2016年8月17日水曜日

平成28年7月執行の参議院選挙と都知事選挙の当日有権者数の差は、不可解である

 平成28年7月執行の参議院選挙の東京都下の投票率と都知事選挙の投票率との差は、選挙人名簿への登載の要件となる3ヶ月以上の居住という条件が年度をまたいだことによって生じた可能性が認められる。選挙人名簿への被登録資格は、当該の市区町村に住所を持つ年齢満20歳以上の日本国民で、かつ、住民票が作られた日(他の市区町村からの転入者は転入届をした日)から引き続き3力月以上、住民基本台帳に記録されている、というものである※1。参議院選挙の公示日が6月22日であり、都知事選挙の告示日が7月14日である※2ことから、数日のスケジュールのブレがあろうとも、両方の選挙における選挙人名簿の作成日は、平成27年度の末日を挟むことになる。わが国における年度の始まりは、4月1日であり、これに合わせて公的組織や多くの企業がスケジュールを組んでおり、人々は、この年度始まりに合わせて行動する。今回の都知事選挙は、4月1日までに転居してきた都民が投票できる初めての選挙である。他方、3月下旬に転居を届け出た元都民は、元の住所地での投票権があるとはいえ、投票だけのために元の住所地に立ち寄ることまでは、なかなかしないであろう。

 この点を考慮すると、参議院選挙の選挙人名簿登録者数と都知事選挙の選挙人名簿登録者数との間に生じた差は、本年4月1日および5月1日時点の住民基本台帳登録人口を元にして、考察すべきであろう。4月1日および5月1日の2時点の住基人口を参照する理由は、各月1日時点のファイルには、先月中の人口移動が掲載されているためである。

 本稿では、本年4月1日と5月1日時点の東京都の住民基本台帳登録人口の日本人人口と人口移動に係る統計から、両選挙に生じる当日有権者数の差を推定した。住民基本台帳から選挙人名簿が作成されるのであるから、本来、前者を逐一追跡できれば、後者の再現が可能なはずである。また、集計データのみが公表されるとしても、自治体別・年齢階級別の住基人口があれば、その動向は、両選挙の選挙人名簿登載人数の検討にも役立つはずである。しかし実際には、東京都総務局統計部の住基人口※3は、それなりに多くのデータが掲載されているものの、選挙人名簿の推定に直ちに転用可能な状態には整備されていない※4

 当日有権者数であれば、誰にも把握しやすい状態で公開されているものの、両選挙に係る基礎的自治体別の選挙人名簿登録者数は、私には入手できていない。この「データに行き当たっていない」状態は、私の不手際によるものかも知れないが、ナビゲーションの状態が悪いこともあろう。東京都選挙管理委員会ウェブサイトの「選挙人名簿登録者数」(リンク)は、過去の状況を把握できるだけの過去のデータを掲載していないし、わが国の公的な唯一のアーカイブである国会図書館のアーカイブは、(永田町の)本館なり(学研都市の)新館に行かないと閲覧できないようになっている。

 しかし、いくつかの仮定を措けば、3ヶ月前からの住基人口と当日有権者数との関係を把握し、冒頭に示した可能性を検討する作業は、無茶というほどのものにはならないであろう。そこで、エクセル形式ファイル(.xlsx, リンク)に、東京都総務局統計部の住基人口※3や平成28年7月の両選挙の当日有権者数との比較作業をまとめ、アップロードした。

 結果だけを転記すると、下表のとおりである。「当日有権者数の差」は、東京都選挙管理委員会の公表を引用したものであり、3週間の差である。「有権者の変化」は、3月23日から4月13日までの期間について、次の仮定を措いたものである。死亡者数と転入者数は、日数に比例する形(小数切上げ)で生じたものとした。転出者数は、すべて影響期間内に生じたものと仮定した。いずれの仮定も、保守的なものであって、かつ、負の方向にのみ作用する。このため、「有権者の変化」は、できる限り、実際に公表された値である「当日有権者数の差」に近づくよう、データに係る仮定を歪めたものと見ることができる。なお、ここでは、3週間内に18歳を迎える人口を計上していない。この人口は、データに対して正の影響を与えるためである※5

 両者の値には、3週間という比較的短い期間に係るものであるにもかかわらず、16000人という差が生じている。この差は、何らかの説明を必要とするほどに乖離したものである。論理上、最も差を生じ得る社会移動(転入・転出)が考慮され、自然増減(出生・死亡)にも保守的な仮定を措いている。計算方法上、あり得ることとして、6月半ばから7月初旬の死者数も算入するとしても、せいぜい倍程度であり、74000人には届かない。この差は、仮に事務手続の実質的な誤りに起因するものであって、投票所入場券が未発送であったなどの実害が生じていたとすれば、選挙のやり直しの声が出てもおかしくない程に、大きなものである。この埋められない差は、大半の基礎的自治体にわたるものであるためである。今回は、転出入、出生・死亡について、確率モデルを導入することが不要と思われる程度に保守的な仮定を措いた。


