2016年7月31日日曜日

ポケモンGOから地図情報が作成されるという主張には疑問がある

 ポケモンGOについて、『サイゾー』系列の陰謀論担当サイト『トカナ』※1が本年7月20日の時点で、海外の陰謀論サイトの記事※2を引用する形で、プライバシーに係るデータを収集する虞があるという記事を掲載している。記者は、仲田しんじ氏である。この指摘の根拠は、プライバシーポリシーが寛大に過ぎること、制作企業のルーツが国家の情報機関と関連していること、であるという。元記事に分かりやすい形の日付はないが、2016年7月13日の発行のようである。

※1 「ポケモンGO」は“全人類奴隷化”に向けての監視装置である可能性が浮上! すべての情報はCIAに送られている!?
http://tocana.jp/2016/07/post_10388_entry.html

※2 Don't Play Pokémon Go! It Is The Latest Government Surveillance Psyop
http://www.disclose.tv/news/dont_play_pokmon_go_it_is_the_latest_government_surveillance_psyop/133115

 結論から言えば、仲田氏が主張する形によっては、データが送られるという虞はないであろう。その理由は、私が以前の記事で示唆しているので、そちらを参照されたい。この主張が誤ったものとなった理由として考えられるものは、単に元記事に忠実であるだけ、というものであろう。仲田氏の記事には、地図情報についても正確ではない理解が見られる。実のところ、本記事は、この不正確さを難に思うので、作成したものである。
またすでにGoogleマップとストリートビューは超大な情報量を誇っているが、例えばこの『ポケモンGO』のプレイヤーからは場合によっては私有地や建物の中の画像情報も自動的に集まってくることになる。“ビッグブラザー”側は放っておいてもこれまでにない詳細な地図情報が刻々と集積されていくことになるのだ。
この段落には、「放っておいても」「これまでにない詳細な」「地図情報」という3点の不正確な記述が含まれている。第一に、「放っておいても」地図制作に必要なデータがすべて収集される訳ではなかろう。第二に、スマホカメラの映像撮影時の性能が完全に満足できるものではないために、「これまでにない精度」とまではいえない余地があろう。第三に、集積されるのは、映像であって地図情報ではない。

  第一点目の誤解であるが、ある空間に集まっているポケモンGOユーザの映像をすべて取得したとしても、特定の時空間についての映像がモザイク状に得られることが期待できるだけであろう。特に、空間の使用方法が限定されている場合には、ユーザの移動範囲が限定されることになるために、そこから走査可能な空間のみが得られるという結果に偏るであろう。ユーザからの予想される反発というリスクを冒してまで、しかもネットワークやスマホに多大な負荷をかけてまで、すべての映像データを収集するよりは、軍艦島を撮影したときに用いられたようなリュックサック式撮影装置※3を用いた方が、よほど正確な空間画像を取得できるであろうし、良い意味での話題作りにも利用できるであろう。何なら、この機械が近くにいるときだけ、特別なイベントを発生させても良いのである。正確な空間画像が取得できることは、地図製作の一歩となる。精度が低いと、加工作業だけでも大変になる。目的が映像そのものではなく、地図情報である限り、仲田氏により予想された方法は、スマートさとは程遠い。

※3 Google Japan Blog: "軍艦島”をストリートビューで歩いてみよう
https://japan.googleblog.com/2013/06/blog-post_28.html

 第二点目の「これまでにない詳細」さについては、時空間上、時間軸については、そのとおりであろう。しかし、空間上、つまり、画像の解像度を評価の指標とした場合には、まず間違いなく、そうではないと言えよう。スマホカメラでは、何らかのフィルタを用いたり、魚眼レンズ風写真のためのオプションを用いるなどしない限り、ストリートビューのように、ある地点から見た場合の天球を再現できるほどの使いやすい画像が得られる訳ではない。また、映像として取得している時点で、ブレやら何やらについても、処理が必要となる。スマホ側に処理をさせて映像データを送るという作業もは、過大な負荷を強いるように見える。

 第三点目であるが、単なる映像と地図情報とでは、位置情報に係る精度を保証するという点において、大きな違いがある。完全に映像が得られたとしても、これらの映像は、再現しようとする時空間に対して、(美術品にいう)モザイクを制作するときのように、精度を保ちながら当てはめていくという作業が必要である。この作業においては、人工知能が限定的に活躍する余地がある。このために、この作業は、ある程度までは自動化可能であると予測できる。しかしそれでも、「放っておいても」「地図情報」が自ずから形成される訳ではない。そこには、GISエンジニアの人知れぬ苦労が横たわっているはずである。

 物事に陰謀論を見出すことは可能であるが、その陰謀論が批判となりうる場合、一部についてであっても、根拠が児戯に等しいレベルであることは、主張の全体について、信頼を失うことになる。ただ、陰謀論に係る言論の世界では、一部の議論の質をわざと落とす、という作業が施されることがある、ということにも注意しなければならない。その理由として考えられるものには、たとえば、論法が敵味方を弁別するための手がかりであったり、あるいは、重要な内容を伝えるためのバーター材料であったり、というものがあり得よう。翻って、元記事は、また、『トカナ』の記事は、いかなる理由で、質の低い議論を行うに至ったのであろうか。興味が尽きないところである。


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