは、最初の段階だけであって、データを切り出すという作業に留まるであろう。それに、この作業は、GPS捜査における犯行の立証作業には不要である。連続犯または常習犯(おそらくこちら)について、犯行現場と犯行時間の組を提示し、その組に捜査対象者から採集されたGPS記録が時空間上で一致するという事実を立証するということになるだけであろうからである。
このようなGPS捜査に対して、強いて旬のキーワードを挙げて対抗するつもりなら、特定企業を想起させるが、「IoT時代」の語が用いられるべきである。日本の研究者として、少しなりとも国際的な先取性を主張するという作業に貢献するという含みを持たせるならば、「ユビキタス時代」が適切な候補となる。これらの用語であれば、いずれも、捜査の初期の過程において、データを取得するという段階の適法性に触れる言葉になり得る。ただし、「ユビキタス時代」の語の方が、適法性の検討範囲が広い。ネットに接続するという用途が想定されていない機器が含まれ得るためである。
先の引用部分において、記者の側による文章構成の影響が強いのか、それとも指宿氏の側からこの語が引用通りの文脈によって提示されたのかは、私には知る由も必要もないのであるが、とにかく、正確な議論の妨げになろう。指摘して公開しておきたい。
2017年7月25日訂正
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