2017年5月12日金曜日

トランプ政権内のゴタゴタがまた報じられることには警戒が必要である

韓国における終末高高度防衛ミサイル(THAAD, Terminal High Altitude Area Defense missile)の費用負担を巡り、トランプ米大統領とマクマスター大統領補佐官(国家安全保障)との意見に相違が見られた、トランプ氏がマクマスター氏に立腹しているとの記事が『朝鮮日報 日本語版』[1]に見られるが、この記事の出典は、エリ・レイク(Eli Lake)氏によるブルームバーグのコラム[2]である。『朝鮮日報 日本語版』の11日の記事は、レイク氏の8日のコラムを正確かつ必要十分に要約している。このため、ここで指摘されているトランプ政権内のゴタゴタに係る真偽の正確性は、専ら、レイク氏の記事に依存することになる。レイク氏の業績や同氏に対する批判等は、『Wikipedia』英語版[3]に出典とともに詳しく記されている※1

エリ・レイク氏は、『New York Sun』、『United Press International』[4]、『ワシントン・タイムズ』[5]、『ニューズウィーク』および『デイリー・ビースト』を経て『ブルームバーグ』という経歴を有するジャーナリストであるが、その記事に対しては、誘導的であるとの複数の批判が寄せられている。たとえば、ベンガジ事件に係るレイク氏の報道は米軍の能力を不当に過大視している、とのエミリー・アローウッド氏(Emily Arrowood)の指摘がある[6]。ケン・シルバースタイン(Ken Silverstein)氏は、レイク氏への批判の急先鋒であるが、レイク氏がオサマ・ビン=ラディン殺害事件に係るオバマ政権の公式発表を都合良く利用して政治的アジェンダを流布しようとしたのではないか、と批判している[7]。また、シルバースタイン氏は、レイク氏がジョージア(元のグルジア共和国)の米国ロビイストに食事代を奢られていたことをシルバースタイン氏が指摘[8]して以来、レイク氏との仲が悪化したことを付言している[7]

なお、米国では、権力者とマスコミが食事をともにすることがジャーナリストの理念に反するものとの理解が共通するようであるが、わが国では、少なくとも大マスコミにおいては、この考え方は失われている。『ワシントン・タイムズ』の記者でもあった[9]Takehiko Kambayashi氏は、ビル・コヴァッチ氏とトム・ローゼンスティール氏の共著『ジャーナリズムの原則(The Elements of Journalism)』[10](引用は英文)を挙げて、メディア関係者の安倍晋三氏との会食をメモしている[11]。なお、同書の概要は、NPOのアメリカ報道協会(American Press Institute)のブログにも要約されており[12]、いくつかの賞を受賞しているようであるから、アメリカにおけるジャーナリズムの理念を端的に示すものと解釈して構わないであろう。他方、安倍晋三氏の「寿司友マスコミ」などとの「会食」については、山本太郎氏がかなり詳しく追及した[13]ものの、それに対する政府の答弁書[14]は、ほとんど何も回答していないと解釈して良い内容である。しかし、これを十分に報じることによって自己検証機能を発揮した大マスコミは皆無であるから、米国ジャーナリズムのこの理念は、日本語マスメディアにおいては、実質的に死滅しているとしても良かろう。

このとき、米国水準のジャーナリズムに到達していないと批判されるレイク氏のインサイダー記事は、われわれ日本人には、なおのこと、理解し難いものである。トランプ政権内の人物のうち、トランプ氏とマクマスター氏との対立から、不利益よりも利益を得ることになる者であれば、トランプ政権のゴタゴタを表沙汰にしてでも、レイク氏のような風評のあるジャーナリストを通じて、政権内における不協和を表にすることを望むかも知れない。マクマスター氏自身は、米軍人の一人一人にも責任を負う身であるから、率先してこの種の軋轢を公表する理由を持たないであろう。ただ、現今の米日関係を繋いだと噂されたコネクションまでを含めて考察すれば、答えは自ずから導けそうなものである。

このような「情報戦」にインサイダーの情報提供者が勝利したとしても、よほどのことがない限り、マクマスター氏の後任も、米国(民)に対して真に忠実な人物が推挙されることになろう。もはや、アメリカの安全を担う人物や組織は、末端レベルに至るまで、両建て戦術を弄する国際秘密力集団の手口に気が付いてしまっている。よほど後ろ暗いところがある人物が抜擢されない限り、後任の米軍関係者も、同胞を国際秘密力集団に売り渡すことはできないであろう。ただ、米軍が動かない代わりに、日本人が海外派遣され、そこで(シリアの「白ヘルメット」らによるもののような)偽旗作戦が仕組まれ、日本人が巻き込まれるというシナリオは、ますます現実味を増しているということになる。日本人は、このゴタゴタを他山の石として警戒すべきではあろう。


