2016年2月8日月曜日

TPP署名式における高鳥修一内閣府副大臣の着物の重色目(かさねいろめ)についての疑問

 日本人のウェブ集合知は、ニュースに即応することにかけては、相当の能力を発揮するものである。先週(2016年2月)4日のTPP署名式に、高鳥修一内閣府副大臣は、着物で臨んだ。最も大写しの写真は、The Japan Timesのウェブサイトで閲覧できる※1。着物は、高鳥氏本人が意図してのことであり※2、夏用の着物を南半球の季節に合わせて用意した※3という。これに対して、ほぼリアルタイムで、肯定的に見る側※4にも、批判的に見る側※5にも、着物についての専門的なブログ※6でも、なぜ黒紋付、(または極端なものとして、)裃や(烏帽子)大紋を着用しなかったのかという感想がツイッター上で共有されている。2ちゃんねるにおいても、本件に準ずるコミュニケーションが見られる※7

 The Japan Timesに見るように※1、ニュージーランド首相のジョン・キイ氏をはじめ、TPP署名式に臨んだほかの首脳が背広であるから、結果から見れば、高鳥氏の服装は、略装で正解であったと見るべきである。しかし、そうであったとするならば、次の疑問が浮かんでくる。なぜ、TPPに加盟しようとする各国の首脳陣は、国際条約の中でも史上稀に見るレベルの大変革を各国にもたらすはずの条約の署名式に、礼装や正装で臨まなかったのであろうか。各国の首脳は、一般庶民には分からない何かを理解しているのであろうか。そのヒントを探るべく、もう少しだけ、ここで生じた(つまらない)疑問を深掘りしてみよう。高鳥氏の着物の重ね色目を確認することは、ここでの疑問を解決する上で役に立つ可能性が認められるのである。あらかじめ断っておくと、疑問を解決しようとする私の試みは、本稿では失敗する。

 高鳥氏の着物の重色目は、先述したとおり、署名式が実施された場所がニュージーランドであることをふまえて、夏のものとしたという※3。しかし、署名式の実施された2016年2月4日は、二十四節気を記した今年のカレンダーを見ると、ちょうど立春である。立春であることの(他者に責任を押しつけられるだけの)証拠を示す作業は省略するが、今年の2月4日が暦の上では春であると考えることは、誰にも文句の付けようのない事実である。とすれば、真逆の季節であるニュージーランドにおいては、立秋、秋が始まったばかりとなる。季節は先取りするのが粋というものであるから、秋の重色目である方が望ましいと言えば望ましいが、そこまでの展開を予測することは難しかったものと言えるであろうから、色目が夏でも構わないであろう。事実、色目が秋のものであるべきと指摘するGoogle検索結果は、日刊ゲンダイの先の記事※3を含めても、まだ存在しないようである。

 高鳥氏の着物の色目は、写真や映像でのみ確認することができるのであるが、ここで、その色目を手作業で確認した結果を掲載する。範囲の平均を取るカラーピッカーは、『Gimp』のものを利用した。類似色であると判定するためには、HSV空間に変換した上で、HSV空間上で判定を行う必要があるものと目されるため、これ以上の追究は行わない。ここでは、(私の)眼で見て、似ている色目を漁ってみることにする。大体、ここでの原始的な方法によらずに、類似色を判定しようとするのであれば、写真機の機種やら会場の照明やらを検討する必要が生じる。そのような作業は、私の手には余る。おそらく、色目の同定作業は、写真分析のプロにより進められているであろう。私の主張・疑問を検証する上では、そこまでの厳密な作業は必要とされない。


ソース色味等カラーピッカーRGB16進数表記URL等出典
高鳥副大臣羽織(袖口)半径5ピクセル平均747370#4A4946※1
高鳥副大臣羽織(胸元)半径5ピクセル平均545349#363531※1
高鳥副大臣長着(左腹辺り)204175135#CCAF87※1
高鳥副大臣長着(左腹辺り)半径5ピクセル平均201172132#C9AC84※1
高鳥副大臣襦袢(左胸元)197207213#C5CFD5※1
高鳥副大臣襦袢(左胸元)190204210#BECCD2※1
高鳥副大臣襦袢(左胸元)212210207#D4D2CF※1
禁色黄櫨染226207138#E2CF8A※8
忌色萱草色23218692#E8BA5C※8
忌色柑子色226207138#E2CF8A※8
忌色黒橡色不要847471#544A47※9
そのほか黄橡色不要18614550#BA9132※10
そのほか黄櫨染不要21410653#D66A35※11
そのほか不要239205154#EFCD9A※12


