2017年10月10日火曜日

(メモ)樽本英樹氏の放射性物質への恐がりぶりは異常である

『現代人の国際社会学・入門――トランスナショナリズムという視点』(2016年5月, 有斐閣)「第一章 国際社会学とは何か」において、樽本英樹氏は、下記のように記す。

〔p.3〕私たちはグローバル化の真っただ中で生きている。〔…略…〕

お金も国境を越える。〔…略…〕

文化や情報も国境を越える。〔…略…〕

他にも意外なものが国境を越えてくる。〔デング熱やエボラ出血熱は、〕病気も国境を越えることを物語っている。PM2.5など環境汚染も国境を越える。温暖化防止条約などの国際条約を結ぶ必要があるのは、〔p.4〕各国で排出されたフロンなど温室効果ガスが、全地球に容易に広がってしまうからである。

以上、「1 グローバル化の日常」という節の中の「身近に迫るグローバル化」という項を引用した。引用から直ちに了解できることであるが、記述は、段落読みできる。この点については、評価できる。

最低限の体裁は整えられているものの、樽本氏の記述は、2016年5月という時点を考慮すれば、二点について、欺罔とも呼べる内容である。一点目、タックスヘイブンや地下経済への言及はどうした。同書は、オムニバス形式であるが、違法な物品・サービスの国際的な流通に対して、ほとんど言及しない。たとえば、戦国期日本における硝石と奴隷との交易を念頭に置けば、グローバル化の歴史における暗黒面に係る記述を欠落させることは、国際化という現象への理解を大きく誤る原因となる。少なくとも、本点については、(この方面に明るい著者がいないので、割愛したなどの)断り書きくらいは必要である。二点目、放射性物質はどうした。この点は、悪意と呼べるレベルに達する記述の欠落である。なぜ、このように私が批判するのかと言えば、単に、汚染(予期せぬ物質等の移動)を列挙すれば、放射性物質に係る批判を免れたであろうからである。先進諸国から輸出される廃棄物(PCBがとりわけ問題視されたことがある)、海流に乗るプラスチックごみ、外来生物にも言及すれば良かったのである。外来生物については、最近ではヒアリの事例が大きく報道されたが、ブラックバスが適当であろう。放射性物質についても、大気核実験・地上核実験・海洋核実験や、チェルノブイリ事故についても言及すれば、フクイチだけを殊更に取り上げたようには見えなかったはずである。感染症についても、アメリカ大陸における天然痘、ヨーロッパにおけるペスト、全世界におけるスペイン風邪といった歴史的事例は、国際化に伴う強烈な影響を読者に印象付けることができる。なぜ、これらの予期せぬ事例が多数挙げられるところで、PM2.5だけが取り上げられるのか。樽本氏の見識の狭さや偏見を、強く印象付けられる記述である。

ここでの指摘により、十分に根拠を提示できたように自負するが、横断的研究分野に係る記述は、工夫次第で、著者の見識の深浅をいかようにでも示すことができるのである。


[1] 西原和久・樽本英樹〔編〕, (2016.5).『現代人の国際社会学・入門――トランスナショナリズムという視点』(有斐閣コンパクト), 東京: 有斐閣.
(英: Introduction to Global Sociology for Contemporaries)
http://id.ndl.go.jp/bib/027260881

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