『Dying Light』というFPSゲーム※1がある。ゾンビになるウィルスが蔓延し、隔離されたイスタンブールを彷彿とさせる都市ハランで国際機関から派遣された特殊部隊員が生き延びるために苦闘する話である。ポーランドのTechlandが開発、ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメントにより全世界的に販売されている。性描写はないが、残酷描写が満載であるゆえ、CEROレーティングが「Z」、18禁ゲームである。初心者には敷居が高い操作方法であるが、一人用FPSゲームとしては、出色の出来である。
※1 First Person Shooter。プレイヤー本人があたかも3DCGで描かれた空間内にいるような視点で画面が描かれており、遠近法の消失点(画面中央)を照準として、コントローラやマウスで視点・照準を動かして攻撃する形式のゲーム。
本ゲームには、インターネットを通じた4人までの協力モードと、4対1の対戦モードがある。対戦モードでは、1名のプレイヤーが触手を用いてフィールドを自在に移動できるスーパーゾンビ(Night Hunter)となって、協力モードの人間役のプレイヤーたち(最大4人)に乱入できる。協力モードでは、クライアント同士の距離が影響しているためか、自国か、応答時間の短い国のプレイヤーのゲームにしか参入できないようであるが、現時点の対戦モードでは、全世界のプレイヤーのゲームに乱入することになりがちである。対戦モードでは、乱入するにもかかわらず、ゾンビ側プレイヤーは、5つの「巣」を破壊される前に人間プレイヤーたちを計10名殺害するという勝利条件を与えられている。
対戦モードで乱入すると、ロシアのプレイヤーに多く遭遇するが、およそ3分の2ほどが、明らかに不正改造された武器を利用してくる。そのアイテムとは、弩であるが、弾数無制限、再装填を必要とせず、1秒間に5回は射撃可能である。当該の弩は、主にロシア語圏で流通しているようであるが、私の経験では、ドイツやオランダや日本に在住すると申告しているユーザにも、協力モードを通じて配布されているようである。アイテムの属性は明らかに不正なものであるが、受け渡し作業そのものは、ルールの枠内で処理されているようである。
ここに挙げた国名は、いずれも、『Steam』というゲームプラットフォームへの本人の登録を参照したものであるため、現実を必ずしも反映していない可能性もある。ただ、ロシア語圏で主に流通しているという推測については、これら不正を行うプレイヤー同士のキリル文字によるチャットを見ているなどの理由があるために、私としては、かなりの確信を抱いている。本人の報告では日本国内(京都)に在住するとしていた不正なプレイヤーは、ローマ字表記も理解できず、英語も怪しい状態であった。日本国内在住という申告自体が嘘である可能性も認められる。
私がロシア語圏で配布されていると推測し言明した理由は、二点ある。第一に、本ゲームについてのロシア人プレイヤーのコミュニティは、英語慣れしていないようである。本ゲームには、ロシア語版が存在している。プレイヤー同士のコミュニケーションを通じて、コミュニティの特徴は、その内容が不正に係るものであるか否かにかかわらず、強化される方向に働いているであろう。第二に、英語での本件不正に係る情報は、一例を除けば、Google検索でもまったくヒットしない。英語を普通に使えるプレイヤーたちで、この不正アイテムを使用していた人数は、5名に満たない。英語を普通に使えないロシア人プレイヤーたちで、この不正な弩を利用していると推定される者は、20名以上となる。この比は、プレイヤーの居住(申告)国の比率から見ても、特異である。
#ここで重要なことは、私がロシア語を読み書きできず、よって、ロシア語コミュニティの内実については、推測に頼りつつ記していることである。が、可能性を慎重に判断しているつもりであるし、後段で説明するように、オチは、またか!というものになる。
ここで、本ゲームにおける不正自体に係る問題は、三点ある。一点目は、誰が不正改造アイテムをロシア語圏で流通させているのかである。二点目は、不正改造アイテムを利用する側に不正の自覚があるかである。三点目は、その使用に対しての違反報告が適切に管理されているのかである。これら三点の問題の組合せこそは、本ゲームの問題を「eスポーツ」コミュニティの外部と関連させて考える契機となるし、「eスポーツ」の正統性を問う材料ともなる。
本ゲームでは、不正なプレイヤーと正当なプレイヤーのスタイルを分類しても、国による違いはないが、不正改造アイテムの流通する程度と利用形態別のプレイヤーの割合は、ロシアとほかの国とでは、大きく異なるようである。まず、正当なプレイヤーについてであるが、私が全然敵わないと感じたプレイヤー数名のうち、2名は確実にロシアのプレイヤーである。彼ら2名は、まったく不正によらず、単に実力で優れている。これは、たとえば、アメリカのプレイヤー1名も同様である。他方、不正のスタイルには大きく二種類があるが、一つのスタイルが採用される割合が国により異なるように見える。一つの不正のスタイルとして、対面しているときにも不正な武器をあからさまに利用してくる者がいる。この者たちは、特別なアイテムをほかのプレイヤーから譲り受けたと信じている節がある。