※1 現存する人物に係る『Wikipedia』のルールや、このルールがかなり厳格かつ政治的に利用されている日本語版の情況からすれば、奇異に映るかも知れないが、事実として、本記事で参考にした内容への出典が記されている。


[1] THAAD:「トランプ大統領、韓国費用負担発言覆したマクマスター氏に激怒」-Chosun online 朝鮮日報
(ナム・ジョンミ、2017年05月11日08時10分)
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2017/05/11/2017051100516.html

[2] Washington Loves General McMaster, But Trump Doesn't - Bloomberg
(Eli Lake、2017年05月08日14:44:34.337Z)
https://www.bloomberg.com/view/articles/2017-05-08/washington-loves-general-mcmaster-but-trump-doesn-t

[3] Eli Lake - Wikipedia
(2017年05月12日閲覧)
https://en.wikipedia.org/wiki/Eli_Lake

Eli Lake - Wikipedia

[4] United Press International - Wikipedia
(2017年05月12日閲覧)
https://en.wikipedia.org/wiki/United_Press_International

[5] The Washington Times - Wikipedia
(2017年05月12日閲覧)
https://en.wikipedia.org/wiki/The_Washington_Times

[6] How Eli Lake Blundered His Daily Beast Benghazi Report
(Emily Arrowood、2013年11月07日10:16 EST)
https://www.mediamatters.org/blog/2013/11/07/how-eli-lake-blundered-his-daily-beast-benghazi/196778

デイリー・ビーストの寄稿者であるエリ・レイクは、オバマ政権がベンガジにおけるテロリスト達の攻撃への対応において、十分な軍の支援を送らなかったという「深刻な失態」をしでかしたのではないかと主張した。しかし、レイクの主張は、共和党に主導され確定された事件のタイムラインに基づくものであるが、事件当日の夜の実施状況よりも早期に、または、より多数の兵力を差し向けることが不可能であった、と軍のリーダーたちが語っていることを、まったく考慮しないものである。
#本文の意を損なわないように和訳したつもりであるが、逐語訳ではない。

[7] [Controversy] | Anatomy of an Al Qaeda “Conference Call,” by Ken Silverstein | Harper's Magazine
(Ken Silverstein、2013年08月15日15:58)
https://harpers.org/blog/2013/08/anatomy-of-an-al-qaeda-conference-call/

多くのレポーターが政府の説明を出版しようと急いだ。だがしかし、レイクにとって、この政府説明は、強力な政治的アジェンダに満ちた情報源からの疑わしい話を、誤解を招きかねないように埋め込むという職業キャリア上のパターンに合致するものであった。

[8] Neoconservatives hype a new Cold War - Salon.com
(Oct 5, 2011 12:30 PM EDT)
http://www.salon.com/2011/10/05/neoconservatives_hype_a_new_cold_war/

[9] Japan's ex-leader calls for changes home, abroad - Washington Times
(The Washington Times、2006年06月15日)
http://www.washingtontimes.com/news/2006/jun/15/20060615-095702-8777r/

[10] NDL-OPAC - 書誌情報
(ビル・コヴァッチ、トム・ローゼンスティール〔著〕, 加藤岳文・斎藤邦泰〔訳〕, (2002年12月)『ジャーナリズムの原則』, 東京: 日本経済評論社.)
http://id.ndl.go.jp/bib/000004008352

[11] PM Abe’s Wining & Dining with journalists – Takehiko Kambayashi
(Takehiko Kambayashi、2016年10月23日11:45+00:00、更新2017年05月07日19:56+00:00)
https://takehikok.com/dining-wining/

[12] The elements of journalism - American Press Institute
(American Press Institute、2013年10月09日)
https://www.americanpressinstitute.org/journalism-essentials/what-is-journalism/elements-journalism/

[13] 質問主意書:参議院
(第188回参議院質問主意書質問第12号、山本太郎、2014年12月24日)
http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/188/syuh/s188012.htm

