2016年8月10日水曜日

平成28年7月31日執行東京都知事選挙の期日前投票数の増加について

要約

本稿では、先月(2016年7月)の都知事選に係る期日前投票結果を考察するために必要な材料を提示する。最初に、制度の開始時期とおおよその規模について確認する。次いで、先月の参議院選挙と都知事選の期日前投票の割合が異なることを確認する。最後に、この差が生じた要因として検討すべき内容を思いつくままに挙げてみる。本稿では、あくまで謙抑的に考察を進める予定であり、一部の向きが私に対して予期するような「ちゃぶ台返し」は、別稿にて行う予定である。

#つまり、本稿に示す内容は、あくまで客観的に検証することの可能な内容であり、肯定も反論も、的確に行うことが可能なはずのものである。

本文

期日前投票制度は、従来の不在者投票制度の一部を代替する形で、2003年12月1日から施行された制度※1である。平成28年の時点では、地域や選挙の種類にもよるが、有権者数の1割から3割程度に相当する票がこの制度を利用して投じられたものとなっている。平成28年7月31日の都知事選挙において、期日前投票数は、都全体の全選挙人名簿登録者数に対して15%を、町村部に限定すれば19%を占めている※2。期日前投票数は、現時点では、選挙結果を大きく逆転させうるほどの規模に達していると言うことができよう。

 これに対して、従来の不在者投票は、期日前投票制度の導入直前には、多くとも、当日有権者数全体の1割程度を占める程度であった。たとえば、期日前投票制度の施行直前の2003年11月の衆議院選挙については、東京都の不在者投票数は、63万票近く、全投票数の約6%であった※3。全島避難となっていた三宅村については、有権者数の3割に達している※3が、これは、例外であろう。不在者投票では封書して署名する必要があるため、この作業の不要な期日前投票が気軽さから投票へのハードルを下げたという側面があることは、否定できないであろう。

 東京都における期日前投票の動向は、選挙日が一年のどの時点にあるかによって、多少の変動を受けるであろう。人間が習慣や季節に影響される社会的生物であり、わが国の四季がかなりの変化を有するものである以上、選挙日に対して何らかの仮説を措くことは、無駄ではなかろう。ただし、仮定を措かないことも、否定されるべきことではない。投票者をモデル化するにあたり季節や社会的属性(特に出稼ぎ者や学生等)を考慮することは、推定の確度を向上させる上で必要なことと考えられる一方で、現時点の私のように、当局の公表する集計データだけを利用する分析者が個人的属性に影響されるであろう内容までを考慮することは、作業として過大となりうるためである。

 しかしながら、先月の参議院選挙よりも東京都都知事選挙における期日前投票数が147718票も増加しているという統計上の事実は、この票数が都知事選挙の当日有権者数から見れば1.33%あまりに過ぎないものである一方、誤差と言い切るには微妙さの残るものでもある。この1.33%という差は、いわゆる非集計モデルを仮定した場合に、何かの要因を取り込み損ねたのでなければ生じない程度に大きな誤差である。モデル適用先となる東京都内の有権者数が1108万人にも達するからである。この事実を、最もシンプルな形のシミュレーションを通じて確認しよう。

 各選挙における当日有権者数を試行回数とする、各選挙における期日前投票数を当日有権者数で割った値を確率とみなす二項分布を想定し、これらに従う実現値を10000回分得る。その分布を下図に示す。実現値を真値とみなせば、期日前投票率がふたつの投票間で異なる、という命題は、成立するのである。本来、シミュレーションの手続としては、ふたつの投票に係る期日前投票率に何らかの分布を仮定して、その分布を個人に当てはめるという手順が正統である。しかし、ここでの主張は、単に、ふたつの投票における期日前投票率が基本的に異なるものである、というものに過ぎないから、下図で十分に示すことができようし、また、そのような知的負荷の高い作業手順を遵守することは、私のような行き当たりばったりな思考形態の生物には無理である。

