2018年7月21日土曜日

(書評)今秋の自民党総裁選に係る偶然?の一致について

今朝(2018年7月21日)の『日本経済新聞』4面(13版総合3)は、「自民党総裁選へ号砲/首相「憲法改正、大きな争点」/国会が事実上閉幕」という記事で、(言及した順に)安倍晋三・石破茂・岸田文雄の三氏の動向を解説しているが、これに先立つ『文春オンライン』[1]と『プレジデントオンライン』[2]の記事は、石破氏と小泉進次郎氏の両名が共闘することで、小泉純一郎氏が総裁の座を射止めたときのような逆転劇が起こるのでは、と示唆している。私から見れば、石破氏と進次郎氏の政策体系は、安倍氏のものとさほど変わらない。経済については、石破氏は、4月、持続可能性を考慮しながら、徐々に経済政策を変更する、と述べている[3]に留まる。憲法改正に係る内容とタイミングについて、石破氏と安倍氏には、相違点が見られるようであるが、本稿では立ち入らない。進次郎氏は、父親とは異なり、原発に対する明確な反対を表明するには至っていないし、石破氏も安倍氏も、原発賛成である。現時点のわが国の安全保障を考慮する上で、とりわけ、ロシア国防省特別管理局長のイーゴリ・トカレフ大佐が核実験を誤魔化す方法に言及している[4]現在では、プルトニウム爆弾の材料となり得る核燃料物質を国内に確保できるという点において、原発賛成・反対以外の差は、些事というべきでもあろう。

面白いのは、佐々淳行氏が『私を通りすぎた政治家たち』(2014年08月30日、文藝春秋)[5]において、将来に期待する政治家(ステイツマン)として、安倍氏・石破氏・進次郎氏の三名を挙げているところである。佐々氏は、同書において、原発ゼロを唱える純一郎氏について、晩節を汚すものと評価している〔pp.79-80〕。表向きゴリゴリのタカ派と呼べそうな元・高級官僚である佐々氏を、仮に、両建てのいずれに区分するかを考えれば、当然、Aチームとなろう。この佐々氏がステイツマン、すなわち「権力に付随する責任を自覚している人」〔p.8〕として推奨するのが、石破茂・安倍晋三・小泉進次郎・橋下徹・長島昭久の五氏である〔p.273の章扉の上から順〕。ここに見る一致は、偶然のものなのか、文藝春秋社の編集担当ラインとの共同作業によるものなのか。決して、佐々氏の見識だけに由来すると断言しないところが、私の見解における最重要点である。

両建て構造を運営する人物らの息のかかったイヌたちが社会の要所を押さえている環境において、政治家としての決定を下さざるを得ない人物は、真に優秀であるならば、この構造を乗りこなすことを前提に、言動を注意深く選び取るものである。佐々氏によれば、加藤紘一氏は、国を潰す種類の政治屋(ポリティシャン)であるそうだが、私には、佐々氏に口を極めて非難されるほどとは思えない(。人格的な非難は、どの人がどの人に対して行うに応じて、第三者からの印象を大きく変えるものである)。加藤氏が防衛庁の参事官会議に初参加したとき、

〔p.108〕

「若いころマルクス・レーニンにかぶれないのは頭が悪い人です。それから六〇を超えてもまだマ〔p.109〕ルクス・レーニンという人はもっと頭の悪い人です」という発言をした。〔…略…〕

という※1。しかし、仮にも佐々氏が、私ほどにゴリゴリの陰謀論者であり、社会に対して両建て構造を乗りこなす術を伝えようとしていたのであれば、加藤紘一氏に対する佐々氏の筆誅のあり方は、随分とマイルドになっていたであろう。というのも、この加藤氏の発言が本当であれば(、また私は、その内実を確認するのが億劫なので、このまま引用部分を信じてみるのだが)、この発言に対して、私なら、「百歩譲って、敵の論理を内在化しておくこと自体は有用であるにしても...」くらいの鷹揚さで、さりげなく加藤氏の発言を誘い受けするものであると匂わせておくからである。直情型の非難を加えることが、果たして、(元)インテリジェンス・オフィサーを自認する人物にとって、また、その経歴自体がわが国のトップ・インテリジェンス・オフィサーならびにトップ・エリート官僚を体現する人物にとって、相応しい振舞いであるのか。私は、佐々氏のこの記述に対して、随分と稚拙なものだなと感じてしまうのである。このように断定的な記述によって、読者に対して、逆に反発心と穿ち読みへの機運を覚えさせることが佐々氏なりの優しさであれば良いが、庶民と呼びうる程度に低い階級の多くの公務員たちは、佐々氏の記述を、容易に読み誤るのではないか。