新聞報道によれば、安倍首相は第二次安倍内閣発足以降、全国紙やテレビキー局といった報道各社の社長等の経営幹部や解説委員、論説委員あるいは政治関連担当記者らとの「会食」を頻回に行っていることが明らかにされており、この二年間で安倍首相とこのような報道関係者らとの会食は、実に四十回以上にも及び、歴代首相の中でも突出した頻度であると指摘されている。メディア戦略を重要視しているとされる安倍首相であるが、政権のトップとメディア関係者の親密な関係、政治家とメディアの癒着が、報道の中立公正公平、不偏不党の観点から批判の対象となることは、今や欧米などの先進諸国においては常識であり、安倍首相のこれらの行動は、国際的な常識から見ても極めて奇異であると言わざるを得ない。また、報道関係者以外にも、安倍政権の推進する政策と利益相反関係にあると国民から疑われかねない企業、団体幹部と安倍首相との「会食」が行われている事実も報じられており、これら一般常識から逸脱した安倍首相の行いについて、安倍政権は国民に対して真摯かつ誠実な説明をすべきであると考える。以上を踏まえて、安倍首相が行っているこれらの報道関係者さらには利益相反関係にあると国民から疑われかねない企業、団体幹部らとの「会食」に関して、政府としてはいかなる現状認識を持っているのか、その見解を明らかにされたく、以下質問する。

一 特定秘密の保護に関する法律(以下「特定秘密保護法」という。)が成立した平成二十五年十二月六日の十日後に当たる平成二十五年十二月十六日、安倍首相は報道関係者らと東京・赤坂の中国料理店で会食を行ったとの報道があるが、これは事実か。事実であるならば、その会食を企画し呼び掛けた者の氏名とその所属、参加した全ての出席者の氏名とその所属及び会食に要した全金額を具体的に明示されたい。加えて、その費用を自己の飲食した割合以上に支出した者、あるいは自己の飲食した割合以下しか負担しなかった者がある場合には、その当該者の氏名及びその所属を全て明らかにされたい。特に、安倍首相が飲食したものに関する費用については、それを負担した者の氏名及びその所属、安倍首相自身が負担したのであれば、その費用の出処について具体的に明らかにされたい。また、これらの質問に対して答弁できない場合は、その理由を具体的根拠を示して国民の納得できる形で明らかにされたい。

二 安倍晋三氏が首相に就任して初めて靖国神社を参拝した平成二十五年十二月二十六日、安倍首相は報道関係者らと東京・赤坂の日本料理店で会食を行ったとの報道があるが、これは事実か。〔...略...〕

三 消費税増税が施行された平成二十六年四月一日及び翌四月二日、安倍首相は報道関係者らと東京で二日続けて会食を行ったとの報道があるが、これらは事実か。〔...略...〕

四 安倍首相の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」が集団的自衛権行使を容認するよう求めた報告書を提出したのを受けて、安倍首相自ら臨時記者会見において集団的自衛権に関する検討を公式に表明した平成二十六年五月十五日、安倍首相は報道関係者らと東京・西新橋のすし店で会食を行ったとの報道があるが、これは事実か。〔...略...〕

五 平成二十六年十二月十四日に行われた衆議院議員総選挙の二日後に当たる十二月十六日にも、安倍首相は報道関係者らと東京・西新橋のすし店で会食を行ったとの報道があるが、これは事実か。〔...略...〕

[14] 質問主意書:参議院
(安倍晋三、内閣参質188第12号、平成27(2015)年01月09日)
http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/188/touh/t188012.htm

一から五まで及び九について

御指摘の「会食」については、政府として企画等を行っておらず、その費用も支出していないことから、お尋ねについてお答えすることは困難である。




2017(平成29)年05月12日18時追記

レイク氏の記事がバランスに欠けたものであるか、あるいは国際安全保障を担当するプロとしては能力不足であることを示す兆候は、前FBI長官のジェイムズ・コミー氏(James Comey)に係る論評記事の中にも見出すことができる。サイバー攻撃の「犯人」をロシアとして名指しするにもかかわらず、当時から話題になっていた『Vault 7』を念頭に置いた言及が見られないのである。『Vault 7』の公開により、IPアドレスの詐称が可能という攻撃方法が存在することが(より)広く知られるようになった。攻撃の発信元のIPアドレスが特定国に割り振られたものであるからといって、攻撃者をその国の人物であると断定できなくなっているのである。この技術的な特徴を踏まえないサイバー攻撃の解説は、もはや、容認されない。

[15] Comey Is Now the Most Powerful Person in Washington - Bloomberg
(Eli Lake、2017年03月22日14:38:48.598Z)
https://www.bloomberg.com/view/articles/2017-03-22/comey-is-now-the-most-powerful-person-in-washington

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