まとめ
- 産経新聞は、衆議院TVと比較してみれば、高鳥氏ブログのブルーチーズの一件について、卑怯な書き方をしている
- TPPによってブルーチーズの流通量が変わるのか、国内酪農家のブルーチーズ生産に影響するのかは、何とも言えない
- プロセスチーズや加工チーズ、ナチュラルチーズでも淡泊な味のものについては、TPPにより、国内生産に対して多大な負の影響が生じるであろうと考える
- 夕食会の場では、あるいは衆議院予算委員会の答弁においては、国内チーズ産業を擁護したり、日本産の米や米酢や海苔や山葵や生姜や醤油を支援するという発言が必要だったのではないか
- (甘い物が苦手な)右翼男性は、バレンタインデーにブルーチーズを要望せよ
- 私は10年ほど、甘い物が苦手だからと言う訳ではなく、チーズ好きであるがゆえに、そうしてきた。
本文
高鳥修一内閣府副大臣が「ブルーチーズは美味しかった」とブログに記した※1ことに対して、平成28年2月8日の衆議院予算委員会において、福島伸享氏が批判したとの報道が複数存在する※2、※3。この批判は、長くなるが、以下のようなやり取りの中で行われている※4、※5。このやり取りは、衆議院TVの福島氏の質疑※3から私が書き起こしたものであるため、議事録に搭載される内容とは一致しないであろうし、一言一句の正確性を保証するものでもない。以下に引用する部分は、議事録と内容が大きく異なるということは、おそらくないであろう。それでも、そのやり取りを引用した産経新聞の記事の一部に気になる点があったために、衆議院TVのストリーミングを書き起こししたところである。このブルーチーズに係るやり取りについて、産経新聞の記事※2は、次のように伝えている。私の興味は、この産経新聞による切り取り方にある。まずは引用してから批判することにしよう。【1】や【2】などは、後段での批判のために、私が挿入した目印である。
福島:ま、今回ちなみに、ブルーチーズも交渉の対象になってますけども、ブルーチーズの関税ってどうなるんでしたっけ、どうぞ。
ガヤ:(「聞いてないことでしょう」「質問は出てないよ」「時計止めてください」「答えられないなら答えられないと...」などを含む)
高鳥:あの、ブルーチーズの関税がどれだけか、ということはですね、今通告をいただいておりませんので、即座にお答えできなくて大変恐縮でございますが、確認させていただきます。
福島:だと思います。通告していないんで答えられないと思いますけども、私が言いたいのはそういうことじゃないんです。ブルーチーズは、ちなみにですね、これも私が調べたから分かってるんですよ、あの、始めから知っているって偉そうにするつもりはありません。11年目までに29.8%が14.9%まで半減するんですよね、森山大臣。ほかにもクリームチーズとか、おそらくチェダーとかゴーダもその場にあったかもしれません、これは16年目で関税撤廃。要はね、私、昨日も酪農家と話(はなし)してますけども、生産量が減らないって言ってるけども、今もうかつかつなんですよ、酪農農家。特に家族でやっている人は、休みもなく毎日乳搾りやったり牛が病気になったりね、出産があったりとか、本当に大変なんですよ。みんなこれ気にしていて、チーズの一部の関税が撤廃ですよ、重要五品目が。そう心配している酪農家の多くが、皆さんがいる中で、「ブルーチーズ美味しかったです」、一番乳製品を要求していた国はどこですか、ニュージーランドですよ。甘利大臣はニュージーランドとの酪農の交渉に戦っていたんじゃないんですか。そのニュージーランドに行って「ブルーチーズが美味しかったです」ということを仰る感覚が私は理解できない。保守政治家だと思うんだったら、その酪農家の思いを受けるのが保守政治家じゃないですか。「ブルーチーズ食べて美味しかった」って呟いている場合じゃないですよ。なんかご感想があれば仰ってください。
高鳥:お答えをさせていただきます。あのまずですね、ブログでございますが、これは、政府の公式見解ではございませんで、私が、まあ主にですね、自分の支持者に向けて、発信をしているものでございます。そして、大変ですね、タイトなスケジュールの中で、署名式が終わるまでですね、自分の携帯に触る時間も一切ないような状況で、空港へ移動する車の中で初めてそれを開きまして、自分が何とか元気にやっているということを、短い時間の中でお伝えをしたいということで書きましたので、誤解を招いていることについてはお詫びを申し上げたいと思います。その上でですね、政府代行ということでございますが、夕食会のときにですね、私の席が、どういうことでお決めになったのか分かりませんけれども、閣僚テーブルのですね、真ん中のところで、ニュージーランドのですね、マクベイ大臣の真向かいでございました。で、まあ、夕食会でございますから、やはり他の国々と友好的な雰囲気を作るという中で、雑談の中でですね、デザートにチーズが出てきたことは事実でございます。