2018年1月29日月曜日

コインチェック社からのXEM流出は、コンピュータ犯罪の観点ではなく権力・組織犯罪の観点で理解すべきである

本ブログの読者であれば、仮想通貨の危うさと信用の源については、よくよくご理解いただいていたはずである。このため、コインチェック社において、26日にNEMについて異常が検知され[1]、総額580億円相当の仮想通貨が流出した[2]が、この問題についてはもちろん、それ以前のビットコインの恐ろしい乱高下についても、万が一にも、難を逃れた本ブログの読者がおられるかも知れない。

ただ、『John Wick』中の金貨について言及した拙稿(2017年12月10日)は、本ブログが、偶々、世間の荒波とシンクロした一例である。まったくの偶然であり、私自身も、偶然ゆえに驚愕している。誰からも示唆や指示を受けた訳でもなく、誰にも具体的な示唆や指示を与えたつもりもなく、そもそも、誰にも話さずに、録画した番組を視聴した結果について、自分の興味の赴くまま、それのみに基づいて、作成した記事である。このために、拙稿には「毒にも薬にもならない内容」と記したのである。とはいえ、念のため、本ブログは、極力、庶民の生活に荒波を立てないよう、しかしながら、一般的事実(、見方を変えれば、応用の利く知識)の伝達を目的に、手抜きや誤誘導を試みる「学識経験者」のケツを蹴り飛ばすべく、作成されている(というユルユルな方針を持っている)。

『日本経済新聞』が「仮想通貨がマネーロンダリングに使われる虞がある」と社説で偽情報を流布する力に比べれば[3]、現実に『Tor』を利用した『Silk Road』においてビットコインが取引通貨として使用されてきたことを指摘する私のブログなど、まったくゼロに等しい影響力である。実体験の範囲については、口座名としてビットコインが示された取引を持ちかける書込みを目にしたということに過ぎないといえば、それまでである。ビットコインの脆弱性、『Tor』が論理的に通信を傍受される可能性については、公知の事実と呼べるものになっている(、いずれも、数は力なりという信念がヒントになるところ、現代社会の特徴を良く反映しているものと言えよう)。囮捜査の権限のない一般人としては、十分な調査に基づく指摘を行ったというべきであろう。仮に、他の研究者が、参与観察を大学などから許可を受けて公的組織として実施するとしても、せいぜい、問合せメールを送るくらいで打止めであろう。それ以上は、優れたジャーナリストの領域である。

このとき、私が見ていた27日(土曜日)19時のNHKのニュースで、岩下直行氏が、犯罪者にも魅力的になったために狙われるようになったという旨を述べていた。因果の向きが違うやろ~、魅力的になるようにワシが育てたんよと犯罪者たちが言うんちゃうんか~、と私はツッコミを思わず入れてしまったのであるが、世の中、どれくらいの人々が同じ気持ちを抱いたことであろうか。おそらく、NHKを見ていた裏社会の人々は、全員がシンクロ率100%でツッコんだに違いない。その発言の厳密な書き起こしは、遠い将来において実行されない可能性がない訳でもないが、この恥となる(ものと私には思われる)岩下氏の発言は、NHKのウェブサイトには掲載されていなかった[4]。これは、もしかすると、その文言の不適切さに岩下氏が気が付いたか、NHK職員が自発的に気が付いたかによって、訂正されたためかも知れない。


ここからが本題;香港映画は、わが国に一足先駆けて、裏社会が警察に子飼いのクリーンな青年を送り込むという映画を複数世に問うてきた(が、正確な話は、遠い後日にしっかり調べるかも知れない)が、最近のわが国の裏社会も、その種の不正の方法を実行してきたという記事を、いずれかで目にしたが、これもまた、遠い後日に調査予定)。

これと同じ囲い込み戦法は、システムにも応用されるという点において、国際秘密力集団の得意技である。①彼らにとってのみ利益が上がるように、かつ、②確率的に粗相をする企業が表れるように(=企業を対象とする保険数理的に)、かつ、③粗相をしでかした企業のみが責任を負うように、システムを整備し、然る後、④そのシステムの脆弱性をエクスプロイトすることに、血道を上げるという方法論である。公認されたバックドアを仕掛けられるだけの大義名分があるとすれば、それはまた、悪用の余地を拡げることもあるやも知れない。しかし、先の①~④であれば、④のみが犯罪と呼べる行為となりうる可能性を有しているのであるし、①~③は、あくまで、システムに欠陥があるに過ぎず、それは、社会の通常営業に過ぎないという訳である。④も、システムがやられることを見越して、システムがやられたときに空売りできるよう、準備しておくこと自体は、国際社会から認められた種類の作法である。皆が努力を重ねる中、悪いのは、対策をサボったために不幸な生贄となった企業のみである。脆弱性がゼロデイから相当に遅れたとか、推奨される対策を実行してこなかったとかは、いわば、重過失の類いである。ここには、社会システムの設計者の側には、何ら落ち度がない。このようなことに、社会システムがなっているのである。悪意を有する人物や組織は、ほとんど決定論的に、おいしそうなところに、牙を研ぎながら待ち構えている。新規ビジネスに乗り出す若人には、それを重々承知して欲しいものである(。私のようなオッサンの戯言を真に受けなかった人たちの損害であるために、今回の話には、同情する余地が少ない)。もっとも、今回の流出事件は、仮想通貨に対して注ぎ込まれたカネの量からいえば微々たる金額であろうから、私は、今回の話を、一罰百戒を目的とした見せしめ・警告であった可能性があるものとも想定している。仮想通貨を育てようという人たちにとっては、現実認識を改めるという意義があったことになるからである。当事者たちには、何とも取返しの付かないことではあるが。