佐々氏ほどに書けば売れるはずの人物であれば、もう少し、誰が読んでも立ち所に理解できるように、両建てを乗りこなすためのヒントを散りばめるべきであったろう。両建てを乗りこなすことは、日本国民にとって、今でも、相当に遠い目標なのだから。両建てのイヌと見える人々を摘示することは、まま大事ではあるが、普段のマスコミ情報だけでも(、私がまあまあ良く指摘できていると自認するように)、外形的にイヌと見える人々を嗅ぎ分けることは、そこまでは難しくないはずである(し、ほかの陰謀論者と呼べる人々も、それだけの結論に自力で到達していよう)。情報コミュニティの先達・第一人者を自認する人物であれば、そのような些末なアンチョコの類いよりも、より重要な心構え、すなわち、イヌと見える人たちの内心がいかなるものであるのかが、マスコミという情報中間業者の存在ゆえに、庶民にはなかなか読めないことをも指摘し、誰にでも分かるように、現時点のマスコミ=情報流通業者を的確に排除するための知恵を、後進に与えようと努力すべきではないか。ここに指摘するような、情報を取り扱う人物のプリンシプルを教示しようとする努力こそは、ノブレス・オブリージュというものでないか。ただ、ひょっとしてひょっとするとではあるし、私は、佐々氏が自身で訴えたように私費で本業を回す〔p.135〕ことにも賛成しないが、佐々氏は、同書の脱稿以後、私のような三下に非難されることまでを予期しながらも、汚れ仕事に徹しようとしているのかも知れない。しかし、重ねて指摘しておくが、私としては、この書籍を読み解けるだけの人物が、どこにどれだけいることなのやらと、随分と心許なく覚えてしまうのである(。しかも、本稿は、インフラこそ、Google様のおかげで無償で運用できているのであるが、現時点では、一文の得にもならないものである。)。


#なお、すっかり私事めいた記事が続き、申し訳なく思い、本稿を記してみた


[1] 安倍晋三首相の総裁選3選の唯一のリスクは小泉進次郎氏による石破茂氏支持の可能性か|ニフティニュース
(文春オンライン、2018年07月10日23時50分)
https://news.nifty.com/article/item/neta/12113-054764/

  • 安倍首相は出身派閥の細田派、麻生太郎氏の麻生派、二階俊博氏の二階派を固めたという
  • しかし、首相は焦っているらしく、旗幟を鮮明にしない岸田文雄氏に激怒したらしい
  • 首相の総裁選3選のリスクは小泉進次郎氏による石破茂氏支持で、焦りの淵源だという

[2] 安倍総裁3選を阻止するただひとつの方法 | プレジデントオンライン
(プレジデントオンライン編集部、2018年07月16日)
http://president.jp/articles/-/25637?page=3

17年前を知るベテランの自民党関係者の間では「当時の橋本氏と今の安倍氏が似ている」というささやきが漏れる。橋本氏は、永田町内の「数の力」では圧倒的優位に立っていたが、熱狂的な支持はなかった。今の安倍氏も「ほかにいい人がいない」という消極的な支持に支えられている。別に魅力的な選択肢が出れば形勢が一気に変わるかもしれないのだ。〔#記事終〕

[3] 財政・金融政策の激変策は採らない=石破元自民幹事長 | ロイター
(竹本能文、編集:田巻一彦、2018年04月06日15:02)
https://jp.reuters.com/article/ishiba-financial-policy-idJPKCN1HD0KD

自民党の石破茂・元幹事長は6日都内で講演し、「(首相が)石破になると消費税を上げ、金融緩和をやめて、世の中大不況になると言う人がいるが、そのようなことは言っていない。激変するような政策を採って良いとは思っていない」と述べた。政権運営への意欲を示すと同時に、アベノミクスの経済政策に急激なブレーキはかけない意向を示した。

同時に「大胆な金融緩和も機動的財政出動も、未来永劫続くものではない」と述べ、政策の持続可能性を重視した。

[4] 核保有国はどうやって核爆弾の実験を隠しているか 露国防省が明かす - Sputnik 日本
(スプートニク日本、2018年05月11日21:58)
https://jp.sputniknews.com/world/201805114869300/

[5] 佐々淳行, (2014.8). 『私を通りすぎた政治家たち』, 東京: 文藝春秋.
http://id.ndl.go.jp/bib/025647994




2018(平成30)年08月13日追記

※1 加藤紘一氏のマルクス・レーニンへの評価は、ウィンストン・チャーチルによるとされることもある、社会主義に対する金言[1]をもじったものかも知れない。


[1] Unquotes - MarkShirey
(2018年08月13日確認、Mark T. Shirey)
https://sites.google.com/site/markshirey/unquotes
なお、マーク・シェリー氏のブログの存在は、ケイト・カルザース氏のブログ経由[2]で知った(。両名ともカタカナ読みとして正しいか、心許ない)。

[2] Alleged quote by Churchill: on being a socialist or conservative | Aide Memoire
(Kate Carruthers、2005年02月11日)
https://katecarruthers.com/2005/02/alleged-quote-by-churchill-on-being-a-socialist-or-conservative/

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