ウェブ上で閲覧可能な情報を整理したところ、平成28年1月24日執行の宜野湾市長選挙の開票結果ならびにNHK、琉球新報等、沖縄タイムス等の三種類の出口調査は、以下のとおりである。また、それらの結果を比較したときに生じた疑問を併せて示す。私の疑問について、従来の記事とは異なる記述もあるが、それは、いくつかの情報を入手したことにより、私の推測した内容がアップデートされたためである。つまり、本記事に記載された内容が、平成28年2月5日時点の私にとって、正しいと思われる内容である。
出口調査
NHK※1、※2、※3、※4、琉球新報・毎日新聞・共同通信※5、沖縄タイムス・朝日新聞社・琉球朝日放送※6、三種の出口調査は、いずれも当日の出口調査である。期日前投票に係る出口調査は、毎日新聞が一部実施している※7が、投票先が極端に偏ったという情報は得られていない。NHKの出口調査は、NHK自身によるデータが残されていないが、ツイッター上で多くのユーザが言及したりスクリーンショットを残したりしており、それなりに内容を再現できるようになっている※2、※3、※4。出口調査における調査拒否は、同じ当日投票を対象に取ったこれら三種の出口調査の結果を偏らせる効果をもたらした、最も大きな要因であるように思われる※a1。峰久和哲(2012)氏※a2は、期日前投票の公明党に代表される組織票と、候補者本人の「ダーティ」「クリーン」な属性が当日投票における出口調査を偏らせる系統的誤差の要因となると述べた上で、09年衆院選において、当日調査では、一人の候補について、7.5ポイント以上の誤差が生じないというそれまでの経験則が覆されたことを述べている。公明党による期日前投票を考慮すべきことは、僧都儀尚(2010)氏※a3も指摘している。期日前投票の分、当日投票における公明党の組織票の減少分を見込むべきことは、合理的な指摘である。他方、大栗正彦氏(2010)は、09年衆院選について、「期日前投票の影響はない、女性の投票行動は一様である、調査協力者は正確に答えているとの前提での仮説に過ぎないが、09年衆院選では自民党に投票した男性に出口調査を拒否した割合が高いのではないだろうか。」と述べている※a4。大栗氏の指摘も、平成28年宜野湾市長選挙に影響しうるものである。期日前投票における組織票、自民党(本部の)支持男性の双方の要因が影響して、NHKと他の二種の出口調査結果の間に15%に達する差が生じたと見ることも不可能というわけではない。とりわけ、今回の二紙による出口調査が終盤まで行われず、NHKだけが終盤まで実施され、「激戦である」という情報が地元に流通したとすれば、その情報を得た陣営が駆込みで投票を知人に促すということは、あり得る話である※a5。鈴木督久氏(2011)は、出口調査は多くの要因によって系統誤差を多分に含むものであるから、調査の正確度(accuracy)を期すよりも、むしろ調査の精度(precision)が安定的に確保されていることが大事であり、継続的な選挙調査の管理態勢が必要であると述べている※a6。なお、今回の調査においては、NHKが中央の意向を忖度していることは明らかである。それゆえ(中央の意向を忖度する)自民党支持者がNHKにのみ回答し他の二社には回答拒否したとしても、おかしくはない。ただし、回答拒否等から生じる選挙結果予測は、若干古い論文ではあるが、仁平俊夫氏が1996年に示した出口調査と選挙結果の比較によると※a7、NHKと朝日と毎日は、同様の出口調査の傾向を有する。
投票行動
期日前投票者数は、前回※8の2.2倍程度に達する14256名であった※9。無効票、持ち帰り等は0.5%程度であり、結果に影響を与える桁には達しない※10。期日前投票者の投票先等の情報は毎日新聞が一部について報道しているが、当日の投票に比べて圧倒的な偏りを示すだけの情報は示されていない※7。開票結果は、21時30分の時点でともに2500票程度、22時の時点でともに17000票であるところ、22時20分の確定時には、佐喜真氏27668票、志村氏21811票であった。22時の時点では、開票作業関係者には、残りの投票用紙の束に差が生じたことが分かったであろう。出口調査についての疑問
沖縄タイムスと琉球新報の両紙は、沖縄県内で合計半数以上の世帯に対するシェアを有しており※11、同じ当日投票を対象とするにもかかわらず、NHKとは全く異なる調査結果を得て、大きく投票結果を外した。この状態は、今後の両紙の出口調査への信頼性を担保するためにも、何らかの説明を必要とするものである。これら二紙の出口調査は、両方とも、二候補への直接の投票率を当初から示していないが、この記事の構成自体は、何らかの理由が当初から存在したことをうかがわせる材料である。他方、NHKの出口調査は、開票結果との整合性が最も高いとはいえ、NHKは、投票結果を説明するのに必要な出口調査の情報をウェブ上で公開していない。また、NHKの基地移転に対する設問への回答結果は、2014年9月の沖縄県内の各市議会議員選挙におけるNHKの出口調査※12とも整合しない。この2014年のNHK出口調査は、むしろ、今回の沖縄タイムス、琉球新報による出口調査結果と整合的である。1年半の間にこれだけの民意の変化があったことの納得できるだけの説明は、NHKによって提供されていない。
※1 ここに注目! 「宜野湾市長選挙・自公推薦の現職再選」 | おはよう日本 「ここに注目!」 | NHK 解説委員室 | 解説アーカイブス
