2017年6月6日火曜日

一帯一路の広義のセキュリティにわが国が貢献する余地はある

#この文章は、外す可能性の高い予想を多く含むため、(元より復帰は限りなく望み薄であるが、)本来、学者としては書くべきではない文章である。「当たるも八卦」というヤツである。しかし「お代はタダ」でもある。現在の混沌を見通し、(西・北)日本までが決定的な終わりを迎えないためには、まったくのゴミという訳ではないものと考える。私の説の全体的な信憑性については、本ブログの過去の記事によって判定されたい。福島第一原発事故について、小泉純一郎氏を微妙に好人物として評価してしまったこと(2017年3月25日)が、「事故当時」と断りを入れたものの、何とも微妙である。これは、前振りのつもりである。


世界的に見れば、戦争屋は予断を許さない勢力を保持している。このために、「両建て構造」を知る論者には、全世界において、戦争屋の勢力を減じるような言論活動が求められている。たとえば、英国やフィリピンの直近の事件に対しては、テロを許さないという態度表明が必要となる。米国事情については、ジャレド・クシュナー氏が賛成・主導する政策については、とりわけ、その裏を把握しておく必要がある。

問題は、日本の状況が政治について捻れており、日本人の圧倒的大多数が、評論家や専門家を含め、「真のワル」である戦争屋勢力を同定できていないことにある。現在、安倍晋三政権の下に強力に結束してきたかのように見える自民党所属の政治家の一部や、公明党の政治家らは、小池百合子氏や橋下徹氏などの地方勢力と接近しつつある。マスコミによって形成された小池百合子氏や橋下徹氏のイメージは、腐敗していた地方政治に新風を吹き込んだという、クリーンな状態に留められている。他方で、安倍政権は、完全に、抑圧的な警察国家の様相を帯びたものとしてマスコミに描かれており、TPP11の推進にこだわり続けるなど、あたかも旧来の戦争屋と同一のものであるかのようである。

この現在の混沌は、安倍派と小池・橋下派との争いであるとして単純化すると、理解し易くなる。ただ、この単純化は、東京都民と大阪府民に向けたものであって、「中央」意識の内面化を強制しかねないものである。それに、この戯画化は、旧ジャパン・ハンドラーズの思考を再現したものではあるが、『国際秘密力研究』の「菊池」氏のいう「両建て戦術」でもあるから、取扱には十分注意しなければならない。

小池・橋下派には中央政界の人物がいないではないかという指摘は、もっともであるが、次のように考えてみれば良い。安倍一強の自民党内で若手ホープが対抗勢力として台頭し、東京では小池新党と、大阪では大阪維新の会と、それぞれに手を組み、橋下氏が中央政界に打って出るというシナリオはどうか。これは、まあまあ現実的なように見えてくるから不思議である。(ごく簡単に、2017年4月26日の記事で触れたが、)今年3月末のDCのCSISにおける橋下氏の講演は、国際舞台に彼を改めて印象付けるための装置であった。この「若手ホープ」(という仮想的存在)を、国政における小池派に配置してみると、今後、国政においても戦争屋の手先がふたたび主流派を形成する危険性は、現実のシナリオとして考慮しておくべきものとなる。私が本ブログでこの話をくり返すのは、手品のトリックを説明することにより、手品師のネタ切れを狙う効果を期待してのものである。


カネ儲けの方法が外形的に同一であるという点で、安倍政権と旧ハンドラーズ率いる戦争屋を峻別することは難しい作業となる。(個々の作戦の詳細についてはともかく、カネの流れについての積極的な情報開示のないセキュリティ・ビジネスについては、それだけで十分な疑いを持たれても仕方がないし、その業態にお墨付きを与える専門家も、利益相反性を疑われても仕方がない。)先述した「若手ホープ」の金脈は、現・安倍政権と同様に、特区ビジネスに加え、株式市場に影響を与えるような政策を通じた「ショック・ドクトリン」となろう。現に、特区制度は、農政分野をも対象に拡げようとしている。両者の手法が同形であるために、両者を峻別することは難しい。しかし、現在のところ、両者がビジネス上で競合する別のグループであると認められるエピソードは、いくつか認めることができる。