この者たちは、むしろ、ロシア国外に多く見られ、言動から推測すれば、未成年者である。プレイヤーが未成年者であるとすれば、おおむね、どの国でもレーティング違反状態であり、保護者の監督が不充分であることになる。もう一つの不正のスタイルとして、当方が退治されて復活待ちしている間だけ、この弩を集中して「巣」に対して利用するという者がいる。この間、当方の画面は暗転しているが、死亡地点付近の環境音が良く聞こえる。このため、音に注意していれば、何か通常のプレイスタイルでは生じ得ないことが生じていることに、簡単に気付くことができる。映像がないので証拠にならないであろう、と不正を行う側が憶測していることは、十分に考えることができる。しかし、サーバからの応答遅延が酷かろうが、弩の発射音は、おおむね発射回数だけ鳴るのであり、再装填に1秒程度を要するところで、1名のプレイヤーが5回の音を鳴らせば、いくらなんでもおかしいとなるのである。この手口も、各国の不正なプレイヤーに共通するが、私の狭い経験では、むしろ、ロシアのプレイヤーに高い割合で見られるものである。
私の狭い経験ではあるが、これらの材料から推測される結果を描くと、次のようになる。ロシア人コミュニティにおいては、未成年のプレイヤーだけでなく、成人プレイヤーまでもが不正アイテムを多く利用している。アカウント停止処分の可能性があるので、当該の不正改造アイテムは、注意して利用されている。受渡しに当たり、ロシア語で注意するように伝達されている可能性も考えられるが、他方で「公正な賞品であるが、巣に対してのみ有効な武器だから、相手が落ちている間にだけ使うように」などと、重大な錯誤に陥るような情報も同時に流通している可能性も認められる。他方、不正改造アイテムは、厳密に国境に妨げられることはないので、コミュニケーション不足等があるにしても、モノ自体は受渡しされる。しかし、受け取る側は、思慮の足りない未成年者に偏ることになり、アカウント停止の危険を顧みることなく、不用意に利用されることになる。
ロシアで成人プレイヤーでさえ不正改造アイテムを利用していると考えられる理由には、コミュニティの規模が大きく、ロシア語で大抵の用が事足りるため、英語情報を参照せず、当該不正アイテムが公式には存在しない可能性に気付いていないというものが考えられる。また、繰り返しとなるが、「当該アイテムが公正な賞品である」という情報がロシア語で流通しており、プレイヤーたちがこの説明に見事に騙されている可能性も認められる。ただ、理詰めで考えると、この弩は、賞品であるにしても、明らかに怪しいものである。本ゲームでは、すべての武器に弾薬か耐久度が設定されており、弾薬は主に店で補給する必要があるし、耐久度を超えた武器は廃棄せざるを得ない。また、ゲームの設計において、時間当たりのダメージ量(通常、Damage per second, DPS)というパラメータは、基本的なものであるが、この不正な弩は、飛び道具として抜きん出た攻撃力を誇ることになってしまう。
本ゲームにおいて、ロシアコミュニティによる不正が酷いという認識や指摘は、一部の日本人なら未だに「たかがゲーム」と思うかも知れないが、侮ることなかれ、オリンピックに係るロシアに対する非難を強化する機能を果たしうる。それが、インターネット時代なのである。また、この不正(チート)に係る認識は、従来のマスメディア報道によっては乗せられにくい若年層に流通するものとなり、将来に向けて禍根を残すとともに、マスメディア報道の補完的な役割をも果たす。
本件については、コミュニティの側にも、ディベロッパー(管理運営)の側にも、それぞれの集団の健全な発展と、それぞれの集団に対する正当な評価を獲得するために行えることがある。いずれの側の対策も、早めに対応し、不正なアイテムの流通を終息させる、ということに尽きる。
ところで本稿の目的は、私から見たロシアのプレイヤーコミュニティの現状を指摘すること、そのものにはない。本稿の目的の一つは、私が推測したように、ロシアコミュニティにおける不正の蔓延が事実であるとすれば、理由のいかんを問わず、今後、長い期間にわたり、複合的なソースによって、低評価が固定化する虞があるという懸念を指摘することにある。さらなる目的の一つは、「低評価を事実として指摘する」のではなく「不正アイテムが特定コミュニティのみに流通している状況は、きわめて人為的に見える」ことを指摘することである。今回の三題噺のオチは、「なんと、こんな分野にまで、陰謀説を適用することも可能」ということなのである(!)。
このための補助線は、昨日(2016年7月19日)の朝日新聞※2や読売新聞※3が騒いでいるように、世界反ドーピング機関(WADA)によるロシア政府についての調査結果ではなく、マリア・シャラポワ氏に対して仕掛けられたスキャンダルである。「に対して仕掛けられたスキャンダル」という表現で、日本語としては十分に意図が伝わるはずである。が、後世の誰にでも分かるように補足しておこう。同氏に対して仕掛けられたスキャンダルは、あえて形容詞を用いれば、えげつないものである。自身の業務すべてについて、毎
※2 朝日新聞(2016年7月19日火曜日)「ロシア、ドーピング隠蔽/大半の競技 政府関与/WADA認定/プーチン大統領反発」夕刊1面.
