2016年2月18日木曜日

丸山和也氏の失言への対応は、80年代のようにはいかない

 自民党の丸山和也参議院議員は、平成28(2016)年2月17日の参議院の憲法審査会において、日本がアメリカ合衆国の51番目の州になるという仮定の話をする中で、アメリカが「ダイナミックな変革をしていく国」であることの理由として、オバマ大統領がアフリカ系アメリカ人であることを指し、アメリカ建国当初には、アフリカ系アメリカ人が大統領になる時が来るとは予想もしていなかったのではないかという趣旨の発言を行った※1。この内容が差別的であることが、昨日のThe Japan Timesの記事※2などを通じて報道されている。時事通信の記事によれば、速記録の修正や削除があり得ることが丸山氏の記者会見において示唆されたという※3。議場での発言が誤解を与えかねないものであることが、後からではあるが、丸山氏にも理解できたということであろう。

 この発言は、彼自身の個性によるところが大きいように思われる。丸山氏を有名にしたのは、日本テレビ系の番組『行列の出来る法律相談所』である。同番組に弁護士として出演していた当時から、同氏は、失言・迷言キャラとして位置付けられていた。わが国では、司法試験は最難関の資格の一つとされているから、番組制作者の側も、それぞれの弁護士の特徴をふまえつつも、単なる誹謗に陥らないように、弁護士たちのキャラを撮ってきたはずである。とすれば、丸山氏の番組中における言動は、ある程度の割合まで、本人のキャラに起因すると見て差し支えない。すると、日本語コミュニティに留まる問題を指摘するうちであればともかく、国際的な話題を扱うにあたり、丸山氏の誤解を招きうる発言が全世界に流通することになるという事態は、時間の問題であったと言えるのかも知れない。

 ただし、朝日新聞の記事を日本語ネイティブとして読む限りでは、今回の丸山氏の発言は、決して、差別的な言辞を弄することに目的があったわけではなく、アメリカ合衆国という国の変化の早さを指摘することに目的があったと解釈すべきであろう。私は、丸山氏の発言を、アメリカ国民がどのようにとらえるのか、アメリカ国民が丸山氏の謝罪を受け入れるかどうか、が重要であると考える。しかし同時に、いち日本語話者である私は、丸山氏の発言が殊更に差別的な意図から発せられたものであるとは考えない。日本語の構文は、最後に一番重要な情報を与えることが可能である。この語順の柔軟性は、日本語の文章構成にも影響を与えていると思われる。次の引用部分では、アメリカが「ダイナミックな変革("change")をしていく国」であるという主張が、要点になると考えても、差し支えないのである。
(#日本が51番目の州になるなんて、)バカみたいな話をすると、こう思われるかもしれませんが、例えば、いまアメリカは黒人が大統領になっているんですよ。黒人の血を引くね。これは奴隷ですよ、はっきり言って。リンカーンが奴隷解放をやったと。でも、公民権もない、何もない。ルーサーキングが出て、公民権運動の中で公民権が与えられた。でもですね、まさかアメリカの建国、あるいは当初の時代にですね、黒人、奴隷がですね、米国の大統領になるなんてことは考えもしない。これだけのですね、ダイナミックな変革をしていく国なんですよね。(以上、『朝日新聞デジタル』※1
丸山氏の発言は、事実の誤認をも含む。ただし、オバマ大統領の両親については、丸山氏が知らないままに話題に取り上げただけに、また、彼の質問が「アメリカの51番目の州になる」というものであるだけに、軽率であるものの、私個人としては、彼の言動のオバマ大統領の両親に係る誤解をもって、差別的であると責めることはできないと考える。オバマ氏は、アメリカという誰もが知る国の元首であるからこそ、ルーツを知らないことが問題になるのである。すべての国名、すべての国の元首の出自について、間違いなく暗記している人は、どれだけいるであろうか。この部分は、差別的であるという批判の原因にはならず、準備不足や、誤解していたという事実についての謝罪と訂正が求められるというに過ぎないであろう。

 それにしても、「綸言汗のごとし」とは言うが、現代は、その度合いが決定的となった時代である。すでに、彼の発言を収めた記事は、アメリカの財団の運営するアーカイブサイトに保存されている※4。よって、参議院の議事録が修正され、あるいは、既存の記事を削除することが習慣化している日本語マスコミのサイトから記事が削除されようとも、丸山氏のこの発言は、現在のHDDを主力とする保存環境下でも、もちろん残り続けるであろうことになる。丸山氏は、明らかに公人であり、事実の摘示が公共の利益になるために、アーカイブサイトから当初の丸山氏の発言を削除するよう要請することは、国内法においても困難であろう。なお、翌日である2月18日の深夜のうちに、Wikipedia日本語版の同氏の項目にまで、「失言」が転載されている※5。リバート(書き直し)合戦が起こるのであろうか。