 高鳥氏の着物の色目は、古くからの伝統的なもの※13のうち、夏・秋のものに見出すことができなかった。それどころか、オールシーズンにも見られるものではなさそうである。むしろ、忌色の組合せによるものであるようにも見えてしまう。高鳥氏の色目は、Getty Images※14の映像なども援用すると、現代的な色の表現によれば、暗緑色+黄土色であるように見える。本記事を執筆しているPCは、ソフトウェア上の色調整のみ行った状態であるので、PC性能や私の眼がおかしいという問題も十分に考えられるのであるが、ともかく、夏・秋の色目に高鳥氏の着物を見出すことができていない。この点は、気にかかるものである。羽織の色は、忌色である黒橡色に近いと言いうるであろう。とはいえ、高鳥氏の長着の色は、忌色の萱草色や柑子色とは明確に色味が異なる。

 なお、本記事を執筆するに至った動機は、昨日の京都市長選で門川大作氏が当選確実というNHKのニュース(2016年2月7日20時45分~21時のニュース)をテレビで見たとき、門川氏の着物の色目が伝統的な官職の合わせ色目の若草である※13ことに、私でも気付けたことによる(下記画像参照)。門川氏の着物の色目がほぼ素人の私にも分かりやすいものであったために、かえって高鳥氏の色目についての興味が湧いたのである。

#蛇足になるが、前日の京都市長選挙は、保革相乗りという構図のようであるし、ムサシの法則が発動された雰囲気もないし、京都の政界には疎いということにしておいた方が良いというくらいの嗅覚はあるので、同選挙について、私がシミュレーションを行う予定はゼロである。
図:平成28(2016)年2月7日NHKニュース20時50分36秒時点の
門川大作氏の映像による門川氏の着物の重ね色目
(上から順に羽織、長着、襦袢、『Gimp 2』で半径5ピクセルの平均を利用)

 今回、高鳥氏の着物の色目に込められた「意味」についての疑問が私には解けなかったのは、単に、私の見識が著しく不足しているゆえであろう。しかしながら、TPPはおしまい、という事実を暗示するために忌色が用いられたとすれば、それはそれで高度なメッセージである。あるいは、この色の組合せが呪術の一種として仕掛けられたものであるとすれば、それは、面黒くも私には賛同できる話である。TPPは、明らかに、日本国民の99%から搾取を目論むものであり、高鳥氏の地盤の選挙民の恨みを買うものであろう。地盤への配慮ゆえに、高鳥氏は、稲穂を想起させる色の長着を選択した※2と推測することができる。

 売国を強いるTPP集団に対して、色(目)の呪術返しで対抗したという事実が存在したとすれば、その反抗を企図した社会集団は、高度なメッセージ操作の使い手であるということになる。この種のシンボル操作は、TPPから撤退するときの理由付けに、やがては使える材料ともなろう。「Tea Party(茶会)」がアメリカ独立戦争の端緒となったボストン茶会事件に起源を有する名称であることは、アメリカ国民の常識である。同様の常識は、もちろん、わが国にも存在するのであり、仮に、アメリカ人に今回の色目に込められたメッセージに気付くような文化への造詣が深い識者がいたとしても(、そして、私は、アメリカにはそれだけの戦術を立案し実行できるだけの人材が多数いるものと推測するが)、現状では、TPPはアメリカ国民益とは相容れないものであるから、沈黙を保ち、日本からの条約破棄の申出を待つという戦術を取るであろう。なぜなら、日本文化に造詣の深い他国の識者を署名団に加えた各国にとって、高鳥氏に対する「とりあえずの褒め殺し」は、日本を踏み台にして自国の利益を確保する上での有効な一手となりうるためである。