安倍政権と戦争屋が互いに類似しつつも競合的であることを示す一つの事例は、一帯一路における広義のセキュリティ産業に係る両者の距離感である。F・ウィリアム・イングダール氏(F. William Engdahl)は、実体が民間軍事企業(PMC)であるフロンティア・サービシズ・グループ社(FSG)が新疆ウイグル自治区と雲南省に事業所を設置すること、旧ブラックウォーター社の共同創業者であったエリック・プリンス氏(Eric Prince)が同社の会長を務めていることを伝えている[1]、※1。他方、安倍晋三氏は、本日(2017年6月6日)付『日本経済新聞』で、「公正で透明な調達がされ」「プロジェクトに経済性があ」り「借り入れ国が債務を返済可能で財政の健全化が損なわれない」限り、「日本企業が同構想〔#一帯一路〕に関わることを、日本政府が妨げない考えを示した」[2]という。他方、水陸両用の救難飛行艇「US-2」[3]は、性能の高さゆえに海賊対策への利用が期待されているといわれる[4]が、現時点で、インドへの輸出交渉は停滞しているとされる[5]。この報道に先立ち、2017年5月24日、JR東海名誉会長の葛西敬之氏、インド工業連盟のバネルジー会長、アーミテージ元米国務副長官らが首相官邸を訪問したことも報道されている[6]。旧ブラックウォーター社の訓練センター機能を承継したコンテリスグループは、同社のウェブサイトに示された世界地図[7]の説明で「40ヵ国以上17000人」が活動していると述べているが、その状況を肉眼で(適当に)確認する限り、中東以東の次の国々では、操業していないようである:ニュージーランド・パプアニューギニア・オーストラリア・日本・北朝鮮・モンゴル・フィリピン・台湾・ベトナム・ラオス・タイ・ミャンマー・ブータン・タジキスタン・ウズベキスタン・トルクメニスタン・イラン・ジョージア。他方、韓国・中国・ロシア・カンボジア・マレーシア・インドネシア・ネパール・インド・バングラデシュ・パキスタン・アフガニスタンでは操業していることが示されている。カタールは判別できない[8]。シリアとトルコでは活動している。わが国の相対的な特殊性は、このような「棲み分けられた状況」にも現れているものと言えよう。

#ここに示した国名については確実と思うが、国土の狭小な国々については、正確性は保証できない。また、一部に同グループとプリンス氏との関係性がないとの指摘も見られるようであるが、私のようなアホにでも分かるように明快にその関係性が否定されている訳ではない。

安倍政権と関係の深い政商グループにとっては、一帯一路のインフラ建設で得たコネクションを元に、防衛装備移転三原則のテコ入れを図るという考えは、ごく自然なものであろう。インフラ建設で取得された知識を「日本」企業グループ内部で共有しやすくして、それらのインフラ警備を日本企業が行い、そこで必要な装備一式を日本から輸出することは、わが国の側の都合で妨げられることはなくなっている。われわれ日本人の大多数がアラビア語を読み書きできないのと同様に、大多数の無学な非漢字圏人口が漢字を判別するのに苦労することは、一帯一路におけるセキュリティ上の障壁として作用する。一帯一路の安全は、わが国のエネルギー政策の安定性にも寄与する※2から、その安定性に寄与する協力は、関係国にとって、ウィン・ウィンとなるとは言えよう。

エネルギー政策と日中関係とを考慮すると、戦争屋と日本国内の戦争屋は、離合集散する関係にある。FSG社は、香港拠点で上海閥であると見做されている。もっとも、中国政府は、FSG社による国内外の本業そのものを保証すると同時に、マッチポンプの「マッチ」に相当するような活動を許さないであろうし、日本企業の一帯一路への参画についても、一帯一路を通じて得られる中国の核心的利益を侵さぬように工夫を凝らすであろう。FSG社は、最早アメリカの国益とも一心同体の存在ではないと推測されるが、この構図は、舞台と参画主体の配置こそ違えど、満州における鉄道利権の再現のようである※3。南シナ海という海路においては、中国が軍事的プレゼンスを決定的なものにしているものの、日中戦争における関東軍や大日本帝国陸軍のように、結果的に、中国が自分から実力行使することまではしないであろう。ただし、プリンス氏の経営実績そのものを考慮すれば、一帯一路において、謀略や暴発は、常に生起するものと見るべきである。ビジネスに従事すること自体が悪であるとまでは言わないが、周囲に不信感を以てその行動を判定されることは、彼に過去を償うだけの善行を聞かないし、人命に直結するビジネスであり、規模が世界的であるだけに、当然の反応である。