図:平成28年7月執行参議院選挙と都知事選挙における期日前投票率について
二項分布を仮定した場合のシミュレーション結果(10000回、赤:参議院選挙、青:都知事選挙)

 ともあれ、どのような方法であっても、おおよそ、非集計モデルによる限り、都知事選の期日前投票率が高い、という結果になりそうであることは、上図によって示せたものと思う。なお、上図では、x軸方向を300個に分割し、ヒストグラムを描画させている。具体的な方法は、このRファイルに示した。シミュレーションには、『R』を利用し、描画には『ggplot2』ライブラリを利用した。

 都知事選と参院選に係る東京都全体の当日有権者数と期日前投票数については、このRファイルに示したとおりであるので、再度の掲示は省略するが、わずか3週間で、当日有権者数が74685名減少するというのは、社会移動があると仮定しなければ、理解に苦しむ人口差である。当日有権者数であるから、まず、東京都民全員ではない。17歳以下の人口や、選挙権を停止されている都民が除外された人口である。夏場は、通常、死者が少ない。このため、52/3を乗じた、-1294540という数値は、年間に換算した東京都民の人口減少数と見ることも可能となってしまう。人口減社会であるにしても、にわかに受け入れがたい、驚くべき数値である。社会移動が生じた理由は、今後、追究の対象となって良いことであろう。

 ところで、ふたつの選挙における期日前投票率にこれだけの差が生じた理由には、ほかにどのような理由が考えられるのであろうか。私にはそれほど見えていないのであるが、天候や気温、祝日や休日の配置といったものは、説明として受け入れやすいものであるので、とりあえず、大まかなところを確認しよう。本年7月10日は夏休み前の日曜日であり、7月31日は夏休み真っ盛りであるが、10日の東京都(本島)では降水がなく(羽田八王子、7月10日)比較的過ごしやすい気温であった一方で、31日は天候が大荒れであると予報されており、区部の一部では、昼に大雨が降り(羽田八王子、7月31日)、その後、大変に暑くなった。

 小中学生以下の子どもや孫を持つ成人が、夏休みや22日配信(『モバイルナビゲーター』、リンク)の『ポケモンGO』に振り回され、期日前投票したと仮定することは、それほど無理筋ではない。ただし、この仮定は、普段から投票してきた成人に適用されるものと考えなければならない。でなければ、なぜわざわざ、当日投票ではなく、期日前投票することになったのか?というさらなる疑問を呼び起こすからである。当日であっても、投票所の前にポケモンが現れることが確認できていたとすれば、期日前投票する必然性も薄れるからである。夫婦の片方だけがポケモンを探しがてら、期日前投票したことになるというケースも想定はできる。このような夫婦や家族の存在は否定できないが、実証が必要そうである。三世代家族であれば、祖父母のいずれかが期日前投票に孫を連れて行く、というケースが十分ありそうにも思われる。10万世帯(程度)がこのような行動を強いられた、というわけである。


※1 総務省|期日前投票制度の創設について
http://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/news/touhyou/kijitsumae/
期日前投票制度の創設等を内容とする公職選挙法の一部を改正する法律が第156回国会で成立し、平成15年6月11日に公布、平成15年12月1日から施行されました。

※2 衆議院議員選挙(小選挙区選出)不在者投票の最終結果について(確定)(Internet Archive Wayback Machine)
(平成15年11月11日 東京都選挙管理委員会)
https://web.archive.org/web/20040603053848/http://www.senkyo.metro.tokyo.jp/data/h15shu_fuzai.html

※3 平成15年11月9日執行衆議院議員選挙(小選挙区選出)不在者投票の中間状況について(選挙期日7日前まで)
(ファイル名:43 衆院選・不在者投票中間状況報告(1回目)資料.xls - fuzai_jokyo.pdf、平成15年11月3日 東京都選挙管理委員会)
https://web.archive.org/web/20061229134748/http://www.senkyo.metro.tokyo.jp/shugiin/fuzai_jokyo.pdf

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