※3 読売新聞(2016年7月19日火曜日)「露のリオ五輪締め出し勧告/WADA「ソチ 国主導ドーピング」/IOC理事会 協議へ」夕刊1面.
スポーツ界に軋轢が存在すると英語マスコミが宣伝し、それに日本語マスコミが追随しているという周辺事情まで読み込んだとき、多少の心得のある者ならば、「本件ゲームのロシアコミュニティにおける不正の蔓延は、言語の壁という構造が悪用されて実現した可能性までもが認められる」という絵図に気付くことができる。ただ、このような状態から、当のコミュニティに属する本人たちが脱却していくことは、なかなか難しいことである。そもそも、当人が外部の評価に気付く契機がないし、その状態を汚名返上する意義も見出しにくいからである。それに、ある集団におけるチートの蔓延状態を指摘すること自体、その集団に対する差別か?という誤解を招きうることであるし、チートによって受けた不愉快さの意趣返しか、とも疑われることにもなる。実際、ここまでの可能性に気付く過程で、私は、明らかに下手なプレイヤーにボコにされがちであった。それでも、「ヤツらはチートする」という不信の構造が成立し、維持・再強化されるという状況を避けるためには、誤解を受けるリスクを取りつつも、それってチートじゃね?と指摘するほかないということである。この構図は、もちろん、前段落にあるような、英語マスメディアに対する批判にも準用できる。
#以上に記したことは、日本人であり第三者であるという分類に該当する人物のうちでは、私しか気付いていない可能性のあることであった。このような解釈は、かなりひねくれたものであるし、私の年甲斐のない悪趣味を晒すようなことでもあったことは、ここまで読み進めた皆様なら分かることであろう。しかし、誰も気付いていなかったという場合を考えると、本ブログで指摘しておくことは、結果として何らかの共通善(と私の今後の趣味の快適性)を招来する可能性が認められた。そこで、ここでは恥を忍んで「損して得取れ」の気持ちで記しておくことにした。人類の共通善からみて、本稿の指摘が有効に活用されることを願うばかりである。もちろん、本件については、枯れ尾花を見て幽霊であると錯覚している可能性もある。が、その可能性を確認することは、私個人の力量には余ることである。加えて、日本語で存在したはずの関連情報の所在を見失っている。ここでは、それらの確認作業をさておき、構造上の危険を指摘するだけでも、タイミング上、有用さを期待することができるであろう、と考えたのである。
平成28年7月20日18時追記
この時点では、アクセスがゼロであるようであるが、誤×毎月→正○毎年であることを訂正した。平成28年7月22日21時追記
昨日対戦したロシア在住者(もちろん自己申告)は、不正こそしていないようであったが、チャットの発言は、終始、罵詈雑言であった。この程度まで民度の低いプレイヤーに遭遇したことは、本件を除き、本ゲームでは4名程度であり、その2例が、やはりロシア(自己申告)のプレイヤーであった。ロシアのプレイヤーの遭遇確率は高いので、むろん、「失礼な奴の割合は、国(自己申告またはIP)による差がない」という結果の範囲に留まるものではある。この経験は、時期が時期だけに、大変に残念な話である。このロシア人と思われる若者は、自らの行為がロシアの「民度」を代表しうることに、明らかに気が付いていないようであった。このノリで、ほかの対戦でも相手を罵るのであれば、彼(女)は、今後も、世界に向けて、ロシアの評判を下げ続けるであろう。彼(女)が行いを改める契機は、ゲームの内部には存在しないであろう。このため、この話は、たかがゲームではあるが、ゲームの内部で処理できない対策を要求する。対策が要求されるべきであると仮定すれば、の話ではあるが。
他方で、このプレイヤーが第一義的に問題であるにしても、このプレイヤーの行為が放置されるという状態は、管理側の問題である。構造的不正を通じた反ロシアキャンペーンの一環とさえ、うがった見方を取ることもできる。実際のところ、より成功した類似のゲームは、本ゲームに比べ、現在でも十分なプレイヤー数がおり、一定の秩序が維持されている。システムを設計・維持管理する側は、プレイヤーへの介入を通じて、プレイヤー側よりも、社会により強い影響を与えることができる。本ゲームは、管理に相応しい過疎状態にあると言えるのかもしれないが、この低レベルの状態は、より外部の条件を考慮すれば、必ずしも放置されていて良い訳ではない。(端的には、商売として、長続きしないであろう。本件については、すでに、私ではない他のプレイヤーが不満を表明している。)
0 件のコメント:
コメントを投稿
コメントありがとうございます。お返事にはお時間いただくかもしれません。気長にお待ちいただけると幸いです。