2021年4月8日木曜日

米国の「Emergency Alert System(EAS;緊急アラートシステム)」について(メモ)

本稿では、「陰謀論」界隈においていわゆる「緊急放送システム」と呼び習わされてきた米国の緊急事態下の放送が「Emergency Alert System(EAS;緊急アラートシステム)」により担われることを説明し、これが「緊急放送システム」と形容されてもあながち間違いではないことを指摘する。EASの概要を説明するため、FCC(連邦通信委員会)によるEAS(緊急アラートシステム)のポータルページ冒頭文章の全訳を、資料に掲載する。

EASは、緊急事態時、大統領の演説を必要とする国民に対して確実に届けるためのシステムであり、この要件に示された行為は、大統領演説を確実に届けることが求められている点を除けば※1、英語における「broadcast(放送)」に他ならない。ゆえに、EASそのものの機能を「緊急放送システム」と見做すことは、全くの誤りとまでは言えない。混乱の源泉は、EASの直前世代の放送システムが「Emergency Broadcast System(EBS;緊急放送システム)」であり、このEBSが現在でもEASの部分として呼び習わされている節が公の資料においても認められることに求められるやも知れない〔訂正:2021年5月9日;とある画像資料でそう呼べるものを見掛けたつもりが、間隔を空けて再度の調査を行ったが、今回は行き当たることがなかったために訂正する。なお、EBSからEASへの移行措置開始は1994年。終了期限は1997年末;官報へのURL

世界各国に滞在・居住する米国民にまで広く放送する必要が認められた場合には、このEASを通じた情報の流れに含まれつつ並行し、『Voice of America(VoA;米国の公共放送局)』が放送を実施するものと理解できる。EASとVoAの組合せにより、全世界の米国民に対して、緊急事態時、放送がごく短い時間の内に実施されるものと期待することは、誤りではない。わが国で全世界に散らばる自国民への情報の流れを一体的に説明する仕組みの名は見当たらぬが、同等以上の機能は、わが国にも存在する。この体制を担保するシステム全体を「全世界緊急放送システム」と形容することもまた、単語の正確性を損なうことにはなるが、全くの誤りとも言えない。

昨今の「緊急放送システム」に係るSNS上の言説の問題点は、詐欺師達※2がEASのシステムの実在を歪めて伝え、あたかも彼らが口にした期日に放送が行われるかのような情報を合わせて伝えることにより、その誤った情報が被害者の選別に利用されているところにある。詐欺師達は、『Freakonomics』で指摘されている通り、偽情報を故意に流通させ、その情報を真に受けた者を重点的に狙うことで、被害者を物色する手間を省いている。EASは実在しており、現在も稼働可能な状態に管理された状態にある。また、EASが近い将来において使用される確率は、理論的には決してゼロではない。が、詐欺師達は、これらのシステムが利用される期日を「予言」することにより、この見え見えの嘘に引っ掛かる者を狙うのである。

詐欺師達の犯行を抑止するためには、抑止側が提供する情報を正確なものとして、この正確さを以て、詐欺師達の言論に対抗するほかないと思われる。決して、こちら側の情報の正確さを担保する作業に抜かりがあってはならない。それこそが詐欺師達の付け入る隙となるためである。煽動工作に馴れきった日本国民と程度の低い言論工作企業の組合せの下であっても、万が一ではあるが、偽情報同士を煽動工作の作法に基づきぶつけ合うことにより、詐欺師達の犯行を効果的に食い止めることはできるかも知れない。当事者がこの諺を意識しているのかも怪しいが、毒を以て毒を制する類の手法とは言えよう。が、その結果が国民一般の情報リテラシーの低下とその結果として安直な事実相対主義が蔓延することになろうことは、想像力に欠ける二流どころのスピンドクターであっても、相応に予想可能な展開ではあるまいか。

また、2021年現在では、モバイル端末向けの緊急放送システムがWEA(Wireless Emergency Alert)として発足、EASと並行して運用されており、また一部の州等(例:ソルトレイクシティ)では、WEAとEASがIPAWSという新システムに包含される形で運用されている。WEAは、構想時にはPLANと仮称され、開発されたインターフェイスは、システム名とともにCMAS(Commercial Mobile Alert System)と呼称されていたが、2013年3月19日に発効したFCC命令により、名称がWEAに改められた〔官報へのURL〕。ただし、CMASという名称は、先に示したようにインターフェイスとして官民協業において認知されてきたためか、2021年5月9日現在においても、米政府サイト(.gov)の多くで使用されており、通用しているようでもある(ゆえに、『ITUジャーナル』記事〔URLの記述は、2017年のものではあるが、現実を正しく記述したものと認められる)。※4

なお、本稿はまだまだ随時更新するつもりであり、その必要性もある。更新記録は別途設ける予定であるが、初読で状況を理解できる程度に留めるつもりでもある。私には、総務省を中心としたわが国の緊急速報システムを説明できるつもりもなければ、それとの対比を行うつもりもない。専門の研究者が社会的な責務として横出しして行うべきものである。


※1 情報を確実に届けることが求められている点では、郵便事業に準えることもできる。もっとも、その程度は、事実上、わが国の緊急速報システムと変わらないと考えて良さそうである。

※2 この場合の英単語は、通常、scammerになるが、わが国では各種の商品や他国の通貨を販売する形の詐欺が認められるから、それらの者については、swindlerと呼ぶこともできよう。