で私は実はチーズは好きではないのです。でも、そのチーズを食べたら美味しかったものですから、「チーズはですね、ブルーチーズは私は好きではありませんでした。昨日まで。だけど、今日からニュージーランドのチーズがですね、美味しいということは良く分かった。」とこういうことを申し上げたら、相手の大臣も非常に喜ばれまして、そして、「ニュージーランドでは新鮮な魚が取れるので、日本食もとっても人気がありますよ。」こういうですね、国と国は、最後は人と人ですから、友好的な関係を作っていこうと、そういうことの表れでございます。しかしご指摘を受けましてですね、誤解を受けるようなですね、表現については、今後気を付けたいと思います。
福島:はい、あの、話を聞いていて何か悲しくなってきましてね。本当に涙が出そうになって。国を売ろうと思って売ろうとする政治家はいないと思いますよ。私は一番問題なのは、国を売る意志もないんだけれども、愚かさゆえに国を傾かせてしまうと言うことが私は一番問題だと思います。あの、残念ながら今の答弁を見ていて、本当に、その、酪農家の思いを背負って交渉するような人だとは思えない。このような副大臣で、これからずっとですね、TPPの批准に向けて、場合によっては特別委員会も設置するかもしれませんけども、審議していかなければならない訳ですけども、石原大臣大丈夫ですか、こういう副大臣でいかがですか。
【1】福島氏はさらに、高鳥氏がニュージーランドでの出来事を記した4日付のブログで「ブルーチーズはおいしかったです」としたことも批判。【2】甘利明前経済再生担当相はブルーチーズを含む酪農分野でニュージーランドと厳しい交渉をしてきたとして【3】「心配している酪農家の思いを受けるのが保守政治家だ」と述べた。産経新聞は、上掲のやり取りをそれなりには伝えているが、以下の3点において、現政権つまり高鳥氏に好意的な表現へと実際のやり取りを「翻訳」している。
【4】高鳥氏は、4日の夕食会でニュージーランドの閣僚と同席した際に「昨日まで私はブルーチーズは好きではなかったが、今日、ニュージーランドのチーズがおいしいことが分かった」と伝え、【5】友好的な雰囲気となったというエピソードを紹介した。【6】そのうえで「(外交は)最後は人と人だ。友好的な関係をつくろうという現れだ。誤解を招いていることについてはおわびを申し上げたい」と陳謝した。
- 【2】の前に福島氏が意地悪なクイズを出し、それに高鳥氏が答えることができなかったことを省略している。
- 同じく【2】の前に、国内の酪農家が大変な状況で仕事をしている状況を説明していることを省略している。
- 【4】において、高鳥氏は、「チーズ」が好きではなかったと表現しているところ、「ブルーチーズは好きではなかった」と記している。
第二点目の「翻訳」の欠如は、三点の「自主検閲」のうちでは、最も罪深いものであろう。酪農という仕事は、危険で、相当の体力を要する仕事であり、夜間も気が抜けないものであり、さらに、高額の初期投資を必要とする設備産業である。このことは、ガキの頃に2泊だけ英国の酪農家にホームステイしかしていない私にも分かる話である。危険であるのは、乳牛に蹴られる可能性があるためである。注意していないと死ねるヘビー級の衝撃である。排泄物の処理にしても飼い葉の運搬にしても、尋常でない背筋力が必要である。夜間は夜間で、出産や病気の世話がある※a。飼料のためにも(ロール制作に代表される)専用の大型の農業機械は欠かせないし、広大な牧草地も必要である。牛舎も必要である。このため、酪農業は、自然と設備投資型の産業となる。酪農家の方々には、本当に頭が下がる。
第三点目に挙げた「チーズ」を「ブルーチーズ」と記した矮小化は、産経新聞記者が十分な裏取りをしたので「ブルーチーズは好きではなかった」と限定して記したのかもしれないとは思う。しかし、結果として、産経新聞の記述は、チーズ嫌いと受け取れる高鳥氏の発言の影響の範囲を小さくする効果を有するものである。なぜなら、TPPは、ナチュラルチーズよりもプロセスチーズに、個人向けよりも業務向けのチーズに、より大きな影響を与えることになると思われるためである。ナチュラルチーズのままにせざるを得ない「ブルーチーズ」とすれば、発言の影響の範囲は、流通量という観点から、きわめて小さなものに限定化することができるのである。この厳密さを欠く記述は、当該記事のデスクか記者かの姑息さを感じさせる材料である。
