2017年5月7日日曜日

嘘と過ちとは、事後の訂正の有無によっても弁別される(1)

浪江の山火事にまつわる話は、方々に「飛び火」し、ロシアのメディアである『スプートニク日本』にも影響が及んでいる。同紙は、カナダのアルバータ州における2016年5月1日以降の森林火災[1]と思しき写真を、浪江の山火事を報じる記事[2]の冒頭に掲載していたようである。これを「taka.iwata(@taka_x_taka)」氏がスクショして咎め立てたところ[3], [4]を、ニセ科学分野に係る著書のある左巻健男(@samakikaku)氏が「taka.iwata」氏に同意するものと認定できる形でリツイートしている。変更の詳しい経緯については、原本を参照できないために言及しかねるが、『スプートニク日本』は、この記事の冒頭の写真を、後に、福島第一原発事故のものであると明確に認められるものに差し替え、当該のツイートを削除している※1

『スプートニク』は、ごく最近になって突然、わが国の主流メディアにより、オルト・メディア※2扱いされるようになっている。福島第一原発事故から現時点までの間、「西側」メディアの一員である日本語主流メディアは、『スプートニク』自体にほとんど言及してこなかったが、仏大統領選を契機として、日本語メディアによる同紙への否定的な言及がメインストリーム上に掲載されるようになった※3。一例として、2017年5月5日のTBS『Nスタ』は、フランス大統領選に関係して、『Sputnik』のフランス語版がマクロン氏のゲイ疑惑を報じたことを指摘するとともに、マクロン陣営へのロシアからのクラッキングを警告するトレンドマイクロ担当者のインタビューを報じている※4

『スプートニク』に対する日本語主流メディアの劇的な態度の変化は、およそ、プロの同業者に対して向けられるべきものではない。『スプートニク』がロシア政府の意向を宣伝するプロパガンダ用のメディアであるという認識は、日本経済新聞の秋田浩之氏が、欧米主流メディアの名を借りる形で、創設時に示している[5]。しかし、その後、第二次安倍政権下の日本語主流メディアが、軒並み、安倍政権の圧力に負けて、福島第一原発事故についての重要情報を日本語で提供しようとしてこなかったことを鑑みれば、日本語メディアによってプロパガンダ機関とのレッテルを貼られた『スプートニク』の方が、よほど、日本国民の利益に合致する形の報道を続けてきたことになる。無論、『スプートニク』の側にも深謀遠慮があり、日本語マスメディアの不作為に付け入り、日本国民をまんまと洗脳した、と考えることも可能ではあり、冒頭に紹介したようなネット雀の一部の吹き上がりの中にも、一種のカウンター工作が含まれているのかも知れない。しかし、今回のフランス大統領選報道に悪乗りする形で、日本語主流メディアが『スプートニク』を攻撃することは、かえって、忖度のし過ぎでジャーナリスト魂を失った日本語マスコミ関係者が『スプートニク』に対して嫉妬するあまりに仕組んだことではないか、との邪推を招くことになろう。

この『スプートニク』を巡る報道の構図は、いじめっ子の一群が、首謀者の方針転換によって、それまで完全にシカトしていた外国人の同級生を突然に囃し立て始めるという、学校内で見るようないじめと、完全に同形である。宣伝戦という条件を考慮しなければ、この構図が健全であると主張することは、いくら何でも不可能であろう。しかも、宣伝戦という条件を考慮したからとて、日本語市場において先行する日本語主流メディアが日本国民の味方ではないし、現時点の日本国政府にとっても頼もしい味方ではない。現時点の日本のマスコミは、政府にとって、単に、稼働中であるから使われているに過ぎない、使い捨て(expendables)の存在である。

日本国内における政府・国民・マスコミの三者が互いに味方ではないという現状を考慮したとき、『スプートニク日本』は、ロシアの国(民)益を確保するという姿勢が鮮明なメディアとして、日本のマスコミに比べ、一貫した方針を有している分、日本国民一般にとって、理解し易いメディアである。日本のマスコミが方針転換し、あくまで戦争屋に使嗾される存在として、森友学園疑惑を大きく喧伝したとき、『スプートニク日本』は、ロシアの国益にも適うことから、第二次安倍政権の味方となる論陣を張った。森友学園疑惑に係るメディアの敵・味方の関係は、飯山一郎氏が従来から解説してきたとおりであり、この点については、飯山氏の解釈は正しい。『スプートニク日本』の論調は、もちろん、ロシアの国(民)益が第一であるが、私が目にした福島第一原発事故に関連する記事は、日本国民にとっても、決して益がない訳ではない内容となっている※5。以前にも指摘した既視感があるが、『スプートニク日本』は、日本語話者がメディア・リテラシーを涵養する上で、またとない教師の役割を果たしてくれているのである。(#この流れは、次回以降で左巻氏を批判するための前振りである。)