 TPP署名式における高鳥氏の着物(の重色目)の問題があろうとなかろうと、日本国民は、自らが自国の色文化の奥深さに試される存在である。われわれ中年世代は、小学生の歴史の授業で、聖徳太子による「冠位十二階」を学び、色にも位階があることを知ったはずである。とすれば、色(の組合せ)というシンボル(操作)が隠された意図を有することがあるという理解は、日本国民にとって、常識の範囲であると考えてそれほど問題はないであろう。少なくともわれわれは、この命題の正しさが発揮された証拠を、官邸ウェブサイトと外務省ウェブサイトとの差異に見出すことができる。このことは、わが国の政府機関のページが他国のウェブアーカイブにも収録された今となっては、最早、(いわゆる右翼を含め、)日本人の誰にも否定することができなくなっている。

 平成26(2014)年11月10日(現地時間)に中国で開催されたAPEC首脳会議の歓迎式典において、日本の安倍晋三首相は、妻の昭恵氏とともに、緑の「新中装」と呼ばれる中国服※15を着用し、習近平夫妻との4ショットを撮影した※16。同様の写真は、官邸ウェブサイトには掲載されている※17が、外務省のAPEC 2014についてのページ※18と、そこから直接たどれるAPEC 2014関連のページにおいては、スーツや西洋式のドレスでの写真のみが掲載されている。官邸サイトに掲載された位階を想起させる色味の写真は、外務省のウェブサイトからは入念に除外されているのである。

 しかし、2013年のインドネシアにおけるAPECについては、同様の位階を想起することが可能な色の服での集合写真が掲載されている※19。ただし、APEC 2013についてまで、色に対する考え方を適用しようとすることは、華僑社会がインドネシアに定着しているからとは言え、あまりにも無理のある連想を強いるものであると見ることも可能ではある。ほかに考えられる場合としては、APEC 2013に参加した政治家の側で複数の色の中から特定の色を選択する余地が存在したがゆえに、服の色を個人の好みに帰することができたという事情が存在し得たのかも知れない。(APEC 2013についての諸事情は、公的に確認可能な資料による追究を今後も進めたい。地球に中性子星が接近するくらいのあり得ない確率であるが、ここでの指摘によって、APEC 2013についての写真が外務省サイトにおいて差替えられたとすれば、それはそれで面黒いことである。)

 中国におけるAPEC 2014において、習近平国家主席は当然のことであるが、オバマ大統領、プーチン大統領、ジョコ・ウィドド大統領が紫色の「新中装」で中央前列に並んだことが興味を引いた。同時に、このことは、アジア太平洋地域におけるパワーバランス?のようなもの?の変動が各国首脳レベルにおいて受容されていることを強く印象づけるものであった。各国首脳は、華夷秩序を理解した上で、服の色を認容したのであろう。わが国はいかがであったのか、気になるところである。

 他方で、わが国の首相が身に付けることのできる色には、自ずと上限が存在すると考えることも、もちろん可能である。私自身は、それが日本の伝統であるという理由から、この考え方が現実に存在している可能性を強く信じている。

 陰謀論と社会との関わりにおいて、シンボルという概念を利用する場合、シンボルを創出・構造化する側の理由ももちろん重要ではあるのだが、むしろ、シンボルを解釈し受容する側に(反)作用が生じるという事実に十分な注意が払われるべきである。シンボルが送り手の発信、受け手の受信という段階からなるという考え方は、十分に学際的に通用する概念であるから、私の拙い説明を加えるよりも、たくさん専門書を読んで欲しい、とお茶を濁しておく方が読者のためにもなるであろう。

2016年2月9日追記

自身の備忘のために記しておくが、3.11直後に渋谷の繁華街に多く見られたタギングの主は、おそらくウェブサイト『281_Anti Nuke』(リンク)のアーティストであろう。むろん、シンボルの持つ「力」を信じている人物でなければ、これほどの熱心さで作品を送り続けることは難しいであろう。

また、本文の一部について、意味の取りにくい部分に変更を加えたが、文意を変えないように注意したつもりであるので、アップ時の文章を変更したつもりはない。

なお、決して自慢するつもりはないが、APEC 2014の服装については、当時の時点で気付いていたことを述べておく。当時は、ブログを執筆するという動機にも機会にも恵まれていなかった。


※1 The predators behind the TPP | The Japan Times
http://www.japantimes.co.jp/news/2016/02/06/business/economy-business/predators-behind-tpp/
#本件については、ニュートラルに当初臨んだつもりであるが、大写しの写真が掲載されているのが、『The Japan Times』であったために、この記事を引用した次第である。本稿においては、写真そのもののソースとして上掲記事を利用しただけであり、他意はない。