フィリピンのカジノにおける自称イスラム国によるテロ事件[9]は、当局に否定こそされているが、戦争屋とその対抗陣営との争いが端的に表れたものと見ることができる。カジノのチップを大量に奪うことは、当日の客の勝負が水入りとなる状態につながる。この背後関係を十分に捜査するためには、時間上の余裕が必要となる。いくらシャブ中の外国人といえども(というよりも、娯楽メディア漬けのヤク中なら、なおのこと)、チップの換金が個人では不可能であることは、知るところであろう。同国にFSG社が展開していないのは、何ともの偶然の一致である。

フィリピンは、一帯一路上の地理的な位置付けにおいて、わが国よりも厳しい条件にある。それゆえ、フィリピンは、わが国以上に中国と上手く折り合いを付けざるを得ない。また、マレーシアやインドネシアという「隣国」(隣国の定義が難しいが)は、イスラム教が主流派でもある。これらの不利な条件ゆえに、敵を同じくするわが国が「海のシルクロード」の安全保障において、同国に従来とは桁の異なる協力を申し出ることは、敵である戦争屋の増長を避ける上で賢明である。(台湾も同等の条件にあるものと言えるが、台湾の位置付けは中国にとって核心的な利益を構成するから、この点についての見極めが必要である。)

#以上、まとまりのない文章であるが、世の中の動きが激しいので、致し方ない。


※1 日本語訳が『マスコミに載らない海外記事』ブログにある[10]。旧ブラックウォーター社は、軍事教練・警備等を請け負う総合軍事企業であったが、紆余曲折を経て、現在では、トレーニングセンター機能がコンステリスグループ(CONSTELLIS)の一部門として存続している[11](ようである)。

※2 いつも興味深く思うことは、エネルギー問題を論じる「保守」の一部が、常に自然エネルギーに対して後ろ向きであり続けてきたことである。わが国が独自で核開発・装備する虞は、国際的に共有されており、核燃料サイクルの実施に対しても、日本国内だけで核燃料サイクルを完結させまいとするような圧力(協調体制)が現実に存在する。第二次世界大戦をアジアにおいて惹起した国を放置することなどあり得ないので、これは当然の警戒である。そうである以上、自然エネルギーの方が、はるかにエネルギーの自給を達成する上で容易な道筋である。にもかかわらず、エネルギーの安全保障を叫ぶこれら「保守」の一部から、全くといって良いほど、この点についての整合的な説明が示されたことはない。

※3 一帯一路の「一帯」は、幅広のベルト地帯であるから、「線形都市(La Ciudad Linear)」などの構想がピッタリの開発になり得る。一つのルート内においても、競合する第二の鉄道路線が建設されることがあらかじめ想定されている点に、注意が必要であろう。JR東日本のように、既存の競争優位性を利用して駅ナカで惹き付けるという方法が可能であるかどうかは、進出前に厳しく問われて良かろう。何より、JR東海は、新幹線に品川駅や東京駅から乗車すれば簡単に体験できることであるが、JR東日本に比べてその立地のポテンシャルを十分に生かした商売を展開できていない。それに、グリーン車において『Wedge』を無料で配布するという姿勢は、いかにもチグハグな印象を「保守的な」日本人以外の乗客に与えるものであり、一帯一路プロジェクトにおいては、商売の妨げになるであろう。


[1] Beijing Hires Princely Fox to Guard their OBOR Henhouse | New Eastern Outlook
(Author: F. William Engdahl、2017年04月30日)
http://journal-neo.org/?p=74064

[2] 『日本経済新聞』2017年6月6日朝刊14版1面(記名なし)「一帯一路に協力姿勢/首相、公正さなど条件/日本企業の参画妨げず/第23回「アジアの未来」」
http://www.nikkei.com/article/DGKKASFS05H16_V00C17A6MM8000/
#日本経済新聞社が5日から主催している第23回国際交流会議「アジアの未来」5日の晩餐会の演説における内容の独占的紹介である。

[3] 海・空・陸をつなぐUS-2 | 航空機事業 | 新明和工業株式会社
(海・空・陸をつなぐUS-2 | 航空機事業 | 新明和工業株式会社、2017年06月06日12時22分)
https://www.shinmaywa.co.jp/aircraft/us2/
#飛行速度480km/h、航続距離4500kmで3mの波高の海面に着陸可能。

[4] インドはUS-2を救難なんかに使わない: 数多久遠のブログ シミュレーション小説と防衛雑感
(数多久遠、2013年04月03日)
http://kuon-amata.cocolog-nifty.com/blog/2013/04/us-2-4496.html

[5] 救難飛行艇の輸出交渉暗礁 印が価格面で難色 (産経新聞) - Yahoo!ニュース
(2017年05月31日07時55分)
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170531-00000076-san-pol

