2017年2月3日金曜日

オバマ大統領は第三次世界大戦を回避した人物として記憶すべきである

 一般社団法人ガバナンスアーキテクト機構 研究員の部谷直亮氏は、『プレジデント』の2017年1月30日配信の記事[1]において、バラク・オバマ氏を無人機(ドローン)を用いた「爆弾魔」であると批判している。部谷氏は、米外交問題評議会(CFR)の報告を引用し、「2016年は2万6171発、15年は2万3144発」であるとして、子ブッシュ政権よりも桁違いに多いドローン攻撃を実行したと批判する。部谷氏は、オバマ氏が国家間戦争を主導しなかったから非戦の人であると理解することは誤りであるという論旨を提起している。さらに、部谷氏は、オバマ氏のドローン使用に係る政策・発言・思考が相矛盾するとさえ批判している。

 部谷直亮氏の批判は、オバマ氏が、第三次世界大戦の回避という、よりマシな選択(the lesser of two evils)を取ったことに言及しない点で、不公正である。オバマ政権時、アメリカ軍やNATO軍を本格展開する正規戦が生じていたとすれば、どの国においてであれ、民間人を含めた全陣営の被害者数は、ミカ・ゼンコ(Micah Zenko)氏のブログ[2]に2017年1月20日に示されたような数値と比べて、二桁違いとなっていたであろう。また、部谷氏は、オバマ大統領が自らターゲットの最終選定に関与していたことを指弾するが、この選定過程は、その内容次第で、ターゲットの人数を減らす方向にも作用するものであるはずである。(後世において、この点の検証が可能であるか否かは、疑わしいものではあるが。)あり得た状態との対比を経ることなく、被害が大きいと批判することは、20世紀以降の行政組織においても見られない杜撰さである。(わが国の行政組織は、対前年比・対前年同期比が大好きである。)蛇足であるが、(反実)仮想的な状態との対比は、近年の政治学における定性的・定量的研究双方の根幹に据えられている。

部谷氏の記事は、それ自体、失当な内容ではあるが、以前の私のオバマ氏への評価を図らずも肯定する内容となっているという点では、(私にとって)有用であった。私は、(2016年11月18日)において、「シリアにおける消極策のようにバラク・オバマ氏の「チェンジ」が分かりにくい」ものであると指摘した。オバマ氏は、大統領在任時、シリアにおける正規戦へとアメリカ軍を参加させることがついになかった。この事実を、ロシアの伸張にむざむざチャンスを与えたとみるか、第三次世界大戦を回避したとみるかは、後世や同時代の人々の自由ではあるが、私は、後者の意見を断然採用する。断定的となる危険を承知で表現すると、アメリカ大統領としてのオバマ氏は、ツンデレで皮肉屋で強かであった。部谷氏は、「デスノート」を持ち出しているが、ドローン攻撃にこの喩えを用いることが不適切であることはさておくとしても、近年のわが国における漫画文化に典型的なキャラ設定を有するオバマ大統領の思考・言動・政策を理解していない。

オバマ氏は、戦争屋一味の部下に囲まれた大統領であり、その政権内では、少数派の平和志向であった。このように理解すると、オバマ氏の消極的姿勢の理由が良く理解できるようになる。ヒラリー・クリントン氏や、(最近、トランプ氏に解任された)ジョン・ブレナン(John Owen Brennan)氏に代表される戦争屋勢力のプレッシャーがかかる中、通常人ならば決定後も苦しむであろう(人を殺すことになる)政策を強いられていたものと考えることができる。もちろん、最終責任者としての責任をオバマ氏に問うことは可能であろうが、オバマ氏が選択を拒否してケネディ大統領と同じ目に遭っていた場合、後に控えているのは、シリアを発火点とする第三次世界大戦であったことを念頭に置けば、人々の考え方も和らぐというものであろう。

 このようなオバマ大統領の「功績」を考えに入れれば、部谷氏の論考がきわめて不公正であったものと自然に結論を導くことができる。共和党寄りとはいえ、戦争屋一味のシンクタンクである米外交問題評議会の報告を利用してオバマ氏をディスるとは、部谷氏も、お里が知れるというものである。今後も、トランプ氏にすり寄るかの姿勢を見せるためにオバマ氏をディスるというスタイルを用いる日本人(?)は、テンプレの如く一定比率で湧くものと思われるが、そのディテールに注意すれば、今後の国際社会の平和にとって、有益であるか有害であるかの見極めは、容易に付くものであろう。米外交問題評議会の報告も、戦争屋の懐をそれほど潤すことのなかったオバマ氏に対して汚名を着せるという「制裁」の意味合いが存在するものと考えて差し支えないであろう。この報告の意図に同調するか否かは、戦争屋であるか否かの試金石の一つであろう。

[1] さようなら、オバマ「あなたは史上最悪の爆弾魔でした」 (プレジデント) - Yahoo!ニュース
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20170130-00021210-president-pol

[2] Politics, Power, and Preventive Action Obama's Final Drone Strike Data - Politics, Power, and Preventive Action
http://blogs.cfr.org/zenko/2017/01/20/obamas-final-drone-strike-data/

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