※4 付言しておくと、この融通の効き具合は、緊急対応を行うがゆえに多数の関係者を巻き込む分野において散見される「(ブレーキなどにいう)遊び」を表すものとも認められるほか、生臭い話まで指摘しておけば、省庁の縄張り意識を反映することもある。これらの事情を含むがゆえに、安全という分野を少しでも齧ったことのある者なら、この呼称の差は、むしろ、目くじらを立ててギャーギャー言うものではないことを弁えているはずである。が。


FCC:緊急アラートシステム(EAS)〔原文へのURL

緊急アラートシステム(EAS)は、天候や〔未成年者等の誘拐事件について速報する〕AMBERアラート※3等の重要な緊急事態情報を〔これら緊急事態の〕影響を受けるコミュニティへと〔責任を持ちつつ確実に〕届けるための、国と地方公共団体により共通利用される国家全体にわたる公共警報システムである。EASの参加者は、ラジオ及びテレビ放送事業者・ケーブル〔テレビ〕システム事業者・衛星ラジオ及び衛星テレビプロバイダ・無線映像プロバイダであり、地域のアラート情報をボランティアベースで届けるものであるが、国家緊急事態の最中において公衆に対し大統領の演説を〔確実に〕提供する能力を要求される。

国家緊急事態(FEMA)・FCC〔連邦通信委員会〕・国家海洋大気局の国家気象サービス(NWS)は、EAS及び無線緊急アラート〔WEA〕を維持管理するため協働するが、これらのシステムは、国家的な公共警報システムの二本柱であり、政府の全部門から緊急事態情報を公衆送信可能とするものである。

FEMAは、国家レベルでのEASの起動・点検・実施に責任を持つ。

FCCの役割は、EAS参加者用の技術標準及びシステム稼働中にEAS参加者が従うべき手続を確立し、EAS参加者による作業手順の点検を含む。

アラート〔警報の中身〕は、許可を得た連邦・州・地方の公共団体が作成する。FCC〔自身〕はEASアラートを作成したり発信したりはしない。

EASアラートの大部分は、深刻な気象イベントへの対応のために国家気象サービス〔NWS〕から発信されるものであるが、州・地方・領域・部族の公共団体がアラートを送信する件数は増加している。加えて、NOAA気象ラジオ全災害ネットワークは、公衆に警報を無線送信する連邦政府の資金による唯一の局であり、EASの一部をなす。


資料

  • EAS及びWEAルールの理解を促進するための助言制度の強化をFCCが発出〔原典へのURL
    〔以下、箇条書きはこの文書の要約〕
    • DA19-758, 2019年8月15日付文書, 施行〔令に規定された〕助言(enforcement advisory)
    • 虚偽や詐欺を目的とした、または許可なしの、EAS・WEA・警報信号の使用を禁止。
    • 現実の緊急事態・許可を受けた点検・公共サービス放送(PSA)を除く使用は、連邦規則により禁止。
    • 偽の警報は「アラート疲れ」を起こし、注意を削ぎ、緊急事態が現に生じた場合の邪魔となる。
  • FCC及びFEMAによる緊急アラート〔についての〕ウェブセミナー
  • スライド発表:EASの紹介
  • スライド発表:WEAシステムの紹介
  • 多言語アラート・ワークショップ
  • 緊急アラート・ラウンドテーブル
  • 緊急アラート・ワークショップ
  • 公共安全組織の職員が緊急アラートを発出するには
  • EASアクセシビリティについてのFAQ
  • FEMAの統合公共アラート及び警報システム
  • EASテスト報告システム(ETRS)及びEASハンドブック
  • 認証取得済EAS機器販売企業
  • 各州EAS計画及び州長官
  • EAS規則(47 C.F.R 第11)
  • FEMAベストプラクティス
  • 全国気象サービス(NWS)

※3 "America's Missing: Broadcast Emergency Response"の略語で、ラジオ・テレビ・高速道路情報板・その他の手段を用いて、子供の誘拐可能性を伝達するもの。現在、連邦レベルでは、合衆国司法省・司法局プログラムが主管。1996年、ダラスとフォートワースの放送事業者が地方警察と連携し早期警報システムを発足。AMBERは、発足の契機となった誘拐事件の被害者Amber Hagerman(Arlington, TX)の名を掛けたものでもある。地元の司法執行機関がAMBER警報基準に該当するか判定し、放送事業者及び州交通部門に伝達。通常のラジオ・テレビ番組・連邦交通省の高速道路情報を中断する形で放送。ロト〔表示板〕・デジタル広告板・インターネット広告・インターネットサービスプロバイダ(ISP)・インターネット検索エンジンのほか、携帯電話のような無線機器にも再送される。2020年には、AMBERにより1029人の子供達が保護。抑止効果もあり、AMBERを聞いた犯人が子供を無傷で解放するケースも(と司法省の見解)。合衆国司法省司法局次官(The Assistant Attorney General for the Office of Justice Programs, U.S. Department of Justice)が国のAMBER警報調整官を務め、放送基準を策定・地方間を調整・地方の計画策定を支援する。50州・DC・プエルトリコ・ヴァージン諸島・ネイティブ自治区・北部及び南部国境に配備。〔以上、司法省司法局FAQより要約〕
〔#『警察政策』にも解説論文があった覚えがあるような。〕




2021(令和3)年4月16日追記・訂正

主にAMBERアラートに係る補足を追記し、一部の文言を訂正した。

2021(令和3)年5月9日(日)追記・訂正

WEAとIPAWSについて一部言及した。これは感想であるが、ウィキペディア日本語版・英語版の機械翻訳では、色々と間違えることになろう。ただ、日本語版ウィキペディア全体を通読した場合には、その限りではないかも知れない。典拠による限りの時点では正しい情報が断片的に掲載されている状態を確認することができるためである。

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