2016年10月10日月曜日

読売2016年10月8日「ハイテク防犯」記事には違和感がある

[1] ハイテク防犯、開発加速…爆発物探知や混雑予測 : 社会 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)
(記名なし、2016年10月09日08時37分)
http://www.yomiuri.co.jp/national/20161008-OYT1T50085.html
(記名なし, 2016年10月8日, 「東京五輪 ハイテク防犯/爆弾接触3秒探知 10分後の混雑予測/警備員不足で開発加速」, 『読売新聞』, 土曜夕刊4版1面.)

 読売新聞の本紙記事[1]中の表で名前を挙げられている技術は、次のとおりである。読売の報道によって公知のものとなったと考えて良いであろうから、引用することとした。これらの大半は、光学技術が根幹にあるところが強みなのであろう。

日立製作所爆発物検出技術
ソニー4k暗視カメラ
富士通人工知能による映像解析
三菱電機映像から10分後の混雑予測
NEC顔認証技術の実用化
キヤノン高解像度の画像センサ

 ただ、これらのグローバル企業がこれらの技術を強みとするにしても、複数の技術からなるパッケージを作り上げていく際には注意が必要であろう。たとえば、秘密研究に由来するサブマリン特許との競合が生じることになることが予想される。弱い鎖の輪から切れると考えることは、セキュリティの常である。外国の産業に難癖を付けて自国産業を優先するという姿勢は、どの国も行うことである。国内におけるオリンピックであるから自国の産業だけで固めると考えるのは、当然のことであるが、大きな落とし穴がありそうな気がしてならない。R&Dに投じられてきた金額が2桁以上は異なるためである。正確な金額は調べようもないのであるが。

 大局から見れば、警備員不足であるから技術で補うという発想は、大体がセキュリティ上、邪道なものである。同記事の中では、ヒュミント担当の板橋功氏が「今後2年以内に技術を確立し、実績を重ねる必要がある」と指摘している[1]が、従来の状態が相当大きく変わらない限り、この文言は達成不可能と考える。一種の反語なのであろうか(末尾の「落ち穂拾い」参照)、それとも、ヒュミントの必要性を暗に仄めかすものであろうか。会場をコンパクトにまとめることには、警備上の効能があることも認めなければならないであろう。

 読売の記事には、新米記者が展示会を紹介するという初仕事、といった雰囲気が漂うが、見ておくべき企業、紹介すべき企業が随分違うのではないか、と辛口に採点できよう。展示会では、目に見える技術(製品)に目を奪われがちであるが、東京五輪に係るセキュリティ技術の総合的な優劣は、技術そのものよりも、その技術・製品を解説する人に現れるものと考えた方が、見立てを誤らない。道具は、道具を超える性能を発揮しない。他面、人が常人以上の能力を発揮し続ける、ということもない。道具と人からなる組合せ(マン・マシン・インターフェイス)が重要である。道具が安定した機能を発揮することを担保できるのは、使用者だけである。この関係は、もちろん、相補的である。本件は戦闘に係るセキュリティ技術ではないから、兵器の性能が勝敗を決するという図式にはならない。総合力で優れたソリューションを提供可能な企業(連合体)に対してこそ、注目すべきである。
 「新・東京オリンピック開催に伴い必要となる技術」は、警備に係る構想、つまり需要者側から生じるものであり、技術の供給者側から生まれるものではない。技術論においては、供給が需要を創出するという経済学にいう「セイの法則」が成立することが認められてはいるが、現時点の状態を鑑みるに、本件はその例外であろう。技術はあくまで手段であるから、目的に沿って選定されなければならない。需要する側の検討なくして、技術が必要である、と決定されることはなかろう。必要となる技術の選定は、どのような空間を警備するかという想定から始めることとなろう。端的には、空港、公共交通機関、繁華街、大会会場、観光地が考えられる。これらの空間には、多種の属性の人(客・従業員・選手・運営・メディア・警備...)がいるが、それぞれに対して、人数はどれ位か、何をして良いか・駄目か、いつ行うか、などの属性があろう。これに対して、それぞれに紛れ込む悪者を想定し、誰が・何を目的として、何をするのか、という脆弱性を検討する必要がある。この検討を通じて初めて、必要となる技術が浮かび上がるのである。

 本ブログ全体では何度か繰返したことになるが、最後に付け加えておくと、防犯カメラだけで何とかしよう・何とかなろうという態度は、大きな間違いである。防犯カメラは一度限りの事件を予防しない。新・東京オリンピックという一度限りのイベントにおいて、防護すべき対象は、イベントそのものの安全で円滑な運行である。一般予防効果があるにしても、「犯行によって逮捕される」という教訓が犯人に内面化される限りにおいてである。いわゆる機会犯罪に対する防犯カメラの犯罪予防効果はあると考えられているものの、決意の固い政治的目的の犯罪には関係しない。犯罪の達成の障害であって排除すべき対象というに過ぎない。金はかかるが、抑止・予防に有用なローテク(ともいえないよう)な技術はいくらでも存在する。展示会ではそちらに注目すべきであろう。また、そのような(警察や自衛隊に採用されそうな)装備品・設備に予算を充当すべく水を向けるのが、大新聞の責務というものではないか。

#もちろん、本稿の執筆にあたり、私は、いかなる団体や企業とも利益関係を有しない。読売新聞の記事は批判したので、この点についてのみ、関係があるとは言える。


落ち穂拾い

私は、東京オリンピックの開催には、まだまだ紆余曲折が控えていると考えている。「東京五輪」と大きく銘打つ本紙面と、このクリシェを入れないウェブ記事との微妙なタイトルの違いは、この懸念が当たらずとも遠からず、と感じさせる材料である。仮に13文字でタイトルを決め打ち[2]しなければいけないとしても、「ハイテク防犯 五輪へ急げ」とか「ハイテク防犯技術 五輪へ」とか考えられそうなためである。ウェブ媒体を注視する人口集団と、紙面を有り難がる人口集団とは、かなりきれいに分かれているのであろうから、この形での二枚舌は、別に理由のないことではない。

[2] Yahoo!ニュース トピックスが13文字である理由 (1/4):MarkeZine(マーケジン)
(押久保 剛(編集部)、2007年12月06日09:45)
https://markezine.jp/article/detail/2224

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