2016年8月19日金曜日

「伝説的な予測」は、もしかすると、単なるインサイダー情報かもしれない

 政治の世界に言う「毒饅頭」の種類は、何も金銭だけではない。名誉と異性も、毒饅頭の一種である。人文科学・社会科学上の予測が正鵠を射た事例を検討する際に、カネと異性と名誉の存在は、いつでも、留意すべき要素である。経済や政治の世界において、番狂わせが生じ、同時に、「この動向を正確に見抜いていた」者が華々しく登場したとき、その者がインサイダーであった可能性を検討しない懐疑論者など、いようはずもなかろう。

 私は、「人文・社会科学の世界に係る予測において、伝説的な成功を収めたとされる人物」の言動には、とりわけ注意を払うようにしている。観察対象に介入可能な人文・社会科学においては、この介入可能性を見逃した議論は、大きく的を外すという危険を孕むものである。加えて、この経験則によって暴かれる構造は、次段で選挙を例に検討するが、『国際秘密力研究』の菊池氏の「両建て」戦術によって説明できるものである。「作られた伝説」という構図は、様々な「陰謀論」(というより懐疑論)における論理的な思考手順によって、アブダクション可能なものである。

 選挙において、「予想を超える大差」が生じたとき、この差を説明できる(かのように見える)だけの「予測の専門家」が用意されていれば、大衆は、その専門家への信頼を増すと同時に、結果に対する合理的な説明を得たと信ずることができる。悪事を企図する者にとっては、一挙両得である。悪事は、専門家の説明によって隠蔽され、専門家は、次なる悪事にも利用できるようになる。このように、[大衆の信頼]を[予測の専門家]が[大差への説明]へと架橋することで、「支配の構造」は強化されるのである。

 このような構図があるがゆえに、プロプライエタリなソフトウェアが実装された電子投票機器が使用される選挙の予測は、まず最初に、ソフトウェアのバックドアが悪用(あるいは準用)された場合を検討の範囲に含めなければなるまい。さもなければ、コネのない外部者は、大きく予測を外すことになるであろうし、合理的に思考する者であっても、大差の理由を説明するのに苦労することになろう。

#大変、研究者らしからぬ姿勢であるが、前段落は、先行研究の事例を調査していない。が、ジョージ・ソロス氏についての同様の説明を、どちらかでは読んだことがあるので、少なくとも、先取権の栄誉は、その懐疑論者が浴すべきであることだけは、指摘しておく。もちろん、「両建て」思考は、菊池氏に帰せられるものである。




小池百合子氏が都知事選でアッサリ大勝した理由|DOL特別レポート|ダイヤモンド・オンライン
http://diamond.jp/articles/-/97440

松井雅博氏は、冒頭で、平成28年7月10日執行参議院選挙の東京都の比例代表の開票結果に触れながら、小池氏が290万票超という大差で当選したことについて、次のように考察している。

この3週間で東京都民の顔ぶれが大きく変わったわけでもなく、参院選と都知事選に行った人たちはほとんど同一人物と考えてよい。この数字からまず気づくのは、増田氏は与党を支持した人たちの半分程度しか票を集めることができていないということである。公明党・こころは比較的「熱心な支持者」が多いと思うから、やはり自民党支持層が綺麗に分裂していることが見てとれる。
松井氏の考察は、読売新聞の公表した出口調査(8月1日7時39分付、リンク)とは、やや矛盾した内容となっている。7月31日から8月1日までの間に執筆された速報のような内容であろうから、やむを得ないと好意的に解釈することも可能ではある。読売新聞の出口調査は、共産党や公明党といった「熱心な」政党の支持者までもが小池氏に投票したことを伝えている。現在では、出口調査も端末を投票者に渡してネット調査する形式となっている。生データを扱えない状態は、一種のプロプライエタリであると言えよう。



 #私は、書きたいことを書くし、書きたくないことは書かないが、書くからには自身が責任を取れる程度の正確さを期する作業は行っている。読む人が読めば、私が奈辺に不正の構図が存在しているかを正確に予測できるはずである。


平成28(2016)年8月19日22時追記

日本でも、17日の時点で日本語で流通していたようであるが※1、ジョージ・ソロス氏のオープン・ソサエティ・イニシアティブ財団が不正アクセスされ、今月13日、2500以上の流出ファイルがDC leaksによって公開されたことを、RTが報じている※2。何ともはや、絶妙なタイミングで私は記事を書いていることになるが、本件は、遅まきながら今夜知ったことである。本件流出は、アメリカ人によるものとされている一方で、ロシアの関与を指摘する声もあるというが、本記事では、流出に係る経緯を論じることはしない。

