2015年5月12日火曜日

計量犯罪学における仮定とその課題

#今回は、犯罪の計量的分析において考慮すべき事項についてまとめました。大半の事項は、先進性がなく、論文にならない基礎的なものです。しかし、これから犯罪を計量的に分析しようとする人には、役に立つものと思います。以下は、拙速に書き上げましたので、誤解・無知や不備は、ご容赦いただき、ご指摘いただけると幸いです。

 犯罪対策を定量的に評価するという作業には、ほかの科学的方法と同様、何らかの仮定が必ず伴う。犯罪の定量的研究において考慮すべき事項は、私の知る限りで、ざっくばらんに整理すると、以下の6点になる。すべての計量犯罪学的な分析は、これらの項目に対して何らかの仮定を置いているはずである。
  1. 同一の行為に対する罪名や罪数の多様性  同一の行為は、国、時代により異なる罪名として扱われる。有名で分かりやすい例としては、尊属殺が挙げられる。また、わが国では、個々の事件の事情により、異なる罪名を適用することを許容する司法制度を採用している。
  2. 司法機関に認知されない「暗数」の取扱方法  暗数とは、関係者などにとっては犯罪であっても、司法機関に届出されなかったり、担当者が処理手続を進めなかったりするために、犯罪統計に計上されない出来事を指す。暗数となった出来事は、仮に、経過が異なった場合には、犯罪として統計に計上されていたかもしれない。一般に、凶悪な犯罪ほど届出されやすいといわれるが、性犯罪はその例外であり、大半が届出されないことが、各種の被害調査によって明らかにされている。
  3. ある国が処理する犯罪の件数を、どの機関により代表させるか  先進各国では、その候補には、警察の認知件数、検察の起訴件数、裁判所の有罪判決数などがある。また、被害調査は暗数を理由に、これらの件数の正当性に留保を加える役割を果たしている。通常、先進各国における国内の分析では、警察の認知件数が用いられる。わが国でも同様だが、その背景には、(起訴便宜主義に基づき)検察の起訴率が低めであると同時に、裁判に至った事件の有罪率が高いことを挙げることができる。警察の認知件数は、数量が大きく、都道府県などの地域別の統計を入手できることから、回帰分析なども行いやすい。他方、国によって統計制度の充実の程度には差がある。このため、全世界で比較を行う場合、有罪判決数が最も共通した指標になりうる。
  4. 罪数を自然数により表現すること  この方法に伴う弊害は、悪質性を評価するという作業に先立つはずであるが、十分に意識されていない。悪質性の評価に先立ち、この方法が分析に重大な影響を与えないことを確認する必要があるように思われる。たとえば、住居侵入と侵入窃盗・侵入強盗では、後者が前者の牽連犯であるという関係が成立する。すると「住居侵入の悪質性」と「侵入窃盗(たとえば空き巣)の悪質性」を比較して点数化する場合、回答者は、両方の行為に共通する要素を含みつつ、比較していることになる。
  5. 犯罪の分布する空間を二次元の面などで表現し、犯罪の行われた地域を点などで代表すること  近年の犯罪地図(に類する)研究では、上記の方法によるものが一般的である。しかし、この方法に伴う誤差(←ここ重要。)の評価は、管見では、多くの研究では省略されている。
  6. 時間軸の解像度を決定すること  レスポンスタイムや犯罪集中地区の研究は、空間だけでなく時間をも扱う。犯罪集中地区の時空間特性がいったい何に由来するのかは、おそらくルーティン・アクティビティ理論や環境犯罪学が示唆した生活パターンに他ならないが、その点を含んだ分析は、それほど実施されてはいない。意地悪な表現になるが、ひったくりの集中地区と放火の集中地区の検出では、後者の方が明らかに有意義である。なぜなら、これらの犯罪では、犯人の行動半径に明らかに差があり、後者の方が半径が小さなため、集中地区が予防・検挙に利用しやすいためである。
以上、ざっくりと偏見をもってまとめたが、おおむね、番号が若いものほど、司法制度に由来する事項であり、後のものほど分析手法に依存する事項である。

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