現時点で、私は、2016年リオ五輪の閉会式(現地時間で2016年8月21日)に係る演出を、ごく最近になって後付けする形で用意されたものとみなしている。このため、陰謀論者の一部に見出されるようなマリオ=マリオネット(marionette)説などを深掘りするのは、価値あることとは考えていない。つまり、マリオという造型すら1980年代に「国際秘密力集団」によって最初から用意されたものであるなどという、長期的な視点を織り込む必要はないものと考える。マリオという名は、イタリア語起源でMariusだとされる一方、マリオネットの語の起源は、「小さなマリア(様)」、つまり、教会における講話のための聖母マリアの人形から取られたと解釈するのが良さそうである。ラテン語での語源が異なるところに落ち着きそうなのであるから、マリオとマリオネットの語を端から同一視するのは、少々ハードルが高そうである。もちろん、調べていけば、この私の見立ては、ひっくり返されるかも知れない。しかしそれでも、マリオ=マリオネット説は、牽強付会の感を拭えないものである。呪術として見た場合、悪魔的なシンボルが入念に準備されてきたという事実を知った大衆に与える恐怖感の強度は、低いものになろう。
Mario (given name) - Wikipedia, the free encyclopedia
https://en.wikipedia.org/wiki/Mario_(given_name)
marionette - definition of marionette in English from the Oxford dictionary
http://www.oxforddictionaries.com/definition/english/marionette
Wordwizard • View topic - marionette
http://www.wordwizard.com/phpbb3/viewtopic.php?t=19540
今回の演出は、多数の既存のシンボルから、利用しやすいものを利用したと考えるのが妥当であろう。BuzzFeedによるインタビュー記事には、この考えを補強する東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の公式見解が示されている。同じ集英社『週刊少年ジャンプ』の漫画由来のアニメであっても、『ドラゴンボール』の方が『キャプテン翼』よりも知名度及び人気が高いようには思う。しかし前者は、ハリウッド映画との絡みもあるであろう。こう勝手に思い、納得しているところである。
【リオ五輪・閉会式】「安倍マリオ」が話題 でも、ポケモンが登場しなかったのはなぜ? -リオオリンピック特集 - Yahoo! JAPAN
http://rio.headlines.yahoo.co.jp/rio/hl?a=20160822-00010001-bfj-spo
『ドラゴンボール』"dragon ball"は、Google検索では、29,000,000件。『キャプテン翼』は、各国で異なる名前で放送されているようであるが、フランス語、スペイン語でも50万件に満たない。『ドラゴンボール』のプレステージは、文字通り、桁違いである。マリオだけでソニックが出てこないのはおかしいという指摘にも、かなりの正統性がある。両者ともが出演するオリンピックを題材にしたゲームがある以上、ソニックが出演することは、当然に期待されたはずである。
図1:Google Trendsによる"dragon ball"と"captain tsubasa"の比較 |
"dragon ball", "captain tsubasa" - 調べる - Google トレンド
https://www.google.co.jp/trends/explore?date=all&q=%22dragon%20ball%22,%22captain%20tsubasa%22
好意的に解釈すれば、試行錯誤と決断を通じて、今回の演出が組まれていったものと見ることも可能ではあるが、現実には、もう少し生臭い話も見込んでおいた方が良いであろう。その話とは、企画時、海外調査の費用と手間を惜しんだというものである。販売本数によってマリオを採用したという経緯については、海外における知名度調査のための費用を支弁せず、取得しやすい統計を用いて、推論を省略したというのが、私の率直な見立てである。ゲーム業界では、海賊版が最も大きな課題であり続けてきたはずである。このため、知名度・人気度の代理指標として販売本数を利用すること自体、的を大きく外した話となりうる。販売本数ではマリオシリーズの方が上とはいえ、あくまでいちゲームプレイヤーとして世界に接した経験としては、ポケモンの方がマリオよりも遙かに人気がある。もっとも、マリオが(特に旧作ほど)基本的にシングルプレイヤーゲームであるという事情は、私の経験に影響しているかもしれない。マリオシリーズは、やり込み要素が高いために、e-スポーツ界隈でカルト的な人気を誇るという印象を受ける。この印象は、Google Trendsによっても(私の予想を超えて良く)裏付けられている。ほとんど常に、マリオよりもポケモンの語が検索されているのである。同時に、ポケモンGOは、爆発的なブームと言って良いであろう。