 オープンデータは、悪用される余地もあるということである。真に、市民の利益に立つ統計分析というものは、なかなか、わが国では成立しない。統計がいざというときに隠されるたり改竄されたりするためである。このために、オープンデータの推進が貫徹されるようになることは、わが国では、国民益を確保する上での狭き道となる。しかし同時に、オープンデータは、国際秘密力集団に悪用される余地を持つものともなる。国際秘密力集団は、より洗練された形で、充実した人数でデータを扱うであろう。

 悪意を有する者も統計を利用するという現実をふまえると、国民益を担保するものは、悪意を持つ側に比べて質量ともに上回る分析活動しかない。このための「王道」は、圧倒的多数である国民一人一人が正当な分析方法を学習し、オープンデータの扱いにより多く参画し、間違いである分析に対して的確に批判を加え、誤った分析を提示した学識経験者を論壇から追い落とす、というサイクルを充実させることとなろう。ただし、現状の統計を用いた各種の社会的活動を見る限り、大量の良貨が用意されたとしても、悪貨を駆逐することは、望み薄である。

 戦後から現在までのわが国では、社会科学系の知識が政策に反映されるか否かは、その知識の正確さとは関連してこなかった。権力にとって都合の良い知識であるか否かが、ほぼ唯一の判断条件であり続けてきたからである。しかしなお、現時点であっても、政策に採用されるか否かはともかく、正確な知識が産出されていることは、今後のわが国の道行きを変える可能性が残る。ゆえに、いずれにしても、正確さを期して知識を産出することは、国民益を確保する上で大事な作業である。


※1 ソロス財団がハッキングされNWO戦略が世界中に公開・パナマ文書はプーチンを陥れる罠|世界の裏側ニュース
http://ameblo.jp/wake-up-japan/entry-12191211052.html

※2 Soros hacked, thousands of Open Society Foundations files released online — RT America
https://www.rt.com/usa/355919-soros-hacked-files-released/



平成28(2016)年10月24日追記

Smartmatic社は、選挙投開票システムを提供する民間営利企業[1]であり、ロンドンに本拠を置くSGOグループは、Smartmatic社の成功を基に設立された[2]。Smartmatic社の会長のマーク・マロック=ブラウン卿(男爵)[3, 4は、Wikipediaの英語版[5]と、そこに挙げられた資料を適宜参照すると、『エコノミスト』誌の記者から職業的なキャリアを開始し、Sawyer-Miller(現ウェーバー・シャンドウィック、NYを本拠とするPR企業[6]で2020年東京オリンピックの国際招致活動を担当した[7])の在籍時には、ピノチェト政権時のチリにおける反対派のためのCM制作を手がけた[8]。フェルディナンド・マルコス政権に対するコラソン・アキノ氏に対しても助言を与えた[9]。1990年のペルーでは、マリオ・ヴァルガス・ロサ氏の大統領選挙を支援し、コロンビア政府に対しては、メデジン・カルテルの政治的影響下を脱したというイメージ形成を図る上で支援した[10]。ベネズエラやボリビアでもコンサルティングを行い、ロシアや東ヨーロッパにおいても経済改革及び民営化問題について業務に従事したという。

 その後、マロック=ブラウン氏は、世銀と国連においてキャリアを積み、国連開発計画の副議長を勤め、2007年から2009年にかけ、ブラウン政権において外務および英連邦省大臣(アフリカ・アジア・国連担当)の座にあった。2006年の石油食料交換プログラムへの批判に対しては、コフィ・アナン事務総長を弁護する発言をおこなった。(これに対しては、マロック=ブラウン氏の公言には矛盾があるという指摘[11]もある。)

 大臣就任前、マロック=ブラウン氏は、ジョージ・ソロス氏の投資ファンドであるクォンタム・ファンドの副社長(vice president)とソロス氏のオープン・ソサエティ・イニシアティブ財団の副理事長(vice chairman)に就任予定であることを『The New York Sun』紙により報じられた[12]。ただ、ファンド名については、Soros Fund Management という記述もある[13]。SGOグループ[3]とSmartmatic社[4]の両ウェブサイトとも、これらの記述を裏付けるものであるが、ファンドについて名称を記載している訳ではない。他方、「Smartmaticに係る事実」という同社のプレス・リリースからは、ソロス氏のファンドにおいて経営陣を務めたという記述が完全に省略されている[14]