本記事で話題に上っているチーズは、少なくとも、高鳥氏や福島氏の発言の文脈を見る限りでは、個人消費向けに流通するナチュラルチーズであるとみなして良いであろう。福島氏は、TPPの酪農家への影響全般を問題にしているので、戦線を拡大しようとしていると見ても良いが、ここでの「チーズ」の種類そのものは、TPPにおける分類を見ても、ナチュラルチーズに限定した話と見て良いであろう。ナチュラルチーズの種類別の販売統計などは存在しないように思うので、大半の日本人よりナチュラルチーズの消費量が多いであろう私※bの独断で、流通量の予想を記しておくことにしよう。国産のナチュラルチーズの過半は、クリームチーズやフレッシュタイプであるように思う。(家庭での)お菓子作りの材料としても利用されるためである。次いでハード系、白カビ系、ウォッシュ系の順であり、ブルー系の流通量はほとんどないように思う。系統的に食べるようには心がけていないので、私の食べている内容にはきわめて偏りがあるのだが、チーズ工房における品揃えから受ける印象としては、このような感じであろう。ともあれ、国産のブルーチーズというものは、扱う工房も少なく、流通量も少ないのではないかと思う。
また、上掲の産経新聞の引用において、【5】に記された「友好的雰囲気」は、「ニュージーランド国内における近海漁業による日本食」という片務的な関係の元に構築されたものであることも指摘しておきたい。TPPについてのいわば全権委任大使である者は、少なくとも、「魚は近海ものが美味しいかもしれませんが、日本産の米と酢と山葵で作るのがお勧めです。醤油と生姜と緑茶も日本産で!」といった切り返しを試みる必要があった。この種のビジネス的発言は、自己弁護として有用なものであるので、仮に高鳥氏本人がこのように発言したのであれば、そのエピソードを紹介しなかった訳がないものと考えられる。少なくとも、国産の食品の輸出増を試みる発言なしに、ニュージーランドが主力輸出品目に据えたナチュラルチーズを美味しいと評価するだけでは、日本国代表としての仕事を尽くしたとは言えないであろう。この点も、うかつであったとは言えないであろうか。要は、高鳥氏のブログに「ブルーチーズ美味しかったです!日本のブルーチーズもね!」とか「米、米酢、山葵、醤油、生姜、緑茶は日本産をオススメしておきました!」という文言が入っていれば、これほどまでの問題にはならなかったのであろう、と私は推測するのである。特に、日本のブルーチーズが持ち上げられていることが大事だったのではないだろうか。
高鳥氏のブルーチーズに係る書き込みは、週明けに問題視される可能性が予測されたのであるから、仮に、週末中に国内産のブルーチーズを買う算段を整えて、「国産も買いました!美味しいですね!」などと切り返せたのであれば、産経新聞の忖度に頼ることなく、高鳥氏本人が問題を小さいものに留めることができたであろう。それに、国産の流通量がもとより少ないと思われるブルーチーズについて言及したことは、国内の工房に対しても目を向ける契機となり得るので、先のように国産を勧める発言と根拠を示せていたとすれば、今回の高鳥氏のブログ上での言葉は、国内産業にとって良い方に影響したかも知れないのである。この点を農水省の担当者を使役して十分に理論化・実証化した上で、切り返せていたのであれば、福島氏の発言に対して、高鳥氏が横綱相撲を取れたことになり、ネット右翼の工作に頼らずとも、高鳥氏に対して賛辞が寄せられていたということになっていたかも知れないのである。
ただ、国内産のブルーチーズを率先して推奨するにあたっては、国内産のブルーチーズがすでに海外産のブルーチーズと棲み分けられているという点に注意する必要がある。私が食べた記憶のある国内産のブルーチーズ(と呼べる可能性の残るチーズ)は、『クレイル』※7の「おいこみブルー」くらいしかない※c。美味しかったことはもちろんではあるのだが、あまりにも淡泊で、イタリア風に言うとピカンテ好きの私にとって、もっと来いや~!という気持ちを起こさせるものであったことも確かである。この状況が、関税撤廃が進んだときに、どのように変化するのか、私には予想が付かない。EUとのEPAにしても、TPPにしても、成立した暁に、青カビの強いブルーチーズの流通量にどのように影響するのか、読めない。日本人の味の好みが変化しないとも限らない。好みが変化せずとも、全体として増加した流通量が国産のブルーチーズを圧迫するかも知れないし、チーズを嗜む人口が増加することによって、結果として市場が広がるかも知れない。
ところで、国産ナチュラルチーズの振興は、本来、1%層に所属する(職業)人の義務である。嗜好品であり、高級食品であるためである。しかし、実際のところ、高級スーパーに置かれているナチュラルチーズであっても、可哀想な状態になっていることは結構多く、チーズ文化を支える裾野の貧弱さを感じさせる。とはいえ、私は、発酵が進んだ状態の方が好きなので、それほど意に介さないのであるが、品質にこだわる人は、専門店を選ぶしかないであろう。丹精込めて送り出された商品が手荒に扱われているという観点から見れば、やはり改善が試みられるべきことでもある。専門店のチーズは、さすがにいつも食べ頃のタイミングであるが、ホリエモン氏くらいに金回りが良くないと、常用するわけにはいかないであろう。いずれにしても、ナチュラルチーズそのものは、バターのように必須の食品という訳ではないのであろう。こうしたとき、大半の日本人が1年に1度食べるかどうかであろうブルーチーズに高鳥氏が言及したことは、やはり不用意に過ぎたことであったと言わざるを得ないであろう。