図2:Google Trendsによる"super mario"とpokemonの比較 |
"super mario", pokemon - 調べる - Google トレンド
https://www.google.co.jp/trends/explore?date=all&q=%22super%20mario%22,pokemon
ただ、多数のキャラクターや役者や音楽家などについて、将来的にシンボルとしての利用価値を見込めそうな若手の目星を付けておくという作業は、広告企業において、日常業務の一環として進められていると考えて良かろう。そのシンボルがどのようなものであるかは、また別の問題である。陰謀論を本件に見出そうとする人物には、具体的な事例に則した判定作業が求められよう。どのような基準でシンボルの操作が行われたのかについては、たとえば、椎名林檎氏の選曲に限れば、下記の両氏のような見解もあることであるし、ほかの人たちの検証を待つことにしたい。ただ、第二次世界大戦後の画壇における戦争協力者の復権状況を見る限り、今後の「戦後処理」につながる批判こそが有用であることを付け加えておきたい。
こわれたおもちゃをだきあげて 攻めている演出(2016年8月22日)
http://takashin110show.blog119.fc2.com/blog-entry-2674.html
リオ閉会式で椎名林檎が五輪批判の舞台音楽を使用! 野田作品は東京五輪を戦争の装置として描いていたのに|LITERA/リテラ(2016年8月23日、水井多賀子)
http://lite-ra.com/2016/08/post-2517.html
ただ、宮武嶺氏の指摘にもあるように、今回の演出は、紛れもなく、オリンピックの政治利用である。特に、今回の演出は、モスクワ五輪のボイコットなど著名な事例との対比も有用かも知れないが、まずは、1936年ベルリン五輪や1940年東京五輪と同列にみなすべきであろう。今回のケースは、オリンピックの政治利用の中でも、登場する必要のない政治家が華々しく登場したケースに相当するためである。なお、分析者が陰謀論を多少なりとも知っているならば、東西冷戦が一種のアングルであったことをも視野に含めた検討が可能になるはずである。
NHK「オリンピックの第一の目標は国威発揚」⇔オリンピック憲章「人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会」 - Everyone says I love you !(宮武嶺氏のサイト、2016年8月24日)
http://blog.goo.ne.jp/raymiyatake/e/dade80dd1b3653332b12ba5e4892a229
マリオは、『ドンキーコング』(1981年)が初出である。当初予定されていたポパイの代わりに宮本茂氏がデザインしたキャラクターである。スティーブ・ジャクソン・ゲームズの『Illuminati』には、ぱっと見、緑の土管とマリオやドラえもんを暗示させるデザインは見られない。池上通信機が基盤を開発し、プログラムは任天堂によるという。『bit』1997年4月号「ドンキーコング奮闘記」と滝田誠一郎 『ゲーム大国日本 神々の興亡』 青春出版社、2000年.は、(私にとっても)要確認である。
任天堂も池上通信機も、会社の歴史という観点から見れば、同一の時期に一部上場を果たしている。二部上場以後、両社とも、一部上場までにしばらく時間を要している。ただし、両企業とも、この時期から現在の業態に至るまでの間に必要とした技術は、半導体技術である。両社とも、半導体を応用した産業に属する企業の例として見る必要がある。ほかの種類の偶然を見出すという必要は、ほぼないであろう。陰謀論者が調査することに、無駄はないのかも知れないが、その結果は、単に80年代に半導体技術を応用して成長した企業の興隆史を追うということになろう。