政府が進めてきた海上自衛隊の救難飛行艇「US2」〔#新明和工業〕のインドへの輸出交渉が暗礁に乗り上げていることが30日、分かった。インド政府との交渉開始から約5年たつが、機体価格の高さなどを理由にインド側の熱意が冷めつつあり、頓挫する恐れが出てきた。平成26年4月の防衛装備移転三原則の閣議決定で防衛装備品輸出に道を開いたが、大型輸出案件はゼロで、体制の見直しが迫られそうだ。

[6] 5月24日(水):時事ドットコム
(2017年06月06日確認)
http://www.jiji.com/jc/v2?id=ssds201705_08

午後1時27分、官邸着。

午後1時28分から同58分まで、自民党の山本拓、渡辺博道両衆院議員、片山さつき参院議員。同59分から同2時21分まで、葛西敬之JR東海名誉会長、インド工業連盟〔Confederation of Indian Industry, CII〕のバネルジー会長〔#Mr. Chandrajit Banerjee, Director General〕、アーミテージ元米国務副長官ら。

[7] Constellis - Home
(Constellis - Home、2017年06月06日19時20分)
https://constellis.com/
#「Serving clients across the globe」の項の地図による。

[8] 中東主要国が「テロ支援」でカタールと断交、イラン反発 | ロイター
(ロイター、2017年06月06日16:31JST)
http://jp.reuters.com/article/quatar-gulf-tie-idJPKBN18W0D7

サウジアラビア、エジプト、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーンは5日、テロリズムを支援しているとしてカタールと国交を断絶した。〔...略...〕4カ国の協調断交に続き、イエメン、モルジブ、およびリビア東部を拠点とする世俗主義勢力もカタールと断交した。〔...略...〕イランはトランプ米大統領のサウジ訪問が断交につながったと批判している。

[9] フィリピン首都のカジノ襲撃、火災で37人死亡 当局はテロ否定 写真13枚 国際ニュース:AFPBB News
(AFP、2017年06月02日20時45分)
http://www.afpbb.com/articles/-/3130583

〔...略...〕カジノ施設「リゾーツ・ワールド・マニラ(Resorts World Manila)」で2日未明、銃で武装した男が賭博室に放火した〔、37人が死亡〕。事件についてはイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」が犯行声明を出したが、当局はテロ攻撃ではないと主張している。

〔...略...〕

マニラ首都圏警察のオスカル・アルバヤルデ(Oscar Albayalde)本部長は、「容疑者は白色人種のようだ。英語を話し、体格のよい白人であるところからみて、おそらく外国人

[10] 一路一帯という鶏小屋の番人に、かなりのキツネを雇った北京: マスコミに載らない海外記事
(2017年5月 8日、2017年06月06日09時16分)
http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/2017/05/post-a901.html

[11] Constellis - Overview
(Constellis - Overview、2017年06月06日20時36分)
https://constellis.com/who-we-are/overview

Constellis was formed in 2010 by a group of operators and investors who sought to combine best-in-class brands, assets and people within the complex risk management industry. Promoting a culture of compliance and operational excellence, the Constellis family of companies has grown since formation to include a global team of industry leaders, including ACADEMI Training Center, International Development Solutions, Triple Canopy, Edinburgh International, Strategic Social, National Strategic Protective Services, and Olive Group.




2017(平成29)年6月7日追記

橋下徹氏の事実関係について、賢明な読者は、私が記述を一面的なものとしたことを見抜いておられるであろう。「両建て戦術」の内幕を「暴く」ために、あえて橋下徹氏のスタンスを上掲のように記述したのである。小池←旧ハンドラーズ→橋下という指揮命令系統から形成される緩やかな連携状態を措定すると、小池氏と橋下氏との不即不離の関係も説明しやすいのである。この解釈は、本日付の『読売新聞』が「存在感希薄 焦る維新/2017都議選/立候補予定者 辞退続出」(記名なし, 34面社会, 朝刊14版)により補強される。日本維新の会が来る都議選における存在感を打ち出せていないとして、地域政党の座に留まるのではないかという関係者の懸念を報じたものである。


ところで、わが国は、一帯一路の新幹線のグリーン車で無料配布しても恥ずかしくない言論誌を用意できるのであろうか。これは、もちろん嫌味である。葛西氏のお気に入りの全員に全力投球させたとしても、無理ではないか。中央アジア事情について、現時点でまともに物を書くことのできる論壇人なる存在は、わが国には居住していないように思う。

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