ちなみに私は、バレンタインデーに、チョコレートの代わりに、ナチュラルチーズを贈ってもらうという手を取っている。この手に頼るようになり、10年近くになる。一年を通じてというわけにはいかないが、チョコが苦手という男性を取り込むための一案として紹介しておきたい。「バレンタインデーにワインとチーズ」が本来のキャッチフレーズなのかも知れないが、ワインは、独断で見れば、チーズよりも高度に職業化された趣味であるし、独力で探求するのも限界があるし、何より費用が青天井になりがちである。身代を潰す程になるであろうし、悪事に手を染めることにもなり得る。佐藤優氏の著書に、接待用のワインを私消した外務官僚の話があったような記憶がある。その点、ナチュラルチーズであれば、自ずと価格に上限がある。ワインという趣味は、1回5000円以上になるであろうが、自宅でチーズならば、取り合わせたとしても、5回味わうのに、10000円(5種類×2000円)というところであろう。それに、アルコールに弱くとも、単独で楽しむことができる。紅茶と取り合わせるという方法もある。
チーズの流通量が増えることには、ほかの懸念材料もある。かぶら寿司や大根寿司のような伝統的な麹系の発酵食品と競合しうる可能性が認められることである。 少なくとも、私の中では、両者は競合的な存在である。どちらも美味しく、優劣つけ難いものの、人間の食事の量には上限があるためである。発酵食品の摂取がチェルノブイリ原発事故による健康影響を軽減したという研究は、広く知られている。(ので、EM菌等の話も流行した。)いずれにしても、今回の失言?騒動は、政府に味方する側も、反対する側も、国産の(ブルー)チーズをヴァレンタインデーに要求する契機になったということである。
※1 TPP署名式 | 高鳥修一 たかとり修一 (衆議院議員 自民党 新潟六区) 公式ブログ
https://takatori55jim.wordpress.com/2016/02/04/tpp%e7%bd%b2%e5%90%8d%e5%bc%8f-2/
私一人に空港まで6台の白バイとパトカー、上空からヘリコプターが警護に付く厚遇でした。ブルーチーズは美味しかったです!
※2 TPP署名の高鳥副大臣を民主党・福島氏が「売国の政治家」と批判 「ブルーチーズおいしい」も攻撃 (産経新聞) - Yahoo!ニュース
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160208-00000528-san-pol
※3 TPP署名式後、ブログに「チーズおいしい」 (読売新聞) - Yahoo!ニュース
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160208-00050113-yom-pol
※4 2016年2月8日 (月) 予算委員会 (7時間18分)
http://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=45492
※5 福島伸享(民主・維新・無所属クラブ)
http://www.shugiintv.go.jp/jp/wmpdyna.asx?deli_id=45492&media_type=wn&lang=j&spkid=24452&time=02:14:29.2
※6 日本農業新聞 e農ネット - チーズ関税撤廃迫る TPP交渉影響も 対日EPAでEU
http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=34659
※7 カマンベールの老舗・クレイル
http://www.creyl.com/naturalcheese.html
※a 病気には立ち会わなかったが出産には立ち会った。
※b 年1回ペースで工房の店まで行って購入していたりする。マニアであるとは到底言えないが、普通の人よりは、ナチュラルチーズ好きと言って良いであろう。
※c なので、「隗より始めよ」、実は、この記事の前後にGoogle様にお伺いを立て、系統的に調べた上で、注文済みである。蛇足であるが、Google様に敬称を付けるのは、Googleの検索サービスが、人間の手によるものの、人間を超越した、さりとて一神教の神様には至らない水準の能力を備えているためである。私としては畏れを抱いているのである。
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