2016年8月3日水曜日

陰謀論(社会・政治面)界隈における良いリサーチクエスチョンとは

 相手の素性が分からない著者によって刊行された研究論文を読む際、その内容が誤読を誘うように意図的に記述されたものであることを予期し、警戒しながらその内容を検討する読者というものは、なかなか考えにくい存在であろう。研究論文を批判的に読むことは、作法の基本ではあるが、ある論文に誤りが含まれているとしても、その誤りは単に著者らの不明から生じたものであって、悪意によるものであるとは考えないのではなかろうか。特に、査読付き研究について、投稿者に最初から悪意を想定したやり取りを始めることを考えなければならないような状態は、尋常なものとは言えないであろう。この例外状態は、福島県における甲状腺検査に係る英語論文に対する反応に認めることができる(参考)が、この状態は、わが国のムラ社会の「末期的病態」と見ることもできよう。

 この反面、陰謀論の世界に区分できる情報を真面目に検討しようとする読者は、話者の素性も含めて、話題に挙げられた「誰が」「何を」「いつ」「どこで」「なぜ」「どのように(扱ったのか)」の各要素、5W1Hについて、厳しく検討を加えるであろう。最も細分化された検討方法は、各要素について、想定されるものをすべて列挙し、その列挙された要素の組合せからなる命題を、逐一検討するというものになるであろう。この点、推理小説において、それまでの登場人物の中に必ず単独犯が含まれるという状態は、相当に限定化された状態である。(もっとも、推理ものとして、この形式を遵守するものは、絶滅危惧種であるとして軽蔑する方もいるかもしれない。しかし他方で、いったん作られたテンプレの上で、推理を働かせるという楽しみもあるので、私としては、面白ければ構わないと思っていたりする。それにもっと言うなら、そこまで推理ものに飢えているのなら、陰謀論の世界はもっと面白かったぜ?今後はどうだか分からないけどな、と誘ってみたくなったりもするのである。)

 陰謀論を相手にするとき、「誰が利益を得たのか」という質問は、常に反復されるべき基本である。これさえあれば、大抵のことが事足りる状態になっているのは、少しばかり、人間の本性に対する仮定が強すぎる気もする。とはいえ、現状では、陰謀論の有名な主題に対しては、ほとんど常に、この質問を適用できる。この状態は、陰謀論と呼ばれる種類の話題と、何か別の要因との間に、何らかの交絡があるのではないか、と勘繰ることができるほどになっている。ともあれ、現状の陰謀論を相手にした場合、「誰が得したのか、カネか、異性か、名誉か」という質問は、決して問いすぎて損をするということがないであろう。

 しかし、問題の全貌がある程度見えてきた後では、相手に悪意ある者が含まれることを想定すると、リサーチ・クエスチョンは、「はい」「いいえ」のいずれかのみの答えを許容する、いわば確定型の形式が、ほとんどの場合において、適切なものとなる。たとえば、「9.11の犯人は、「戦争屋」です」という主張は、検討材料としてふさわしいものである。反論は、「9.11の犯人は、「戦争屋」ではありません」というものとなる。「9.11の犯人は、誰ですか」とか、「じゃあ犯人が誰だかを言ってみろ」という通常の論争の場でならば許容される再反論は、無粋なものとなる。なぜなら、陰謀論に係る話題では、特に、一般人が扱う限り、確認された情報以上のことが分からず、情報収集に係るコストが膨大なものとなるためである。検討可能な命題は、結局、誰もが入手可能な材料が基本となるのである。

 他方、陰謀論界隈に係るリサーチ・クエスチョンを確認する作業は、基本的にアブダクションに拠らざるを得ない。このため、ある命題を論証する際の証拠は、それなりに弱いものでも十分であると見るべきである。陰謀論に係る話題は、実学上のものであることが多い。このために、実用上、その程度に弱い関係を認めることができれば、利用価値が十分であるという事情も存在する。「子ブッシュ政権は、アフガン侵攻時、9.11がアルカイダのせいだと主張した。」「子ブッシュ政権は、イラク侵攻時、嘘を吐いた。(#この命題は、確定的な事実として、2016年現在、世界中の誰もが認めている。)」「よって、子ブッシュ政権は、アフガン侵攻の原因とした9.11の犯人についても、嘘を吐いている。」という主張は、陰謀論の世界では、論理としては成立する。このとき、子ブッシュ政権を擁護する側は、「子ブッシュ政権は、9.11の犯人がアルカイダであるとした」ことについて、間違っていない証拠を新規に提出するか、再度、(すでに多くが否定されているのであるが)旧来の証拠に基づき、説明すれば良いのである。2016年現在、子ブッシュ政権の主張の大部分に対して、合理的な疑いが提示されている。これらの合理的な疑いを逐一否定できなければ、子ブッシュ政権は、結果として、9.11について、誠実な回答を寄せなかったという評価から免れることができない。そうなった以上、子ブッシュ政権は、結果責任を引き受けざるを得ないのである。

 陰謀論界隈における反論には、合理的な疑いが提示されるか、新規の証拠が必要となるであろう。これに対して、再反論する側が旧来の証拠しか提示できず、かつ、この旧来の証拠が否定されている場合には、再反論する側が再反論に失敗したと見なされることになるであろう。片方の論者が反証や反・反証...に失敗した時点で、その場における、ある命題の真偽は、とりあえず確定することになろう。

 以上の論証の形式は、実のところ、よりメジャーであるコンテンツのうち、宇宙人やら超古代文明のような、反復的な計測が困難な対象の存在を主張する論者に対して、反論が難しくなる、という課題を突き付けるものでもある。「宇宙人はいる」と主張する者が種々の証拠を挙げてきた場合、否定する側には、証拠のそれぞれを否定していく作業が求められる。しかも、「宇宙人が完全に存在しない証拠」を能動的に挙げることは、まず不可能である。そもそも、確率上、宇宙人の存在は、肯定されるであろう。他方で、宇宙人の不存在をタイムリーに実証する方法も、人類には、おそらく用意できないであろう。(論理的にであれば、可能性の目が残ろう。)しかし、ここまで本記事を確認された読者であれば、デバンク側にも利用可能な方法が本記事に含まれていることに気が付くであろう。デバンク側も、アブダクションという論証の形式を利用すれば良いのである。そうすることによって、デバンク側は、「現時点のわれわれ人類は、誰もが納得できる形で、宇宙人の存在を確認できていない。」と主張することが可能になるのである。

#以上、手習いの続きではあるが、もう少し速度と品質を高める必要があるかも知れない。陰謀論に言及する目的は、ふたつある。一点目は、福島第一原発事故の影響を考察する上で、かなり突飛な説であっても確認が必要なこと。特に核兵器級濃縮ウラン説。二点目は、実際の解決に至る道筋も、陰謀論との関わりに留意しないわけにはいかないものであること。特に核のゴミ捨て場説。

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