 先の『The New York Sun』紙は、マロック=ブラウン氏がニューヨークでソロス氏の所有する5ベッドルームのアパートを、月12500ドルで借りていたことを併せて報じている[12]。この指摘は、マロック=ブラウン氏とソロス氏の深い関係を示すものとして考えて良いであろう。

 以上の情報を総合すると、Smartmatic社の記事が不正選挙に悪用される虞が全くないとするデイヴィッド・ミケルソン氏[15]やシーラ・フランケル氏[16]の記事は、企業を単独の存在として見た場合には嘘とまでは言えないが、マロック=ブラウン氏とソロス氏との具体的な利益をも共有する交友関係が存在するという事実を欠落させており、読者に対して不誠実である。批判されている当の企業により用意されたプレス・リリースだけを事実として伝えることは、ジャーナリストのプリンシプル(の表向きの部分)に反する姿勢である。まして、フランケル氏のように、相手を罵詈雑言の隠語で表現することは、到底、正当な態度であるとは言えない。


[1] About - Smartmatic
http://www.smartmatic.com/about/

[2] About - SGO
http://www.sgo.com/about/

[3] Lord Mark Malloch-Brown - SGO
http://www.sgo.com/about/board/lord-mark-malloch-brown/

[4] Lord Mark Malloch-Brown(detail)
http://www.smartmatic.com/about/our-team/detail/lord-mark-malloch-brown/

[5] Mark Malloch Brown, Baron Malloch-Brown - Wikipedia
https://en.wikipedia.org/wiki/Mark_Malloch_Brown,_Baron_Malloch-Brown

[6] Weber Shandwick - Wikipedia
https://en.wikipedia.org/wiki/Sawyer-Miller_Group

[7] ウェーバー・シャンドウィック - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A6%E3%82%A7%E3%83%BC%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%89%E3%82%A6%E3%82%A3%E3%83%83%E3%82%AF

[8] Alpha Dogs: How Political Spin Became a Global Business - James Harding - Google ブックス
https://books.google.co.jp/books?id=ZAsDSbBEMDMC&pg=PT142#v=onepage&q&f=false

[9] Profile: Mark Malloch Brown, the minister for Africa, Asia and the UN | UK news | The Guardian
https://www.theguardian.com/uk/2007/jun/28/politics.labour1

[10] Mark Malloch-Brown | Open Society Foundations (OSF)
https://www.opensocietyfoundations.org/people/mark-malloch-brown

[11] George Soros and Sir Mark Malloch Brown | TribLIVE
(David Rhodes、2007年05月20日)
http://triblive.com/x/pittsburghtrib/opinion/columnists/guests/s_508490.html

[12] Ex-Deputy U.N. Chief Joins With Soros - The New York Sun
(BENNY AVNI、2007年05月07日)
http://www.nysun.com/foreign/ex-deputy-un-chief-joins-with-soros/53955/

[13] Mark Malloch Brown appointed Vice-Chairman of Soros Fund Management, Open Society Institute: GPPi - Global Public Policy institute
(2007年5月21日)
http://old.gppi.net/news/news_item/article/mark-malloch-brown-appointed-vice-chairman-of-soros-fund-management-open-society-institute/

[14] Facts about Smartmatic(Article)
http://www.smartmatic.com/case-studies/article/facts-about-smartmatic/
  • It is no secret that our Chairman Lord Mark Malloch-Brown is a member of a number of non-profit boards addressing global issues from poverty reduction to conflict resolution, including the Global Board of the Open Society Foundation. This is stated clearly in his official biography. Lord Malloch-Brown is a highly respected global figure whose credentials include former Deputy Secretary-General of the United Nations and former Vice-Chairman of the World Economic Forum. He also served in the British Cabinet, as Minister of State in the Foreign Office.
[15] George Soros Controls Smartmatic Voting Machines in 16 States : snopes.com
(David Mikkelson、2016年10月20日)
http://www.snopes.com/george-soros-controls-smartmatic-voting-machines-in-16-states/
Smartmatic has no ties to political parties or groups in any country and abide by a stringent code of ethics that forbids the company to ever donate to any political campaigns of any kind.
[16] Fears Of Soros-Owned Voting Machines Rigging The Election Are Unfounded - BuzzFeed News
(Sheera Frenkel、2016年10月20日23時07分 GMT)
https://www.buzzfeed.com/sheerafrenkel/soros-election-machines
Smartmatic had not returned a request for comment from BuzzFeed News at the time of this publication, though a secretary who answered the phone in their Florida-based offices said it was “BS.”

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