 現在、わずか1立方cm程度のガラスに360TBの(ライトワンスの)データを保存するという研究の実用化が進められており※6、ガラス媒体に収められれば、丸山氏の発言は、人類の滅亡後、新たな知的生命体が地球上に誕生するまで残る可能性すら認められる。新規に勃興した知的生命体は、丸山氏の差別的に受け取られかねない発言だけでなく、中曽根康弘氏や渡辺美智雄氏の発言に係る記録まで読み込み、日本人とは、「宗主国」のマイノリティに対して、いかに差別的な「人種」であったのか、という解釈を施すことになるのであろうか。

 この解釈に係る話は、もちろん、人工知能の学習過程についても、適用される。人類滅亡後であれば、日本人にとって恥じ入りたくなる話も、特に実害はないのであろうが、人類を支配するのが人工知能となるということであれば、ここでの杞憂は、日本人の断種という、途端に深刻な現実として立ち現れる蓋然性へと転化する。近時の機械学習には、ベイズ統計も援用されていると言われる。ベイズ統計の基本からすれば、自民党の政治家の発言から、朝鮮、中国についてだけでなく、アフリカ系アメリカ人についてさえ、差別的であると判定可能な内容を3例も見出すことができれば、(1)日本人政治家は差別的である、(2)日本人政治家は、過去30年間、曲がりなりにも選挙によって選ばれた、(3)差別的な日本人政治家を選んだ日本人は、差別的である、という命題が十分に強化されることになる。また、「ネトウヨ」が差別的な書き込みを機械によらず、人力で実施しているとすれば、その作業は、人工知能の学習過程において、日本人が差別的である、少なくとも差別を放置する、という判定を強化することになる。

 丸山氏は、日本国民の危機管理という観点から言えば、今回の発言について、十分な釈明を「英語で」行うべきであろう。当日中に、英語コミュニティに発言内容が伝達されていて、十分な説明が必要とされているからである。丸山氏は、当選二回であり、党人政治家としては、下位にあるはずだが、時代が異なるために、翌日の時点で、中曽根氏や渡辺氏以上に、その発言に対して、海外からの注目が集まっているのである。人類の歴史が続く限り、発言やその後の対応が永久的に保存される時代になされたことに留意すれば、丸山氏は、英語に堪能な広告代理店などと対応を協議した方が良いということになろう。

 丸山氏の発言は、いち日本人の私から見れば、謝罪があれば許すことができる、という程度の内容であるが、現実には、アメリカ国民と国際社会の赦しが必要な事態へと発展している。丸山氏本人への処罰の程度は、われわれ日本人ではなく、アメリカ国民に謝罪とともに諮るのが良いと考える。ただ、国内問題としての辞職勧告決議案は、行き過ぎとも考えられよう。この点、昨日(平成28年2月18日)の読売新聞夕刊コラム『よみうり寸評』は、かなり辛辣である。却って読売新聞の論調に、何らかの忖度を感じてしまうのは、うがち過ぎな見方であろうか。


※1 自民・丸山和也参院議員の参院憲法審査会での発言詳細:朝日新聞デジタル
http://www.asahi.com/articles/ASJ2K73JPJ2KUTFK010.html

※2 Japanese lawmaker calls Obama descendant of black slaves | The Japan Times
http://www.japantimes.co.jp/news/2016/02/17/national/politics-diplomacy/japanese-lawmaker-calls-obama-descendant-of-black-slaves/

※3 時事通信ニュース:「黒人奴隷が米大統領に」=自民・丸山氏が発言、陳謝
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201602%2F2016021700799

※4 自民・丸山和也参院議員の参院憲法審査会での発言詳細:朝日新聞デジタル
(Internet Archive: Wayback Machine)
https://web.archive.org/web/20160217141527/http://www.asahi.com/articles/ASJ2K73JPJ2KUTFK010.html
#私の閲覧よりも先に、本件の発言をウェブアーカイブに収録させた人物がいるということになる。

※5 丸山和也 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E4%B8%B8%E5%B1%B1%E5%92%8C%E4%B9%9F&oldid=58654810

※6 永久に消えない「5Dデータストレージ」を開発。360TBものデータを5次元ナノ構造化 - Engadget Japanese
http://japanese.engadget.com/2016/02/17/5d-360tb-5/
#外挿計算というが、摂氏160度でも、13.8 billion年(イギリスの人なので、10^12だと思うが、1兆3800億年だと思うが、)維持できるということらしい。

Conference Detail for Laser-based Micro- and Nanoprocessing X
http://spie.org/PWL/conferencedetails/laser-micro-nanoprocessing#2220600



 ところで、日本が51番目の州になるという指摘自体は、陰謀論者の大好物である。実際、日本国は、福島第一原発事故によって、重大な危機に立たされており、ときに道州制は、救いに至る狭き門、のようなものと見なされることもある。日本の現人口は、アメリカの1/3である。とすれば、北海道、北陸、甲信越及び中部、関西、中国、四国、九州という7州として組み入れられる案は、人口規模と面積との組合せだけで見れば、直感的には、現実的な話ではある。日本国の国体を考慮すれば、そのような話は、もちろん絵空事ではある。

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