表:平成28年7月10日執行参議院選挙東京都比例代表当日
有権者数及び同月31日執行都知事選挙当日有権者数の差、
ならびに平成28年4月1日及び5月1日現在住民基本台帳登録
日本人人口から推定した3ヶ月前時点の都内有権者の減少数
自治体当日有権者数の差
(人;知事-参院)
有権者の変化
(人;概ね最大)
都全体-74685-57356
千代田区-602-441
中央区-1122-644
港区-2269-884
新宿区-2010-1631
文京区581-1171
台東区-1046-836
墨田区-1180-950
江東区-2816-2077
品川区-2457-1675
目黒区-2485-1502
大田区-4065-3844
世田谷区-6767-3940
渋谷区-1451-697
中野区-1829-1293
杉並区-3635-2154
豊島区-1908-1155
北区-1784-1814
荒川区-1205-873
板橋区-2439-2450
練馬区-4169-3719
足立区-5657-2717
葛飾区-2035-1787
江戸川区-3212-3391
八王子市-1895-2244
立川市-517-658
武蔵野市-2130-583
三鷹市-505-599
青梅市-515-465
府中市-993-835
昭島市-339-290
調布市-788-733
町田市-2674-1739
小金井市-695-588
小平市-821-794
日野市-859-641
東村山市-626-589
国分寺市-462-399
国立市-257-276
福生市-249-209
狛江市-425-310
東大和市-336-298
清瀬市-399-338
東久留米市-711-510
武蔵村山市-219-232
多摩市-658-567
稲城市-130-209
羽村市-257-145
あきる野市-254-219
西東京市-924-816
瑞穂町-143-90
日の出町-32-49
檜原村-9-18
奥多摩町-25-26
大島町-47-82
利島村-2-9
新島村-26-19
神津島村47-8
三宅村-5-21
御蔵島村-8-4
八丈町-63-46
青ヶ島村6-2
小笠原村-178-51

平成28年7月参議院選挙(東京都)と都知事選の当日有権者数
図:平成28年7月10日執行参議院選挙東京都比例代表当日
有権者数及び同月31日執行都知事選挙当日有権者数の差、
ならびに平成28年4月1日及び5月1日現在住民基本台帳登録
日本人人口から推定した3ヶ月前時点の都内有権者の減少数
に係る分布図

 もちろん、この差を説明する上で最も効いているはずの要因を私が見逃した、という説明は、本命であるべきものである。しかし、これ以上の真っ当な理由は、私には思いつけない。ここから先、考えられる理由は、いずれにしても、今回の東京都知事選挙に係る本格的な疑惑を提起するものとなる。一つは、先に示唆したように、選挙人名簿の作成段階で、重大なミスがあったというもの。これは、単に数字が間違っていました、ごめんなさいで済む種類のものではない。次は、もちろん、不正選挙のために、色々な数値に無理が生じたというもの。第三は、予想されない勢いで、公民権が停止される事態が生じているというもの。いずれの理由も、私に何らかの落ち度があってデータを分析し間違えたという原因の方が、私にとってさえ、胸をなで下ろすことのできるレベルのものである。


※1 総務省|選挙人名簿
http://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/naruhodo/naruhodo07.html

※2 平成28年 選挙執行一覧 | 東京都選挙管理委員会
http://www.senkyo.metro.tokyo.jp/election/schedule/senkyo2016/

※3 住民基本台帳による世帯と人口 平成28年
http://www.toukei.metro.tokyo.jp/juukim/2016/jm16010000.htm

※4 選挙人名簿登録者数の推移(PDF形式:113KB)(東京都選挙管理委員会)
https://web.archive.org/web/*/http://www.senkyo.metro.tokyo.jp/uploads/2806meibo_suii.pdf
#題名部分のリンクは本体へのリンク、URL自体は、念のため、Internet Archiveのものを示す。

※5 新成人の名簿登録者数(PDF形式:95KB)(東京都選挙管理委員会)
https://web.archive.org/web/20160816143137/http://www.senkyo.metro.tokyo.jp/uploads/2806meibo_shinseijin.pdf
#※4に同じ。



 東京都内の市区町村は、どこであれ、金太郎飴のようなものである。貧乏人もたくさん住んでいれば、その隣に豪邸もある。支持政党も似たりよったりである。どの地域も似ているか、似ていないかの二択でいえば、似ている、という方が皆の賛同を受けられるであろう。蒲田も田園調布(の一部)も、大田区内にある。わが国の首都は、かなりのモザイク状である(という話は、教科書的なので、調べが面倒なので省略したい)。とはいえ、都心4区を除く東京都区部に着目すれば、住宅価格ならびに家賃が西高東低気味であることは、それなりに知られたことである。結局、モデルによって説明してみないことには、どこまでが普通にあり得ることで、それを超えるとおかしい、といった分別が付かないのである。今回は、実値を利用しているが、一種のモデルを念頭に置いていることには変わりない。

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