本日は、3.11から丸5年ということで、多くのテレビ番組が特集を組んでいた。NHKは、20時台に『NHKスペシャル「私を襲った津波~その時 何が起きたのか~」』を放送しており、その中で、スーパーコンピュータ『京』で津波の再現を試みた話を紹介していたようである。『京』は、浮動小数点計算が得意と聞くので、流体のシミュレーションに最適なのであろう。この話だけを聞くと、通常なら素晴らしい研究に『京』が利用されているのだなあと錯覚するが、何かを拗らせ過ぎた私には、なぜ、同じ浮動小数点計算が必要とされる現在進行中の大気汚染に対して、『京』を利用し続けないのであろうか、と感じられてしまうのである。
ところで、わが国では、今後数日間の大気の動きを予測するなり、3.11以後の大気の状態を追試するなりして、その結果を一般人に分かりやすく映像化するサイトは、存在していないようである。著名なものでは、早川由紀夫氏の火山の噴煙シミュレーションの応用結果としての地図が知られているが、(対象とするシミュレーション期間が3.11直後の爆発後に限定されている上、)動的なサービスとしては提供されていない。私自身は、その筋では有名な『Meteocentrale スイス』を利用しているが、このサイトと同等の機能は、日本国政府または日本人によるサイトでは、公開されていない。同等の機能が『SPEEDI』として運用されてきたことは、広く知られている。『W-SPEEDI』として現在でも利用されていることは、北朝鮮の今年1月中の核実験に際して、広く報道されたことでもある。
わが家周辺のγ線の環境放射線量は、いわゆる自然放射線量込みで0.10マイクロシーベルト毎時程度であるが、『Meteocentrale スイス』の予測でいずれかの高度の大気が到達する際には、0.13から0.15マイクロシーベルト毎時程度に上昇する。今年に入っても同様である。わが国では、報道機関は、コントロール下にあるが、福島第一原発事故は、コントロール下にはないようである。大型計算機にしても、電波の帯域にしても、公共の財産であるが、これらの公共の財産が福島第一原発事故の収束に活用されておらず、一般の日本人が外国の報道機関等の情報に依存せざるを得ないことは、わが国政府の機能不全を意味している。
上掲の『NHKスペシャル』に好評価を寄せることは、情報統制の存在に対する認識力不足を意味しうる。本日の3.11関連の特集は、社会防衛主義的な見地からしても、偏りのある内容であった。原発事故の影響を受ける人数は、1000万人単位である。津波の直接の被害者数とは、1桁以上の差を有する。この人数比をふまえるならば、津波だけをクローズアップし原発事故に対する認識を深めさせないという意図は、本日の特集の内容から、容易に看取することができる。もっとも、NHKが過日放送した『被曝の森』は、例外的であり、帰還困難を遠回しに説得することを開始したものであるかのように理解することもできる内容ではあった。
情報統制の存在は、情報や知識の活用という面からみれば、民間人の「社会を俯瞰する力」や「課題認識力」を低下させ、その民間知に依存する官僚組織の無知を増進させるという経路を通じて、わが国の国力を奪う効果を有している。バブル期以前であればともかく、現在の日本において、民間人の知力の低下は、日本の国力の低下に直結する。日本の国力は、国外からも、著名な民間企業やそれらの企業系列に基づくものと見なされてきたわけであるが、投資するに値すると見なされる収益を上げることが可能な企業は、大半が(『四季報』の定義する)外資系となっており、それら企業に幸運にも勤務できた一部の日本人を除けば、日本人の多くは、その「国力」の恩恵に与ることが大変難しくなっている。情報や知識の複写の容易性、非消費性という特徴は、日本語という環境によって防護されてきた面があるが、それにも限界がある。
情報や知識を活用する際、発信者と受信者との間に一定水準の知識が共有されていることが必要となる。実社会における情報や知識の伝達に係るプロコトルには、コミュニケーション当事者それぞれの、話題についての基礎知識も含まれるのである。こうしたとき、報道機関における自主検閲は、事実認識に係るバイアスを助長する原因となりうる。福島第一原発事故は、史上最悪の事故であり、現在も敷地外(数千キロメートル以遠)への放射性物質の漏出が継続中である。この事実認識なしには、わが国における多くのクライシス・コミュニケーションは、意味のないことであるばかりか、報道内容を的確にマインドマップ中に位置付けることのできる専門家を除けば、有害であるとさえ言うことができるであろう。
それとも、ここまでの福島第一原発事故に対する放送量の少なさは、明日と14日、15日に期待して良いということを意味するのであろうか。
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