※1 「taka.iwata」氏の言を借りれば、訂正はしたが謝罪はしていないことになるのであろうか。それにしても、「taka.iwata」氏は、口を極めて福島県は安全であるという主旨を繰り返しツイートしているが、彼(女)は、これらのツイートの誤りについて、すべて、5年後なり10年後なり、結果が誰の目にも見えるようになった時点において、訂正・謝罪する段取りを付けているのであろうか。彼(女)の謝罪に向けて、ひとつ、材料を付け加えておこう。冒頭の写真の著作権等は、閲覧者側の閲覧環境のために隠れてしまうことがある。全環境に対応したレイアウトを強制することは、デザイン者の自由度を損なうことになる。私個人は、そのようなレイアウトになるようなデザインを行わないように留意しているが、依然として、作業側の裁量の範囲内であるとする考え方も成立するのではないかとも考える。HTMLには著作権の所在が明記されているのであるから、目くじらを立てるべき必然性はない。

誤りを訂正するという点について、公平を期して記しておけば、私は、自身の公開・関与した文書の内容について、自ら修正できる分については修正したいと考えている。しかし、撤回する労力も余地も持たないものも多く、残された誤りについては、批判に甘んじるのみである。他方で、文章力の拙さから生じた意味不明に受け取られかねない文については、これらに接する度、黒歴史感で一杯になる。何とか改訂できないかと考えているが、孤児著作が多いので、完全に書き換えるのでない限り、いかんともし難いという事情もある。

※2 オルタナティブ・メディア。(alternative media)インターネットを通信手段とする新興の報道機関ならびにブロガー。

※3 毎日新聞と産経新聞は、ネットでググれる範囲では、『スプートニク』そのものに言及していない。産経新聞は、写真を融通されたり記事を参照したりはしているようである(が、ここで参照するに及ばないであろう)。例外は、日本経済新聞であり、本文中にも触れるとおり、創刊時にも言及している。小林恭子氏は、読売新聞の記事[6]の中で『スプートニク』に言及するが、それに先立ち、日本経済新聞社による『Financial Times』買収の効果を『東洋経済オンライン』の記事[7]で解説している。小林氏は、これらの記事の対比から、新聞という媒体の有する威信(prestiege)を重視しているものと解される。朝日新聞も、2月の時点において、ロシア系列のメディアに対するマクロン氏陣営の警告を伝えている[8]

※4 このほか、2017年5月7日0時の『BBCワールドニュース』は、マクロン氏陣営がクラックされ、大統領選挙戦管理委員会がその情報に接しないよう注意喚起したと伝えている一方、先述したNスタにも紹介されたトレンドマイクロの警告をも報じている。本件については、『スプートニク日本』[9]自身も、クラックならびに『Wikileaks』における公開を伝えている。

※5 袴田茂樹氏が解説者として呼び出されている記事は、例外であり、内容を解釈しかねるものばかりであるが、本ブログでは、基本的に、メモ程度にしか取り扱わない。


[1] 2016 Fort McMurray Wildfire - Wikipedia
(2017年05月06日確認)
https://en.wikipedia.org/wiki/2016_Fort_McMurray_Wildfire

[2] 7日めも燃え盛る福島山林火災 放射能拡散の危険性はありうる
(スプートニク日本、2017年05月05日17:12(更新 2017年05月06日02:19))
https://jp.sputniknews.com/japan/201705053607641/

[3]

[4]

[5] ロシアが再び「スプートニク」 米との宣伝戦に  編集委員 秋田浩之 :日本経済新聞
(秋田浩之、2014年11月28日07:00)
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO80088930V21C14A1000000/

米欧メディアの反応はちがう。
「ロシア、西側とのプロパガンダ戦へ。新メディアを立ち上げ」(ロイター通信)。こんな具合に、ロシアが米欧にプロパガンダ戦争を“布告“したかのように伝えているのだ。
大きな理由は、スプートニク事業を推進しているロシア人の素性にある。

[6] フェイクニュース汚染、欧州の危機感 : 深読みチャンネル : 読売新聞(YOMIURI ONLINE) 2/3
(小林恭子、2017年03月09日16時21分)
http://www.yomiuri.co.jp/fukayomi/ichiran/20170308-OYT8T50101.html

真偽不明のニュースは、世界の複数の言語で情報を発信するロシアのテレビ局「RT」や国際ラジオ放送・ニュースサイトの「スプートニク」などを通じて広がっている。

[7] FTを買った日経の「目指す方向」が見えてきた | メディア業界 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準
(小林恭子、2016年01月23日)
http://toyokeizai.net/articles/-/101811?page=4

[8] ロシアは「大統領選に干渉するな」 仏外相が警告 〈AFPBB News〉|dot.ドット 朝日新聞出版
(AFPBB News、2017年02月16日10時17分)
https://dot.asahi.com/afp/2017021600018.html

親欧州派のエマニュエル・マクロン(Emmanuel Macron)前経済相(39)の報道担当者は14日、〔...略...〕ロシア国営の国際通信社「今日のロシア(Russia Today)」とスプートニク(Sputnik)について、誤った情報を流してマクロン氏の評判を傷つけようとしているとも非難していた。

[9] ウィキリークスがマクロン選挙事務所の電子メールを大量に暴露 仏はマスコミに漏洩内容を無視せよと呼びかけ
(スプートニク日本、2017年05月06日15:38(更新 2017年05月06日16:13)
https://jp.sputniknews.com/politics/201705063611404/

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