一部の陰謀論者(リンクは文末)は、マリオの赤・青のカラーリングに対して悪魔教の一類型を「発見」しているが、これは、枯れ尾花に幽霊を見ているようなものであろう。万が一、この種の仕込みが1980年代からのものであり、宮本茂氏がこのようなカラーリングをオカルト業界から仕入れていたとすれば、それはそれで相当に長大な伝説となりうる。たしか、スプライトに利用可能な色が限定されていたという事情もあり、ドット絵でも分かりやすく表現するために、あのデザインになったとの宮本氏の話をどこかで読んだ記憶がある。おそらく、当時の事情は、それ以上でもそれ以下でもないのであるが、他方で、現時点でマリオが主役に抜擢された事情は、異なりうるかも知れない。カラーリングが適していたか否かの話は、私の与り知らぬところである。
球をパスしていくという構図は、コマーシャルではそれなりに定番の方法であるような気もする。非常にたくさんの人がボールを投げ/画面が切り替わり/受け取るというパターンである。ただ、いざ動画をネットで探そうとしても、なかなか出会わないものである。例としては、ライバル会社である博報堂の制作になるが、ACジャパン(公共広告機構)の2008年7月のCMがある。
この話の脈絡は、それほどないのであるが、本記事は、メモであるから、この程度で十分であろう。とりあえず、Wikipediaさんを取っ掛かりに始めるのも、それほど悪いものではないという見本にもなろう。オチらしきものがなければ、プロとは言えなさそうなので、オチらしきものを述べておくと、ゾンビもののFPS『Dying Light』(以前の私の記事)には、スーパーマリオへのオマージュがイースターエッグとして用意されている。
ドンキーコング - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%89%E3%83%B3%E3%82%AD%E3%83%BC%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%82%B0
宮本茂 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%AE%E6%9C%AC%E8%8C%82
会社情報:会社の沿革
https://www.nintendo.co.jp/corporate/history/index.html
1962年 (昭和37年):大阪証券取引所市場第二部および京都証券取引所に株式を上場。高野雅晴 (2008年10月2日). 「【任天堂「ファミコン」はこうして生まれた】第6回:業務用ゲーム機の挫折をバネにファミコンの実現に挑む」『日経BP(日経トレンディネット)』
1963年 (昭和38年):任天堂株式会社(現商号)に社名変更。
1970年 (昭和45年):大阪証券取引所市場第一部に指定。
1978年 (昭和53年):業務用テレビゲーム機を開発、販売開始。
1980年 (昭和55年):携帯型ゲーム機「ゲーム&ウオッチ」発売。アメリカ、ニューヨーク州に現地法人Nintendo of America Inc.を設立。
1981年 (昭和56年):業務用テレビゲーム機「ドンキーコング」を開発、販売開始。
1982年 (昭和57年):アメリカ、ワシントン州に新たに現地法人Nintendo of America Inc.を設立し、既存のニューヨーク州法人を吸収合併。
1983年 (昭和58年):東京証券取引所市場第一部に株式を上場。家庭用テレビゲーム機「ファミリーコンピュータ」を発売。
http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/special/20081001/1019315/?P=2
(※記事は「日経エレクトロニクス」1994年9月12日号の「ファミコン開発物語」を再掲載したもの)
【...略...】1981年に当時の技術をたっぷり盛り込んだ業務用ゲーム機、「レーダースコープ」が完成する(図1)。スペース・フィーパーの開発から付き合いのあった池上通信機と共同で開発した。要求仕様を任天堂が出して、回路設計を池上通信機が担当した。
【...略...】
技術競争に目を奪われていたと上村(#上村雅之氏。)は当時を振り返る。【...略...】
社内公募のゲームが救う
上村は、社長の山内溥から「もう池上通信機には行くな」と釘を刺されてしまう。【...略...】善後策として、残ったメンバでレーダースコープの基板を改造して新しいゲーム機に仕立てることになった。
社内公募で全社的にゲームのアイデアを募った。四つの案が集まり、その一つを実現することになった。それが初めて「マリオ」というキャラクタが登場した「ドンキーコング」である(図2)。
アイデアを提供したのは工業デザインを担当していた宮本茂である。後に「スーパーマリオ」を生み出すことになるゲーム・クリエータの処女作だった。
Milestone | Company Profile / IKEGAMI TSUSHINKI CO.,LTD.