[1] Coincheckサービスにおける一部機能の停止について | コインチェック株式会社
(2018年01月26日)
http://corporate.coincheck.com/2018/01/26/29.html

[2] 不正に送金された仮想通貨NEMの保有者に対する補償方針について | コインチェック株式会社
(2018年01月28日)
http://corporate.coincheck.com/2018/01/28/30.html

[3] 仮想通貨の健全な発展に国際協調を  :日本経済新聞
(2018年01月21日付社説・記名なし)
https://www.nikkei.com/article/DGXKZO25953630Q8A120C1EA1000/

各国で同じ規制を一斉に入れる必要はないが、仮想通貨の普及とその影響、健全な発展に必要な規制について当局間で情報交換を進める必要がある。仮想通貨はマネーロンダリング(資金洗浄)に使われる恐れもあり、その対策には国際協力が不可欠だ。

[4] コインチェックから仮想通貨流出|NHK 首都圏のニュース
(記名なし、2018年01月27日19時16分)
http://www3.nhk.or.jp/lnews/shutoken/20180127/1000007134.html

これについて、仮想通貨に詳しい京都大学公共政策大学院の岩下直行教授は「NEMは、主要な仮想通貨に比べると取り引き量が少ないこともあり、対策が後回しになったのではないか」として、セキュリティー対策が不十分だったことが流出につながった可能性を指摘しています。




2018(平成30)年1月29日・30日修正

事実関係に係る記述を変えたつもりはないが、細かい表現を修正した。

昨日までの間に、コインチェック社は、仮想通貨の価格下落を受けて、損害見積額を460億円に切り下げたようであるが、よくよく、社会システムに係るセンスのない決定である。同社の粗相ゆえに仮想通貨の価格が下落したのであるから、損害賠償請求裁判においても、被害直前までの値動きを参照すべきであるという意見が認容されることであろう。落ち度があり、それをCEOが記者会見の場で認めたことが大きく報道されてしまった以上、この被害者寄りの意見の認定は、確定的と考えて良いであろう。これでは、コインチェック社が社会に対して公表した方針は、同社が損切りを意図していたとすれば、その効果が真逆のものとなる。ひいては、同社に対する将来の新規顧客を大きく減少させるだけでなく、業界全体にも影響が波及しうる。定性的には、以上の傾向が認められるであろう。




2018(平成30)年2月2日訂正

仮想通貨プラットフォームNEM上の通貨単位がXEMである[1]ことから、題名を「NEM」から「XEM」へと変更した。実質的な理解を妨げるものではなかろうが、誤りは誤りであろうから、お詫び申し上げる。また、NEMの相場変動によって、賠償見積額の算定が580億円を超えていたとすれば、いかなる賠償額を支払う必要があったのかという問題についても、拙論の考え方は、甘かったものと思う。詳しくは別稿(2018年02月02日)に譲る。なお、コインチェック社の補償については、以下のとおりである[2]


[1] NEM (暗号通貨) - Wikipedia
(2018年02月01日閲覧)
https://ja.wikipedia.org/wiki/NEM_(%E6%9A%97%E5%8F%B7%E9%80%9A%E8%B2%A8)

[2] 不正に送金された仮想通貨NEMの保有者に対する補償方針について | コインチェック株式会社
(2018年01月28日付)
http://corporate.coincheck.com/2018/01/28/30.html

1月26日に不正送金されたNEMの補償について
総額 : 5億2300万XEM
保有者数 : 約26万人
補償方法 : NEMの保有者全員に、日本円でコインチェックウォレットに返金いたします。
算出方法 : NEMの取扱高が国内外含め最も多いテックビューロ株式会社の運営する仮想通貨取引所ZaifのXEM/JPY (NEM/JPY)を参考にし、出来高の加重平均を使って価格を算出いたします。算出期間は、CoincheckにおけるNEMの売買停止時から本リリース時までの加重平均の価格で、JPYにて返金いたします。
算出期間  : 売買停止時(2018/01/26 12:09 日本時間)〜本リリース配信時(2018/01/27 23:00 日本時間)
補償金額  : 88.549円×保有数
補償時期等 : 補償時期や手続きの方法に関しましては、現在検討中です。なお、返金原資については自己資金より実施させていただきます。

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