2018年2月16日金曜日

(一言・メモ)陰謀論に係るベイズの定理

ベイズの定理(Theorem of Bayes)は、次の式で表される。 \begin{equation} Pr(H \mid O) = \dfrac{Pr(O \mid H) Pr(H)}{Pr(O)} \nonumber \end{equation} ただし、
$H$: 仮説(hypothesis)
$O$: 観察(observation)
$Pr(O \mid H)$: $H$の尤度ゆうど(likelyhood)

陰謀論界隈では、しばしば、$Pr(O \mid H)$は高いものの$Pr(H \mid O)$が低くなる種類の説明が取り沙汰される。以前にも引用したが、エリオット・ソーバー『科学と証拠 統計の哲学入門』(名古屋大学出版会, 2008=2012)は、$Pr(O \mid H)$が高く$Pr(H \mid O)$が低い事例として、$H$が「グレムリンが屋根裏でボーリングしている」、$O$が「屋根裏から音がする」というものを挙げている〔p.15〕。グレムリンがボーリング大会に興じていれば、確かに騒々しい物音がするであろう。しかし、グレムリンが屋根裏でボーリングしているとは、わざわざ考えにくいのである。

複数種類の独立した仮説があり、それらの仮説が漏れなく挙げられているときには、下式が示されよう。上式と下式は、分母が一致するとき、同形となる。このことから、複数の仮説が成立しているとき、それらの仮説を出し惜しみせずに列挙することが大事である。これが、重大事件を考察する場合において、陰謀説と誹謗される種類の説にも注意を払うべき理由である。 \begin{equation} Pr(H_i \mid O) = \dfrac{Pr(O \mid H_i) Pr(H_i)}{\sum_{j=1}^k Pr(O \mid H_j) Pr(H_j)} \nonumber \end{equation} ただし、$H_i$: $i$番目の仮説($1 \leq i \leq k$)

陰謀論者(と誹謗される人々)は、この$H_j$の集合から故意に外された(、しかも、分母の項が無視してはいけない大きさとなる種類の)仮説がないかどうかを確認し、あるいは指摘しているのである。9.11を例に挙げると分かりやすい。NISTの、すなわち当時の連邦政府の見解は、WTCツインタワーについて、「衝突(による火災)原因説」だけでなく、「制御解体説」が成立(または並立)し得ることを真面目に検討した様子がない。それどころか、現場は、捜査に必要十分な期間、保全されなかったが、この事情についても、両説ともが適合的である。「衝突原因説」は、$Pr(O \mid H)$が限りなくゼロに近いことが反論として提起されているが、当然、「制御解体説」は、$Pr(O \mid H)$が限りなくイチに近いものとなる(。制御解体の失敗例がどれほどあるのか、私は調べていないが)。$Pr(H)$の大きさも、利権の大きさを考慮すれば、なかなかのものであろう。


2018年2月18日00時10分追記

弘前大学教授夫人殺人事件(1949年8月6日)[1]の公判の際、古畑種基氏は、ベイズ統計を誤用して血液鑑定書を作成しているようである。本件は、元々この話を知り、メモしておきつつMathJax用の数式をテキスト化しておくために用意したものである。既往論文がいくつかあるようなので、本件については、後日、追記するやも知れない。

が、ベイズ統計は、「新たに得られた証拠に基づいて、事前確率を事後確率へと更新する手続きが何度も行える」という環境下で適用されるべき方法である。得られた証拠によって、事後確率が事前確率よりもゼロに近付いたなら、その証拠は、仮説を望み薄にする材料ということになるし、逆に1に近付いたなら、その証拠は、仮説を有望なものとする材料ということになる。9.11には、沢山の論点が存在している。それらを検討すればするほど、子ブッシュの(消極的)関与が認められるという結論に近付くことになろう。トランプ大統領を誕生させた選挙戦と、その後のブッシュ一族の行動は、複数の証拠として利用可能である(から、ますますクロに近くなったということになる)。

これに対して、古畑鑑定は、一件の証拠を扱うのみである。当時の(冤罪であった)被告が犯人となる事後確率は、確かに、血液鑑定の結果、事前確率よりも上昇したことであろう。しかし、無事前情報分布を設定するのであれば、五分五分ではなく、弘前市の人口6万人を考慮して、6万分の1と置く方が正しかったであろうし、事後確率は、約千分の1(0.00111)に上昇はしているが、やはり千分の1としての扱いを受けるべきであったろう。古畑氏が何を目標としていたのか、私には良く分からない。


[1] 弘前大学教授夫人殺人事件 - Wikipedia
(2018年02月17日確認)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BC%98%E5%89%8D%E5%A4%A7%E5%AD%A6%E6%95%99%E6%8E%88%E5%A4%AB%E4%BA%BA%E6%AE%BA%E4%BA%BA%E4%BA%8B%E4%BB%B6

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