リアル・マネー・トレード(Real Money Trade, RMT)とは、オンラインゲーム上の授受可能なアイテムやゲームアカウントそのものに係る売買契約を締結する、あるいは、ゲームアカウントに紐付けられたキャラクター等の育成を代理する、八百長を通じて白星を(ときには黒星を)与える請負契約を締結するなどの取引行為を指す。現実社会における経済的価値を伴うことが定義上重要である。もっとも、無償の行為であっても、ここに挙げた行為のいずれもがゲーム運営者によって禁止され得る内容である。これらの取引は、いずれもゲーム運営会社やサーバ運用者によって禁止されていることもあれば、アイテムの売買に限定して許可されていることもある。Valve社の『Steam』は、ゲーム購入・管理に係るオンライン・PCソフトウェアの代表格であるが、ゲームそのものに影響しないファン・アイテムなどの取引にも利用されるプラットフォームとなっている。
RMTは、ゲームに随伴する行為のほとんどに関して、ユーザ同士の間でゼロを超える経済的利益を生じさせるものとして定義するのが適切であろうと考えられる。個人的体験として、1998年のうちには、先に示した行為のいずれをも、とあるRPGゲーム上で聞き及んだことがある。ただし、私自身は、具体的な決済に関与したことがないから、具体的なRMTの事例についてまでは、当事者として語ることができない。
ただ、RMTがチート行為に直接転化するという話は聞いたことがなく、この点、『 毎日新聞』の記事には疑問がある。チートがオンラインゲーム体験を荒廃させることには、賛成できる。(以前の記事を参照)。記者の斎川瞳氏による伝聞は、(RMTの増加)→(チートの増加)を主張するが、ユーザから見た場合のこれら2つの潜在変数間の関係は本当に成立するのか。交絡はないか。因果は逆ではないか。そもそも無相関かも知れない。(RMTの増加)→(チートの増加)が成立しても、(RMTの減少)→(チートの減少)は成立するのか。するとすれば、(プレイ量(;単位は人・時間か)の減少)が交絡要因となっていそうである。共変関係における非線形性はないか。そもそも、増加・減少というものを構造方程式モデルでそのまま取扱うことは、ソフトウェア計算上、可能ではあるが、構造を探る上では危険そうである。(RMTの量)→(チートの量)が成立するのかを考察すべきである。(RMTの減少)が(チートの減少)に繋がるという命題は、(RMTの増加)と(RMTの量)とが同一概念ではないという状態を明らかにする。
ここでの私のRMTの定義に従うと、ゲームのセーブファイルをクライアント側で保存するのか、サーバ側で保存するのかの別は、RMTがチートを目的として行われるというより、ゲーム内で「上を目指す」際に手段を問わないプレイヤーの合目的的な行為として行われるものであることを示すための良い材料になるように思われる。オンラインゲームとしては、『Ultima Online』『Second Life』『Minecraft』などの系譜に連なる、「ワールド改変系」のゲームのうち、オフラインでもプレイ可能な『Minecraft』に代表される系統のゲームは、特に顕著な参考事例となり得る。「ワールド改変系」の語は、造語であるが、キャラクター自身に対してだけではなく、ゲーム中の仮想世界の状態にも改変を加えることが可能なゲームを指す。『Minecraft』は、有志がオンラインサーバを独自に立てるか、ローカルでのプレイが前提となるが、ここでは、改変のためのMODも大半が無償である。オンラインサーバ上におけるRMTを聞くこともほとんどない。肌の合わないサーバには、参加しなければ良い。
一般社団法人日本オンラインゲーム協会は、2009年の時点での業界団体としてRMTのあり方について述べている。スマホ増加と軌を一にするタイムリーな話であることは、評価されて良いことと考える。ただし、フォローアップがGoogle検索結果の上位に見られる訳ではないために、この結果こそが重要であるようにも思う。宣言すること自体、なかなか出来ることではないが、宣言を実践することは、なお困難であるためである。公開情報による調査は尽くしていないので、今後、機会を見つけて公開情報を確認したい。
脅迫よりも刑の重い私電磁的記録不正作出・同供用ほう助で、チートに関係した人物たちが書類送検となったというニュースは、びっくりである。犯罪の内容は、報道が正しいとすれば、容疑のとおりであるが、一種の組織対象暴力である「手口をネットで公開する」という電子メールの送付が「サイバー攻撃」と見なされるというところに、多くの要因を窺うことができる。ゲーマーの警察官がいて義憤を感じる、というものも読み取ることができる。ネット社会の広がりを感じさせるテーマである。
[1] チート行為:ゲーム業界に危機感 利用者離れの恐れ - 毎日新聞
(斎川瞳、2016年10月13日12時55分、最終更新10月13日13時06分)
http://mainichi.jp/articles/20161013/k00/00e/040/241000c
「リアルマネートレード」と呼ばれる取引も確認され、チート行為につながると指摘されている。
[2] ゲーム不正:チート行為横行、摘発進む 少年ら書類送検 - 毎日新聞
(斎川瞳、2016年10月13日11時31分、最終更新10月13日14時26分)
http://mainichi.jp/articles/20161013/k00/00e/040/203000c
東京都調布市の会社員の男(27)を私電磁的記録不正作出・同供用ほう助容疑で書類送検した。
他に、江東区の自営業の女(44)と、いずれも高校3年の福井県鯖江市の少年(18)▽岩手県奥州市の少年(18)▽山口市の少年(17)−−の4人が私電磁的記録不正作出・同供用容疑で同日書類送検された。〔...略...〕
〔...略...〕
同社は昨年11月ごろに不正に気づき、システムを修正するとともに、少年らの利用を停止。その後、少年の1人が「手口をネットで公開する」などとする電子メールを同社に送ったことから同社が警視庁に相談していた。
[3] 一般社団法人日本オンラインゲーム協会(2009年8月)『オンラインゲームガイドライン』(JOGAonlinegameguideline.pdf)
http://www.japanonlinegame.org/pdf/JOGAonlinegameguideline.pdf
【セキュリティ・犯罪予防】
4.RMTについて
RMTについて
RMTにはゲームやゲーム会社オンラインゲーム提供企業が一切関与していません。
オンラインゲーム提供企業は、プレイヤーのRMT利用を前提とした運用はいたしておりません。
(例外もあります。〔...略...〕〔p.16〕
〔...略...〕
JOGA/会員企業の取り組み
JOGA会員企業(オンラインゲーム提供企業)では、RMTに関してのスタンスを各利用規約や運営ポリシーにて定め、それに従ってゲーム運用しております。また、プレイヤーからの情報を幅広く集めるよう努め、ゲーム内の秩序がRMTの影響を極力受けないよう運営いたしております。JOGAでは、「RMTワーキンググループ」を設置し、RMTに伴うトラブルの実態調査、ヒアリング、公的関係機関との情報交換会を開催しており、今後定期的にこれらを行なうことで、抜本的対策を検討してまいります。また、ワーキンググループでの活動の一環として、RMTを利用したことに附随するトラブルに巻き込まれることのないよう、人に迷惑をかけないゲームプレイヤーを育てる啓蒙活動をしてまいります。〔p.18〕
〔...略...〕
保護者のかたへ
〔...略...〕毎日プレイできる範囲で少しずつ先に進めるなど健全なプレイを推奨してください。〔p.22〕
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