※2 着物について | 高鳥修一 たかとり修一 (衆議院議員 自民党 新潟六区) 公式ブログ
https://takatori55jim.wordpress.com/2016/02/05/%e7%9d%80%e7%89%a9%e3%81%ab%e3%81%a4%e3%81%84%e3%81%a6/

※3 TPP署名式で赤っ恥 “坊ちゃん議員”高鳥修一副大臣の評判 | 日刊ゲンダイDIGITAL
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/174891
#本件については、端から現政権を批判したい訳ではないので、あからさまに現政権に対して批判的である『日刊ゲンダイ』を引用したくはないのであるが、夏用の着物を取り寄せたという準備に言及するメディアの記事が『日刊ゲンダイ』のほかにGoogleニュース検索で見つからなかったため、今回、引用した次第である。ほかにも引用源とできるだけの材料があるにもかかわらず、『日刊ゲンダイ』を引用することによって、現政権批判を行うという意図はない。

※4 maru on Twitter: "@simalis1 @koutarzz 次は和装でも正装の 裃か大紋でお願いします^ ^" https://twitter.com/marujpn/status/695059643890929665

※5 寮美千子 on Twitter: "国際会議に「和装」で出席することは歓迎です。皇族にも、そうしてもほしいくらいです。ただ、であれば、きちんと正礼装してほしい。チャラチャラした遊び着スタイルで出てほしくないです。日本文化を誤解されないためにも。 https://t.co/dOwRF34eX4"
https://twitter.com/ryomichico/status/696206919040520193

※6 TPP高鳥さんの和服見て/似合ってないというわけじゃないんですが | プロ野球2016 キモノの国のエクソダス
http://chidori.kimonomichi.com/?p=7964

※7 【国際】TPP署名式、日本政府代表は“和服姿”で登場★3©2ch.net
http://daily.2ch.net/test/read.cgi/newsplus/1454599471/

※8 色彩と色目(有職装束【綺陽装束研究所】
http://www.kariginu.jp/kikata/5-1.htm

※9 黒橡 くろつるばみ #544a47(原色大辞典)
http://www.colordic.org/colorsample/2272.html

※10 NIPPON COLORS - 日本の伝統色
http://nipponcolors.com/

※11 黄櫨染 こうろぜん #d66a35(原色大辞典)
http://www.colordic.org/colorsample/2235.html

※12 香色 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A6%99%E8%89%B2

※13 かさね色目(有職装束【綺陽装束研究所】
http://www.kariginu.jp/kikata/kasane-irome.htm

※14 Shuichi Takatori, wearing kimono and representing Japan, signs the... ストック動画・映像 | Getty Images
http://www.gettyimages.co.jp/detail/%E5%8B%95%E7%94%BB/shuichi-takatori-wearing-kimono-and-representing-japan-signs-%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%82%B9%E5%8B%95%E7%94%BB/508645634

※15  <APEC>首脳らが中国の民族衣装で夕食会に出席 - 中国国際放送局
http://japanese.cri.cn/881/2014/11/11/162s228825.htm

※16 昭恵夫人がAPEC夕食会でチャイナドレス、「中国女性的でステキ!」「両国友好のためにありがとう!」―中国ネット|中国情報の日本語メディア―FOCUS-ASIA.COM - 中国の経済情報を中心としたニュースサイト。分析レポートや特集、調査、インタビュー記事なども豊富に配信。
http://www.focus-asia.com/socioeconomy/photonews/401140/

※17 平成26年11月10日 北京APEC首脳会議出席等 -2日目- | 平成26年 | 総理の一日 | 総理大臣 | 首相官邸ホームページ
http://www.kantei.go.jp/jp/96_abe/actions/201411/10apec.html
#ページ内の写真をクリックして「歓迎式典1(代表撮影)」を参照。

※18 APEC 2014 | 外務省
http://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/apec/page22_001646.html

※19 APECのあゆみ(開催会議・日本からの参加者一覧) | 外務省
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/apec/ayumi.html
(2013年 開催国:インドネシア)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000016428.jpg
(2014年 開催国:中国)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000059338.jpg
(2015年 開催国:フィリピン)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000112665.jpg


0 件のコメント:

コメントを投稿

コメントありがとうございます。お返事にはお時間いただくかもしれません。気長にお待ちいただけると幸いです。