やや賞味期限を経過した話であるが、原子力規制委員長の田中俊一氏の北朝鮮のミサイル攻撃に対する発言(下記引用)は、要職にあるはずの田中氏に対しても、ミサイル攻撃のイメージがいかなるものであるのか、正しい情報が適時かつ適切に提供されていないことを示す兆候である、などと理解することができる。もっとも、田中氏の「失言」は、「田中氏がミサイル攻撃のイメージを正しく理解した上で、国民向けにわざと誤ったイメージを流布したものである」という可能性も否定はできない。あるいは、可能性としては一段落ちるものになるが、その肩書から期待されるよりも田中氏の知性が低かったために、レクを受けたにも関わらず内容を理解できなかったか、レクを理解できないであろうことが関係者に予想できていたためにレクを受ける機会すら与えてもらえていなかったかなどの、より情けない場合も考えることはできる。単に省庁縦割りの弊害ということも考えることは可能である。いずれにしても、わが国の安全保障の一翼を担う原子力行政において、エリート主義は、健全には機能していない。
ミサイルの命中精度が悪いときには、多数のミサイルを使用すれば良い。この考え方は、ごくごく自然であるが、田中氏には想定外であったかのようである。巨大な一品モノと揶揄できよう原子力発電所を相手にしているからか、一発しかミサイルが飛んでこないかのような理解である。大平洋戦争の教訓は、田中氏には、一つも理解されていないかのようである。質問者がいかに質問・反論したのかは述べられていないが、ここに示した話は、常識の範囲内である。次回以降、本稿に示した考え方に基づく質問・反論が出てこないとは限らないであろうし、何より、攻撃者の側は、私よりも遙かに戦争を理解しているであろうから、私がここで指摘する話は、彼らプロからすれば、すべからく想定内の話であろう。
もっとも、北朝鮮が日本本土に対して、突然、先制攻撃を仕掛けてくるという事態は、確率で論じるに相応しい話ではないが、当面の間、低いものと考えられる。国際社会に軍事行動への正当性を与え、北朝鮮の現体制を自ら崩壊させることになるためである。他方、わが国の現体制は、低下した国民の支持を回復させるためにも、北朝鮮がわが国に対して「適度な悪役」として振る舞うことを望んでいるであろう。ただ、原発に対するミサイル攻撃も、東京に対するミサイル攻撃も、後戻りできない種類の悪事である。許容される種類の悪事としては、日本国の領土の上空を超える形でミサイルを発射して大平洋に落下させるというのが、せいぜいのものであろうし、そのとき、北朝鮮は万全を期して所定の目的を達成しようとするであろう。ひるがえって、わが国の選良たちは、万全を期して所定の目的を達成しようとしているのであろうか。田中氏の回答からすれば、到底そうであるとは肯定できない。
田中氏の回答として適切であったものを考えてみると、それは、「北朝鮮は、おいそれとわが国を攻撃する訳にはいかない、地震や津波よりも、他国による攻撃は低い確率のものであり、地震や津波への対策は万全である」というものとなったであろう。非確率的な人災と定義されうるミサイル攻撃そのものについて議論を戦わせるよりも、自らの専門であると他者からみなされうる分野に留まり、ミサイル攻撃というリスクが相対的に小さなものとなると見込まれることを説明し、そのリスクの見積の担当が政府の別部門となることを示せば良かったのである。正確には、「ハザード生起確率は、自然災害のように見積もることが困難であるほどに僅少である」旨を説明するとともに、対策の詳細については安全保障上お答えする訳には参りませんとすれば、そこでの議論は収束できたはずであったと考えられるのである。もっとも、私は、このような回答を信用しないし、これに対する反論を用意することも可能であるとは考えるのであるが、それは、このような(公開の)場には相応しくない話であろう※1。
※1 論拠として考えられるもののうち、私にとって正解と思われるものは、ここに記して公開する訳にはいかない。答えとして考えられるもののうち、「外れ」として安全なものを挙げておけば、人工地震はどうした、という指摘を挙げることができよう。人工地震は、現状、公に言及した者がトンデモ扱いされるため、田中氏をディスるには不向きである。
[1] 原子力規制委員長:田中氏、北朝鮮ミサイルで失言 - 毎日新聞
(近藤諭・高橋一隆、2017年07月06日20時08分、最終更新07月07日00時10分)
https://mainichi.jp/articles/20170707/k00/00m/040/090000c
田中委員長は「小さな原子炉に落とす精度が(北朝鮮のミサイルに)あるのかよく分からない」と述べた後、「私だったら東京のど真ん中に落とした方がよっぽど良いと思う」と発言した。
0 件のコメント:
コメントを投稿
コメントありがとうございます。お返事にはお時間いただくかもしれません。気長にお待ちいただけると幸いです。