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/300/236229.html
※2 かじやま てつや on Twitter: "宜野湾市長選、NHKの出口調査では現職の佐喜真氏がやや優勢とのこと。 https://t.co/5wyRtRcOBt"
https://twitter.com/t_kajiyama/status/691227191661572096
※3 米重 克洋 on Twitter: "宜野湾市長選、NHKは佐喜真氏やや優勢 https://t.co/uDgaKlygSO"
https://twitter.com/kyoneshige/status/691226370681151488
※4 はる☆選挙分析 on Twitter: "このNHKの出口調査は当日分だけで、期日前は含まれていません。"
https://twitter.com/harunosippo/status/691229286817071105
※5 佐喜真氏、志村氏、激しく競り合う 宜野湾市長選 琉球新報・毎日新聞・共同通信合同出口調査 - 琉球新報 - 沖縄の新聞、地域のニュース
http://ryukyushimpo.jp/news/entry-209683.html
※6 出口調査で浮き彫りになった宜野湾市の民意 | 沖縄タイムス+プラスhttp://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=151185
※7 クローズアップ2016:沖縄・宜野湾市長再選 政府と県、混迷さらに首相「勝利大きい」 - 毎日新聞
http://mainichi.jp/senkyo/articles/20160125/ddm/003/010/057000c
一方、2012年の前回市長選から2倍以上に伸びた期日前投票について、毎日新聞が18〜23日に行った出口調査によると、公明党の支持率が8%と24日の当日調査より高く、ほぼ全員が佐喜真氏に投票したと答えた。
※8 期日前投票者数 日計表 平成24年2月12日執行 宜野湾市長選挙
http://www.city.ginowan.okinawa.jp/cms/sisei/election/02/h240211kizitumaetohyo.pdf
※9 期日前投票者数 日計表 平成28年1月24日執行 宜野湾市長選挙
http://www.city.ginowan.okinawa.jp/cms/sisei/election/02/280123kizituzentouhyosu.pdf
※10 平成28年1月24日執行 宜野湾市長選挙開票速報 最終確定:22時20分http://www.city.ginowan.okinawa.jp/cms/sisei/election/02/h28sicho_tou/sityo28tou2018.pdf
※11 全国版:都道府県上位3紙|販売部数(読売新聞)
http://adv.yomiuri.co.jp/yomiuri/circulation/national02.html
※12 時論公論 「説明置き去りで進む辺野古移設」 | 時論公論 | NHK 解説委員室 | 解説アーカイブスhttp://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/197442.html
22時以降、期日前投票の票に対して不正が行われたとの推測が存在する※13が、この指摘を受け容れるか否かとは別に、各出口調査は、上記の材料だけで比較可能な内容を備えている。その理由は、先の記述の繰り返しになるが、三種の出口調査がいずれも当日の投票結果に対するものであるためである。
※13 宜野湾市長選挙は、期日前に特定候補の票を追加投入した可能性|Ghost Riponの屋形(やかた)
http://ameblo.jp/ghostripon/entry-12121214930.html
※a1 本段落は、平成28(2016)年2月5日追記。
※a2 峰久和哲, (2012). 「出口調査の誤差」, 『日本世論調査協会報』110, 11-17.(CiNii)
※a3 僧都儀尚, (2010). 「北海道新聞出口調査の検証:投開票日・期目前のデータ分析とその活用術(選挙出口調査の方法と精度)」, 『日本行動計量学会大会発表論文抄録集』38, 232-235.(CiNii)
※a4 大栗正彦, (2010). 「中日新聞出口調査の検証:調査拒否者が与える影響(選挙出口調査の方法と精度)」, 『日本行動計量学会大会発表論文抄録集』38, 228-231.(CiNii)
※a5 原本は確認していないが、以下のブログを参照した。
法螺と戯言 : 回想記を読む(1)、「出口調査」が選挙結果を捻じ曲げた事例
http://blog.livedoor.jp/oibore_oobora/archives/51831705.html
※a6 選挙における調査と予測報道(鈴木督久氏, 2010)
(株式会社日経リサーチが掲載、日本心理学会 「心理学ワールド」49号(2010年4月)所収)
http://www.nikkei-r.co.jp/lecture/psy49.pdf
※a7 仁平俊夫, (1996).「S1-6 選挙と出口調査:NHKの手法と課題」, 『日本行動計量学会大会発表論文抄録集』24, 42-43.(CiNii)
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