http://www.ikegami.co.jp/en/company/history.html
池上通信機 - Wikipedia(日本語版)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B1%A0%E4%B8%8A%E9%80%9A%E4%BF%A1%E6%A9%9F
1961年(昭和36年)6月:東京証券取引所店頭市場に株式公開#大株主を調査するには、国会図書館がもっとも簡単そうである。
1961年(昭和36年)10月:東京証券取引所市場第二部に株式上場
1981年(昭和36年):エミー賞(HK-312, HK-357A)
1983年(昭和36年):エミー賞(EC-35)
1984年(昭和59年)2月:東京証券取引所市場第一部に株式を指定替え上場
有価証券報告書 | 調べ方案内 | 国立国会図書館
https://rnavi.ndl.go.jp/research_guide/entry/theme-honbun-102080.php
エコライバルになろう(第2回日韓共同キャンペーン・日本制作)|広告作品アーカイブ|ACジャパン
https://www.ad-c.or.jp/campaign/search/index.php?id=509
教学!!RIOオリンピック閉会式で安倍首相の演じたマリオの真実!!|しらくもの健康を取り戻そう
http://ameblo.jp/kazukttk/entry-12193406044.html
平成28年8月28日・29日修正
分かりやすさのため、原文の意図を変えずに表現を修正し、淡赤色で示した。平成28年9月7日追記
#内容は、本文と随分と重複している。イタリア語では、マリオとマリアは明らかに男性名詞と女性名詞の対であるかのように見ることができるが、しかしなお、この事実をもって、両者を同一の存在であるとして、オリンピック閉会式が「悪魔の儀式」として悪用されたと主張することは、無理筋であると思われる。イタリア語におけるこれらの語感に対する指摘は、もっともなものではある。ただ、ラテン語を最も良く保存しているという言語がいずれであるかといった研究は、おそらく、分類技術の発展によって、最近の研究成果が従来の研究成果を置き換えつつあるであろうから、専門家でない私があれこれ言うのは、控えるべきであろう。それに、「悪魔の儀式」が完成された場所は、現在の中東地域に求められるはずであって、ラテン語よりは、ヘブライ語が良く情報を保存しているはずである。
なお、マリオ=マリオネットという語呂合わせが日本語上で企画者側によって用意されたものと仮定することは、二通りの見解を生み出す。一点目の見方は、企画者側もこれらの語の由来を同一のものとして理解していたというものであるが、この見方を取ると、企画者側は、式を通じて、かえって無知をさらけ出すことになる。わが国のサブカルチャーの伝統に則してみれば、このケースは否定できないものである。しかし他方で、情報の受け手である陰謀論者の側で、マリオ=マリオネットという連想に係る誤解が勝手に形成されることを「知っていて狙った」と見ることもできる。この二つ目の見方は、今回の企画が、陰謀論者に対する高度な印象操作であったことを示すものとなる。
閉会式の企画・実施という作業工程全体から見て、マリオ=マリオネットを検討するという作業は、最上流に位置し、リードタイムにそのまま効いたものと思われる。この作業の遅れは、工程全体に直接影響する。ポケモン>マリオという世界の人々の認知度(と読み替えた検索回数)は、「販売本数を統計として利用する」という事実と併せれば、「使いやすいキャラクターを利用した」という本記事の推測を強化する証拠となる。マリオ=マリオネットという連想を用意する作業は、たかが陰謀論者の推理を喚起する材料に過ぎないとはいえ、検討にかける時間の分だけ、プロジェクト全体を遅らせる要因となるのである。
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